第254話 教皇帝ヒルディンランデル
火の3の月、3の週の陽の日。
第三街区の宿屋。
ミカは専属コンシェルジュのレブランテスから、情報提供を受けていた。
「教会が反乱……? 帝都で?」
ミカが呟くと、レブランテスが深刻な表情で頷いた。
そのレブランテスの後ろを、フィーがふよふよ~……と漂う。
もう見られているからと、開き直ってるな。
国から数日遅れでの情報入手だが、これは相当に早いと言ってもいいだろう。
情報屋ギルドの本部にこの情報が届いたのが昨夜未明で、翌日に知ることができたのだから。
国はすでに情報を入手していて、現在は箝口令を敷き、この情報が漏れるのを防いでいたようだ。
対応を検討中なのか、若しくはすでに水面下で対応を始めているのか。
おそらく、普通の王都民たちがこの情報を噂として耳にするには、あと一週間くらいはかかるだろう。
ミカは足と腕を組み、逡巡する。
「帝国の教会が反乱を起こして、皇帝を討ったんですか?」
「ああ、それは間違いない。 いろいろ情報が錯綜しているが、皇帝の一族は皆殺しのようだ。」
帝国では、先の戦いの敗北が相当に強い恨みとなって渦巻いていたようだ。
自分たちから攻めて来て、負けたら恨むというのも勝手な話だが、そもそも理屈の通用する相手ではない。
神託などという馬鹿げた与太話を根拠に、攻め入ってくるような国なのだ。
「皇帝の居城の前には広場があるらしいんだが、そこでは連日公開処刑をしているそうだ。 皇帝一族をな。」
帝国では、ギロチンが現役で活躍しているらしい。
通常は相当に重い犯罪を犯した者を公開で処刑しているのだが、皇帝一族の処刑は、毎日数人ずつ行われているという。
重犯罪者の処刑と一緒に。
こいつらは同列だ、と分かりやすく示しているのだろう。
ミカは目を閉じ、重苦しい溜息をつく。
(……歴史上でも、公開処刑はショーだった。 それは、知ってはいるけど。)
ギロチンによる処刑ショーが連日大盛況などと聞けば、頭を抱えたくなるくらいにはうんざりする。
しかも、皇帝の屍は広場に吊るしたままにしているらしい。
大人から子供まで、罵倒や嘲笑しながら石を投げたり、糞尿を投げつけているそうだ。
そんな話を聞き、ミカは吐き気を感じた。
ミカは顔をしかめながら、レブランテスに尋ねる。
「…………来ますか。 帝国は。」
そう尋ねられたレブランテスは、眉を寄せ、難しい顔になった。
「来るのは、そりゃあ来るだろう。 王国への侵攻に動かない皇帝に国民の怒りは爆発し、その皇帝を打倒した教皇に感謝感激しているんだからよ。」
だが、そこでレブランテスは溜息をつき、力なく首を振る。
「ただ、な……。 すぐに動くかと思うと、そうでもなさそうだ。 しっかりと準備はするつもりらしい。」
この勢いに乗って、と何も考えずに突っ込んで来るようなことはしないという。
さすがに、そこまでは間抜けではないようだ。
それはそれで厄介なことではあるが。
「今、教会が中心になって戦費のための寄付を募ってるらしい。 中には資産を丸ごと寄付した奴もいるようだぞ。」
帝国では、空前の寄付ブームが起きているらしい。
信心深くて結構なことだが、その目的が隣国への侵攻では、それは善行にカウントされるのだろうか?
ミカは胸に嫌なモヤモヤを感じた。
そうして、無意識のうちに精神安定の腕輪に触れる。
この程度では、まだ精神安定の腕輪は動いてくれないようだ。
(何でこう、面倒なことが起こるんだ? まったく……。)
ヒブジーザだけでも厄介なのに、帝国ではバリバリの主戦派と思われる教皇が実権を握ることになる。
おそらく、教皇の傀儡が帝位に即くことになるだろう。
(この分だと、本当に『ちょっと行って帝国滅ぼして来いよ』が現実になりそうだな。)
まあ、最悪それもありかな、とミカも思う。
ただ、それではミカの気持ち的にモヤモヤする部分がある。
貴族たちが先頭に立ち、戦う。
その上で力を貸してくれ、というなら一考の余地もあるが……。
(……高貴なる者の義務を忘れた王侯貴族ってどうなの?)
特権だけを享受し、義務を果たさない者のために、なぜミカがそんなことをしなくてはならないのか。
苦難を平民に押しつけるだけでは、王も貴族も何のためにいるんだ?という話である。
押し寄せる悪意に晒される、無辜の人たちのために力を振るうのはいい。
それは全然構わない。
だが、結果だけを見れば、何もしない特権階級が一番得しているような気がしてしまう。
それでは、特権を享受している者は、何のためにその特権を得ているのか。
帝国の後に、王国の王侯貴族を葬って回っても、小悪党が台頭するだけ。
上にあった重しが取れることで、下に居た別の馬鹿がのさばるようになるだけだ。
それで苦労するのは、やはり無辜の人々。
それは、ミカの望むところではない。
「…………”解呪師”としては、どうする?」
ミカが悩み、考え込んでいると、レブランテスが窺うように聞いてくる。
「今のところ情報屋ギルドも正確な情報を集めるのに躍起になってる。 ”解呪師”としてどうしたいのか分かれば、今後の対応もいろいろ違ってくるが?」
「どうしたいって…………、無関係でいたいんですけど。」
ミカが肩を竦めてそう言うと、レブランテスが苦笑した。
それが無理なことは、ミカが一番よく分かっている。
まあ、希望を伝えるだけは無料だ。
「できるだけ無関係で、ってのは確かに可能だろうけどな。 得てしてそういう時は、巻き込まれた時にはもう手遅れってことも多いぞ? 二進も三進も行かなくなってから、颯爽と解決するのがお望みか?」
「んな訳ないでしょ! 最初から最後まで、一切合切、徹頭徹尾、無関係でいたいんだよ!」
どうにもならなくなってから押し付けられるとか、一番嫌なパターンじゃねえか。
ミカがムキになって言うと、レブランテスが「くっくっ……」と喉を鳴らした。
「まあ、近いうちに王太子の方から何か言ってくるだろう。 情報屋ギルドもとにかく情報を集めて、詳しい状況の把握に努める。 迂闊なことを安請け合いしないようにな。」
「……安請け合いなんかしたことないよ。 …………多分。」
自分から首を突っ込むことは多々あるが。
レブランテスが椅子から立ち上がりながら、ミカに忠告する。
「気になったから、とか言って、ちょっくら帝都を見て来るとかやるなよ?」
レブランテスがそう言うと、ミカが目を見開いた表情で固まった。
その手があったか、という表情だ。
「おいおいおいっ! お前、マジでっ……!」
「冗談だよ。」
レブランテスが焦った顔で言ってくるのを、ミカは笑って流す。
「はぁーーっ……! 心臓に悪い冗談はやめてくれ……。 おめえの場合、冗談じゃ済まねえんだからよ。」
「悪かったよ。 また、何かあったら頼む。 ……あ、ヤロイバロフさんとオズエンドルワさん、あとは協定メンバーには情報共有しておいてくれる?」
レブランテスが頷き、そのまま部屋を出て行った。
ミカは閉められるドアを見て、ふぅ……と息をついた。
「本当に、厄介な事態になったな……。」
王国は、どう動くつもりだろうか。
帝国が混乱しているうちに、一度叩いておこうと考えても不思議はない。
そうなると、ミカにも召集命令が出される可能性が高い。
まだ予備役なのに……。
ミカは、いつの間にか左肩に乗っていたフィーを見る。
「ちょっと出かけて来るよ。」
そう言うと、フィーがふわりと肩から離れ、ふよふよ~……と天井付近に漂い始めた。
どうやら、留守番をするつもりのようだ。
ミカはローブを羽織ると、フードを目深に被った。
このクソ暑い時期にフード付きのローブを着てるなんて正気の沙汰ではないが、実は他にまったくいないと言う訳ではない。
主に冒険者の一部に、そうした格好をしている者がいる。
逆のパターンになるが、ケーリャは真冬でもビキニアーマーだ。
風が吹こうが雪が降ろうがビキニアーマーである。
なぜそんなことができるかと言うと、これも【付与】のおかげだ。
【耐熱】【耐冷】の親戚のような効果で、体感温度を快適に保つというものがあるそうな。
親戚と言いいつつ実際はまったく別物の効果だが、セットで【付与】することが多いため親戚扱いだ。
暑い寒いを感じられないなんて危険じゃないの?と思うが、【付与】した【耐熱】【耐冷】の範囲内の環境ならば、ある程度まで体感温度を一定に保ってくれるらしい。
【耐熱】の限界を超えてから初めて熱いことに気づくというものではなく、あくまで適温に保ってくれる幅が広いといった感じの【付与】だという。
この【付与】がなければ、折角高性能の防具を手に入れても「暑くて着てらんねえよ!」ということが起こる。
現在制作中の”銅系希少金属”のローブにも実装予定の【付与】だが、当然ながら今羽織っているローブにそんな機能はない。
そのため”突風”を使い、ローブの内側でクーラーのように冷風を循環させている。
ミカは宿屋を出ると第三街区も飛び出し、十分に離れたら一旦上空へ。
そこから第一街区の、レーヴタイン侯爵家の別邸に飛んだ。
クレイリアにも、グローノワ帝国での変事を伝えておくためである。
おそらく国境の王国軍や領主軍には、国の方から連絡がいくだろう。
だが、クレイリアはそんな情報に触れられる立場ではないので、知らされることはない。
なので、ミカの方から知らせておこうと思った訳だ。
レーヴタイン侯爵家の別邸に着いたら、ミカ専用の出入り口に着地。
ミカ専用の出入り口…………すなわち、クレイリアの部屋のバルコニーである。
「クレイリアー、大事件――――。」
「キャアアアアーーーーーーーッ!!!」
ミカがレースのカーテンを除けて部屋に入ると、絹を裂くような声が上がった。
数人の侍女たちがクレイリアを隠すように立ち、更に数人の侍女たちによって、ミカはバルコニーに押し返された。
メイドさんたちにぽかぽかと叩かれながら。
「ミ、ミカ!? ちょ、ちょっと待っててください!」
「ごめっ、ごめんて! すみませんでしたっ!? 叩かないで!?」
クレイリアの悲鳴を聞きつけ、更に数十人の騎士たちも集まり、辺りは騒然となった。
帝都の変事を伝えに来たら、レーヴタイン侯爵家の別邸に変事を起こしてしまった。
「……すみませんでした。」
土下座とか久しぶりだなー。
そんなことを思いながら、深々と頭を下げる。
「もういいです、ミカ。 よく分かりませんが、そんな風にされては話もできませんし。」
「あ、ほんと? いやぁ、本当にごめんねえ。」
「クレイリア様! そんな簡単に済む問題ではありません!」
あっさりとミカを許すクレイリアに、ムスタージフが抗議の声を上げた。
まあ、ムスタージフの意見も分かる。
次からは声をかけてから入るから、とりあえず許してよ。
「それで、ミカ? 何があったのですか。」
「そうそう、大変なんだって。 大事件大事件。」
ミカは軽くズボンを払い、クレイリアの向かいのソファーに座る。
ムスタージフがめっちゃ睨んでいた。
「ごめん。 人払い、いい?」
ミカに言われ、少しだけ目を瞠ると、クレイリアはすぐに人払いをしてくれる。
部屋を出る騎士やメイドさんが、皆さん睨んでいた。
レーヴタイン侯爵家の皆さんを、漏れなく敵に回してしまったようだ。
今度から、ご機嫌取りにお土産でも持って来るようにするか。
例の如く、ドアの前にムスタージフとばあやさんが立つ。
それを確認してから、ミカはクレイリアの隣に移った。
ミカは声を潜め、用件を簡潔に伝える。
「皇帝が討たれた。 反乱だって。」
「…………?」
何のこと?
そんな感じにクレイリアは首を傾げ、きょとんとしていた。
「グローノワ帝国の教会が反乱を起こして、皇帝を討ったんだ。 おそらく、教皇の傀儡が帝位に即くんじゃないかな? 皇帝の一族以外が帝位を奪ったんだ。 簒奪だよ。」
「さんだつ……。」
クレイリアがぽつりと呟く。
「簒だ――――っ!?」
「しぃーーーーーーーっ! まだ不味いんだって。 声を落として。」
驚き過ぎて声の大きくなったクレイリアの口を、咄嗟に手で塞ぐ。
そうして、自分の口に人差し指を当てて、声を落とすように言う。
ミカとクレイリアの様子を見ていたムスタージフが、怒気を膨れ上がらせた。
クレイリアがこくこくと頷くのを確認して、手を放す。
「僕もまださっき聞いたばかりの話なんだけど、間違いなさそう。 おそらく知っているのは、まだごく一部だと思う。 伝える相手は慎重に選んで。」
ミカがそう言うと、クレイリアはごくりと飲み込む。
「…………ミカは、そんな情報をどこから……?」
そこまで言って、クレイリアは思い直す。
「さすがに大き過ぎる事件ですね。 事態がどう転ぶか、予測は難しいです。」
そうして、ミカを真っ直ぐに見た。
「ミカは、どうするつもりなのですか?」
「…………まだ、何にも。」
ミカは眉を寄せて首を振る。
「そのうち噂が広がってくると思うけど、先に知ってた方がいいと思って伝えに来た。 今知ってることを国にバレると、変に勘ぐられるかもしれない。 慎重に、ね。」
ミカがそう言うと、クレイリアは真剣な表情で頷く。
それから、少し表情を和らげた。
「これを知らせに来てくれたのですね、ミカ。 ありがとう。」
クレイリアがお礼を伝えるが、ミカは首を振る。
「クレイリアにはいつも手を貸してもらってるし、迷惑をかけてるから。 …………今日も。」
最後に付け足すと、クレイリアが困ったように笑う。
前に「迷惑なんて」と言ってくれたクレイリアだが、さすがに今日は否定してくれなかった。
まあ、反省してます、はい。
それから少し話をして、ミカは帰ることにした。
帰りはレーヴタイン家の馬車を出してくれた。
だけど、帰るまでずっと、あちらこちらから飛んで来る刺すような視線が、ちょっと痛かった。
さーせんっしたぁ……。
■■■■■■
グローノワ帝国、帝都にある皇帝の居城。
城の前には数万にもなる群衆が詰めかけていた。
以前は前皇帝の屍を晒していたが、さすがに夏場ではすぐに腐敗し損傷も激しく、また糞尿まで投げつけられたとあってひどい悪臭を放っていた。
そのため、少し前に片付けを命じた。
メーツデルト教皇が城門から姿を現すと、群衆から一際大きな歓声が上がった。
「教皇聖下ぁ!」
「メーツデルト聖下!」
「教皇陛下、万歳っ! メーツデルト陛下、万歳っ!」
教皇が帝位を簒奪するという前代未聞に、帝都の民は熱狂していた。
怠惰な皇帝を討ち、神託を成さんとする教皇が起った。
先の敗戦よりずっと、帝国の民の胸の内に渦巻いていた鬱屈が、一気に吹き飛ばされた。
教皇は城門の前に用意された演壇に立つと、にこやかな笑顔で群衆に手を振る。
群衆を押し留める騎士や兵士たちも大変だが、彼らもまたこの歴史的瞬間に立ち会えることに興奮を覚えていた。
教皇は両手を挙げ、群衆に静粛を求めた。
すると、それまでの熱狂が、まるで波のように引いていった。
とても数万の群衆が集まっているとは思えない静寂が広がる。
教皇が軽く振り向くと、枢機卿が三人進み出る。
枢機卿の手には、それぞれ王笏、皇帝冠、皇帝のマントがあった。
通常、戴冠式で前皇帝が新皇帝にこれらを手渡したり、身に着けさせたりすることで、帝位を譲ったと視覚的に分かりやすく示す。
皇帝が行えない場合、教皇や公爵が代理を務めたりすることもある。
教皇は枢機卿に捧げ持たれた皇帝冠を手に取ると、頭上高く掲げた。
そして、そのまま無造作に演壇の前に投げ捨てる。
演壇の前には戦鎚を持った教会騎士が数名。
教皇の投げた皇帝冠は、その教会騎士たちの目の前に落ちた。
「こんな物に意味など無い。」
教皇が高らかに言うと、教会騎士たちは戦鎚を大きく振り上げた。
ガシャンッガンッガギンッ!
グシャッゴンッガシャッゴキンッ!
絶え間なく、何かを壊す音が広場に響く。
再び教皇は高々と掲げる。
今度は、その手に持たれているのは王笏だった。
「こんな物はゴミだ。」
そうして、また無造作に演壇の前に投げ捨てる。
バキンッグシャッボキッ!
広場に響く破壊音に、群衆がやや騒めく。
「え……、本当……?」
「嘘じゃないの……?」
皇帝の象徴、継承の証を本当に壊してるとは思えず、さすがに群衆も戸惑った。
だが、比較的前の列に位置する者たちは、その光景を唖然として見ていた。
帝位の象徴たる皇帝冠が、容赦なく戦鎚に潰され、ひしゃげ、壊されていく。
権力の象徴たる王笏が叩き折られ、割られ、見るも無残に砕け散る。
教皇はマントを手に取ると、適当に丸め、今度は演壇の横に投げ捨てた。
無造作に落ちたマントに、やはり控えていた教会騎士によって油がかけられる。
そうして、教皇が頷くのを合図に松明が投げ込まれた。
瞬く間に燃え広がり、天高く煙が昇っていく。
その煙を、集まった群衆は何とはなしに見上げた。
前の列ならともかく、十列も下がれば何が起きているのかなど、把握は不可能。
それほどに人々が詰めかけているのだから。
「神々よ。」
教皇は両手を挙げ、空に向かって呼びかける。
「無辜なる迷い子を誑かし、人々の糧を掠め取る盗人、その象徴たる笏杖、冠、マントを捧げます。 どうか、神々の下で、この穢れた罪人の証を清め給え。」
教皇は両手を下ろし、人々に呼びかける。
「無辜なる迷い子たちよ。 奸言を用い、人心を惑わす邪悪は滅びた。 今、この時、苦難は去った! これより来るは、試練の時!」
教皇の声が、広場に響き渡る。
不自然なほどに。
「この声は届くであろう! 神の意に適いし者には、どれほど遠く離れようと! 必ず届く! なぜなら、この声は神の声である! この言葉は、神の言葉である!」
「そうだ! 神々は我らとともに!」
「教皇聖下ぁ! 我らをお導きください!」
教皇の演説が、集まった群衆の心に一つの方向を与える。
「ご神託を今こそ! 我らの手で実現せねばならない! 邪魔する者はもういない! 我らの前にあるのは、ただ神への道である!」
熱を帯びていく演説と、それに呼応するような熱気が、群衆から立ち昇る。
ただ、群衆のあちらこちらに、この不自然な熱気に違和感を持つ者もいた。
しかし、そうした者もすぐに流されて行く。
同調、という圧力に飲み込まれていく。
「この国は、今日より神の国となる! ご神託を成し、神の世界を顕現する! 我らの手によって!」
「「「そうだ、神の国だ!」」」
「「「神の世界を!」」」
教皇は再び両手を高々と挙げた。
「我は、この偉大なる大業を成すため、矮小なる人の名を捨てる! 偉大なる聖人こそ、この偉業を成すに相応しい!」
そうして、メーツデルト教皇は空に向かって宣言する。
「我が名は、ヒルディンランデル! 教皇帝ヒルディンランデルであるっ!!!」
教皇帝の宣言に、群衆から爆発したような歓声が上がった。
「「「教皇帝っ! 万歳っ!」」」
「「「ヒルディンランデルッ! 万歳っ!」」」
今や、十万にもなろうかと言う群衆から、直接浴びせられる歓声。
――――”意”。
教皇帝ヒルディンランデルは、その”意”を直接、胸いっぱいに吸い込んだ。
胸が破裂するのではないかと思うほどに。




