第288話 絶対の信頼
王城の二階。
階段を上がった先の廊下に、イクセル・レーヴタインが立っていた。
「イクセルさん……。」
イクセルの後ろには、何十人と近衛騎士たちが控えている。
イクセルは、隊長格であることを表す鎧を身につけていた。
おそらく後ろの近衛騎士たちは、イクセルの部下なのだろう。
「剣を放すんだ、ミカ君。 陛下には、俺の方から取り成してあげるよ。 だから、こんなことはもうよすんだ。」
イクセルが、努めて優しく言っていることが分かった。
ミカはイクセルの言葉に、首を振る。
「できません。」
ミカが拒否すると、イクセルが大きく溜息をつく。
「君は、一体何を考えているんだ? 王太子の陰謀に与するなんて!」
イクセルが強い口調でミカに問いかける。
どうやら、ミカが指名手配されているのは、王太子の陰謀に加担したということのようだ。
確かに、王太子には不正な手段を用いたという負い目がある。
王はそこを突き、すべては王太子とその一味の企て、ということにしたようだ。
(……だけど、もうそんな話じゃ済まなくなってるんだよな。)
今、王は”呪われし子”に乗っ取られている、などと言ったところで誰が信じるというのか。
ミカがどう説明しようか悩んでいると、オズエンドルワがミカの前に出た。
「ミカ君、遠回りにはなるが、そこの階段から三階に行って、それから謁見の間に行くといい。」
オズエンドルワは、今上がってきた階段を指さし、一旦三階に上がるように提案する。
謁見の間は、イクセルが固める廊下の先だ。
ミカがイクセルと戦うことを躊躇っているのを見て、別ルートから謁見の間に行くように言った。
「行かせると思っているのか?」
イクセルが一歩踏み出すと、オズエンドルワが静かに”銅系希少金属”の剣を向ける。
「貴方の立場では仕方ないとは思うし、事情を知らないのだからな。 無理はないだろう。」
オズエンドルワはそう呟くと、殺気の籠った目でイクセルを射抜く。
イクセルはその殺気に咄嗟に飛び退き、剣を構えた。
「聞く気があるなら、私が説明してやろう。 だが、あまり時間がない。 ミカ君は先に行かせる。」
オズエンドルワの言葉にヤロイバロフは頷き、ミカの肩を掴む。
「坊主。 行くぞ。」
「……でも。」
イクセルは苦し気な表情でミカを見る。
そして、声を張り上げて叫んだ。
「ミカ君! このままでは取り返しのつかないことになるんだぞ!」
イクセルは、イクセルなりにミカのことを考えてくれているのだろう。
だが、現状の認識に大きな齟齬がある。
すでに取り返しのつくことなど無いのだ。
ミカと王の衝突は不可避。
”呪われし子”から王国を守るためには、王を倒すしかないのだ。
ミカは唇を引き結び、イクセルを見る。
だが、すぐに背を向けた。
「行きましょう、ヤロイバロフさん。」
「ああ。」
「ま、待てっ!」
ミカが階段に向かって駆け出すと、イクセルがミカを追うように足を踏み出す。
しかし、イクセルはそれ以上は進めなかった。
オズエンドルワから放たれる殺気が一層鋭さを増し、イクセルの本能が警鐘をかき鳴らしたからだ。
イクセルがオズエンドルワを睨む。
「…………騎士団を率いる者が、反逆に与するとはっ……! 恥ずかしくないのかっ!」
イクセルがありったけの殺気を叩きつける。
だが、オズエンドルワは揺らがない。
静かに、圧倒的に、その気配だけで場を支配する。
「後で、彼に謝るんだな。」
そう、呟くように言う。
「今、事態の深刻さをもっとも理解しているのはミカ君だ。 そして、それを何とかできるのも、ミカ君だけだ。」
ビュッ!
オズエンドルワは、剣を一振りすると構え直した。
「今は聞く耳を持たんだろう?」
そう言って、口の端を上げる。
オズエンドルワの顔に、狂暴な笑みが浮かぶ。
「少しばかり、聞き分けをよくしてやろう。」
イクセルは、オズエンドルワの笑みに総毛立った。
この時初めて、目の前に立つ者が本当に人間かと疑問を抱いたのだった。
■■■■■■
ミカとヤロイバロフは三階に上がり、待ち構えていた近衛騎士たちを叩き伏せた。
「おーらよっと!」
ガシャガシャンッ!
ヤロイバロフは斧槍の柄の部分で二人の近衛騎士を薙ぎ、壁に叩きつけた。
失神した二人の近衛騎士は、ずるずると崩れ落ちる。
「しゅっ!」
ミカは聖剣ナマクラ様で器用に顎先を狙い、バタバタと脳震盪を起こさせる。
「行けっ! 行けえっ!」
「命をかけて賊を止めよっ!」
ぞくぞくと集まる近衛騎士たちを悉く倒しながら、ミカとヤロイバロフは先に進む。
「お? あの階段じゃねえか?」
廊下を進んでいき、いくつか廊下を曲がったりしてうろうろしていると、二階に下りる階段を見つけた。
ミカたちの通った廊下は、死屍累々とでも表現したくなるような惨状だ。
一応は、誰も死んでいないはずである。…………多分。
「もう、三階には居ませんかね?」
「気配は無さそうだ。 ……ていうか、本当に気配がほとんどねえな。」
ヤロイバロフが怪訝そうな顔で顎を撫でながら答える。
どうやって、そんな気配を探っているのだろうか。
本当に【気配察知】って便利だなあ。
俺も欲しいのに……。
ミカとヤロイバロフは二階に下りると、謁見の間の前を固める近衛騎士を視界に収める。
ここは謁見の間の正面ではなく、おそらく横のはずだ。
謁見の間は一応、横からも出入りは可能なようで、立派な装飾の施されたドアが見えた。
「賊が来たぞおっ!」
「近衛の名にかけて、絶対に死守せよ!」
「命を捨てよっ! 何人もここを通すなっ!」
えらく気合の入った近衛騎士たちが、謁見の間の前を塞ぐ。
ミカとヤロイバロフは顔を見合わせた。
「やっと着きましたけど……。」
「えらく歓迎してくれてるな。 期待にはしっかり応えてやろうや。」
少々げんなりするミカと違い、なぜかヤロイバロフは張り切っていた。
ミカは廊下を三次元機動で縦横無尽に動き回り、近衛騎士たちを翻弄しつつ顎先をナマクラ様で撫でる。
「な!? 何がっ!?」
「うわっ!?」
ミカの凄まじい動きに翻弄され、近衛騎士たちの隊列が乱れた。
ちなみにフィーも、ふよふよ~……と近衛騎士たちの目の前をわざと通過したりしている。
それだけで近衛騎士たちはフィーを手で払おうとしたり、かなり意識を乱される。
地味な嫌がらせである。
そして、そこに暴力の権化、赤い彗s…………タコことヤロイバロフの猛威が襲い掛かった。
近衛騎士たちは次々にナマクラ様で昏倒させられ、斧槍で吹っ飛ばされる。
瞬く間に、謁見の間の前を制圧した。
「うっし、行くぜ! 油断すんなよ?」
ヤロイバロフはそう言うと、ドアに手をかけた。
そうして一気にドアを引くと、すぐに変な顔になる。
ミカはヤロイバロフの横に並び、やはり変な顔になった。
高い天井の謁見の間。
そこには、千人を超すのではないかというほどの、侍従、女中、執事など、城に勤める人たちがいた。
ミカとヤロイバロフは怪しみながらも、慎重に謁見の間に足を踏み入れた。
突然の闖入者に、集まった人たちから若干のざわめきが起こる。
その時、ミカはハッとなり玉座を見た。
だが、そこには王の姿はない。
玉座の横には、一人の老女中がいるだけだった。
「やられたっ!」
ミカがそう言った瞬間、謁見の間が明るくなった。
「くっ!?」
ミカは咄嗟に、ヤロイバロフを突き飛ばしながら転がる。
ピュンッ!
その瞬間、ミカたちのいた場所を眩い光が突き抜けた。
「「「ぎゃああぁぁーーーーっ!?」」」
「「「きゃあーーーーーーーーーっ!!!」」」
光を受けた人たちが何十人と、一瞬で絶命する。
腰から上が消し飛んだ者。
腕を失った者。
腹を抉られた者。
謁見の間は、一瞬で阿鼻叫喚の地獄と化した。
「何だっ!? どういうことだっ!?」
「ケルニールスはこの中に紛れてるんですっ! 城の人たちを盾とカモフラージュに使って!」
ミカがそう言うと、再び謁見の間の光量が増す。
「来るっ!」
ミカはそう言いながら、その場を離れた。
ヤロイバロフも状況を理解し、咄嗟に回避行動を取る。
ピュンッ!
またミカの居た場所を光が突き抜ける。
何十という人を巻き添えにして。
「「「ぎゃああぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」
「「「きゃあーーーっ!!!」」」
いくつもの叫びと悲鳴が上がり、謁見の間に集められていた人たちは正面の大きなドアに殺到した。
だが、鍵がかけられているのか、開かなかったようだ。
ドアの前の人たちは他のドアに行こうとし、ドアから離れた人たちは早く逃げたい一心で、必死に正面のドアに殺到する。
結果、まったく身動きの取れない集団ができあがった。
「ふざけやがってえええええええええええっっっ!!!」
ミカは叫びながら、執拗に狙い撃って来る光を必死に躱した。
そのたびに、巻き添えになって何十という命が散っていく。
ケルニールスはヤロイバロフには目もくれず、ミカだけを狙っていた。
「この、外道があっ!!!」
ヤロイバロフは光の発生源を見つけ、集団の中に突進した。
群がる人を押し除けながら。
「だめだっ! ヤロイバロフさんっ!」
ミカは咄嗟に壁に向かってジャンプする。
やや高くなった視点から、人の群れを見下ろす。
そうすることで、人を掻き分けて進むヤロイバロフに向けて、腕を伸ばしたケルニールスを見つけた。
ケルニールスの手が光る。
ミカは力いっぱい壁を蹴った。
「てめえの相手はぁ、こっちだあああああああああああああっ!!!」
群衆を跳び越すように、ケルニールスの真上に飛ぶ。
「”光砲”!」
ミカの手から放たれたレーザーが、ケルニールスの居た場所を貫く。
だが、ケルニールスは人間離れした動きで、ミカのレーザーを回避した。
一瞬で、玉座の前に移動する。
ケルニールスは深紅の鎧を身に纏っていた。
光沢は無く、ただ黒い影が張り付く。
”金系希少金属”の鎧だった。
「ふん。 やはり、この程度では殺れなんだか。」
そう呟くと、老女中の差し出すタオルを受け取る。
軽く手を拭くと、タオルを投げ返した。
そんなケルニールスの顔を見て、ヤロイバロフが舌打ちをする。
「なるほどな……。 確かにこりゃあ、中身が変わってやがる。」
以前にも一度、ヤロイバロフは謁見の間で顔を合わせたことがある。
教会襲撃の時だ。
あの時も、年齢の割には溌剌とした爺さんだとは思ったが。
ヤロイバロフは首を捻り、コキンと鳴らす。
「坊主……。 おめえ、こんな化け物と戦ってたのかよ。」
得体の知れなさが尋常じゃない。
人の姿と中身が違うというのが、こんなにも気味の悪いものだとは思わなかった。
初めて目にする”呪われし子”に、さすがのヤロイバロフも驚きを隠せなかった。
ケルニールスは玉座に座ると、優雅に頬杖をついた。
「王に反逆し、王城にまで攻め込むとは。 とんだ愚か者がいたものだ。」
「王に反逆? 別にお前は王じゃないだろう。」
ヤロイバロフは警戒を解かずに、ケルニールスに反論する。
だが、ケルニールスは呆れたように首を振った。
「余が王でなければ、誰が王だというのだ? 王とは血で決まる。 正真正銘、余が王であろう。」
中身が変わろうが、血を繋いできたことにこそ意味がある。
それは、ある意味で正しい主張ではあった。
ミカがヤロイバロフの横に並ぶ。
「相手にするだけ無駄ですよ。 そもそもこいつは、王になんか興味がないんですから。」
ミカはナマクラ様を左手に持ち変え、魔法具の袋から”銅系希少金属”の短剣を取り出す。
「今更問答は要らないだろう? お前が本当のことを言うとは思えないし、何を言われても信じない。」
そう言うと、”銅系希少金属”の剣をケルニールスに向ける。
「”呪われし子”がいる限り、血が流され続ける。 だから消す。」
ミカは”光砲”を放ち、ケルニールスの胸の中心を撃ち抜く。
だが、ケルニールスがその手で素早くレーザーを受け止めた。
ケルニールスの光る手の中に、ミカのレーザーが吸い込まれる。
冷えた目が、ミカを見下ろした。
「似たような”言”を使うと思ったが……。」
ケルニールスが小さく鼻を鳴らした。
「まったく”意”が足りんな。」
その瞬間、ケルニールスの手が眩いほどの光を放つ。
「”言”とは、こう使うのだ。 【光あれ】!」
ピュンッ!!!
特大の光が放たれ、直径で五メートルにもなるようなレーザーが王城の壁を貫通した。
「っぶねぇ~っ!?」
咄嗟に躱したヤロイバロフが、冷や汗を流す。
ミカも何とか躱すことができたが、王城に空けられた穴を見て、目を見開く。
「……やっぱり、お前が防護壁の穴を空けてた奴か。」
レーザーを使っていたので、怪しいとは思ったが。
ミカが歯を喰いしばり睨みつけると、ケルニールスがにやりと顔を歪めて笑った。
■■■■■■
ミカとヤロイバロフが謁見の間に突入する、少し前。
ガシャンッ!
イクセルの足元に、取り落とした剣が転がった。
「ハァッ……、ハァッ……、ハァッ……!」
膝を突き、荒い呼吸をくり返す。
だが、その目はまだ闘志を宿していた。
そんなイクセルを、オズエンドルワは冷えた目で見下ろす。
二人の差は、絶望的といえた。
すでにイクセルの部下は全員が昏倒させられ、辛うじてイクセルだけが残った。
いや、残ったのではない。
残らされたのだ。
おそらく、オズエンドルワはわざとイクセルだけ昏倒させなかった。
明らかに手を抜かれている。
むしろそれは、全力で手加減している、と言うべきか。
いつでも打ち倒せるのに、絶妙の加減で意識を失うことを許さない。
どれほどの差があれば、こんな真似ができるのかと、イクセルのプライドはズタズタにされていた。
「そろそろ、聞く気になったか?」
不意に、そんなことをオズエンドルワが言い出す。
イクセルは、オズエンドルワを睨みつけた。
「クランザード殿下は、確かに不正な手段を用いた。 それによって謀られていたのは、貴方たち近衛軍だけではない。」
オズエンドルワは、イクセルの目を真っ直ぐに見て、真摯に伝える。
ミカの背負うものを。
たとえ王殺しの汚名を着ることになろうと、守ろうとしているものを。
近い将来、身内になるであろうイクセルに。
知っておいてもらわなければならない。
「私も、現状を正しく理解したのは昨日のことだ。 王太子殿下や閣僚たちの謀には、強い怒りを覚えたよ。」
イクセルは震える足に喝を入れ、何とか立ち上がる。
だが、よろよろと身体が揺れ、壁に背を預けて何とか支えた。
「正直、王太子殿下が余計なことをしなければ、話はシンプルだった。 それを、余計なことをしてくれたおかげで、真実が見えにくくなってしまった。」
王太子は王太子で、王国存亡の危機に止むに止まれず起ったという事情がある。
しかし、今となっては、そのことで様々な誤解を受けやすい状況になってしまった。
オズエンドルワはイクセルの剣を拾うと、その手に握らせる。
「貴方が真実を知りたいというなら、教えよう。」
そうして、数歩後ろに下がる。
「だが、ミカ君が本気で反逆に与したと思っているのなら、教えるだけ無駄だ。 あの子を信じられないようなら、真実を知ったところで意味はない。」
オズエンドルワは、静かに剣を構えた。
「レーヴタイン侯爵家の者として答えるがいい。 彼のこれまでを鑑みて、それでもミカ・ノイスハイムという少年を信じられないというのなら――――。」
その目に、本気の殺意が宿る。
「滅ぶがいい。」
オズエンドルワのその目、その姿を見て、イクセルは死を覚悟した。
オズエンドルワは、あまりにも強すぎる。
達人級の腕を持つという噂は、王国軍や近衛軍にも伝わっていた。
だが、噂とはアテにならないものだ。
こんなのは達人級とは言わない。
生ける神話のような強さだった。
その時、悲鳴が聞こえてきた。
謁見の間の方だった。
イクセルは歯を喰いしばり、思わずそちらに向かおうとしてしまった。
だが、何とか身体を支えていただけのイクセルは、すぐにバランスを崩してしまう。
危うく倒れるところだった。
「貴方は、他人の心配をしている場合ではないだろう?」
「あれを聞いてっ……何とも思わないのかっ……! それでも騎士かっ!」
いくつも上がる悲鳴を聞きながら、まったく表情の変わらないオズエンドルワに、イクセルが吐き捨てる。
しかし、それでもオズエンドルワは変わらない。
「ミカ君とヤロイバロフが行っている。 二人が行き、それでもだめなら、私が加勢したところで大して変わらん。」
オズエンドルワのその言葉に、イクセルは目を瞠った。
それは、絶対の信頼だった。
イクセルにとって、ミカがそこまで信頼できる相手かと言うと、正直微妙だ。
だが……。
「そこまで…………信じているのか?」
イクセルはオズエンドルワに問う。
「勿論だ。」
迷わず答えるオズエンドルワを見て、イクセルは目を閉じた。
イクセルにも、絶対の信頼を寄せる相手がいる。
兄、ハイデン。
弟のウルバノ。
レーヴタイン家のためにと、誓い合った兄弟たち。
打算による繋がりではない。
絶対の信頼は、そんなものでは結べない。
そのことを、イクセル自身がよく知っていた。
イクセルは大きく息を吐き出し、肩の力を抜いた。
そうすると、ずるずるとしゃがみ込む。
「一体、何があったんだ? ミカ君は何をしていると言うんだ?」
「…………信じる気になったか?」
オズエンドルワが尋ねると、イクセルは力なく首を振る。
「……元々、ミカ君が何かやったとは思っていないさ。 どれだけレーヴタイン家が、ミカ君に助けてもらったと思っているんだ?」
クレイリア誘拐事件に始まり、ミカ・ノイスハイムという不思議な少年と、奇妙な縁ができた。
しかも、その少年は帝国軍の侵攻を跳ね返すなど、信じ難いほどの助力をしてくれている。
「ただ、悪い大人に騙されているなら、何とかしてやりたかっただけさ。」
そう、イクセルはオズエンドルワを見上げて言う。
オズエンドルワは、一瞬だけぽかんとした顔になった。
だが、すぐに口の端を上げる。
「私が、悪い大人か?」
「…………一度、自分の評判をよく調べた方がいい。」
よく壁を殴るという粗暴な振る舞い。
王国中の騎士団から鼻つまみ者を集める、変わり者。
筋は通す実直な面もあるというが、とにかく変な噂が多い。
イクセルの呆れたような声に、肩を竦めるオズエンドルワだった。




