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【コミックス第1巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第5章 魔法学院高等部の”神々の遣わし者”

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第270話 大移動




 土の3の月、3の週の水の日。

 王城の会議室にて臨時で行われていた御前会議は、絶望感に包まれていた。

 この御前会議は、軍務大臣であるツダーゼンからの緊急の要請で、急遽開かれることになった。


「二千万……?」


 宰相のデドデリクもその報告には驚きを隠せず、うわ言のように呟くことしかできない。

 ツダーゼンからもたらされた、最悪の予想。

 その途方もない数字に、現国王ケルニールスも含め、すべての閣僚が顔面蒼白となる。


 この御前会議には、本来参加する資格を有しない王太子クランザードも同席していた。

 あくまで、発言権を持たないオブザーバーとしてではあるが。

 事前にツダーゼンから相談を受けていたクランザードは、何としてもこの場にいる必要がある、と無理矢理に参加したのだった。


 ツダーゼンは手元の資料に目をやり、報告を続ける。


「最大では、帝国の民二千五百万人以上が国境の防護壁に押し寄せるという予測です。」

「そんな馬鹿なことが…………国民の半分以上が、あの馬鹿げた聖戦などという口車に乗るというのか!?」


 以前、グローノワの皇帝の扇動により、二百万~五百万の民が国境に向かうという予測が出されていた。

 それでさえ、大袈裟な数字だと閣僚たちは内心笑っていたのだ。

 ところが、その予測の修正がなされた。

 ()()()()()()()()()()()()、とでも言うように。


 ガタンと椅子を鳴らし、ケルニールスが立ち上がる。


「馬鹿なっ!? あり得ん! 国民の半分以上が、命懸けで国境にやって来るというのか!? 生活を捨てて!?」


 それは、ごく真っ当な感想だろう。

 誰だって、自分の生活は大事だ。

 それを捨てるような決断を、国民の半分がするなど、絶対にあり得ない話だった。

 しかし、ツダーゼンは首を振る。


「畏れながら陛下。 それは少し間違っております。」

「間違ってるだと!? 何が間違っておる!?」


 被せるように問うケルニールスに、ツダーゼンは無表情で答えた。


「国民の半分ではありません。 ほぼすべての国民が国境に向かうのです。」


 絶句。

 その場にいるすべての者が、言葉を失っていた。

 壁際に用意された席で、その様子をクランザードは黙って眺める。

 ツダーゼンの指摘を受け、一つの疑問が持ち上がるはずだ。

 それは、クランザードも抱いた疑問だから。


「馬鹿な! すべての国民だと!? だが、グローノワには四千万の民がいたはずだろう!? 残りの一千五百万はどうしたっ!?」

「そ、そうだ……。」

「数が合わないではないか……。」


 一人の閣僚が矛盾を指摘すると、他の閣僚たちが同意する。

 それが、()()()()()であるとは知らずに。


 それは予想された疑問であり、実際に一度クランザードに問われていたツダーゼンは、抑揚のない声で答える。


「辿り着けません。」

「何ぃ!?」

「おそらくその一千万人以上が途中で行き倒れる。 四千万のうち、二千五百~三千万に届かないくらいは、国境まで辿り着けるだろうという予測です。」


 一日に四十キロメートルや五十キロメートルも歩けるのは、普段から歩き慣れている者だけだ。

 そうで無ければ、一日に二十キロメートル歩くのでさえ大変なことだった。

 それを、連日強行して歩くのだ。

 健康な若者でさえも、命を落とす者はいるだろう。

 そんな無茶を、子供も女も、年老いた老人までもがやろうとしている。

 いや、すでにそれは起こっているのだ。


 帝国の東側。

 王国とは逆側に住む者たちが大移動を始めた。

 西に向かって。

 各地の教会や国が、炊き出しや配給でこの大移動を支援しているという。

 その周到さを考えれば、これが予定されていた行動なのだということが分かる。


 大移動の始まった地域では、ほとんどの人がいなくなり、町や村が壊滅。

 大きな街でさえ、人の気配のしない死の街に変わり果てたという。


「まだ幼い赤子を抱く母親が、この死の行軍に耐えられると? 日がな一日、日向ぼっこをして過ごしていた老人が、あの広大な国土を横断できる? できる訳がない。 実際、すでに行き倒れた者が道端で命を落としているという。」


 帝国はすでに崩壊していた。

 広大な帝国の国土の端から、ダブランドル平原に向けて人の波が押し寄せようとしていた。

 道端に屍を撒き散らしながら。


 ガタン!


 その時、静寂の支配する会議室内に、大きく音が響いた。


「「「陛下っ!?」」」


 それは、ケルニールスが崩れ落ちるように椅子に倒れ込んだ音だった。


「陛下っ! お気を確かに! 陛下!」


 デドデリクが呼びかけるが、ケルニールスは気を失っているようだ。

 蒼白な顔面からは、冷や汗が浮かんでいた。


「侍従長っ! 入れ!」


 クランザードはケルニールスに駆け寄りながら、ドアの外に控える侍従長を呼んだ。

 すぐに部屋で休ませる必要がある。


 ケルニールスが倒れたことで、御前会議は中断せざるを得なくなった。







 幸い、ケルニールスはすぐに意識を取り戻した。

 どうやら、あまりに常識からかけ離れた事態に、ケルニールスの精神が追いつかなかったのだろう。

 高齢のため、それが身体にも影響してしまったのだろうという()たてだった。


 しかし、あまり良い状態とは言い難い。

 実際、ケルニールスは起き上がることもままならない状態のため、ベッドで休んでいる。

 宰相の計らいにより、ニースラーザを呼んで看病を任せていた


 全閣僚がケルニールスの居室に集まっていたが、今は安静が必要だ、と解散することになった。

 だが、状況は待ってくれない。

 誰が言うともなく、閣僚たちは再び会議室に集まっていた。


「どうする? 時間はそう多くはないぞ?」


 ツダーゼンが、誰に言うともなく、呟く。

 それは、全員が感じていることだった。


「先の報告の時点で、王国軍五十万は国境に配備済みだ。 全国の領地から領主軍も招集し、十万が国境に向かっている。 これにレーヴタイン侯爵領とヘイルホード地方の領主軍の十五万を合わせ、七十五万が国境防衛につく。」


 これは、国内の治安を維持できる、ギリギリまでかき集めた兵数だ。

 それでさえ、一時的であれば、という条件がつく。

 これ以上の兵の投入は、王国を支える支柱を外して前線に送るようなもの。

 国内の兵のほとんどを投入した、”ダブランドル平原の決戦”の再来となってしまう。


 その後の王国内の乱れは、それはひどいものだったと言われている。

 後年、よく王国を保てたものだ、と言われるほどに。


 クランザードは壁際の席から立ち上がると、ゆっくりと王の席に向かう。


「ゲッペンハーズ。 オルソモス。 イブマルク。 …………。」


 一人ひとり、閣僚たちの名前を、その顔をしっかりと見ながら呼ぶ。

 そうして、王の席の傍らに立ち、横に座るデドデリクを見た。


「デドデリク。 何か良い方策はあるか? 大臣たちにも尋ねる。 この危難にあって、妙案ありという者は申してみよ。」


 しかし、そんな簡単な話であれば、わざわざ臨時で御前会議など開いていない。

 ある訳がないのだ。

 七十五万の兵で、二千万を超えるとされる群衆を押し返す方法など。

 いや、たとえ王国のすべての兵を集めても、二百五十万。

 こんな途方もない戦いでまともな統制など執れる訳もなく、ただ飲み込まれるだけだろう。

 圧倒的な数に押し流され、圧し潰される。


 ここに来て、ケルニールスの信条が()()()()()()()正しかったことを思い知らされる。

 戦いは、数でするもの。

 本当にその通りである。

 小手先の小細工など、数の前ではなんと無力なことか。


 クランザードは項垂れ、首を振る。


「……やはり、ないか。」


 そう呟いた。

 だが、俯いていた顔を上げた時、その表情は諦めた者の顔ではなかった。

 クランザードの鋭い視線が軍務大臣に向けられる。


「ツダーゼン。 私が許す。 【神の怒り】を使え。」

「で、殿下!?」

「何をっ!?」

「血迷いましたか!」


 クランザードの突然の指示に、閣僚たちがぎょっとなった。


「どこまで減らせるか分からんが、できれば半分にはしたい。 一千万以下まで持って行ければ、防護壁を利用した防衛戦術も現実味が出てくる。 ……それでも、突破はされてしまうだろうがな。」


 だが、防護壁を越えられても、まだサーベンジールの街までは四十キロメートル以上ある。

 堀と土嚢で足を鈍らせ、削っていけば勝機はあるはずだ。


 相手は訓練を受けた兵士ではなく、民衆だ。

 数を減らせば、その脅威度は一気に低下する。

 五倍程度の数の差まで縮められれば、あとはどうとでもなる。


 そんな、クランザードの勝手な言い分に、会議室は騒然となった。


「そ、そのような……! いくら殿下でも、許されませんぞっ!?」

「殿下、れ、冷静に! ご自分が何をおっしゃられているのか、分かっておいでなのですか!?」


 一部の閣僚は青くなり、一部の閣僚は王太子の発言を問題視する。

 そんな中で、財務大臣が黙って挙手した。

 クランザードが指さすと、財務大臣が立ち上がる。


「私は、殿下を支持する。」

「何だとっ!?」

「馬鹿なっ!?」


 会議室が紛糾する。

 そんな中、軍務大臣のツダーゼンも立ち上がった。


「私も、殿下を支持する。」

「なっ!?」


 そうして次々に立ち上がり、クランザードの支持を表明する閣僚が現れた。

 瞬く間に、大半の閣僚が王太子支持に回る。

 そんな様子を、工務大臣は茫然としながら見ていた。


「……謀反、なのか?」


 その呟きは、茫然と成り行きを見守っていた、他の閣僚の耳にも届いた。

 不穏な空気が会議室に流れる中、クランザードはにやりと口の端を上げる。


「謀反ではない。 摂政となり、王の代理として王権を預かる。」

「せっ、しょう……?」


 摂政。

 国王が成人する前に即位する場合や、不慮の事故や病気などで一時的に政務を行えない場合に置かれる。

 また、国王の急死などでも置かれることがある。

 基本的には王太子や、王の配偶者が就く。

 王族から選ばれることが多いが、過去には公爵が就いた例もある。

 誰が摂政となるべきかは、法ではないが、王家の規則によって明確に示されていた。


 ややこしいが、似たようなものに国事全権代行というものもある。

 こちらは国王が指名し、一時的に王権を代行させる時に置く。


 突然に王が政務を行えなくなった場合に摂政が、親征などで予め政務を代行させようとする場合に国事全権代行が、それぞれ政務を行う。

 つまり、現在の状況ならば、ケルニールスにクランザードを国事全権代行に指名させてから、国事全権代行としてクランザードが政務を行うのが筋である。


 そうしたプロセスをすっ飛ばし、いきなり王の代行をしようとしたのだから、工務大臣が『謀反』と勘違いしてしまったのも無理はない。

 ただ、この会議室にいる者の大半は、これが事実上の謀反であることを知っていた。

 特に、クランザードの支持を表明した者たちは。


 なぜなら、クランザードは王権をケルニールスに返す気など、欠片もないからだ。

 状況が落ち着いたら、父王ケルニールスには穏便に退位していただき、自分が即位する腹積もりだった。


 そのことに気づいているデドデリクは苦笑した。

 そうして、大きく溜息をつく。


「やってくれましたね、殿下。」


 そんなことを小声で呟く。


「何のことだ? 私はただ、この国難に政治的空白を作るべきではないと考えただけだが?」


 クランザードの指摘は正しい。

 更に言えば、この危機的状況でも戦力を出し惜しみしそうな王には退いてもらうしかない。

 打つ手を誤れば、エックトレーム王国がグローノワの崩壊に巻き込まれるからだ。


 デドデリクは覚悟を決めて立ち上がると、クランザードに恭しく頭を下げた。


「……確かに、その手に乗るしかなさそうですね。」


 デドデリクがクランザードに付いたことで、この流れが確定したと言える。

 それまで、突然の状況に戸惑っていた閣僚たちも腹を決めた。


 ここに、摂政クランザードを頂点とする新体制が発足することになった。







 クランザードが摂政となり、最初に行ったこと。


「陛下はご病気であり、またご高齢でもある。 万が一にも間違いがあってはいかん。 居室にてよく療養していただく必要がある。」


 との理由により、ケルニールスを幽閉することを決定した。

 近衛軍の上層部も抱き込み、ケルニールスを居室に閉じ込める協力を得た。


 本来、騎士とは王のための騎士だ。

 その中でも、近衛は特にその意識が強い。

 摂政と宰相が命じたところで、王を裏切るような行為を受け入れるはずがない。


 しかし、状況的にここでケルニールスが王権を振るい続ければ、王国は滅びる。

 近衛軍司令官の老騎士は、そのことが分かってしまった。


「……私は、職を辞したいと思います。」


 跪き、自分は王を裏切れない、と辞職を申し出た。

 クランザードはそれを受け入れた。


「済まぬ。」


 そう、頭を下げて。


「殿下のご決断は、おそらく間違っておられません。 ……それを分かっていながら、受け入れられない私の方が偏屈なのです。」

「それは違う。 そんな其方だからこそ、一族の命を預けられるのだ。 其方のような者に見限られる私は、きっとロクな死に方をしないだろう。」


 司令官は首を振り、立ち上がるとクランザードに敬礼した。


「殿下。 どうか、王国をお守りください。」

「ああ、約束しよう。」


 そうして、去って行く司令官の後ろ姿に、クランザードは一抹の寂しさを覚える。

 これ以外に方法はない。

 そう思ったからこそ、起った。

 それでも、信頼していた者が去って行くのは、堪えるものがあった。


 しかし、今は感傷に浸っている時間すら惜しい。

 早急に取り掛からなくてはならないことが山積みだった。

 その場で新たな近衛軍司令官を任命し、後を引き継がせる。


 そうしてクランザードは、宰相の部屋に軍務大臣とともに行き、ざっと状況や指示を確認し合った。


「【神の怒り】は準備させる。 ……しかし、グローノワに真っ向から対抗できるとは思わないでくれ。」


 クランザードの言葉に、ツダーゼンは重く頷く。


 王国も【神の怒り】を残し、何とか繋いでいた。

 しかし、これで問題がすべて解決とはいかなかった。


 単純に言ってしまえば、それは規模の問題だ。

 隠れて研究を続けさせていたため、そもそも使える者が少ないのだ。

 三百人からの【神の怒り】を易々と戦場に送り出せるグローノワとは、まともにぶつかり合っても勝ち目はない。


 一年、いや半年でも時間があれば、まだ対処のしようがあった。

 しかし、そこまでの時間的余裕はない。

 【神の怒り】を投入するとしても、今使える者を出すしかない状態だ。


「救いと言えば、グローノワ(あちら)は烏合の衆だ。 まともに【神の怒り】を使える状態を維持できるとは思えん。」


 二千万の群衆に、作戦も何もないだろう。

 そのため、グローノワからの【神の怒り】も以前ほど恐れる必要が無くなる。


「例の少年はどうです? 使えますか?」


 デドデリクの問いに、クランザードは難しい顔になった。


「まずは、保留している処分を正式に無しとする。 それは大前提として、果たして言う事を聞くかどうか。」

「殿下でも動かせませんか?」


 デドデリクの言葉に、クランザードは肩を竦める。


「其方らがあまり追い詰めるから、教会との繋がりが強くなってしまった。 いざとなれば、また教皇と枢機卿を引き連れて乗り込んでくるぞ?」


 そうクランザードが言うと、デドデリクが顔をしかめる。

 ケルニールスの方針があったため、そうせざるを得なかったのだが、この失策は痛恨と言えた。


「まあ、この事態を静観するような者なら、そもそも微妙な立場に立たされることもなかっただろう。」

「では、今の状況とこちらの考えを伝えれば。」


 デドデリクの意見に、クランザードが頷く。


「こちらの作戦を伝えておかねば、自分の考えでまた戦場を引っ掻き回すこともありえる。 あの者には、情報を与えておくべきだろう。」


 この戦い、どう転ぶかはミカにかかっていると言える。

 有効に機能すれば勝ち、ただ引っ掻き回すだけでは負ける。


 何より、ただ勝つだけではだめなのだ。

 被害を抑えなければ、その後の王国が立ち行かなくなる。


 クランザードは、これから訪れるであろう厳しい戦いを思い、大きな溜息をついてしまうのだった。







■■■■■■







 クランザードが、ミカの取り扱いに頭を悩ませていた頃、ミカもグローノワ帝国の情報を聞いて頭を悩ませていた。


「二千五百万人以上……? 馬鹿なの?」


 帝国の国民のほぼすべてがエックトレーム王国を目指し、ダブランドル平原に向かっている。

 そんな馬鹿げた話を、情報屋ギルドのコンシェルジュ、レブランテスから聞いていた。

 ヤロイバロフにも声をかけてきたらしく、一緒にミカの宿にやって来たのだ。


「どうやら教会の司教や司祭たちに、内密で通達されていたようだ。 土の2の月の下旬になったら、『ダブランドル平原を目指せ』みたいな感じで。」


 教会がある日を境に、一斉に説き始めたという。

 それに呼応するように、住民たちが大移動を開始した。

 東に住んでいた者は西へ。

 北に住んでいた者は南へ。

 遠方に住んでいた者たちはすでに動き始め、現在は帝国の中央付近にまでその群衆が押し寄せているらしい。


 大移動を始めた四分の一以上が途中で行き倒れるという、悪夢のような予想。

 実際に、各地で行き倒れた者が野ざらしにされているという。


「グローノワ帝国の皇帝……ヒルディンランデルだったか? 何が目的なんだ?」

「それが分かったら、連中のお仲間になれるぜ? 分からねえことを喜ぶべきだろうよ。 まともな証拠だ。」


 ヤロイバロフが聞くが、レブランテスにもさっぱり分からないらしい。

 まあ、理解できる訳ないわな。


「各地の教会が炊き出しなんかで、その大移動を支援してるそうだ。 教会だけじゃなく、国もあっちこっちで炊き出しやら何やらをやってるらしい。」


 旅慣れた者には食料を渡して、自分たちで作ったりさせているという。

 ミカは腕を組み、顎に手を添え考える。


「……グローノワって、国民皆兵?」

「何だその、コクミンカイヘイって?」

「国民全員に、兵役の義務を課してるとか。」

「いや、そんなことはしてねえ。 剣や槍なんか、持ったこともねえって奴も結構いるんじゃねえか? 自警団あたりじゃ、剣なんかロクに揃ってねえ所も多いしな。」


 ミカが疑問に思って聞いてみるが、どうやら訓練もしていない者を扇動して戦場に送り込んでいるようだ。


「数で押そうってのか? そんな素人集めたって、ただ死ぬだけだろ?」


 ヤロイバロフが、舌打ちしながら顔をしかめた。


「その死体も利用しようってことみたいだぜ? 『屍に屍を重ねろ。 邪悪な壁を乗り越えた者に、神々の祝福が。』とか言ってるらしいからな。」


 どうやら、死体の山で防護壁を乗り越えるつもりのようだ。

 レブランテスの話を聞き、ミカは頭が痛くなってきた。

 思わず首を振り、額を手で押さえてしまう。


 ヤロイバロフが、後頭部をぺちんぺちん叩きながら呟く。


「連中の目的は、王国を滅ぼすことなんだろ? そんなんじゃ、先に滅びるのは帝国の方じゃねえか。」

「王国を滅ぼすことを神託とやらは言っちゃあいるが、帝国がどうなるかは確かに言及していないからな。 帝国(あちらさん)としてはアリなんだろうよ。」


 目標だけが明確であり、そのための手段がいくら言及されていないからって……。

 レブランテスの言葉を、ミカは呆れながら聞いた。


 騎士や兵士のように訓練を受けていない者たち。

 いくら王国を滅ぼすと言っても、ただの帝国の民だ。


(……そんな人たちを殺すのか?)


 まあ、悪意を持って襲撃して来ることには変わりがないから、()るのは仕方ないと思う。

 しかし、いくら神託で戦争に賛成していたからって、自分の生活を捨て、こんな死の行軍に国民のすべてが参加するなんて。


(一体、何が起きているんだ……?)


 何か、得体の知れない恐怖を感じるミカなのだった。





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しかたないな ミカ君 ここは 魔法ニュークリアボムの開発だな 10キロ四方を吹き飛ばす 汚染の無い新しいクリアなヤツをお願いします
[一言] 四千万人分の赤酒ってどうやって用意したんだろ
[良い点] 面白くなってきたー! [気になる点] 殺すのか、何かの方法で救うのか。 [一言] アクゥアの動向がわからなくて不安だ
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