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【コミックス第1巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第5章 魔法学院高等部の”神々の遣わし者”

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第296話 御使いの声




 王城、謁見の間。

 ミカは大きく空けられた穴から、街の様子を見ていた。

 至る所で火災が発生し、王都の空は煙っている。


 泣きじゃくり、しがみつくリムリーシェたちを引き剥がしながら、ミカは何とか服を着ることに成功した。

 だが、少々問題があり、実はパンツ一丁にローブを羽織るだけという、変態ルックである。

 前を閉めているのでぱっと見は分からないだろうが、警察に職務質問(ばんかけ)喰らったら、確実に「ちょっと署まで来てくれる?」と言われるような恰好だ。


 ミカは街の状態を見て、顔をしかめる。


「このままじゃ不味いな……。」


 きりっとした顔で呟くが、ローブの下はパンツ一丁である。


「もう一回やってみるか。 ”吸収翼(アブソーブ・ウィング)”。」


 ミカは空を見上げ、【降雨】の【神の奇跡】を発現する。

 ミカが魔力を注ぎ込むと、雨雲がどんどん作られていき、王都全体に雨を降らせた。


「すごーい。 さすがミカ君!」


 ミカが最高難度の【神の奇跡】を発現すると、横で見ていたリムリーシェが無邪気に喜ぶ。

 ミカはそんなリムリーシェを見下ろし、ぽんぽんと頭を撫でた。


 ミカの身体に起こった問題が、これだ。

 ほとんど変わらない身長だったはずのリムリーシェを見下ろしている。


 そう、身長が伸びているのだ。

 それも、がっつりと。

 多分、三十センチメートルくらいは伸びていそうだった。

 なにせ、クレイリアもネリスフィーネも、キスティルさえも見下ろす視点の高さなのだ。

 百七十台の半ばから後半くらいはありそうだった。


 四人の女の子たちの願いにより創られた身体。

 それはつまり……。


「……僕がチビだったこと、気にしてた人。 いるでしょ。」


 ミカがじと目でそう言うと、全員がさっと目を逸らした。

 誰か一人くらい気にしている子がいるのかと思ったら、皆かよ!


「お、大きくなって、格好良くなったよ、ミカ君っ!」

「そ、そうそう、素敵ですミカ様!」


 皆が口々に、フォローし合う。

 全員が結託していた。


(こりゃ、全員が『どうせ創るなら』とか考えてそうだな。)


 あと五センチメートルは欲しい!

 十センチメートルくらいあったらなあ。

 と、それぞれが願望を注ぎ込んだようだ。

 その結果が、おそらくこの三十センチメートル。

 急激に身体が大きくなったため、服が着れなくなってしまった。


 何とかパンツだけは穿いたが、それだってかなり窮屈だ。

 足を長めに創ってくれたのは有り難いけどさ。

 元々大きめに作られていたおかげで、ローブだけはまともに着れたので何とか身体を隠せる。

 まあ、ローブから飛び出た生足が怪しさ満点だけどな!


「僕が身長を気にしてた時、『気にしてないよ』とか言ってたのに……。」


 そんな、愚痴とも恨み節ともつかない言葉が漏れる。

 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「クレイリア。」


 ミカがクレイリアを呼ぶと、気まずそうにしていたクレイリアがミカを見た。


「悪いけど、皆を頼む。 屋敷まで送るから、一旦皆を屋敷で保護してもらえないか。」

「勿論です。 …………とは言っても、屋敷が無事だと良いのですけど。」


 クレイリアが、少し表情を曇らせる。


 その問題があった。

 レーヴタイン家の別邸が被害を受けていないとは限らない。


 ミカはラペリングロープを二本、魔法具の袋から取り出すと、クレイリアとリムリーシェに渡した。


「ちょっと僕は報告しなくちゃいけないんで。 すぐ戻ってくるけど、それまでにロープ(これ)で身体を結んでおいて。 飛んで運ぶから。」


 ヤロイバロフやオズエンドルワは、ただ掴まらせて運んだが、普通の人にそんなことはしない。

 クレイリアとリムリーシェは、学院の授業でロープの結び方も習っている。

 しっかりと身体を固定し、楽に解くことのできるロープの結び方を知っている。


「あ、リムリーシェ。 ちょっと腕出して。」


 それから、ミカは魔法具の袋から盛り盛りの腕輪を取り出すと、リムリーシェの腕に付けてやった。

 リムリーシェはきょとんとした顔で、されるがままになっていた。


「これを付けていれば、【身体強化】で十倍にしても耐えられる。」

「…………へ?」


 いきなりの話に、リムリーシェはついて来れないようだ。

 だが、ミカは構わず説明を続ける。


「耐久力が上がるから、【身体強化】を引き上げても耐えられるようになるんだ。 僕は、これで四十倍まで上げていた。」

「よん……っ!?」


 横で聞いていたクレイリアが、絶句した。

 キスティルやネリスフィーネには、何のことか分からないのか、顔を見合わせた。

 ミカはリムリーシェの目を真っ直ぐに見て、その真意を伝える。


「皆を守れ、リムリーシェ。」


 ミカの真剣な声に、リムリーシェの身体がビクッと震える。


「リムリーシェなら、使いこなせる。 ……まあ、そうは言っても、いきなり四十倍はさすがに無理だ。 だから、まずは二十倍を目指せ。 それだけで、君に敵う人なんてもういないよ。」


 リムリーシェは驚いたような顔で、付けられた腕輪をしげしげと眺める。


 【身体強化】十倍だ四十倍だなんて、普通は夢物語だ。

 耐久力の問題をクリアしたって、そんなことすれば、あっという間に魔力枯渇を起こしてぶっ倒れる。

 ミカのような魔力を吸収するという反則技を持たないなら、あとはもうリムリーシェのような莫大な魔力持ち以外には無理だろう。


「皆を守ってくれ、リムリーシェ。 僕の代わりに。」

「ミカ君の、代わりに……。」


 繰り返して呟くリムリーシェに、ミカは頷く。

 リムリーシェは口を引き結び、しっかりと頷き返した。


「分かった!」


 強い覚悟を感じさせる目で頷くリムリーシェを見て、ミカは胸に温かいものを感じた。

 この子は、本当に強くなった。

 皆に隠れて、膝を抱えて泣いていたリムリーシェは、今誰よりも強くなった。

 ミカにとって大切な人たちを、リムリーシェなら守れると信じられるほどに。


 ミカは腰に佩いた聖剣ナマクラ様を外すと、リムリーシェに渡す。


「これは、絶対に折れない短剣(ショートソード)だ。 斬れない代わりに、絶対に折れない。 すべてを叩き伏せる聖剣だ。」

「聖剣……。」

「これはやらないぞ? 貸すだけだ。 僕の相棒なんだから。」


 そうして、ミカはリムリーシェに護衛を任せた。

 改めてロープで身体を固定するように指示をして、ミカは王城の穴から外に出た。







 王城の庭は、かなりの混乱にあった。

 だが、そんな近衛騎士たちは一旦無視。

 ミカとしては、ヤロイバロフかオズエンドルワ、王太子あたりに”呪われし子(イムプレカーティオー)”を倒したことを伝えておきたかった。


 どうやら、国王(ケルニールス)が死んだということは伝わっているようだった。

 王太子は、王城の入り口の前で、近衛騎士たちと何やら話し合っていた。


「殿下。」


 ミカが飛んで来ると、クランザードが驚いた顔になった。


「其方っ……ミカ、あ、いや。 御使い様、か……? しかし、随分と姿が……。」


 その言い回しに、ミカは眉を寄せる。

 成長した姿に戸惑っているのか?

 まあ、とりあえずいいや、と突っ込むことはやめておく。


「陛下は崩御されました。 ”呪われし子(イムプレカーティオー)”も倒しました。」

「お、おおっ……! そうか。」


 だが、クランザードの表情はやや微妙だった。

 こじれてしまったとはいえ、国王(ケルニールス)は父なのだ。

 その死に、思うところがあるのだろう。


「そ、そうだ。 御使い様、こちらはどうにかならないか?」


 そう言って、クランザードが王城の入り口を指さす。

 だが、入り口を見ても何もない。

 ごく普通に、ミカたちが突入した時の入り口のままだ。


「……どうかしたんですか?」

「入れんのだ。」

「入れない?」


 何でも、入ろうとすると途端に身体の力が抜けて、動けなくなってしまうのだという。

 突入を試みた近衛騎士たちがばたばたと倒れ、何とか這って戻ってくる始末。

 謁見の間に人が来ないなあ、と思っていたが、こういう事情だったようだ。


「…………何かされてるのか?」


 ミカがそう呟くと、急に一人で頷き始める。


「分かった。 とりあえず僕にも見えるようにしてくれ。」


 そう言うと、ミカの身体がピカッと光る。


「「「くっ!?」」」

「「「眩しい!?」」」


 突然光り出したミカに、クランザードと近衛騎士たちは顔を背ける。

 そして、光が収まると、入り口には黒い靄が漂っていた。


「何だ、それは!?」

「呪いですね。」


 多分、アークゥが邪魔されないように細工していったのだろう。

 呪いは、かけた者が死んでも無くならない。

 アークゥが居なくなったからといって、消えてくれたりはしないのだ。


 ミカは手を黒い靄の中に突っ込み、”自動解呪(オートディスペル)”で解呪した。


「これで大丈夫です。 ああ、そうだ。 ヤロイバロフさんを知りませんか? 斧槍(ハルバード)を持った、人相の悪い大男です。 色黒の。」


 ミカがそう聞くと、クランザードが顔を引き攣らせた。

 王太子の救出に行くという話だったが、救出後の行動が分からない。


「門に現れた鉄の壁の撤去をしていたようだが……。」

「そうですか。」


 ミカが王城の門を回ろうかと考えていると、クランザードがミカに尋ねる。


「御使い様は、これからどうされるおつもりで?」


 なんか、クランザードの口調が気持ち悪いな。

 そう思いつつ、今はそんなことを気にしている場合でもない。


「王都の混乱を何とかするつもりです。 殿下は、一刻も早く中枢の掌握を。 国が機能しないと、被害が拡大するばかりです。」

「ああ、分かっている。 そのつもりだ。」


 ミカの言葉に、クランザードが頷く。

 ミカはヤロイバロフを探しに、王城をぐるっと回る。

 そうして、西側の門でヤロイバロフを見つけた。


 ヤロイバロフと話をしていると、ちょっと様子がおかしかった。

 なぜ鉄壁の撤去をしていたのか、理由が分からないという。


「…………何で、俺はこんなことやってんだ?」

「まあ、用は済んだので、撤去してもらえると有難いですけどね。」


 とりあえず、ヤロイバロフの謎の行動は置いておいて。


「これから僕は、レーヴタイン侯爵の別邸にキスティルたちを預けて、それから王都の混乱を何とかしに行くつもりです。」

「分かった。 俺もチビどもが心配だしな。 一旦戻る。」


 なぜキスティルたちが王城にいるのか不思議がられたが、細かい報告は後ということで、今は目先のことに動くことにした。

 そうして、謁見の間に戻る。







 謁見の間に着くと、近衛騎士たちがすでに到着していた。

 クレイリアが、近衛騎士たちに何か説明しているようだ。


「ごめん、お待たせ。」

「ミカ、もう良いのですか?」

「「御使い様!」」


 ミカが声をかけると、近衛騎士たちが一斉に敬礼した。


「急いでるから、連れて行くよ。」

「え、ええ……。」


 ミカがリムリーシェからラペリングロープを受け取ると、近衛騎士たちが変な顔になった。

 ロープで繋がった女の子を見て、不思議に思ったのだろう。


「じゃあ、行くよ。」


 そう言ってミカは、ゆっくりとキスティルたちを吊り上げる。

 そのまま雨の降る第一街区を飛び、レーヴタイン侯爵家の別邸の上空へ。

 やはりと言うか何と言うか、ヒルディンランデルのレーザーで、屋敷の一部が壊され燃えていた。


 ミカは一旦庭に下りて、クレイリアたちには玄関に行くように言う。

 そうして、自分は屋敷の損壊した部分に。

 何とか消火しようとしていた、レーヴタイン侯爵家の騎士たちを下がらせる。


「まあ、不幸中の幸いというか。 端の方だったから、まだマシか。」


 上空から見ただけでも、屋敷のど真ん中を焼き払われたりした建物がいくつもあった。

 それと比べれば、まだ全然マシだろう。


 建物の端、一部屋分ほどの幅で一階二階が消失。

 庭に大きくレーザーの通った跡。

 敷地を囲う壁の一部が消失。

 これで、マシだというのだから、嫌になる。


 ミカはまだ燃えている建物に、魔力を送り込んだ。

 以前に織物工場を消火した時の要領で、燃えている部分を凍らせた。

 庭の芝や草花などは燻っているようだが、雨が降っているのでこちらは時間の問題だろう。


「クレイリア。 建物の火は消しておいた。」

「ありがとうございます。 ミカ。」


 クレイリアはミカにタオルを差し出すが、首を振る。

 この後また、すぐ外に出るのだ。


「それじゃ、皆をお願いね。」

「はい。」


 クレイリアは真っ直ぐにミカを見ると、恭しく頭を下げた。


「ご無事で。 ミカ。」

「ミカくん、気をつけてね。」


 キスティルもクレイリアの横に並び、少しつらそうな顔で言う。

 きっと、本当は引き留めたいのだろう。

 それでも、何も言わずに送り出してくれる。


「必ず戻るよ。 心配は…………、しちゃうよね。 やっぱり。」


 心配するな、という方が無理だろう。


「でも、絶対に戻ってくるから。」

「うん……。」


 ミカは後ろ髪引かれる思いで、飛び立つ。

 そうして、第二街区を目指した。


 南東の大通り。

 ミカがいつも服を買っていた店に行ってみる。

 店は被害を免れていたが、店主はいないようだ。


「すまん、緊急事態なんで。」


 そう言い訳をしながら、ミカは自分のサイズに合う下着や服を選ぶ。

 さすがに変態ルックのままでは、気が気ではない。


 試着室に入り、勝手に着込む。

 元の世界のように、値札のタグとか無いのは有り難い。

 地味に面倒なんだよなあ、あれ外すのって。

 以前、大量に服を買った時に外し忘れたというか、見落としてしまったことがあった。

 少々恥ずかしい思いをしたことを思い出しながら、袖を通した。


 身体が濡れているので、若干着るのに苦労する。

 それでも、何とか着ることができた。


「これで良し。」


 びしっと着込み、着心地を確認する。

 ミカは金貨三枚を取り出すと、カウンターの下の引き出しに入れる。

 気づいてくれるかどうか分からないが、勝手に持って行く詫びも含めて、多く置いていく。

 同じように靴も手に入れ、これで準備万端。


「よっし、気合入って来た!」


 下がスースーすると、どうにも気が引き締まらないんだよな。

 ミカは両頬をパンパンと叩き、雨の中に飛び出す。

 そうして、再び王城の真上へ。


 炎で赤々と染まる王都を、ぐるっと見回す。

 雨によって延焼はある程度食い止めているが、それでも元々の被害が大きい。

 合成魔獣(キメラ)襲撃の時とは比べ物にならない程だ。


「どうにかして、これを一気に消せないかな?」


 ミカは消火の三要素、『可燃物の除去』『酸素を無くす』『熱を奪う』を考える。

 とにかくネックとなるのは、範囲が広すぎることだ。

 王都全体を、一気に何とかするのは難しいかもしれないが、なるべく広範囲で消火したい。


「フィー。 何か方法はないか?」


 そう声をかけるが、返事はない。


 今、フィーはミカの身体に宿っている。

 そして、この身体を動かしているのも、実はフィーだった。







 ”高エネルギー思念体”となったミカでは、この身体に宿ることができなかった。

 もしかしたら練習していけば方法があったのかもしれないが、すぐには無理だ。

 だが、それを解決してくれたのがフィーだ。


 元々、フィーは物に宿ることができた。

 人にも宿ることもできた。

 キスティルの身体に度々宿ることで、人の身体を動かすことには慣れていたのだ。


 そのフィーが、創られたミカの身体に宿った。

 そうして、ミカを()()()()()のだ。

 この身体にミカが固定されているのも、つまりはフィーのおかげだった。


 ミカとフィーは、何かで繋がっている。

 これを、アークゥは”不可視経路(インビンジブリテル)”と名付けていた。

 ミカは”不可視経路(これ)”を、単に魔力を吸うだけのものと考えていたが、どうやら違ったようだ。

 そのことに気づいたのも、実を言うとフィー。

 アークゥの言葉を、よく憶えていた。


 アークゥは、本体と分離された一人格。

 本体とは”不可視経路”で繋がっていた。

 アークゥが呪いを自ら視覚化させた時、一緒に本体も視覚化された。

 そうした行動や言葉の端々から、単なる魔力のやり取りだけでなく、もっと重要なものだと気づいたのだ。


 アークゥが本体を操作したのか、本体がアークゥを操作していたのかは分からないが、相当に重要な繋がりがあることに気づいた。

 それを利用し、”高エネルギー思念体”となったミカにフィーが干渉した。


 今は更に繋がりを強めるため、フィーと”高エネルギー思念体”であるミカが部分的に融合した状態らしい。

 これによりフィーという(オペレーティング)(システム)が、ミカというアプリケーションの意志を、身体(ハードウェア)に伝える。

 ということを行っているらしい。


 ミカという人格と部分的にでも融合したおかげで、フィーもよりしっかりとした人格を獲得した。

 ミカの記憶を参照し、その影響を受けながら、フィーという人格を作り上げたのだ。


 現在、ミカという”高エネルギー思念体”を構成するものの七割ほどが、この身体に宿っている。

 では、残りの三割はどこにあるのか。

 実は、この三割は外部からの接続という形をとってるらしい。


 多すぎる魔力によってミカの身体が崩壊した。

 もしかしたら、同じことがこの身体でも起きるかもしれない。

 そのことを懸念したフィーが、念のために一部を外部接続にしたらしい。

 アークゥと同じように、”不可視経路(インビンジブリテル)”を使って。


 一つの身体に、ミカとフィーの二つの人格。

 元々運命共同体のようなものだったフィーと、身体も共有することになった。

 だが、フィーは基本的には引っ込んでいる。

 ミカの方を前面に出し、自分は引っ込んでいるつもりのようだ。


 フィーは、元々が光の塊のような存在だ。

 あまり積極的に表に出る気はないらしい。


 そして、ミカと意志の疎通がし易くなったことを、なぜか喜んでいる。

 喜ぶような状況下か?

 まあ、いいけど。







 ミカはフィーに話しかける時、普通にしゃべっているが、実はそんなことをする必要はない。

 考えていれば伝わるのだ。

 だが、これまでの癖で、つい口に出してしまう。


 ミカは消火するのに何か良い方法はないか、と周囲を見回す。

 だが、そう都合良くは思い浮かばない。


「…………”(ポテスタース)”……”(ウォルンタース)”。」


 今は見えないが、この場には”(ウォルンタース)”が溢れている。

 ”高エネルギー思念体”だった時は普通に見えていた”(ポテスタース)”や”(ウォルンタース)”だが、今は見えない。

 それでも、ここには”意”が溢れているはずだ。

 王都に住む、人々の嘆き、恐怖、悲しみ、苦しみが……。


「…………”力”も”意”も、純粋な力……。」


 このエネルギーを利用して、”呪われし子(イムプレカーティオー)”たちは何かをしていた。


「”意”を集める……。」


 ”呪われし子(イムプレカーティオー)”たちにできたのなら……。


「僕にも、できる!」


 ミカは手のひらに、黒い繭を思い浮かべる。

 ”意”を集めるという”黒い繭(アートルム)

 どうやってるのかなんて知らん。

 だが、実際にやっていたのだ。

 ならば、できる!


「来いっ!」


 ミカの手のひらに作られた黒い繭に、”意”が集まる。

 見えはしない。

 それでも、急速に集まっていることが分かった。

 感じることができた。


「暴れんじゃねえ……っ!」


 集まる”意”に比例して黒い繭が大きくなろうとした。

 だが、ミカはそれを無理矢理に押さえつける。


 ミカは”意”を集めながら考える。

 この膨大な量の”意”をどうやって使うか。


「……声。」


 ヒルディンランデルを倒した時、声が聞こえた。

 おそらく、あれはアークゥの声だ。


(声なら、離れていても届く……?)


 ミカは逡巡した。

 詳しい理屈は知らない。

 それでも、この方法ならもしかしたら一気に火を消せるかもしれない。


「思いつきで何とかするのは、僕の十八番(おはこ)だしね。」


 ミカは口の端を上げ、不敵に笑う。

 力技でも何でも、何とかしてしまうのがこの世界のミカのスタイルだ。


 イメージするのは、音の波。

 王都全体に響く、一定の音。

 それも、減衰させない、低周波の音だ。


 どの音域が正解か分からないので、一定の音域で試して、少しずつズラしていく。

 最初は少し高めの音。

 そこから少しずつ低い音に音域をズラす。


 ウンンンンンンンンンンンンンンンッ!


 王都中に響く、不気味な音。

 ミカは全神経を集中して、少しずつ音域を試す。

 そして、ある音域で赤く染まっていた王都の色が少しだけ揺らいだ。


「この辺りか……?」


 ミカは音圧を上げ、更に少しずつ音域を上げたり下げたりして探る。


 ウンンンンンンンンンンンンンンンッッッ!!!


 王都に、不気味な音が響き渡る。

 そうして試していくうちに、みるみる火勢が落ちていく音域を見つけた。


「ここだっ!」


 ミカはその音域で固定し、周囲を見回す。

 さっきまで赤く染まっていた王都が、雨と煙で灰色に染まっていた。







 音による消火。

 随分と昔だが、ネットで見かけた面白ネタだ。

 最初に聞いた時は「そんな馬鹿な」と思ったが、案外しっかりとした理屈のある物理現象だった。

 ごく簡単に言ってしまえば、空気を振動させて燃焼を妨げて鎮火する、というものだ。

 確か、低周波の定常波が影響を与えるとか何とか…………だったと思う。

 さすがに昔サラッと読んだだけの話なので、詳しい理屈までは憶えていない。

 それでも、読んだ時は理に適ってると思った。

 ならば、再現できるはずだ。

 そう思い、再現してみました。







 ミカは音を鳴らしたままで、王都の空をぐるっと駆けた。

 そうして見て回り、大まかには消火はできていることを確認し、音を切る。


「ふぅーー……、何とかなったか。」


 すぐにやめると、再び炎が上がる場所もあるかもしれない。

 そうなる前に、少しだけ説明しておこう。


 ミカは再び集中し、今度は声を届ける。

 王都にいる、すべての人に呼びかける。


「王都の皆さん、先程の音は炎を消すための音です。」







 男は、昨年の魔獣の襲撃で自宅を失っていた。

 仮設の住宅から、最近になってようやく家族と、借家に移ってきたところだった。

 新たな生活が始まったばかりだったのだ。


 そんな矢先に、今度は王都中で火災が発生した。

 仕事場から急いで戻り、家族の無事に安堵したのも束の間、隣家からの炎が迫っていた。


 雨の中、男は縋りつく二人の娘を抱き締めながら、自宅に迫りくる炎に立ち尽くした。

 街中が燃え、無力感のあまり、男は絶望してしまったのだ。


 そんな時、不気味な音が響き渡った。

 何とも形容しようのない、唸るような音。

 その音に周囲の人たちも耳を塞ぎ、怯えていた。


 だが、不思議なことが起こったのだ。

 隣家の迫っていた炎が、瞬く間に消えた。

 その信じられない光景に、男はただ茫然としてしまった。


『王都の皆さん、先程の音は炎を消すための音です。』


 突然聞こえてきた声に、周囲がざわつく。

 その声は、大きい訳ではない。

 それなのに、辺りにいる人、すべてに聞こえているようだ。


『きっと、皆さんは今、苦しい思いをされていると思います。 つらい思いをされていると思います。』

「……御使い様?」


 男に縋りついていた娘が、呟いた。

 この声は、御使い様の声なのか?


『沢山の方が、この災厄に打ちひしがれているでしょう。 …………それは、僕も同じです。』


 御使い様の声は、一人ひとりに語りかけるようだった。


『どうして、こんなひどいことが起こるのか……。 それは、僕が教えてほしいくらいだ。』


 重く、胸に溜まったものを吐き出すような吐息が聞こえた。


『…………それでも、負けないでください。』


 御使い様の声に、少しだけ力が籠る。


『もうだめだ。 もう立てない。 そう思っている人も、きっと沢山いると思います。』


 ああ、その通りだ。

 もう、疲れた……。

 もう、ご立派な説教なんか沢山だ……。


 そう思い、男は項垂れる。


『いいんです。 無理に立たなくてもいい。 休んだっていいんです。 でも……。』


 だが、男の予想とは違い、御使い様は休んでいいと言った。


『また、前を向いてほしい。 きっと、貴方に手を差し伸べてくれる人がいます。 その手を掴んで、立ち上がってください。 貴方から手を差し伸べられるのを待っている人が、きっといます。』


 妻が隣に来て、男の腕を掴んだ。

 娘が、ぎゅっとしがみつくのを感じた。


 ずきりと、胸が痛んだ。

 自分が諦めてしまったら、娘たちはどうなるのか。

 妻はどうなるのか。


『僕も、沢山の人に助けてもらいました。 その人たちがいたから、その人たちがいるから、僕は立ち上がれる。 何度だって立ち上がる。』


 御使い様の言葉に、はっきりとした強い意志を感じられた。

 それは強い口調ではないのに、とても揺るぎ無いものを感じた。







 ミカは王都にいる人、一人ひとりに語りかける。

 大切な人を失った人もいるだろう。

 家族を失った人もいるだろう。

 家を失った人もいるだろう。

 もうだめだと、諦めてしまった人もいると思う。


 それでも、もう一度奮い立って欲しい。

 頑張って欲しい。

 そう思い、懸命に訴えかけた。


「……また音が響きますが、それは炎を抑えるためです。 どうか皆さん、近くで困っている人がいたら、手を差し伸べてあげてください。 皆、一人ではこの苦しみは越えられません。 隣にいる人に手を貸してあげてください。」


 そうして、ミカは一息置く。


「お願いします。」


 ミカは魔法を切ると、大きく息を吐き出した。


「どうも、こういうのは苦手だな。」


 ぽりぽりと頭を掻く。


「…………そう言うんなら、次はフィーやってよ。 やろうと思えばできるんじゃないの?」


 フィーからの反論に、苦笑する。


「分かったよ。 ああ、また”(ウォルンタース)”を集めて……。」


 そう言った時、どんどん何かが集まってくるのを感じた。

 もしかして、これって。


「”(ウォルンタース)”が、集まって来てる……?」


 王都に暮らす人たちの、ミカに向けた”意”がどんどん取り込まれるのを感じた。

 これが、指向性があるってことか。


「何もしてないのに、自然と感じるなんて…………。 どうなってるんだ?」


 ”高エネルギー思念体”となったことで、どうやら体質に変化があるらしい。

 魔力とは違う感覚が流れ込んでくる。


「…………これが、”意”の力……。皆の意志のエネルギーか。」


 ミカはぺろりと唇を舐めると、ニッと笑う。


「これは、ちょっとサービスしちゃおうかな。」


 ミカはそう呟くと、肩を震わせた。

 ミカの心を読んだフィーが突っ込みを入れたからだ。


「きっと、皆元気でるよ。 …………多分?」


 そう言って、ミカはフィーに協力させる。







 この日、一年と四カ月ぶりに王都の空が光った。

 光の日の再来に、多くの人が元気づけられ、奮い立ったという。


 また、この日は唸るような音が、二時間ほど続いたと伝えられる。





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― 新着の感想 ―
[一言] ミカ君のミカ君が30cmだって!?
[良い点] 前話でミカくん消失して絶望感に打ちひしがれてたのに復活を確信するや否や身長盛ってた強かな女子達w
[一言] 前日の感想の身長の件、実装されててウケた。30cmも…
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