表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミックス第1巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第5章 魔法学院高等部の”神々の遣わし者”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

284/313

第283話 急転




 防護壁に押し寄せる群衆の最後尾を眺めながら、オズエンドルワは(ソード)を片手に警戒していた。

 足元にはミカが蹲り、懸命に何かに堪えていた。


「……ぐっ……ううっ……!」


 ヒブジーザを解呪した直後は元気そうだったミカだが、すぐに()()が始まった。

 この反動についても予め聞いていたオズエンドルワは、ミカを護るために最大限に全周警戒していた。


 オズエンドルワは、ちらりとミカを一瞥した。

 蹲り、微かに震えるその痛ましい姿に、顔をしかめる。


 本来なら、まだ戦場に出るような年齢(とし)ではない。

 だが、その強大な力に、王国も頼らざるを得ない。


 まだ子供だというのに。


 そのことに、オズエンドルワは己の無力を痛感する。

 ミカは、その小さな身体には不釣り合いな、重すぎる責務、大き過ぎる期待を背負う。

 それでも明るさを失わないミカに、オズエンドルワは崇敬の念を抱かずにはいられなかった。

 大人でも、その重圧に圧し潰されても不思議はないというのに。


 ミカはオズエンドルワやヤロイバロフと比べて、自分の足りない部分を嘆くが、まずそれがおかしいのだ。

 まだ学院生なのだ。

 普通なら、まだまだヒヨッコ。

 駆け出しの下っ端(ペーペー)

 それで当たり前なのに。


 それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分がどれほどすごいことをしているのか、なぜこの少年は気づかないのだろうか?


 オズエンドルワがそんなことを考えながら警戒していると、ミカが蹲ったまま大きく息をついた。


「大丈夫かい?」


 声をかけられたミカだが、黙ったままゆっくりと身体を起こす。

 その表情は、まだ苦し気だった。

 そうして、もう一度大きく息をついて、目を開ける。


「……お待たせしました。 もう大丈夫です。」


 ローブの裾についた埃を払いながら、ミカが立ち上がる。


「聞いていたよりも、随分と辛そうだったが……。」

「そうですか? まあ、こんなもんですよ。」


 ミカは微笑むが、その表情にはやはり苦しさが滲む。

 額にも、玉のような汗が浮かんでいた。


「化け物の相手は、僕みたいな普通の人間にはちょっとつらいものがありますね。 やっぱり。」


 肩を竦めるミカに、オズエンドルワが微妙な顔になる。


「……普通? ちょっと?」

「ええ、そうですよ。 何か?」


 何か言いたげなオズエンドルワに、ミカは半目を向ける。

 それを見て、オズエンドルワは何も言わず、微妙な表情のまま小さく頷いた。


「そうだ、ミカ君。 聞きたいことがあったんだ。」

「聞きたいこと? 何ですか。」


 ミカが肩を回しながら尋ねると、オズエンドルワは群衆を指さす。


「ミカ君が解呪している間に、この人たちから黒い湯気みたいなものが見えたんだ。 よく見ないと分からない程度だが。」

「黒い湯気……?」


 ミカは訝し気な顔になるが、群衆に近づく。

 一人の背中に触れるが、首を傾げる。

 次いで、軽く浮き上がり首に触れた。


「”自動解呪(オートディスペル)”。」


 そう呟くと、隣の人の首に触れる。

 そうして、また”自動解呪”と呟く。

 ミカがオズエンドルワの前に戻ってくる。


「確かに、呪いを受けてますね。 ごく弱いものですが。」

「やはり、あれが呪いなのか。」


 ミカの出した結論に、オズエンドルワは厳しい表情で頷いた。


「フィー、ちょっと視覚化してもらっていいか。 この辺だけでいいから。」


 ミカがそう言うと、フィーがカッと光る。

 そうして光が消えると、オズエンドルワの言っていた通り、群衆の一人ひとりから黒い湯気が立ち昇っていた。

 それを見て、ミカは呟く。


「…………操られていた。 ということですかね。」

「そういう、ことになるのかい?」


 だが、ミカは腕を組み、少し考える。


「でも、そこまで強い呪いじゃないんですよね。 こんなので、人を思い通りに操れるとはちょっと思えないんですけど……。 それも、これだけの人を。」


 そう言ってミカは群衆を見る。

 見渡す限りの人、人、人。

 途中で多くが力尽きたとは言え、四千万もの人をこのダブランドル平原へ向けて動かしたのだ。

 実行面も含め、何がどうなっているのか見当もつかない。


 ミカは表情を引き締め、オズエンドルワを見る。


「こいつらは一旦置いておきましょう。 まだやることが残っています。」


 オズエンドルワが頷く。


「防護壁を塞ぐのだったね。」

「はい。」


 ミカはオズエンドルワを抱えると、そのまま飛び上がる。

 オズエンドルワは群衆を見下ろし、ミカに提案した。


「効率は落ちるが、こういう時は一番まずい状況の場所から塞ぐべきだろう。」


 行ったり来たりになるかもしれないが、とにかく破綻しそうな所から塞ぐべきだとオズエンドルワが言う。


「優先順位がはっきりしているなら、その通りに塞ぐんだ。」


 オズエンドルワの言葉に、ミカは頷く。


「もしも破綻しそうな場所が二カ所あれば、一方に私を下ろしてくれ。 ミカ君はもう一方を先に塞ぐんだ。」

「一人で支える気ですか!?」


 さすがに、それは無茶ではないかい?

 ミカが驚いて聞き返すが、オズエンドルワが凶暴な笑みを浮かべる。


「わざわざこんな所までやって来たのに、いいところは全部ミカ君に持って行かれてしまったからね。 ちょっと悔しいんだよ。」


 そう、朗らかに言い放つ。

 きらきらとした、とてもいい笑顔だった。

 こっわ。


 どうやら、ヒブジーザに剣を躱されたことをちょっと根に持っていたらしい。

 冷静沈着なタイプに見えて、意外と火事場で血が騒ぐ人なのか?


(……まあ、混乱の坩堝(るつぼ)にあって、迷ってしまうような人に騎士団長は務まらんか。)


 いざとなれば、どんな混乱も力技で鎮圧する。

 そうした腹の据え方ができる人でないと、王都の治安を任されはしないだろう。

 若くして騎士団長を任されていたのは、伊達ではなかったということか。


 防護壁に近づき、ミカは通信機を取り出す。


「通信指令室! こちらは片付いた! どこから塞げばいい?」


 ミカが呼びかけると、少しの間を置いて返事が来る。


『御使い様! 二の二からお願いします! 少し前に、王国軍が抜かれました!』


 それを聞き、ミカは舌打ちしてしまう。

 すでに破綻してしまった場所があるようだ。


「他は大丈夫なのか?」

『まだ、何とか……!』

「分かった! 二の二に向かう!」


 ミカは魔法具の袋に通信機を仕舞う。

 その時、オズエンドルワが、防護壁の向こうを指さした。


「ミカ君、あそこに下ろしてくれ。」


 指差した場所は、防護壁を越え、王国軍の包囲も抜けた群衆の先頭だった。


「押し返し、王国軍の破れた包囲を立て直す。」


 わお。

 こんなことを、本気で言えちゃうからすごいよね、この人。

 だが、迷っている時間はない。


「お願いします。 多分、壁の修復は十分はかかると思います。」

「早過ぎるな。 そんなに早くては、立て直すのが間に合うかどうか。」


 もっと早くしろ、と言われることはあっても、早すぎるなんて言葉が返ってくるとは思わなかった。

 ミカが目を丸くしていると、指定の場所が近づいてきた。


「それじゃ、また。」

「はい!」


 ミカが高度を下げると、オズエンドルワが手を離して飛び降りる。

 着地と同時にごろごろと転がり、跳ね起きた瞬間に群衆の先頭を斬り捨てた。

 そのまま次々と向かってくる群衆を斬り払い、流れを完全に止める。

 そうして、斬り捨てながら、押し寄せる群衆に自分から向かっていった。


 オズエンドルワの後ろには死体だけという、鬼神の如き戦いぶり。

 そんな凄まじい戦い方をしながら、本人にはまだまだ余裕がありそうだった。


「…………強化騎士どころじゃねえだろ、この人。」


 バザルを強化騎士の究極形にしようと画策していたミカだが、考えを改める。

 これは無理だ。

 いくらただの群衆だとは言え、このペースで斬り捨てて、前に進める者など正真正銘の化け物だ。

 これで【身体強化】なしとか、どう考えてもおかしい。

 さすがはヤロイバロフと対等にやり合えるだけはある。


「おっと。 こっちも急がなくちゃ。」


 思わず見入ってしまったが、ミカが防護壁を塞がない限り、群衆が押し寄せ続ける。

 ビール片手に観戦していたい気持ちもあるが、バレると後で怒られそうだ。

 ミカは急いで防護壁まで戻り、壁の修復作業に取り掛かった。







 下段の石だけを並べ、群衆の流入を一先ず止める。

 そうして上段も作り、別の穴に向かう。

 とりあえずオズエンドルワには、あのまま流入した群衆の片づけをしていてもらう。


 次々と穴を塞いで回り、すべての穴を塞ぎ終わると、ミカも防護壁を越えた群衆の殲滅に参加した。


「うおおおっぉぉおおおおおうっ!」

「穢れた国を焼き払えええっ!」


 と雄叫びを上げる群衆を火刑に処す。

 ”火炎息(ファイアブレス)”で焼き払った。


「「「ぎゃあああああああああっ!?」」」

「「「熱いいいぃぃいいいいっ!?」」」


 おそらく呪いによって操られているのだろうが、まあ諦めてもらおう。

 どんな理由があろうと、とち狂った奴にこちらが合わせてやる義理はないし。


「御使い様に続けええっ!」

「「「おおうっ!!!」」」


 群衆に押され気味だった王国軍が奮起し、押し返す。

 そうして修復された防護壁に追い詰め、一人残らず駆逐する。


「じゃ、ここは任せたよ!」

「はっ! ありがとうございました、御使い様!」

「助かったぜ、御使いっ!」


 部分的に崩れそうになっていた王国軍を立て直し、ミカは別の場所の応援に回る。

 流入さえ止まってしまえば、殲滅は時間の問題だろう。

 あとは、少しでも兵の負傷者数を減らすことが大事だ。


 そうして別の場所に向かう途中で、オズエンドルワを見つけた。

 ここはもっともひどい状況だったが、見事に立て直してくれたようだ。

 まだ群衆は残っているが、完全に包囲が完成しているため、ここも時間の問題だろう。


 ミカは通信機を取り出した。


「通信指令室。 状況はどう?」

『損害はやや大きくなりましたが、すべての場所で流入した群衆の包囲が完成したようです。』


 防護壁の向こうの群衆は、すべての穴が塞がれたのにまだ壁に押し寄せているようだ。

 長弓兵、弓兵、魔法士がフル稼働で応戦しているが、それでも退く動きが見られないという。

 初日の時のような狂戦士(バーサーカー)ぶりだという。


「本気で屍に屍を重ねて、防護壁を越える気か?」

『それは分かりませんが……。』


 こいつらを、本気で殲滅しないと戦争が終わらないのか?

 逃げ帰ってくれれば、それで十分なんだけど。


「防護壁の向こうの群衆って、どのくらいいるんです?」

『ここ数日は散発的な戦闘しか起きていませんから、ほとんど変わりません。 ……まだ二千万を下回ってはいないかと。』


 それを聞き、ミカはげんなりした顔になる。


「……こいつらって、食料とかどうしてるんですか?」

『現在、補給がどうなっているか分かりませんが、朝や夜はおそらく普通に食事を摂っています。』

「相変わらず炊き出し?」

『はい。 ……遠目にしか確認できていませんが。』


 二千万もの群衆の食料を、そこまで確保できるものなのか?

 食料だけじゃない。

 水だって必要だし、まだ朝晩の冷え込みは相当なものだ。

 死体も放置された、こんな劣悪な環境なら、そう遠くなく疫病が蔓延してもおかしくない。


「戦いが始まったのは先週の月の日だから、丁度一週間か。」


 食料が尽きれば、すぐに全滅しそうだが……。


『御使い様。 よろしいですか?』


 ミカが考え込みそうになった時、通信手が変わったようだ。


『こちら作戦室です。 応援ありがとうございました。』

「いえ、初めからそういう話でしたから。」


 作戦室が直接出てくるのは初めてかもしれない。


『すみませんが、今後の相談もありますのでこちらにお越しいただけませんか。 指令が、お話がしたいと。』

「今後、ですか?」


 この後の予定としては、ワイエッジスへの救援物資の運搬か。

 ただ、前線としてはミカが離れるのを良しとはしないだろう。

 今更だが、短い休暇が終わってしまったな……。


(どっちも差し迫った状況だけど。 やっぱ、前線が優先かな。)


 ワイエッジスの救援、復旧も大事だが、どちらかしか選べない状況では、やはり戦場が優先されるだろう。


「分かりました。 こちらも目途が立ったので、これから向かいます。」

『よろしくお願いします。』


 ミカは通信を終えると、地上の様子を見る。

 オズエンドルワは群衆の包囲が完了しているのに、まだ前面に出て戦っていた。

 やる気溢れすぎだろ。


 ミカは地上近くまで下りて、オズエンドルワの周囲の群衆を”風刃(エアカッター)”で斬り飛ばす。

 自分が斬ろうとした対象が勝手に斬られ、不審に思ったオズエンドルワが周囲を見回した。

 ミカは手だけで「退くよ」とゼスチャーする。

 それを見て、オズエンドルワが頷いた。


「思う存分斬れましたか?」


 王国軍の包囲から出てきたオズエンドルワに声をかける。


「手応えが無くていまいちだったな。」


 (ソード)を払い、鞘に戻しながらオズエンドルワが答えた。

 そりゃあ、オズエンドルワからすればあんな群衆など、案山子も同然だろうけど。

 何千人と斬ってんだろうな、一人で。


「もう少し()って行きます? 僕は王国軍の駐屯地に呼ばれているんで、そちらに向かいますが。」

「いや、もう十分だ。 態勢も立て直したし、私の役目は終わりだ。」


 そう言って、オズエンドルワはミカに掴まる。

 ミカはオズエンドルワと王国軍の駐屯地に向かった。







「前線の駐屯地も久しぶりだな。」


 駐屯地の敷地に下りると、オズエンドルワが周りを見回す。


「前に居たんですか? ここの部隊に。」

「いや、前線の部隊に居たことはないな。 私のようなお上品な騎士は、貴族の近くに置かれることが多い。」

「…………ソウデスカ。」


 特に突っ込むこともせず、ミカは流した。

 貴族家出身らしいから、きっと作法なんかはばっちりなのだろう。

 そういう意味では、決して間違いではないのだ。


「じゃあ、前に来たのは…………視察? 貴族のお供とか。」


 そう尋ねるが、オズエンドルワは首を振った。


「手が付けられん馬鹿がいるから、叩きのめしてくれと頼まれた。 まあまあの腕だったし、性根も悪くなかった。 今もシェスバーノの所にいるな。」

「……………………。」


 そう言えば、王国中の厄介な騎士を集めてるとか噂があったっけ。

 もしかして、そうやって呼ばれてお仕置きして回ってるのか?


 ミカが知る限り、あまり王都から離れているとは思えない。

 何かの用事のついでで、シメに来たのだろう。


 ミカが建物の中に入ると、オズエンドルワが後に続く。

 そうして廊下を歩いていると、時々こちらを見てぎょっとする人たちがいた。

 ミカは歩きながら振り返り、オズエンドルワを見る。


「どうかしたのかい?」

「…………イエ、何デモナイデス……。」


 オズエンドルワが気づいていない訳がない。

 なのに、このすっとぼけ具合。

 きっと何かやらかしてるな。

 前線の部隊をドン引きさせるぐらいには、無茶なことを。


 ミカは詳細を聞くのは止めて、大人しく通信指令室に向かった。


「御使い様、ご苦労様です!」

「呼ばれたから来たんだけど。」

「はい! こちらへどうぞ!」


 通信指令室にいた兵士が部屋を出ると、隣の作戦室に入って行った。

 ミカはそのまま付いて行く。


 作戦室は、中々にひっちゃかめっちゃかな状態だった。

 引っ切り無しに騎士や兵士が出入りし、指示が乱れ飛ぶ。


 通信指令室の兵が、奥にいる老騎士に敬礼して声をかける。

 あの老騎士が、この方面軍の司令官を務める騎士だ。

 老騎士の視線が、兵からミカに向けられると、ぎょっとなった。


「オ、オズエンドルワ!? 何で貴様がここにいるっ!?」


 この驚きよう。

 やっぱり何かありそうだ……。


「戦場に、我々が追っていた危険人物が現れたと聞いたのでね。 ()()しに来た。」

「……例の、指名手配の奴か?」


 老騎士の確認に、オズエンドルワは黙って頷く。

 老騎士は、オズエンドルワがミカと一緒にいることで、大体のところを察したのだろう。

 深くは追及して来なかった。


「それで、どうだったのだ? 倒せたのか?」

「ああ、ミカ君が完全に止めを刺してくれた。」

「そうか。」


 老騎士の表情が少しだけ和らいだ。


「しかし、わざわざオズエンドルワが出張ってきた相手を倒されるとは……。 御使い様の強さは本物ですな。」


 そう、感心したように言う。

 老騎士のその言葉を聞き、オズエンドルワが片眉を上げる。


「何を勘違いしているのか知らんが、ミカ君が本気になったら私でも剣の腕は敵わんぞ。」

「…………は?」


 老騎士がぽかんとした顔になる。

 いやいやいや、その言い方は語弊があるっしょ。


「僕が剣の腕で敵う訳ないじゃないですか! 【身体強化】で無理矢理捻じ伏せてるだけです!」


 何十倍なんて強化したら、もはや剣の腕とか関係ないじゃん。

 そう思って抗議したのだが、増々老騎士は呆けた顔になる。


「な?」


 オズエンドルワが声をかけると、老騎士がはっとした表情になった。

 なぜか、その頬に汗が流れる。


「す、凄まじいな……。」

「だろう?」


 あれ、おかしいぞ?

 否定したはずなのに、なぜか老騎士が引いていた。


 解せぬ……。







 そんな一コマがありながらも、話し合いが行われる。


「ミカ君には悪いが、やはりしばらくは待機していた方がいいだろう。」


 オズエンドルワの言葉に、老騎士が頷く。


「ですが、そうするとオズエンドルワさんが……。」


 無理矢理掻っ攫ってきた手前、きちんと送り届けたいのだけど。

 そう思い、ミカがオズエンドルワを見上げると、オズエンドルワはニッと笑った。


「私のことは気にしないでいい。 早馬網を使えば二日だろう? それくらいなら問題ない。」


 自分(オズエンドルワ)がいなければいないで、第五騎士団の幹部たちは何とかする。

 そうできるように鍛えてきた、とオズエンドルワは笑った。


「優先順位を間違えてはいけないよ。 今一番大事なことは、前線を支えることだ。 私も残れるなら残りたいくらいだ。」


 オズエンドルワがそう言うと、老騎士が顔を引き攣らせた。

 何だろう。

 この二人には、何か因縁でもあるのか?


「ま、まあ、御使い様。 こちらの件は、無事に片がついたと軍務大臣には伝えておきますから。 オズエンドルワが早馬で戻ることもお伝えしておきます。」


 二人に説得され、ミカは微妙な表情ながら渋々了承する。

 それを見て、老騎士が机の上の黒電話に手を伸ばした。

 だが、老騎士の手が届く前に、その黒電話がけたたましく鳴りだした。


「……何だ、この煩い音は?」


 オズエンドルワが顔をしかめる。


「騒がしい中でも呼び出し音が聞こえるようにって。 音量を高めにしてあるんです。」


 ミカはしれっと”地獄耳(ビッグイヤー)”を発現し、涼しい顔をしていた。

 老騎士は通話機を取り上げ、耳にあてる。


「閣下。 丁度ご連絡を――――。」


 だが、老騎士は話の途中で表情を凍りつかせた。


「まさか!? そんな……本当でございますか!?」


 そのただならぬ雰囲気に、ミカとオズエンドルワは顔を見合わせる。

 何があったか聞きたいが、軍務大臣との直通(ホットライン)を邪魔する訳にはいかない。


「はい……はい…………分かりました。 ……急ぎ向かわせます。 閣下、お気をしっかりお持ちください。」


 老騎士は通話を切ると、黒電話に通話機を置いた。

 その顔は色を失い、茫然とした表情だった。


「何があった?」


 オズエンドルワが声をかけると、老騎士は緩慢な動きで顔を上げた。

 だが、その視線はミカを見ている訳でも、オズエンドルワを見ている訳でもなさそうだ。

 視線を虚空に彷徨わせ、老騎士が呟く。


「殿下が…………捕らえられた。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 王様負けちゃった でもからくりに気づいてるからすぐ対処できるでしょ 殿下にしか言ってないからダメかな?
[一言] 民衆には雨乞いで濡らしとけば一晩で動けなくなるかもな。殿下は帝国は何とかなりそうだと思った奴らの革命返しかな?
[一言] おっと、国の上層部にアホが居てやらかしたかな? ミカちゃんの断罪剣がうなるぜ……?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ