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【書籍版第2巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第5章 魔法学院高等部の”神々の遣わし者”

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第288話 絶対の信頼




 王城の二階。

 階段を上がった先の廊下に、イクセル・レーヴタインが立っていた。


「イクセルさん……。」


 イクセルの後ろには、何十人と近衛騎士たちが控えている。

 イクセルは、隊長格であることを表す鎧を身につけていた。

 おそらく後ろの近衛騎士たちは、イクセルの部下なのだろう。


「剣を放すんだ、ミカ君。 陛下には、俺の方から取り成してあげるよ。 だから、こんなことはもうよすんだ。」


 イクセルが、努めて優しく言っていることが分かった。

 ミカはイクセルの言葉に、首を振る。


「できません。」


 ミカが拒否すると、イクセルが大きく溜息をつく。


「君は、一体何を考えているんだ? 王太子の陰謀に与するなんて!」


 イクセルが強い口調でミカに問いかける。

 どうやら、ミカが指名手配されているのは、王太子の陰謀に加担したということのようだ。


 確かに、王太子には不正な手段を用いたという負い目がある。

 (ケルニールス)はそこを突き、すべては王太子とその一味の企て、ということにしたようだ。


(……だけど、もうそんな話じゃ済まなくなってるんだよな。)


 今、王は”呪われし子(イムプレカーティオー)”に乗っ取られている、などと言ったところで誰が信じるというのか。

 ミカがどう説明しようか悩んでいると、オズエンドルワがミカの前に出た。


「ミカ君、遠回りにはなるが、そこの階段から三階に行って、それから謁見の間に行くといい。」


 オズエンドルワは、今上がってきた階段を指さし、一旦三階に上がるように提案する。


 謁見の間は、イクセルが固める廊下の先だ。

 ミカがイクセルと戦うことを躊躇っているのを見て、別ルートから謁見の間に行くように言った。


「行かせると思っているのか?」


 イクセルが一歩踏み出すと、オズエンドルワが静かに”銅系希少金属(オリハルコン)”の(ソード)を向ける。


「貴方の立場では仕方ないとは思うし、事情を知らないのだからな。 無理はないだろう。」


 オズエンドルワはそう呟くと、殺気の籠った目でイクセルを射抜く。

 イクセルはその殺気に咄嗟に飛び退き、剣を構えた。


「聞く気があるなら、私が説明してやろう。 だが、あまり時間がない。 ミカ君は先に行かせる。」


 オズエンドルワの言葉にヤロイバロフは頷き、ミカの肩を掴む。


「坊主。 行くぞ。」

「……でも。」


 イクセルは苦し気な表情でミカを見る。

 そして、声を張り上げて叫んだ。


「ミカ君! このままでは取り返しのつかないことになるんだぞ!」


 イクセルは、イクセルなりにミカのことを考えてくれているのだろう。

 だが、現状の認識に大きな齟齬(そご)がある。

 すでに取り返しのつくことなど無いのだ。


 ミカと(ケルニールス)の衝突は不可避。

 ”呪われし子(イムプレカーティオー)”から王国を守るためには、(ケルニールス)を倒すしかないのだ。


 ミカは唇を引き結び、イクセルを見る。

 だが、すぐに背を向けた。


「行きましょう、ヤロイバロフさん。」

「ああ。」

「ま、待てっ!」


 ミカが階段に向かって駆け出すと、イクセルがミカを追うように足を踏み出す。

 しかし、イクセルはそれ以上は進めなかった。

 オズエンドルワから放たれる殺気が一層鋭さを増し、イクセルの本能が警鐘をかき鳴らしたからだ。

 イクセルがオズエンドルワを睨む。


「…………騎士団を率いる者が、反逆に与するとはっ……! 恥ずかしくないのかっ!」


 イクセルがありったけの殺気を叩きつける。

 だが、オズエンドルワは揺らがない。

 静かに、圧倒的に、その気配だけで場を支配する。


「後で、彼に謝るんだな。」


 そう、呟くように言う。


「今、事態の深刻さをもっとも理解しているのはミカ君だ。 そして、それを何とかできるのも、ミカ君だけだ。」


 ビュッ!


 オズエンドルワは、(ソード)を一振りすると構え直した。


「今は聞く耳を持たんだろう?」


 そう言って、口の端を上げる。

 オズエンドルワの顔に、狂暴な笑みが浮かぶ。


「少しばかり、聞き分けをよくしてやろう。」


 イクセルは、オズエンドルワの笑みに総毛立った。

 この時初めて、目の前に立つ者が本当に人間かと疑問を抱いたのだった。







■■■■■■







 ミカとヤロイバロフは三階に上がり、待ち構えていた近衛騎士たちを叩き伏せた。


「おーらよっと!」


 ガシャガシャンッ!


 ヤロイバロフは斧槍(ハルバード)の柄の部分で二人の近衛騎士を薙ぎ、壁に叩きつけた。

 失神した二人の近衛騎士は、ずるずると崩れ落ちる。


「しゅっ!」


 ミカは聖剣ナマクラ様で器用に顎先を狙い、バタバタと脳震盪を起こさせる。


「行けっ! 行けえっ!」

「命をかけて賊を止めよっ!」


 ぞくぞくと集まる近衛騎士たちを悉く倒しながら、ミカとヤロイバロフは先に進む。


「お? あの階段じゃねえか?」


 廊下を進んでいき、いくつか廊下を曲がったりしてうろうろしていると、二階に下りる階段を見つけた。

 ミカたちの通った廊下は、死屍累々とでも表現したくなるような惨状だ。

 一応は、誰も死んでいないはずである。…………多分。


「もう、三階には居ませんかね?」

「気配は無さそうだ。 ……ていうか、本当に気配がほとんどねえな。」


 ヤロイバロフが怪訝そうな顔で顎を撫でながら答える。

 どうやって、そんな気配を探っているのだろうか。

 本当に【気配察知】って便利だなあ。

 俺も欲しいのに……。


 ミカとヤロイバロフは二階に下りると、謁見の間の前を固める近衛騎士を視界に収める。

 ここは謁見の間の正面ではなく、おそらく横のはずだ。

 謁見の間は一応、横からも出入りは可能なようで、立派な装飾の施されたドアが見えた。


「賊が来たぞおっ!」

「近衛の名にかけて、絶対に死守せよ!」

「命を捨てよっ! 何人(なんぴと)もここを通すなっ!」


 えらく気合の入った近衛騎士たちが、謁見の間の前を塞ぐ。

 ミカとヤロイバロフは顔を見合わせた。


「やっと着きましたけど……。」

「えらく歓迎してくれてるな。 期待にはしっかり応えてやろうや。」


 少々げんなりするミカと違い、なぜかヤロイバロフは張り切っていた。

 ミカは廊下を三次元機動で縦横無尽に動き回り、近衛騎士たちを翻弄しつつ顎先をナマクラ様で撫でる。


「な!? 何がっ!?」

「うわっ!?」


 ミカの凄まじい動きに翻弄され、近衛騎士たちの隊列が乱れた。


 ちなみにフィーも、ふよふよ~……と近衛騎士たちの目の前をわざと通過したりしている。

 それだけで近衛騎士たちはフィーを手で払おうとしたり、かなり意識を乱される。

 地味な嫌がらせである。


 そして、そこに暴力の権化、赤い彗s…………タコことヤロイバロフの猛威が襲い掛かった。

 近衛騎士たちは次々にナマクラ様で昏倒させられ、斧槍(ハルバード)で吹っ飛ばされる。

 瞬く間に、謁見の間の前を制圧した。


「うっし、行くぜ! 油断すんなよ?」


 ヤロイバロフはそう言うと、ドアに手をかけた。

 そうして一気にドアを引くと、すぐに変な顔になる。

 ミカはヤロイバロフの横に並び、やはり変な顔になった。


 高い天井の謁見の間。

 そこには、千人を超すのではないかというほどの、侍従、女中(メイド)、執事など、城に勤める人たちがいた。

 ミカとヤロイバロフは怪しみながらも、慎重に謁見の間に足を踏み入れた。

 突然の闖入者に、集まった人たちから若干のざわめきが起こる。


 その時、ミカはハッとなり玉座を見た。

 だが、そこには(ケルニールス)の姿はない。

 玉座の横には、一人の老女中(メイド)がいるだけだった。


「やられたっ!」


 ミカがそう言った瞬間、謁見の間が明るくなった。


「くっ!?」


 ミカは咄嗟に、ヤロイバロフを突き飛ばしながら転がる。


 ピュンッ!


 その瞬間、ミカたちのいた場所を眩い光が突き抜けた。


「「「ぎゃああぁぁーーーーっ!?」」」

「「「きゃあーーーーーーーーーっ!!!」」」


 光を受けた人たちが何十人と、一瞬で絶命する。

 腰から上が消し飛んだ者。

 腕を失った者。

 腹を抉られた者。

 謁見の間は、一瞬で阿鼻叫喚の地獄と化した。


「何だっ!? どういうことだっ!?」

「ケルニールスはこの中に紛れてるんですっ! 城の人たちを盾とカモフラージュに使って!」


 ミカがそう言うと、再び謁見の間の光量が増す。


「来るっ!」


 ミカはそう言いながら、その場を離れた。

 ヤロイバロフも状況を理解し、咄嗟に回避行動を取る。


 ピュンッ!


 またミカの居た場所を光が突き抜ける。

 何十という人を巻き添えにして。


「「「ぎゃああぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」

「「「きゃあーーーっ!!!」」」


 いくつもの叫びと悲鳴が上がり、謁見の間に集められていた人たちは正面の大きなドアに殺到した。

 だが、鍵がかけられているのか、開かなかったようだ。

 ドアの前の人たちは他のドアに行こうとし、ドアから離れた人たちは早く逃げたい一心で、必死に正面のドアに殺到する。

 結果、まったく身動きの取れない集団ができあがった。


「ふざけやがってえええええええええええっっっ!!!」


 ミカは叫びながら、執拗に狙い撃って来る光を必死に躱した。

 そのたびに、巻き添えになって何十という命が散っていく。

 ケルニールスはヤロイバロフには目もくれず、ミカだけを狙っていた。


「この、外道があっ!!!」


 ヤロイバロフは光の発生源を見つけ、集団の中に突進した。

 群がる人を押し除けながら。


「だめだっ! ヤロイバロフさんっ!」


 ミカは咄嗟に壁に向かってジャンプする。

 やや高くなった視点から、人の群れを見下ろす。

 そうすることで、人を掻き分けて進むヤロイバロフに向けて、腕を伸ばしたケルニールスを見つけた。


 ケルニールスの手が光る。

 ミカは力いっぱい壁を蹴った。


「てめえの相手はぁ、こっちだあああああああああああああっ!!!」


 群衆を跳び越すように、ケルニールスの真上に飛ぶ。


「”光砲(レーザーキャノン)”!」


 ミカの手から放たれたレーザーが、ケルニールスの居た場所を貫く。

 だが、ケルニールスは人間離れした動きで、ミカのレーザーを回避した。

 一瞬で、玉座の前に移動する。


 ケルニールスは深紅の鎧を身に纏っていた。

 光沢は無く、ただ黒い影が張り付く。

 ”金系希少金属(ヒヒイロカネ)”の鎧だった。


「ふん。 やはり、この程度では()れなんだか。」


 そう呟くと、老女中(メイド)の差し出すタオルを受け取る。

 軽く手を拭くと、タオルを投げ返した。

 そんなケルニールスの顔を見て、ヤロイバロフが舌打ちをする。


「なるほどな……。 確かにこりゃあ、中身が変わってやがる。」


 以前にも一度、ヤロイバロフは謁見の間で顔を合わせたことがある。

 教会襲撃の時だ。

 あの時も、年齢(とし)の割には溌剌(はつらつ)とした爺さんだとは思ったが。


 ヤロイバロフは首を捻り、コキンと鳴らす。


「坊主……。 おめえ、こんな化け物と戦ってたのかよ。」


 得体の知れなさが尋常じゃない。

 人の姿(がわ)と中身が違うというのが、こんなにも気味の悪いものだとは思わなかった。

 初めて目にする”呪われし子(イムプレカーティオー)”に、さすがのヤロイバロフも驚きを隠せなかった。


 ケルニールスは玉座に座ると、優雅に頬杖をついた。


「王に反逆し、王城にまで攻め込むとは。 とんだ愚か者がいたものだ。」

「王に反逆? 別にお前は王じゃないだろう。」


 ヤロイバロフは警戒を解かずに、ケルニールスに反論する。

 だが、ケルニールスは呆れたように首を振った。


「余が王でなければ、誰が王だというのだ? 王とは血で決まる。 正真正銘、余が王であろう。」


 中身が変わろうが、血を繋いできたことにこそ意味がある。

 それは、ある意味で正しい主張ではあった。


 ミカがヤロイバロフの横に並ぶ。


「相手にするだけ無駄ですよ。 そもそもこいつは、王になんか興味がないんですから。」


 ミカはナマクラ様を左手に持ち変え、魔法具の袋から”銅系希少金属(オリハルコン)”の短剣(ショートソード)を取り出す。


「今更問答は要らないだろう? お前が本当のことを言うとは思えないし、何を言われても信じない。」


 そう言うと、”銅系希少金属(オリハルコン)”の(ソード)をケルニールスに向ける。


「”呪われし子(イムプレカーティオー)”がいる限り、血が流され続ける。 だから消す。」


 ミカは”光砲(レーザーキャノン)”を放ち、ケルニールスの胸の中心を撃ち抜く。

 だが、ケルニールスがその手で素早くレーザーを受け止めた。

 ケルニールスの光る手の中に、ミカのレーザーが吸い込まれる。

 冷えた目が、ミカを見下ろした。


「似たような”(ウォカーブルム)”を使うと思ったが……。」


 ケルニールスが小さく鼻を鳴らした。


「まったく”(ウォルンタース)”が足りんな。」


 その瞬間、ケルニールスの手が眩いほどの光を放つ。


「”(ウォカーブルム)”とは、こう使うのだ。 【光あれ】!」


 ピュンッ!!!


 特大の光が放たれ、直径で五メートルにもなるようなレーザーが王城の壁を貫通した。


「っぶねぇ~っ!?」


 咄嗟に躱したヤロイバロフが、冷や汗を流す。

 ミカも何とか躱すことができたが、王城に空けられた穴を見て、目を見開く。


「……やっぱり、お前が防護壁の穴を空けてた奴か。」


 レーザーを使っていたので、怪しいとは思ったが。

 ミカが歯を喰いしばり睨みつけると、ケルニールスがにやりと顔を歪めて笑った。







■■■■■■







 ミカとヤロイバロフが謁見の間に突入する、少し前。


 ガシャンッ!


 イクセルの足元に、取り落とした(ソード)が転がった。


「ハァッ……、ハァッ……、ハァッ……!」


 膝を突き、荒い呼吸をくり返す。

 だが、その目はまだ闘志を宿していた。


 そんなイクセルを、オズエンドルワは冷えた目で見下ろす。

 二人の差は、絶望的といえた。

 すでにイクセルの部下は全員が昏倒させられ、辛うじてイクセルだけが残った。

 いや、残ったのではない。

 残らされたのだ。


 おそらく、オズエンドルワはわざとイクセルだけ昏倒させなかった。

 明らかに手を抜かれている。

 むしろそれは、全力で手加減している、と言うべきか。

 いつでも打ち倒せるのに、絶妙の加減で意識を失うことを許さない。

 どれほどの差があれば、こんな真似ができるのかと、イクセルのプライドはズタズタにされていた。


「そろそろ、聞く気になったか?」


 不意に、そんなことをオズエンドルワが言い出す。

 イクセルは、オズエンドルワを睨みつけた。


「クランザード殿下は、確かに不正な手段を用いた。 それによって(たばか)られていたのは、貴方たち近衛軍だけではない。」


 オズエンドルワは、イクセルの目を真っ直ぐに見て、真摯に伝える。

 ミカの背負うものを。

 たとえ王殺しの汚名を着ることになろうと、守ろうとしているものを。


 近い将来、身内になるであろうイクセルに。

 知っておいてもらわなければならない。


「私も、現状を正しく理解したのは昨日のことだ。 王太子殿下や閣僚たちの(はかりごと)には、強い怒りを覚えたよ。」


 イクセルは震える足に喝を入れ、何とか立ち上がる。

 だが、よろよろと身体が揺れ、壁に背を預けて何とか支えた。


「正直、王太子殿下が余計なことをしなければ、話はシンプルだった。 それを、余計なことをしてくれたおかげで、真実が見えにくくなってしまった。」


 王太子は王太子で、王国存亡の危機に止むに止まれず起ったという事情がある。

 しかし、今となっては、そのことで様々な誤解を受けやすい状況になってしまった。


 オズエンドルワはイクセルの剣を拾うと、その手に握らせる。


「貴方が真実を知りたいというなら、教えよう。」


 そうして、数歩後ろに下がる。


「だが、ミカ君が本気で反逆に与したと思っているのなら、教えるだけ無駄だ。 あの子を信じられないようなら、真実を知ったところで意味はない。」


 オズエンドルワは、静かに剣を構えた。


「レーヴタイン侯爵家の者として答えるがいい。 彼のこれまでを鑑みて、それでもミカ・ノイスハイムという少年を信じられないというのなら――――。」


 その目に、本気の殺意が宿る。


「滅ぶがいい。」


 オズエンドルワのその目、その姿を見て、イクセルは死を覚悟した。

 オズエンドルワは、あまりにも強すぎる。

 達人級の腕を持つという噂は、王国軍や近衛軍にも伝わっていた。

 だが、噂とはアテにならないものだ。

 こんなのは達人級とは言わない。

 生ける神話のような強さだった。


 その時、悲鳴が聞こえてきた。

 謁見の間の方だった。

 イクセルは歯を喰いしばり、思わずそちらに向かおうとしてしまった。

 だが、何とか身体を支えていただけのイクセルは、すぐにバランスを崩してしまう。

 危うく倒れるところだった。


「貴方は、他人(ひと)の心配をしている場合ではないだろう?」

「あれを聞いてっ……何とも思わないのかっ……! それでも騎士かっ!」


 いくつも上がる悲鳴を聞きながら、まったく表情の変わらないオズエンドルワに、イクセルが吐き捨てる。

 しかし、それでもオズエンドルワは変わらない。


「ミカ君とヤロイバロフが行っている。 二人が行き、それでもだめなら、私が加勢したところで大して変わらん。」


 オズエンドルワのその言葉に、イクセルは目を瞠った。

 それは、絶対の信頼だった。

 イクセルにとって、ミカがそこまで信頼できる相手かと言うと、正直微妙だ。

 だが……。


「そこまで…………信じているのか?」


 イクセルはオズエンドルワに問う。


「勿論だ。」


 迷わず答えるオズエンドルワを見て、イクセルは目を閉じた。


 イクセルにも、絶対の信頼を寄せる相手がいる。

 兄、ハイデン。

 弟のウルバノ。

 レーヴタイン家のためにと、誓い合った兄弟たち。


 打算による繋がりではない。

 絶対の信頼は、そんなものでは結べない。

 そのことを、イクセル自身がよく知っていた。


 イクセルは大きく息を吐き出し、肩の力を抜いた。

 そうすると、ずるずるとしゃがみ込む。


「一体、何があったんだ? ミカ君は何をしていると言うんだ?」

「…………信じる気になったか?」


 オズエンドルワが尋ねると、イクセルは力なく首を振る。


「……元々、ミカ君が何かやったとは思っていないさ。 どれだけレーヴタイン家(うち)が、ミカ君に助けてもらったと思っているんだ?」


 クレイリア誘拐事件に始まり、ミカ・ノイスハイムという不思議な少年と、奇妙な縁ができた。

 しかも、その少年は帝国軍の侵攻を跳ね返すなど、信じ難いほどの助力をしてくれている。


「ただ、()()()()に騙されているなら、何とかしてやりたかっただけさ。」


 そう、イクセルはオズエンドルワを見上げて言う。

 オズエンドルワは、一瞬だけぽかんとした顔になった。

 だが、すぐに口の端を上げる。


「私が、悪い大人か?」

「…………一度、自分の評判をよく調べた方がいい。」


 よく壁を殴るという粗暴な振る舞い。

 王国中の騎士団から鼻つまみ者を集める、変わり者。

 筋は通す実直な面もあるというが、とにかく変な噂が多い。


 イクセルの呆れたような声に、肩を竦めるオズエンドルワだった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「正直、王太子殿下が余計なことをしなければ、話はシンプルだった。 だが、余計なことをしてくれたおかげで、真実が非常に見えにくくなってしまった。」 ”だが”の誤用です。 ”だが”は前…
[一言] ついにミカとルーメンが激突か、戦いが終わったら王城が瓦礫になりそうだな
[一言] そういえば、ひんこーほーせーなんて人じゃなかった!
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