第256話 王都襲撃1
火の3の月、3の週の土の日。
「はぁ~……。」
王都近くの街道から少し外れた丘の上で、しゃがみ込んだ”火”が溜息をつく。
そんな”火”の様子に、”風”が肩を竦める。
「いつまで落ち込んでるんだよ。 お仕事だぞ。」
「うう……、テーちゃん……。」
”風”に声をかけられても、”火”は項垂れたままだ。
”風”が”火”の頭をぺちんを叩く。
「最後まで見届けないからだろう? ちゃんと変質したのかよ?」
「したよー。 テーちゃんはー、元々どっちつかずの状態だったんだよー。 だからー、あっという間に変質してくれたんだよー。」
一度、存在の質が変化したら元には戻らない。
強烈な衝動に突き動かされるままに”力”を振るえば、”意”とどんどん結びつき、そこからは一気に置き換わり、変質が完了する。
そして、本当に”闇”が”神の子”になったなら、王国内のあちこちで死体の山を築くはず。
変質し、衝動が落ち着くまでには多少時間がかかるから。
その間に目につく物を壊して回れば、大事件として話が伝わるはずなのだ。
国中に。
町が一つ二つ消えるくらいは当たり前。
数千や数万の死体があちこちに作られれば、噂にならない訳がない。
だが、”神の子”への変質が進まなかったということは、あの強烈な衝動を抑え込んだということだろうか。
一部の変質だけで留まるなど、これまで聞いたこともないが。
”風”は魔法具の袋から水袋を取り出すと、ごくごくと喉を潤す。
そうして口元を乱暴に拭うと、”火”を蹴っ飛ばした。
「おら、さっさと準備に行けよ。 始めちゃうぞ?」
「くすんー……。」
”火”はぐじぐじ言いながら、それでも立ち上がり、遠くに見える王都に視線を向ける。
「サプライズ・パーティーはー、タイミングが命ー。」
「そうそう。 帝都の噂がようやく聞こえてきた。 対岸の火事なんて呑気に構えてた奴の、横っ面を強烈に殴り飛ばせるぞ。」
そう言って、二人は軽く笑い合う。
”光”が”風”のおもちゃを使って、「ちょっと遊んで来い」と思いついた。
確かに、このタイミングでのサプライズは、たっぷりと”意”が絞り出せそうだ。
このサプライズ・パーティーをもっともいいタイミングで行うために、二人は王国内で潜伏していた。
王都にそれなりに近く、あまり大きくない町の宿に籠って。
”火”の顔がバレているようだが、街道上の検問などいくらでも迂回できる。
毎日”風”が町をぶらつき、酒場に顔を出せば、どんな噂が広がっているか確認するのは簡単だ。
そうしてついに昨日、帝都での噂を、町を歩いていて耳にすることができた。
「どうせ『帝都の混乱に乗じて、逆侵攻をかけてやれ』とか舐めたこと考えてる奴もいるだろうからな。 高みの見物のつもりで、てめえの足を食い千切られたら大笑いだろ。」
”風”が可笑しそうに話すのを聞きながら、”火”は大きく背伸びをする。
「じゃあー、ウーちゃんはてきとーに始めてー。 待機しとくからー。」
「あいよ。 摘まみ食いすんなよ?」
「あははー、しないよー。」
そう言うと、”火”は街道に向かって走り出す。
”風”は少しゆっくり行けば、第三街区に着く頃には”火”も待機が済んでいるだろう。
「…………前線は遠いと思い込んでるんだろ?」
ゆっくりと歩き出し、”風”が呟く。
遠くの王都を睨み、”風”は口の端を上げた。
「目に物見せてやるよ。」
”火”は人混みに紛れ、少しずつ第二街壁の検問に近づく。
そうして、建物の間に身を潜ませた。
「門にいるのは、三十人くらいかなー。」
兵士が二十人くらい。
他にも騎士が十人くらいいる。
以前よりも随分と増えていた。
それでも、この程度の人数なら強行突破するのは簡単だ。
でも、それでは面白くない。
できて当たり前のことをやって、何が楽しいのか。
気づかれないように潜入するのが楽しいのだ。
そうして待っていると、遠くに悲鳴のようなものが聞こえて来た。
まだまだ、その声は遠い。
だが、門の兵士たちも、何かあったようだと気づいたらしい。
数人の兵士が騒ぎの下に向かった。
ズズーーンッ!
その時、門の前の広場に巨体が降ってきた。
「「「キャアーーーーーーーーーーッ!」」」
「おいっ、何だよあれっ!?」
「化け物っ!?」
「魔獣だっ!」
途端に、辺りは騒然となった。
第三街区の真っただ中、それも第二街壁の門の真正面に突如魔獣が現れたのだから。
検問に並んでいた人々は逃げ惑い、腰を抜かす者いる。
突然の魔獣の襲来に、兵士たちも呆気に取られた。
おそらく、あまりに突飛な出来事過ぎて、何が起きているのか瞬時には理解が追いつかないのだろう。
「クソがっ!? 何でこんな所に合成魔獣がっ!」
逃げ惑う群衆の中、一人だけ剣を構えて合成魔獣と対峙する者がいた。
冒険者だ。
見た感じ、そこそこ経験を積んでいそうな中年の冒険者は、判断が早かった。
突然魔獣に襲われるなど、きっと日常茶飯事なのだろう。
即座に臨戦態勢を取り、門の騎士や兵士に活を入れる。
「ぼけっとしてんな、騎士どもがっ! 避難誘導しろ! 応援を呼べえっ!」
その声にハッとなり、騎士たちが慌てながら動き出す。
ただ、二メートル級の合成魔獣の相手は、騎士や兵士には荷が重い。
彼らは対人には強いが、魔獣や魔物の類にはあまり有効に動けない。
つまり、ここで脅威になるのはこの冒険者ただ一人である。
”火”は冷たい笑みを浮かべ、建物の間に身を潜めながら、その冒険者を眺めた。
「Cランクってとこかなー? ……でもー、このサイズの合成魔獣は初めてかいー?」
ここまでのサイズの合成魔獣だと、Cランクのソロの冒険者ではつらいだろう。
冒険者の周りには、お仲間と思える冒険者の姿はない。
グルルルルルゥ……ッ!
獅子の頭部を持つ合成魔獣が喉を鳴らす。
冒険者は厳しい表情で、剣を構え対峙していた。
グガァァァァアアアオオオオオオォォォォオオッ!!!
合成魔獣が大きく口を開き、雄叫びを上げる。
その瞬間、
「【爆ぜろ】。」
冒険者が剣を握っていた右腕の肘辺りで、小さな爆発が起きる。
「ガアッ!?」
突然のことに驚き、声を上げる冒険者。
バクンッ!
その隙を見逃さず、合成魔獣は冒険者の上半身を丸ごと一噛みにした。
「うわあっ、やられたああ!」
「早く行けよっ! 邪魔なんだよっ!」
「どけっババアッ!」
「クソジジイッ! ぶっ殺すぞっ!」
それを見ていた人たちはいよいよパニックになり、押し退け、突き飛ばし、我先にと逃げようとし始めた。
ドシーーンッ!
その人混みを圧し潰し、もう一体の合成魔獣が空から降って来る。
ギュァァァァアアアオオオオオオォォォォオオッ!!!
グガァアアアオオオオォォォォオオーーーーーッ!!!
二体の合成魔獣が雄叫びを上げる。
潰され、食い散らかし、血肉が辺りに飛ぶ。
平穏だった王都に、阿鼻叫喚の地獄が突然降って湧いたのである。
すでに第二街壁の検問も警備も、意味を失くしていた。
「おっ邪魔しまーすー。」
対応に追われる兵士たちの横を、”火”は軽い足取りで第二街壁を潜るのだった。
■■■■■■
第五騎士団の詰所、会議室。
ダンッ!
オズエンドルワは、震える拳を会議机に叩きつけた。
「これは……、何が起こっているんだっ……!」
苦し気に呻き、壁に張った王都の地図を睨んだ。
その地図には、今報告のあった内容を騎士の一人が書き込んでいるところだった。
最初に報告があったのは二十分ほど前。
突如魔獣が、北東の第二街壁に現れたという。
すぐに応援の手配をし、自ら現地に向かおうとした矢先、今度は北の第二街壁に同じような魔獣が現れたという報告が届けられた。
二カ所同時の魔獣の襲来。
それも、特徴を聞く限り合成魔獣と呼ばれる相当に危険な魔獣だった。
即座に王国軍本部に応援の要請をし、会議室に対策本部を立ち上げた。
そこに、更に魔獣の襲撃の報が飛び込んできた。
今度は北西の第二街壁だ。
「伝令っ! 二人来い!」
「はっ!」
オズエンドルワが椅子を鳴らして立ち上がり、二人の騎士を呼ぶ。
「冒険者ギルドに応援要請。 Cランク以上、複数の合成魔獣と思われる魔獣を討伐可能な冒険者の派遣を要請する。」
オズエンドルワの指示を受けた騎士が、即座に会議室を飛び出して行く。
冒険者ギルド本部から、王都の第一第二支部に連絡が行き、実際に冒険者が派遣されるまでは、おそらく一時間以上かかるだろう。
運が良ければ、それまでに魔獣を退治できているかもしれない。
だが、そんな幸運は期待するだけ無駄だろう。
すでに、今日は最悪の運勢なのだから。
オズエンドルワは残った一人の騎士に視線を向ける。
「第二街区の3区にある、ヤロイバロフの宿屋に協力を要請する。」
「宿屋、ですか……?」
伝令の騎士がぽかんとした顔になった。
「おそらく、この件に限って言えばギルドを頼るよりも一番確実で、早い。」
ヤロイバロフの宿屋に泊っている冒険者は、一流の腕の持ち主が多いという話。
何より、宿屋の主人自身が伝説と言えるほどの冒険者である。
ただしネックは、昼間の宿屋にどれだけ冒険者が残っててくれるか、というだけ。
「…………それと、ミカ君に協力要請だ。」
「ミカ君って……!? 一般人ですよ!? それに、まだ学院生です! 勝手にそんなことをしたら、団長の立場がっ……!」
「そんなことはどうでもいい。 行け!」
オズエンドルワが命じると、騎士は躊躇いながらも敬礼し、会議室を飛び出して行った。
騎士の出て行った出入口から、王都の地図に視線を移す。
北東の第二街壁の門から始まり、左回りに魔獣が出現している。
おそらくだが、魔獣を解き放っている者がいるのかもしれない。
そして、もしもこの予想が合っているとしたら、どうやって狂暴な魔獣を持ち歩いているのか。
(…………決まっているっ……!)
人だろうと何だろうと入れられる、違法な魔法具の袋。
魔獣が入ることは、ミカが実演してくれたではないか。
オズエンドルワは、今すぐ飛び出したい衝動を懸命に抑え込む。
一人でも多くの民を救うために、今はオズエンドルワが直接動く訳には行かなかった。
たまたま魔獣がやって来たというなら、速やかに排除するためにオズエンドルワが先頭に立つことも意味がある。
だが、これが仕組まれたものなら、あらゆる事態に即座に対応する必要がある。
オズエンドルワの我が儘で飛び出せば、指示や判断の遅れで、反って犠牲者の数が増えてしまうことも容易に予想がつく。
「各大隊長に伝えろ。 いちいち指示を仰ぐ必要はない。 その時最善だと思うことを成せ。 冒険者ギルドにはすでに応援を要請済みだ。 応援は来る、とな。」
オズエンドルワの指示を伝えに、新たに伝令が飛び出して行く。
まだ魔獣の現れていない第二街壁の門にも、これから現れる可能性が高い。
初めて見る、あまりに狂暴な魔獣に、指揮官でも心が折れかねない。
こんな魔獣を相手に、どうやって民の命を守れというのか、と。
だが、希望があれば立ち向かえる。
たとえ己の命を捨てるようなことでも、無駄ではないのだと思えれば、臆せず足を踏み出せる。
そうした気概を持つように鍛え上げてきたつもりだ。
もっとも、応援の本命はギルドではない。
いくら冒険者と言えど、危険過ぎる魔獣と戦い、叩き伏せるだけの力を持った者はそう多くない。
(頼むぞ、ミカ君。 ヤロイバロフ……。)
その時、会議室に二人の騎士が相次いで飛び込んできた。
二人とも相当に切羽詰まった様子だ。
「緊急応援要請っ! 第二街壁の西門に魔獣が二体現れましたっ! 至急応援願いますっ!」
「第二街区、2区内に魔獣が出現っ! 至急応援を求むっ!」
ダンッ!
伝令からの報告に、オズエンドルワは思わず机に拳を叩きつけた。
■■■■■■
魔法学院、高等部一年、一組の教室。
ミカは授業中にペンを片手に、リッシュ村の防衛計画を考えていた。
巨大な石で村を囲み、獣や魔獣に関してはこれでまず入って来れない。
例外は”単眼巨人”のようなでかい魔物。
つーか、あんなの王都やサーベンジールにある街壁ですら防げるか怪しいレベル。
ぶっちゃけ、あんなのが侵入できないようにするくらいなら、森の大型の魔物や魔獣を狩り尽くす方が楽だと思う。
そして、ヒブジーザ。
王都から五百キロメートルくらい離れた場所まで、一日かからず移動してきた。
これだけで人間離れした身体能力の持ち主であることが分かる。
もし仮に、ミカがリッシュ村を攻略するとして、どうすれば阻止できるか。
多分、手段を選ばず、力技で無理矢理突破するのであれば、どうされても攻略できる。
自信はある。
そう考えると、ヒブジーザが本気で攻めてきたら、排除することは不可能なのだ。
どれだけ守りを固めても無駄。
ヤロイバロフやミカが常駐する以外、有効な手が思い浮かばなかった。
(……やっぱ、通商連合辺りに逃がす方がいいのかなあ。)
ただ、通商連合にもミカを狙っていた組織だか集団の枝葉は伸びている。
以前の隠れ蓑に使っていた事務所は摘発され、捜査が入ったようだが、当人は雲隠れしてしまったらしい。
こうなると、本当に別大陸に逃がす以外に手がなさそうだ。
(でもなあ……、あんまり目の届かない場所ってのも……。)
避難先の安全性が未知数なのは、少々不安ではある。
すぐに駆けつけられない、状況を知ることができないというのも引っかかる。
まあ、その辺りは情報屋ギルドを上手く使えば何とかなりそうだが。
(情報屋ギルドにあまり頼り過ぎるのも不味いか。 すでにレブランテスに頼り過ぎてるくらいだし……。)
中々悩ましい問題だ。
手っ取り早いのは、ミカを狙う者たちの正体を突き止め、さっさと壊滅させることなのだが。
ミカは心のざわめきを感じ、無意識に精神安定の腕輪に触れた。
ペンを置き、椅子の背もたれに寄りかかる。
そうして、大きく背筋を伸ばす。
丸まっていた背中がみしみしと鳴った。
ふと窓の外を見ると、遠くに鳥が飛んでいるのが見えた。
まあ、鳥というか、単なる黒い点にしか見えないのだが。
そして、地上から煙らしき筋が昇っていた。
(…………? 火事?)
火事くらいは王都でも時々あり、ある程度組織立った消火活動も行われている。
消防水利が貧弱なので中々に消火活動は大変なようだが、王国軍の当番魔法士が【吹雪】を上手くコントロールして、消火を手伝ったりもしているそうだ。
ミカが手を貸しに行かなくても、きちんと消火訓練を行った魔法士がいる。
ミカは一度教室の方に視線を戻した。
だが、何となく気になり再び視線を外に向ける。
すると、鳥は二羽に増えていた。
一羽は先程の位置から変わらず、もう一羽が地上から上昇し、再び下降する。
そして、立ち昇る煙が一本増えていた。
ミカは胸に嫌なもやもやを感じ、精神安定の腕輪を撫でる。
そうして、”望遠鏡”と呟き、火事の辺りをよく見てみることにした。
(炎が見える訳じゃないか……。 でも、結構あちこちから煙が出てるな。)
煙の色が薄くて分からなかったが、”望遠鏡”で確認すると、思った以上に煙が出ていた。
広範囲で火災が発生しているのかもしれない。
その時、ミカの視界を塞ぐ大きな物が一瞬だけ横切った。
(……何だ?)
ミカは”望遠鏡”の倍率を落とし、少し広い範囲を見えるようにした。
「なっ……!?」
ガタンッと音を鳴らし、ミカは思わず立ち上がってしまう。
「ミカ?」
「ミカ君?」
急に立ち上がったミカに、リムリーシェとクレイリアが驚いたように声をかける。
教室の中が、僅かに騒めく。
ミカは慌てて窓に駆け寄り、外を見る。
二体の魔獣が、数キロメートル先で第三街区を襲っていた。
(あの位置は、第二街壁の南の門か……?)
ミカが窓から飛び出そうとした時、
「ミカ! どうしたのです!?」
クレイリアがミカの腕を掴んだ。
ミカはクレイリアにだけ聞こえるように、素早く耳打ちする。
「魔獣だ。 街を襲ってる。」
「えっ!?」
クレイリアが外を見る。
地上から立ち昇る煙に気がついたのだろう。
ごくりと喉を鳴らした。
「行ってくる。」
ミカがそう言うと、クレイリアがハッとした表情になった。
そうして一度は苦し気な表情になりながらも、ミカを真っ直ぐに見て微笑みを作る。
「ご無事で、ミカ……。」
ミカは一つ頷き、窓に手をかけその身を投げ出した。
「ちょっと、ミカッ!?」
「ミカ君っ! 何をっ!?」
ツェシーリアの驚いた声と担任の声が聞こえたが、ミカはそのまま”突風”を発動して飛び立った。
だが、ミカが校舎から飛び立った直後に、
「ミカくーーーーんっ!!!」
学院の正門から、敷地に入って来た騎士に呼び止められた。
普段、王国軍の騎士が学院にやって来ることはない。
このタイミングで来るという事は、十中八九、魔獣に関連することだろう。
ミカは慌てて方向転換し、両手を振って呼び止める騎士の前に着地する。
見覚えのある騎士。
おそらく第五騎士団の騎士だ。
「第五騎士団の方ですね。」
「そ、そうだ、話が早くて助かる。 団長からの協力要請を伝えに来た。」
「協力要請? 魔獣討伐ですか?」
ミカがそう聞くと、騎士が頷く。
「王都の第二街壁、北、北東、北西の三つの門に合成魔獣と思われる魔獣が現れた。 確認できているのは、それぞれの門に二体ずつ。」
「北っ……!? 南の門じゃなくて!?」
ミカが気づいたのは南の門の辺りだ。
さすがに北の門などは遠すぎて気づかなかった。
騎士はミカが南の門だというと、驚いた顔になる。
「南の門のことは私も知らないが、もしかしたら順番に襲われているのかもしれない。 最初は北東、次は北と魔獣が襲って来たんだ。」
次々に魔獣に襲わせている……?
何か、作為的なものがありそうだ。
しかし……。
「とにかく、今は少しでも早く魔獣を排除すべきですね。」
「ああ。 ヤロイバロフという宿屋の主人にも応援を要請してきた。」
「ヤロイバロフさんにも? それなら、魔獣はもう時間の問題ですね。 あとは、如何に早く魔獣を討伐し、被害をどれだけ減らせるかってだけです。」
ミカがそう言うと、騎士も頷いた。
「私も初めて会ったが、すごい冒険者だったらしいな。 実際に会うまで、噂を忘れていたよ。 冒険者ギルドにも応援要請を出している。 ミカ君も力を貸してほしい。」
「勿論です。 魔獣は冒険者に任せて、騎士や兵士の皆さんは街の人の避難や救助を優先した方がいいかもしれませんね。」
「さすがにそれは情けないが……。 しかし、確かに魔獣の相手は我々にとっては未知の部分が多い。 素直に頼らせてもらおう。 街の人たちの命がかかってるからな。 意地を張ってる場合じゃない。」
ミカと騎士は頷き合う。
「頼んだぞ、ミカ君。 いや、今は”解呪師”か。」
「はい。 任せてください。」
オズエンドルワがミカやヤロイバロフに応援を頼んできたくらいだ。
相当に厳しい事態なのだろう。
ミカは思いっきり飛び上がると、そのまま南の門を目指す。
「”吸収翼”!」
ミカの背中に光の翼が現れ、集められる魔力が跳ね上がった。
”突風”への魔力の割り振りを増やし、飛行速度を上げる。
「今、行くから。 皆もう少し頑張って。」
王都に暮らす人たちを守る戦い。
ミカの中に焦燥感と同時に、高揚感も湧き上がる。
だが、ミカは大きく息を吸い込み、自らの心を鎮めた。
「落ち着いていけ。 心を揺らすな。 精神安定の腕輪に頼るな。」
自分に言い聞かせる。
ミカは魔法具の袋から”銅系希少金属”の短剣を取り出すと、南の門を視界に収めるのだった。




