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【書籍版第2巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第5章 魔法学院高等部の”神々の遣わし者”

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第280話 ”神々の遣わし者”の試練




 水の1の月、4の週の陽の日。

 早朝の魔法学院、男子寮前。

 パラレイラが出てきたところで、ミカは寄りかかっていた木から背中を離した。


「相変わらず早起きですね。」


 正門に向かう道を、立ち塞がるようにミカが立つ。

 そんなミカを、一瞥するだけでパラレイラは無視した。


(…………ひどい顔だな。)


 元々ちょっときつい目つきをしたパラレイラだが、その表情は完全に憎悪に染まっていた。

 パラレイラは、黙ってミカの横を通り過ぎる。

 ミカは肩を落とし、はぁ……と溜息をついた。


 その瞬間、木の陰から二つの影が飛び出す。

 一際大きな影がパラレイラの後ろに回り込んだ。


「なっ!? 何だてめえらはっ!」


 ケーリャに腕ごと締め上げられ、パラレイラが大声を上げる。

 そのパラレイラに、トリュスが腕輪を嵌めた。

 アーデルリーゼに注文していた、精神安定の腕輪、廉価版である。


「くそっ! 放せ、このっ……!」


 暴れるパラレイラを、ケーリャは無表情で押さえつける。

 然して力を入れた風でもない様子だが、ケーリャの腕はびくともしなかった。


「くっ……! 創造の火種たる火の大神! すべてを包みし――――!」

「やらせるかよ。 ”水球(ウォーターボール)”。」


 詠唱を始めたパラレイラの顔面に、水の球が突っ込む。

 【爆炎】の発現位置は五十メートル先、と固定されている。

 発現させたところで意味はないし、もし仮に自分のいる場所で発現したら、自分もお陀仏なのだが……。


 ミカはもう一度、はぁ……と溜息をつき、”水球(ウォーターボール)”を地面に捨てた。


「げほっごほっ……!」


 詠唱中に突然水の中に顔を突っ込むことになったパラレイラは、激しく咳き込んだ。







 しばらくはまったく話を聞こうとしないパラレイラだったが、腕輪の効果か、諦めたのか。

 少し大人しくなった。


「…………話を聞く気になりました?」

「てめえ……!」


 怒りの籠った目を向けるが、ミカは一切気にしない。

 パラレイラの怒りを真正面から受け止め、それでも平然としていた。


「話が終われば解放しますよ。 その後どうしようがパラレイラさんの自由です。 ですが……。」


 そこで初めてミカは、パラレイラから目を逸らした。

 ほんの僅かな間、目を閉じて黙る。

 再びパラレイラを見た時、ミカの目は強い覚悟を持ったものに変わっていた。


「お願いですから、僕にパラレイラさんを殺させるようなことにならないで欲しいんです。」

「殺すだとっ……!」


 ミカは怒りの目を向けるパラレイラに話を始めた。

 魔力による精神汚染。

 パラレイラのヒブジーザへの憎しみは、確かにあるだろう。

 しかし、それは魔力によって増幅されてしまったものではないかという、ミカの推測を。


「どうやら、最終的には”呪われし子(イムプレカーティオー)”と呼ばれる存在になるようです。」


 猜疑の目を向けるパラレイラに、ミカは淡々と話を続けた。

 頼むから、ここで踏み止まってくれ、と願いながら。


「…………”呪われし子(イムプレカーティオー)”となってしまったら、もう容赦する訳にはいきません。 僕が、……解呪します。 パラレイラさんという、存在ごと。」


 ミカの話を聞いても、パラレイラの目から疑心の陰が消えることはなかった。

 ミカはパラレイラを持ち上げたままのケーリャに視線を向ける。


「ありがとう、ケーリャ。 もういいよ。」


 だが、ケーリャはこのまま離すことを躊躇う。

 パラレイラから放たれる、剣呑な気配が変わっていないからだろう。


「いいんだ、ケーリャ。 後は、パラレイラさんが自分で判断することだから。」


 重ねて言うと、ケーリャがパラレイラを下ろした。

 パラレイラは地面に足が着くと、背後にいたケーリャに腕を振るう。

 しかし、ケーリャは素早く動いて、大回りにミカの横に並んだ。


「ケーリャは僕の頼みを聞いてくれただけですから。 怒るなら、僕に。」

「ミカちゃん……。」


 パラレイラの怒りをすべて引き受けようとするミカに、トリュスが心配そうに声をかける。

 ミカはローブの袖を捲り、精神安定の腕輪(トランキライザー)を見せた。


「僕自身、危ういラインにいます。 多分、危なさで言ったら、パラレイラさんよりも遥かにやばいんじゃないかな?」


 そう言って、精神安定の腕輪(トランキライザー)を撫でる。


「なるべく、心を揺らさないように心がけてください。 それで何とかなるはずです。 …………多分。」


 ミカも確信がある訳ではない。

 それでも、発作が起きるのは感情が昂った時。

 魔力汚染と感情に、密接な関係があると考える根拠だ。


「話は以上です。」


 ミカがそう言うと、パラレイラは舌打ちをしてミカを睨みつけた。

 それから、ミカに背を向けて正門の方に歩き出す。


「…………いいのかい?」


 パラレイラの背中を見送るミカに、ケーリャが声をかける。


「仕方ないよ。 まさか閉じ込める訳にもいかないし。」


 立ち止まり振り返るか、そのまま突き進むのか。

 本人の判断に任せるしかない。

 できれば、あの腕輪を外さないでもらえればと思う。


 パラレイラの背中を見つめ、ミカはパラレイラの部屋に通っていた頃を思い出す。

 舌打ちしたり、悪態をつきながらも、パラレイラは錬金術の道を先人として導いてくれた。

 あんな性格だから教師など向かないだろうが、何だかんだ言ってもパラレイラの講義は楽しかった。

 恩師という言葉はパラレイラにはそぐわないかもしれないが、それでもパラレイラはミカにとっては恩師だった。


 ミカは横に並ぶトリュスを見上げた。


「ありがとう。 ごめんね、こんなことに付き合わせて。」

「いや、いいんだ。 気にしないでくれ。」


 お礼を言うミカに、トリュスは微笑む

 今回の助力を頼むにあたり、ミカはトリュスに予めいろいろ伝えていた。

 光神教、……というよりは教会による歴史の隠蔽と改竄。

 ワーターエラムとの話で知り得た情報のほとんどだ。


 敬虔な信者であるトリュスにはつらい話になると思ったが、意外にすんなり受け入れてくれた。


「ミカちゃんがそう言うなら、そうなんだろうね。」


 という、あっさりとしたものだった。

 元々トリュスは、教会の腐敗に嫌気がさして教会騎士団(テンプルナイツ)を辞めたらしい。

 大昔から教会が恣意的に教典を書き換えてきたということも、そういうこともあるかもしれないね、と納得してしまった。

 むしろ、ある人の所に「千年以上前の教典が残っている」と知ると、そちらの方に興味があるようだった。


「是非読んでみたい! 何とか写本を手に入れられないだろうか!」


 と喰いついてきた。

 今度お願いしてみる、と約束してしまった。

 人を雇ってもらって、写本作業をしてもらわないと。


 ケーリャに関しては、光神教にまったく興味ナッシング。

 というのも、ケーリャは移民だったらしい。

 別の大陸から移住してきたのだという。


「別大陸っ!? どんな所ですか!」


 この話にはミカの方が興味津々になったが、ケーリャの顔は微妙だった。

 どうやらその大陸は戦乱で荒れ果て、生きるためにこの大陸に密航してきたらしい。

 その頃はもう、エックトレーム王国では五十年戦争も過去のこととなり、経済がどんどん上向いていた時期だった。

 こんなに平和な国があるのか、と衝撃を受けたという。


 光神教を信仰しないことで、それなりに差別もあったようだが、気に入らない奴は平然とぶっ飛ばせるケーリャである。

 一応、スラムで隠れるように暮らしていたが、すぐに一目置かれる存在になった。

 まあ、存在感あるからね、ケーリャ。

 この図体と性格で、隠れられる訳がない。

 腕っぷしを買われ、人に言えないようなやばい仕事にも手を染めていたが、自由気ままに生きる冒険者に興味を持ったらしい。


 ミカはケーリャを見上げる。


「ケーリャもありがとう。」

「こんなことで良ければ、いつでも言いな。 坊や。」


 そう言って、ミカの頭を撫でた。







■■■■■■







 そうして三人で朝からやっている食堂にご飯を食べに行った。

 ケーリャのパーティのリーダー、サロムラッサが戦場で初日を生き抜いたことはミカも確認していた。

 そうしたことはすでに伝えてあったが、やはり話題に上がるのは戦場や帝国のことだ。


「やはり戦争を終わらせるには、”呪われし子(イムプレカーティオー)”とやらを何とかするしかないが……。」


 トリュスがパンを千切りがなら、呟く。


 帝国を乗っ取った教会。

 その教会を乗っ取った”呪われし子”。

 紐解かれたここ一千年の歴史に、ちらつく影。


 ただ……、とミカは考える。

 確かに、今の教会は血に飢えた獣だろう。

 しかし、その獣以上に苛烈に、血を求めた組織をミカは知っている。


 エックトレーム王国だ。

 一千五百年前の建国から、大陸の西側の半分を血に染めてきた。

 唯一の王を標榜し、実際に多くの王家を根絶やしにしてきた猛獣である。


 こう言っては何だが、王国と比べればまだ帝国の方が穏便だ。

 帝国に関しては、建国からまだ四百年か五百年くらいらしい。

 他国を併呑し拡大する手法で、大陸の東側半分を呑み込んだ。

 帝国では、侵略した土地の王を殺したりはしない。

 恭順するなら受け入れる。

 そうして勢力を拡大していった。


 エックトレーム王国が大陸の半分を支配するのに千五百年もかかったのは、この手法の違いにあるだろう。

 王国は恭順を認めず、王家を根絶やしにしてきた。

 そりゃ抵抗も必死になるさ。


 民まで皆殺しにしている訳ではないが、王家には容赦がない。

 エックトレーム王国に睨まれた国は、一丸となって徹底抗戦するに決まっている。

 まあ、中には臣下が王の寝首を掻いて、差し出してくることもあるだろうけど。


 そして、この苛烈さを思うと、”呪われし子”が憑いてたこともあるんじゃね?と疑念が湧く。

 特に建国王や、建国から三百年ほどの王は、まじで苛烈過ぎる。

 よくもまあ、こんな無茶苦茶なやり方で、ここまで国を大きくできたものだと、王国史の授業で呆れたことを思い出した。


 そんなことを考えながらスープを啜ると、ミカはほぉ……と息をつく。

 温かさがじんわりと、胸から腹に落ちる。

 ミカがスープを味わっていると、ケーリャがお代わりを頼んだ。

 ()えな、おい。


 ミカは何気なく、壁に掛けてある木札を見る。

 特に値段を気にしないで注文してしまったが、朝定食は六百ラーツだった。

 ミカが初めて朝定食を食べたのは、サーベンジールの学院に送ってもらった時だ。

 右も左も分からないミカに、ニネティアナがいろいろと教えながら送ってくれたのだった。


 ミカが、そんな懐かしいことを思い出していると、トリュスが声をかけてきた。


「どうしたんだい、ミカちゃん。 何かあった?」

「いえ、何でもないんです。」


 つい口元が緩むミカを、トリュスが不思議そうな顔して見ていた。


「僕が初めてお店で食事をしたのって、七つの時なんです。 魔法学院に行くことが義務付けられて、サーベンジールに向かう途中でした。」

「ああ、そうなのかい。」


 ミカの話を聞き、トリュスも口元を緩ませた。


「初めて食べたのはヤウナスンの食堂でなんですけど、『日替わり定食』でした。」

「え”っ!?」


 それを聞いて、トリュスが目を丸くした。

 うん、知ってる人ならそういう反応になるよね。


「あの値段と味は、今も忘れられないですね。 翌朝に食べた朝定食の美味しかったこと美味しかったこと。 乗り合い馬車の停留所に一晩居たから、感動で泣きそうでしたよ。」

「え”え”っ!?」


 トリュスがドン引きしていた。

 そんなトリュスを見て、ミカは苦笑してしまう。

 今ならミカにも分かる。

 ニネティアナは無茶苦茶だ。


「まあ、僕の自業自得でもあるんですけど。 初めての遠出を、『冒険者っぽく行ってみたい』って自分で選んだんですから。」


 そう言えば、初めて会ったヤロイバロフも、この話を聞いて引いてたよなあ。

 懐かしい記憶が蘇り、改めて思う。

 子供にあんなことやらせんな。


(好奇心いっぱいの子供を、窘めるのが大人の務めだろうに。)


 まあ、何だかんだいい思い出だったりするのだけど。


「日替わり定食二百五十ラーツ、朝定食と昼用の糧食が五百ラーツでした。 ……でも、何で日替わり定食なんてあるんでしょうね。 お店からしたらやる意味なさそうなのに。」


 まあ、残飯を処分できて、お金まで手に入るとも言えるが。

 あんな定食でも手間はかかる。

 煮込むのに薪だって使う。


 そう思って言ってみたら、トリュスが教えてくれた。


「日替わり定食は、冒険者のためにあるんだよ。」

「え? 冒険者?」

「ああ。 まあ、冒険者に限った話ではないんだけどね。」


 どんな仕事でも、駆け出しの頃は食えないものだ。

 だが、冒険者は特にその傾向が強い。

 職人なんかだと、何だかんだ親方が最低限の面倒は見てくれるが、冒険者にはそんな存在はいない。


「駆け出しの頃は、一日に稼いだお金が二千ラーツ三千ラーツなんてこともある。 特に魔獣と戦ったことのない本当のヒヨッコになると、そうした期間が長くなる。」


 戦うための装備を買い揃えるのも大変だ。

 装備が無いために戦えない。

 戦えないから稼げない。

 稼げないから装備が買えない。

 という、負のスパイラルに陥る。


「ちょっと戦えるようになっても、今度は装備の維持費がかかるだろ?」


 多少実入りが良くなっても、剣を砥いで、防具を修理して、消耗品を補充して、と中々生活は良くならない。

 それなりに安定して稼げるようになっても、装備をだめにしてしまい、お金に困ってしまうということは多い。

 そうした冒険者が「食べて行けないから辞める」とならないように、最低限食べることだけはできるようにしてくれているらしい。


(駆け出しの冒険者が食べてるってのは聞いてたけど、食堂の方も善意で提供してくれてたのか。)


 店からしたらやる意味の無さそうな『日替わり定食』に、店主たちの心意気を感じた。


 ミカのように、装備にも生活にもほとんどお金がかからない、なんて冒険者は普通はいない。

 自分でも恵まれているな、とは思っていたが、普通の冒険者からはあり得ないほどに恵まれた環境だったのだ。


「私は教会騎士団(テンプルナイツ)にいた頃に”不浄なる者”とか、魔物との戦闘経験があったから、冒険者になっても苦労した期間は短かったな。 それでも、まったく日替わり定食のお世話にならなかった訳ではないから。」


 トリュスでも冒険者を始めてすぐは装備が足りず、苦労した時期があったそうだ。

 ミカも、装備が買えずに死にかけたことがあった。

 魔法での戦い方を真剣に考え、すぐにそこそこ戦えるようになったので、割のいい定額クエストを収入のメインにすることができた。

 だが、普通はもっと稼ぐのに苦労するのだ。


 部屋は借りてもスラム街周辺が精々。

 上のランクを目指して狭く不衛生な部屋で暮らし、日替わり定食で腹を満たす。

 絶対に一人前の冒険者になってやる、と歯を喰いしばりながら。


 ミカのように衣食住が保証され、


「あ、ランクアップの点数が溜まったんですか。 そうですか。」


 と、のほほんとランクを上がっていく者などいないのだ。

 この話を知られたら、ほぼすべての冒険者から「死ね、死んじまえ!」と罵倒されるくらい舐めきった実態である。

 まあ、ミカなりに苦労はあった訳だが、苦労の方向というか質が違うので、共感はまず得られないだろう。


 思わぬところで、日替わり定食という謎のメニューの存在意義を知るミカなのだった。







■■■■■■







 トリュスとケーリャと別れ、ミカは教会にやって来た。

 そうして、ミカが顔を出すと、すぐに教皇の執務室に案内された。

 どうやらミカが来たら、すぐに通すように言われていたらしい。


 ミカが執務室に着くと、ワグナーレ枢機卿が呼ばれる。

 ワグナーレ枢機卿がやって来たところで、話し合いが始まった。


「こちらが先日の返答になります。」


 ブラホスラフ教皇がミカに数枚の紙を差し出した。

 目を通すと、先日の質問状の調査で分かったことが書き出されていた。

 だが……。


「ほぼ、ゼロ回答ですね。」

「…………申し訳ありません。 おっしゃる通りです。」


 質問の内容を調査し、回答を用意しようとしたのが窺える。

 しかし回答の内容は、真偽不明の人伝の噂程度のもの。

 調査はしたが、はっきりとしたことは分からなかったというものばかりだ。


「不思議には思いませんでしたか? これだけ明らかな不審点があるのに、放置されていることを。」


 ミカがそう言うと、ブラホスラフ教皇が肩を落とす。


「その通りです。 この質問状の内容のいくつかは私も気づいていたものです。 ですが……深くは追及しませんでした。」

「なぜですか?」

「一番早くに気づいたものは、まだ私が修道士だった頃です。 当時は深く考えず、そのまま………慣れてしまいました。 不明であることが、当たり前であるように。」

「なるほど。」


 それは、誰にでもあることだろう。

 誰も気にしていないのだから、そういうものなのだ、と。


 ワグナーレ枢機卿がミカに問いかける。


「”神々の遣わし者(アポストル)”。 これは、どこでお聞きになられたのですか? それに、こちらに署名されているワーターエラムという方は……。」

「そちらのワーターエラムさんは、光神教の歴史などを個人で調べている方です。」


 ミカは、元グローノワ帝国の枢機卿というのを隠しておくことにした。

 いつまで隠すかは未定だが、必要なら最後まで隠し通すことも視野に入れている。

 いずれはエックトレーム王国に来てもらい、教会と共同で調査、研究をしてもらいたいと考えているが、今はまだアム・タスト通商連合で研究と【解呪(ディスペル)】の手掛かり探しに奔走してもらっている。


 ミカは魔法具の袋から一枚の紙を取り出し、ブラホスラフに差し出す。

 ブラホスラフはそれを見て、ぎょっとなった。


「こちらも、質問状ですか……?」


 恐るおそる尋ねるブラホスラフに、ミカはにっこりと微笑む。


「はい。 次はこちらの質問にお答えください。」


 新たな質問状には、十個の質問が書かれている。

 少々細かい内容も含まれるが、やはり現在では不明となっていることだ。


「一体、”神々の遣わし者(アポストル)”は何が目的なのですか? 確かに前回の質問の内容はすべて、よく原因の分からないことばかりでした。 おそらく、今回の内容も同様なのでしょう。 ですが、それならば普通に指摘して頂ければ……!」


 ワグナーレの言葉に、ブラホスラフも頷く。

 だが、ミカは首を振る。


「それではだめなんです。」

「なぜ、だめなのですか?」


 ワグナーレが、真剣な表情で聞いた。

 ミカは逡巡し、二人を交互に見る。


「生半可な覚悟では、教会が終わるからです。」

「ッ!?」

「な、何をっ!」


 ブラホスラフは絶句し、ワグナーレは立ち上がる。


「”神々の遣わし者(アポストル)”!? 何をおっしゃっているのですか!」


 ワグナーレの握り締めた拳は震えていた。


「今の教会の問題ではありません。 古い古い、大昔からの問題なんです。」


 ミカが溜息まじりにそう言うと、絶句していたブラホスラフがごくりと喉を鳴らした。


「……ですが、過去のツケを精算しなくてはならない。 それを、今頑張っている二人に負わせるのは心苦しいのですが。」


 ミカの様子に、ワグナーレもただ事ではないと察し、座り直す。

 そうして、前のめりになってミカに尋ねた。


「一体、どういうことなのですか、”神々の遣わし者(アポストル)”。」

「それは、まだ言えません。 まずは問題をよく把握してください。」


 非常に多岐に渡る教会の歪みを、心のうちに認識してもらう。

 これまでの教会に、不信感を抱いてもらわなくてはならない。

 前教皇らの数十年程度の不正など、比べ物にならない問題だ。


(少しでも穏便に決着させるには、この二人に頑張ってもらうしかないな。)


 いきなり質問状の内容を公表し、教会の血塗られた歴史を暴露すれば、この国の光神教がどうなってしまうか。

 受け入れられない信者たちから、”神々の遣わし者(アポストル)”排斥の動きが出てもおかしくない。

 まずは教皇や枢機卿の中で、”呪われし子(イムプレカーティオー)”に乗っ取られていた事実を受け入れてもらう下地を作る。


 事実を知った上でどうするかは、教皇や枢機卿に委ねるつもりではある。

 だが、隠蔽をそのままにさせるつもりはない。

 改竄をそのままにさせるつもりもない。

 一般の信者にいきなりすべてを公表しろというつもりはないが、少しずつ事実を明らかにし、教会も教典も正しい姿に戻ってもらえたらと思う。


 まあ、教典とかはそのままでもいいが、暗黒の歴史は語り継いでもらわないと。

 悲劇を、これ以上繰り返さないためにも。


 ブラホスラフは祈りの仕草をしてから、ミカを真っ直ぐに見る。


「分かりました、”神々の遣わし者(アポストル)”。 如何なる試練も受ける覚悟はできております。」


 ブラホスラフがそう言うと、ワグナーレも祈りを捧げ、しっかりと頷くのだった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 日替わり定食の存在意義については説明されています。 主人公はどんどん記憶を欠落していっているということですか?
[良い点] 良い点、色々とありました。 やはり魔法の開発が楽しかった。 学園に入る時に仲間ができたり、色々と大変だった思い出もあります。 苦しい時こそ楽しいひと時でしたね。 [気になる点] 後半になっ…
[気になる点] 日替わり定食って初登場した時に説明ありませんでしたっけ? もうこれの世話にはならない!って自分を鼓舞するみたいな 気のせいだったらすみません
感想一覧
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