第265話 間抜けを見に来た間抜け
風の2の月、1の週の土の日。
グローノワ帝国による第二次侵攻を撃退した話は、あっという間に王都にも伝わり、毎日がお祭り騒ぎだった。
ミカによる対【神の怒り】作戦は、軍事上の重要な機密として秘匿されている。
だが、戦闘後にミカが戦場を飛び回り、負傷した兵士たちを救助して回った話は、本人や目撃者たちの口からサーベンジールの街の人に伝わった。
王都襲撃の際に、王都を飛び回った御使いの件もまだ記憶に新しい。
『王国は”神々の遣わし者”に護られている。』
そう、新たな伝説とともにミカのことは語られ、乾杯の際に「御使いに!」「”神々の遣わし者”に!」とかけ声を上げることが王国中で流行していた。
そんな流行があることなど知らないミカが王都に戻ると、早速レブランテスを介して4区の酒場に呼び出された。
第三街区のボロ家ではなく4区の酒場に呼び出され、カウンターを挟んでマスターのユースバルトから話を聞く。
「また、暗殺依頼が来たんですか?」
「ええ。」
ミカはスツールに座り、ユースバルトから詳細を教えてもらう。
「情報屋ギルドにも情報を買いに来たぜ。 で、後を付けてたら、暗殺者ギルドにも顔を出してな。」
ミカの隣で、ちびちび樹酒を舐めていたレブランテスが呟く。
ユースバルトがショットグラスに酒を注ぎ、微笑む。
「裏側の人間ではないですね。 丸っきりの素人です。 『”解呪師”と御使い、二人を殺って欲しい』と。」
「へ?」
ミカは思わずレブランテスを見る。
情報屋に情報を買いに来たはずなのに、何でそんな依頼の仕方になるんだ?
ミカが驚いた顔で見ていると、レブランテスが片眉を上げる。
「『”解呪師”と御使い、二人の情報をくれ』って情報屋の窓口に来たんだとよ。 『少し時間がかかる』って言ったら、手付けを払ってその足で酒場に来たんだ。」
「余程せっかちなのか、大人しく情報屋の情報を待てばいいのに。 その足で暗殺を依頼してきましたよ。」
そう言うと、ユースバルトがショットグラスを呷った。
しかし、少し引っかかるな。
「素人なんですよね? 何で酒場が窓口だって知ってたんだろう?」
「それについては分かりませんね。 何せ、口を割らないもので。」
「………………はい?」
ミカはぽかんとした顔になる。
口を割らないって。
「捕まえたんですか!?」
「ええ、何日か泳がせていたんですが、大した動きがないもので。」
「情報屋ギルドも探ったんだが、裏が辿れねえ。 もういっそ、捕まえちまおうって。」
ユースバルトとレブランテスの協議により、直接聞き出す方針を選択したらしい。
宿にあった荷物も調べたが、何も出て来ない。
どこの誰なのか、身分を示す物は偽造の書類さえもないという。
「お前さんがいつ戻るかも分からないし、王都も襲撃されたばかりだ。 悪さしねえうちに、締め上げることにした。」
ミカが戦場に行っている間で、相談することができなかった。
そのため、安全策としてさっさと捕えることにしたようだ。
「あ、一応ヤロイバロフにも相談したからな。 ていうか、『さっさと捕まえちまえ』って言い出したの、ヤロイバロフだから。」
ミカはカウンターに突っ伏した。
ヤロイバロフは時々、筋肉で物を考える。
まあ、この場合は正解かもしれないけど。
「どうします? 尋問してみますか? 地下に居ますよ?」
ユースバルトが冷たい目で微笑み、突っ伏したままのミカに聞いてくる。
だから第三街区のボロ家じゃなくて、4区の酒場なのか。
ミカはそのまま、逡巡する。
それから、ゆっくりと身体を起こした。
レブランテスには見せられないとのことで、ミカだけがユースバルトに案内された。
バックヤードの奥に、隠されるように階段があった。
如何にも陰気そうな、暗い目をした男たちがバックヤードに居たが、おそらくは全員が暗殺を生業とする者だろう。
ユースバルトは普段、そんな後ろ暗い部分を上手く隠しているが、ここに居るの者たちは如何にもといった感じ。
ふと、クレイリア誘拐事件の時の、Bランクらしき痩身の男を思い出した。
階段を下りて行くと、そこは倉庫だった。
倉庫の奥に更に隠し部屋があり、その部屋に例の男が鎖で繋がれていた。
壁に埋め込まれた二本の鎖に両手を繋がれ、今は力なく俯いている。
ユースバルトが部屋に入るのに続き、ミカも入る。
鼻を突く臭いに、僅かに顔をしかめてしまう。
男はボロボロだった。
衣服は裂け、全身が血だらけ。
「治療は?」
「死なない程度には。」
回復薬を適宜使用し、簡単には死なないようにしているようだ。
ひどいとは思うが、まあミカも人のことは言えない。
【癒し】があるからと、腹に穴を開けて尋問したくらいだ。
過激さで言えば、むしろミカの方が過激だろう。
ただし、ユースバルトたちはプロなので、きっと苦痛を最大限に引き出すことを考えた拷問を行っているはずだ。
(それでも口を割らないってことは……。)
素人のミカがやっても無駄だろう。
とは言え……。
「”氷槍”。」
「ぎゃああぁぁあああーーーーーーーっ!?」
細い”氷槍”を十本ほど、手、腕、足、腹に撃ち込む。
すぐに【癒し】を使い、また”氷槍”を撃ち込む。
そんなことを数回繰り返す。
ユースバルトは、そんなミカをまったく表情を変えずに眺めていた。
散々拷問してきたが、この男は名前もどこから来たのかも、まったく話さないそうだ。
偽名も嘘もつかず、ただただ黙秘しているらしい。
普通、余程訓練された者でもなければ、口を割る。
そうでなくても、苦痛から逃れるために嘘くらいはつくものだ。
言われるがままに自白してしまうなど、冤罪の定番だ。
なのに、この男は何も話さない。
丸っきりの素人のはずが、相当に訓練を受けてきた者のように苦痛に耐えてきたらしい。
男は無数の”氷槍”でハリネズミのようになった。
さすがに胸部や頭部に”氷槍”を撃ち込んだら、一発で死んでしまうので、致命傷にならない部分だけだが。
”氷槍”が刺さったまま【癒し】を使っているので、こんな姿になっても男は死ぬことができなかった。
……いや、【癒し】のタイミングが上手くいけば、頭に撃ち込んでも死なないかな?
(〇ンヘッドが作れるか、チャレンジしてみる?)
究極の快楽を追い求め、究極のマゾに行き着いた変態魔道士集団が頭に浮かぶ。
拷問のつもりでそっちに目覚められても嫌だし、今回はやめておこうかな。
ミカがそんなことを考えていると、男の唇が微かに動いているのに気づいた。
ミカは黙って、”地獄耳”を発現する。
音として、ほとんど発音されていない。
ただ空気が漏れるだけのような声を、”地獄耳”の出力を上げて何とか拾う。
「…………神……よ……お導……くださ…………。」
どうやら、神々に救いを求めているらしい。
人のこと殺そうとしておいて、よくそんな厚かましいことができるな、と感心する。
「……救いく…………必ずや、我ら……神託を……。」
その呟きを聞き、ミカは目を瞠る。
だが、黙ってそのまま聞き続ける。
「…………教こ……帝陛下…………どうか世界を……神々…の世界……。」
しばらくぶつぶつと呟く内容を黙って聞いていたが、男に突き刺さった”氷槍”に魔力を送り、一斉に引き抜く。
「ぐあぁ……っ!」
そうして、男に【癒し】をかけてやった。
怪我は治ったが、疲労困憊の様子の男が、睨むようにミカを見る。
「…………こんな子供まで洗脳して……やはり滅ぼすしかない……浄化も救済も、この穢れた国には遅すぎる……。」
男の呟きに、やや力が戻った。
それでも、”地獄耳”がなければ聞き取ることはできなかっただろうが。
ミカは真っ直ぐに男を見つめ返す。
(俺を見ても、洗脳された子供としか思わないのか。 本当にロクな予備知識もなく暗殺の依頼に来たらしいな。)
ミカは腕を組み、顎に手を添えて考える。
”解呪師”や御使いの死を望み、だがミカ個人に対して恨みを抱いている訳ではない。
何なんだ、こいつは。
(思想的に、帝国寄りの考えに染まっている。 というか、どっぷりと浸かってるな。 ……狂信者か?)
帝国の民の中で、特にイっちゃってる奴が暴走しただけ?
それにしては、御使いだけでなく、”解呪師”も暗殺対象に入れてきたのはおかしい気がする。
エックトレームの光神教を認めていないから、最近現れたという御使いとやらを認めないというのなら分かる。
しかし、”解呪師”は光神教とは関係がない。
(……いや、ないこともないのか?)
失われた【神の奇跡】を騙ることを良しとしないってのは、ミカの謀殺を企んだ教会の言い分だ。
しかし、ピンポイントで狙い撃ちしてくる理由が分からない。
エックトレーム王国を滅ぼせば、”解呪師”も御使いも、どちらも始末される存在だ。
先に、暗殺する必要があった?
なぜ?
(侵攻の邪魔だと判断された?)
一国民がそんなことを判断して、わざわざ敵国に潜入するか?
そう考えると、間違いなく、何者かに命じられて来たはずだ。
帝国からの工作員。
しかし、ズブの素人。
意味が分からない。
(口を割らない自信があった。 だから送り込んだ?)
こんな素人を送り込んだ以上、成功するとは送り込んだ者も考えていないはずだ。
工作員を送り込みながら、成功しても失敗してもどちらでもいいという、いい加減さを感じる。
口さえ割らなければ問題ないという、何とも杜撰な考え。
(……これは、余裕か?)
上手くいけばそれに越したことはないが、たとえ失敗しても別に問題ない。
その程度のお遊びに、この男の命は使われたのだ。
殺されようと、まったく構わない捨て駒として。
(…………いや、もしかして。 これは……。)
ミカは黙って男に背を向けると、そのまま部屋を出た。
ミカに続いてユースバルトも部屋を出る。
そのまま酒場に戻った。
「おう、どうだった。」
一人で飲んでいたレブランテスが、木の実を一つ摘まんで口に放り込む。
そうして、グラスを呷った。
「やはり、だめですね。 何もしゃべりません。」
ユースバルトがカウンターの中に入ると、肩を竦めた。
ミカはスツールに座ると、難しい顔をして考え込む。
それから、ユースバルトを見た。
「今、この瞬間から動かせる人数はどれくらいいる?」
ミカがそう聞くと、ユースバルトが目を丸くする。
それから、何とも難しい顔をした。
答えようがないのだろう。
「別に言わなくてもいいよ。 ただ、尾行する手段があるのか確認したいだけだから。」
「尾行? 誰をだ? あいつを逃がすのか?」
レブランテスが驚いた顔をミカに向けた。
「あんな素人を送り込んで、本気で成功するとは思っていないだろ? それに、不自然にこの酒場のことを知っていた。 多分、手引きしたか指南した奴がいるはずだ。」
「ええ、そうですね。 その可能性は私たちも考えました。」
ユースバルトが頷いた。
「じゃあ、何であんな捨て駒を使ったと思う?」
「捨て駒?」
レブランテスが眉を寄せ、訝し気な顔になる。
ミカはユースバルトを睨みつけるように鋭い視線で射抜く。
「おびき寄せられたんだよ。 多分、ここを見張っている奴がいるはずだ。 素直に仕事が受け付けられれば、それで良し。 もし捨て駒が捕まっても、ここの動きを見張れば繋がりが見えてくる。 上手くいけば、”解呪師”や御使いが釣れるかもしれない。」
「「ッ!?」」
間抜けをとっ捕まえたぜぇ、とのこのこ見に来た間抜けを探る作戦なのだろう。
【気配察知】という【技能】はあるが、果たして気配を希薄にするような【技能】はあるのだろうか。
もしあれば、暗殺者ギルドの窓口という超危険な目標でも監視可能だろう。
ミカは思わず溜息をついてしまう。
「すでに僕の存在は奴らにバレた可能性が高い。 こんな酒場に、レブランテスと一緒に子供が来たんだ。 間違いなく”解呪師”や御使いの候補としてリストに載っただろう。 不自然過ぎる来客だからね。」
ミカがそう言うと、レブランテスが舌打ちをする。
ユースバルトが申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。 ”解呪師”に不要な危険を呼び込んでしまいました。 私の不始末です。」
ミカはユースバルトに笑いかけた。
「まあ、僕もこの間の襲撃の時は素顔を晒して普通に飛んでたしね。 むしろ、それでも僕の存在が一元的な情報として伝わっていなかったっていう、いい証拠だよ。」
そうでなければ、”解呪師”と御使いの二人、という依頼にはならない。
まだ、断片的な情報しか手に入れてない何よりの証拠だ。
どうしてそこまで情報の入手が遅いのか気になるが、何らかの理由で諜報を担当していた組織が機能しなくなるという事態が起きたのかもしれない。
「大丈夫ですよ。 多分、まだ挽回する機会があります。」
「挽回の、機会ですか?」
ミカはしっかりと頷いた。
「さすがに、向こうの工作員もそこまで人数は多くないでしょう。 少なければ指南役の一人。 多くても三~四人程度だと思います。 急ぎ本国に情報を伝えようとする者がいるかもしれない。 でも、もっと情報を集めようとする者もいるはずだ。」
「…………その見張る工作員を追い、一網打尽にすれば……。」
ユースバルトが、ミカが見ても冷え冷えするような目になり、呟く。
「情報が本国に伝わる前に、妨害してください。 これから、僕が囮になって第三街区を歩きます。 僕を付ける者を辿り、情報が本国に渡るのを阻止してください。」
ミカがそう言うと、ユースバルトとレブランテスが頷く。
自分たちの失態の始末をつけようと、プロ根性に火が点いたようだ。
「一つ確認したいんだが、本国ってのはグローノワ帝国か? あいつはグローノワが送り込んだのか?」
「ええ、どっぷり思想が染まってました。 エックトレーム王国を『穢れた国』なんて言う奴は帝国の連中くらいでしょう。 『神託』がどうのこうのも言ってましたし。」
ミカがそう言うと、ユースバルトが目を瞠る。
そんな話をいつしたのか、という顔だ。
「とにかく、時間を無駄にできない。 すぐに動いてください。」
ミカがそう言うと、ユースバルトがすぐにバックヤードに入っていった。
奥にいた人たちに作戦を指示するのだろう。
「うめー。」
ミカは第三街区の屋台で売っていたポップコーンもどきを食べていた。
ポップコーンというよりは、ジャンボコーンみたいな感じか?
なんかよく分からん花の実を炒ると、こんな風になるらしい。
それに砂糖をまぶせばお菓子になり、ちょっとスパイスを混ぜた塩をかければ酒のつまみになるらしい。
「初めて食べたな、これ。」
「そうなのかい? 南部の方じゃ大人から子供まで、皆大好きさ。」
愛想のいいおばちゃんが、ミカがむっしゃむっしゃと食べるのを、嬉しそうに見ている。
何でも、南部の方では定番らしいが。
「僕の出身も、南部と言えば南部なんだけど。 見たことないよ。」
リンペール男爵領は南東の外れなので、南部くくりの中に一応入るはずだが。
「おや、南部出身かい?」
「そう。 あー……、でも何にもない村だったからなあ。」
というか、おやつなんてなかった。
むしろ、ノイスハイム家だけそんなおやつがなかった可能性があるな。
まあ、貧乏だったしね。
借金のせいで。
ミカは他愛のない話をして、適当に第三街区をぷらぷらする。
「うんめー。」
そうして、目についた物を買い食いしていた。
魔力範囲を二十メートルで展開し、大雑把に周囲の状況を確認する。
さすがに尾行者は、二十メートルの範囲のギリギリくらいを出たり入ったりする程度でミカを見張っていた。
ミカも魔力範囲が無ければ、この尾行に気づくことはなかっただろう。
そうして、そんな尾行者を付ける者。
こちらはミカではまったく捕捉できないくらい離れているが、暗殺者ギルドと情報屋ギルドが合同で、尾行者を遠巻きに監視している。
が、そんなこと関係なく、ミカは久々の買い食いを満喫していた。
どうせならレーヴタイン組の皆を誘って買い食いして歩きたいところだが、さすがに尾行を引き連れてではそうもいかない。
ミカがそうして歩いていると、前から来たお婆さんがじっとミカを見る。
ミカと目が合うと、すっと横に視線を動かした。
お婆さんの視線の先に、ジュースを売っている屋台があった。
ミカはその屋台に近づいた。
「一個ちょーだい。」
「あいよ、百五十万ラーツだ。」
うっわ、懐かしいな、おい。
子供の頃、商店街の店だと、金額に必ず「万」をつけるおっちゃんとか居たね。
この世界にも、そんな文化があったとは。
「大金貨二枚でいい?」
「いい訳あるかっ! 何だよ、おい。 坊主、そんな大金持ってんのかよ!?」
「あるわけないでしょ。 はい、百五十ラーツ。」
「お、おうよ。 毎度あり。」
あ、二百ラーツで払えば良かったな。
そしたら「五十万ラーツのお返し」というお約束が聞けたのに。
失敗、失敗。
ミカは渡されたジュースのカップを受け取り、その場でごくごくと飲む。
んー……、ちょっと甘い物を食べ過ぎたか?
果実ジュースの甘味をあんまり感じなかった。
さり気なく、カップを右手から左手に持ち変える。
そうして、右手に残した、カップと一緒に渡された小さな紙にさっと目を通す。
『OK』
紙には、それだけが書かれていた。
ミカはカップのジュースを飲み干しながら、右手の紙を握り潰す。
そうして、カップを上から右手で掴むようにして、中に握り潰した紙を入れる。
「ご馳走様。」
「あいよ。 また来てくれよな。」
カップを返すとおっちゃんの声に軽く手で応え、ミカは宿に帰った。
翌日、レブランテスとユースバルトが、宿に報告に来た。
「情報は押さえた。 今回は済まなかった。」
そう、レブランテスが頭を下げた。
どうやら、ミカの尾行者は二人だったが、工作員はもう一人いたらしい。
その工作員は、潜伏先の安宿で報告書を書いていたそうだ。
三人で4区の酒場を見張り、ミカが姿を現すと如何にも場違いで怪しいと睨んだ。
一人が先に潜伏先に戻って、容姿などの報告書を作成し、二人が監視を続けて裏付けとなる情報を探していた。
「よくしゃべりましたね。」
ミカがそう聞くと、ユースバルトが申し訳なさそう顔で説明する。
「今回はこちらの失態だったので、全力で口を割らせました。 全員が全員、そうそう鉄の意思を持っている訳ではないですから。 一人が口を割れば、あとはやりようがありますので。」
今も裏取りをしている最中とのことだが、今のところは嘘はなさそうだという。
「王国に入ったのも最近で、他に繋がる工作員もいなそうだ。」
この工作員たちは、以前は他の組織に属していたことがあるという。
その組織に捜査の手が伸び、トップも雲隠れした。
逃げ延びた工作員たちは、その後本業に戻ったらしい。
「別の組織? 本業って?」
ミカがそう聞くと、レブランテスが渋い顔になる。
「こいつらは、グローノワ帝国の教会の助祭や修道士だ。 以前いた別の組織ってのは、通商連合で諜報活動をしていたそうだ。 当然、王国での工作を目的にした組織だ。」
なんと、今回の工作員はアークゥという男の下で、王国へのいろいろな工作をやっていた連中らしい。
組織が壊滅し、グローノワ帝国に逃げ帰り、教会や修道院で大人しく過ごしていた。
しかし、以前の活動を知る者から、今回の”解呪師”暗殺を命令されたという。
「誰なんですか、その命令してきた奴って。」
ミカが聞くと、ユースバルトが首を振る。
「地方の大聖堂の司祭だ。 そいつらが逃げ戻った先のな。 おそらく、こいつもただ命じられただけで、命令の出所なんかは知らないだろう。」
それを聞き、ミカはうんざりした顔になる。
「…………今、そいつら生きてます?」
「…………生きては、いる。」
どうやら、相当にきつい責めで口を割らせたようだ。
「アークゥに繋がる情報は、もしかしたら有用かもしれません。 吐かせて第五騎士団に報告してください。」
とっくに通商連合で捜査のメスが入ったため、既知の情報かもしれない。
アークゥの身体的特徴などは、すでに通商連合経由でこちらにも伝わっていた。
だが、まだ知られていない情報があれば、何か役に立つだろう。
「こっちから、オズエンドルワの旦那にお伺い立ててみようか?」
生きて引き渡した方がいいか、レブランテスが聞いてくるという。
「そう? じゃあ、聞いてみて。 ユースバルトさん、第五騎士団がいらないって言うのを確認するまで殺さないで。」
「分かった。 しかし、あの状態で渡すのは……。」
どうやら、本当にひどい責めで口を割らせたらしい。
「分かりました。 【癒し】をかけに行くよ……。 てか、どんだけ拷問したの?」
狙われた側としては、どれだけ拷問しようが絶対に口を割って欲しいとは思うが……。
はぁ……見たくないよぉ。
そんなことを思いながら、ミカは酒場に向かうのだった。




