第247話 そのうち愛想も尽きそう?
王太子との話し合いが終わり、帰りの馬車でレーヴタイン家の別邸に送ってもらった。
王宮に溜まっている魔法具の袋に関しては、近いうちに日程を合わせて行うことにする。
「ちゃす。」
「ミカ君……。」
平日の真昼間に現れたミカを見て、ムスタージフが何とも言えない顔になった。
門番に呼ばれ慌てて駆けて来たムスタージフに、ミカは片手を挙げて挨拶する。
「あのな、クレイリア様は――――。」
「学院でしょ、知ってるよ。 教室で顔を合わせてるし。」
門の前に立ち、ムスタージフが難しい顔になる。
クレイリアの居ない状況で、ミカを入れていいものか考えているのだろう。
婚約者なんて言っても、平民の扱いなんてこんなもんですよ。
「クレイリアと放課後に話をするつもりなんだけど。」
だったら放課後に来いよ、ムスタージフの顔に書いてある。
「少し寝込んでて身体が鈍ってるんです。 相手を貸してもらえませんか。 四~五人くらい。」
第五騎士団でもいいのだが、一度第一街区を出ると入って来る手段がない。
不法な方法しか。
飛んで来ればいいって話ではあるが、一応は自重してみる。
まあ、今のところミカと”神々の遣わし者”はまだ切り離されて考えられている。
少なくとも、市井では。
そのため、クレイリアが帰ってくるまで第一街区に留まり、ついでに運動もできれば一石二鳥。
という素晴らしいアイディアなのだが、ムスタージフはなぜか額に手をあてて溜息をつく。
「……まあ、いいだろう。 ついて来なさい。」
そうしてムスタージフに案内されたのは敷地の一画。
そこでは六人の騎士が訓練をしていた。
「おい、ちょっと手を貸してくれ。」
ムスタージフが声をかけると、訓練をしていた騎士たちが集まって来た。…………全員。
「訓練用の剣を貸してくれ。」
そうして、ムスタージフの指示で全員に剣が配られる。
「なんか…………えらくやる気まんまんじゃないですか?」
ミカがちょっと引き気味に言うと、ムスタージフが口の端を上げる。
「前から少し、気にはなっていたんだ。 君の腕がな。」
ムスタージフはそう言いながら、首を回したり、肩を回す。
「学院での訓練などは見ていたが、そんなもんじゃないんだろう? 何せ、戦場じゃ大活躍だったそうだしな。」
「あの……、今日は【身体強化】を使う気はないんですけど。」
ミカはぽりぽりと頬を掻く。
素の状態でこの人数は死ねる。
「ああ、好きにするがいい。 こちらのやることは変わらんがね。」
ムスタージフが凶暴な笑みを浮かべるのを見て、ミカは顔をしかめる。
く……、ちょっとムスタージフを舐めすぎていたか。
こいつも何だかんだ脳筋思考かよ。
ミカはがっくりと項垂れ、溜息をつく。
そうして、魔法具の袋から聖剣ナマクラ様を取り出す。
ミカの取り出した黒い短剣に、騎士たちがざわつく。
一目見て、”銅系希少金属”だと気づいたのだろう。
「刃は潰してあるので。 安心してください。」
そう言ってミカは、腕に押し当てたナマクラ様を引く。
当然、ミカの腕に傷など付かない。
「”銅系希少金属”で、わざわざ鈍らを作ったのか……?」
「ええ、いいでしょ。」
ミカはにっこりと微笑む。
まあ、普通は訳分からんだろうな。
高い金出して、そんな使い物にならない短剣を作ってどうするのか、と。
でも、戦場でも大活躍だったんですよ、ナマクラ様は。
ミカは軽く身体を解しながら、訓練場の中心辺りに歩いて行く。
騎士たちはミカを取り囲むような位置に、やはり歩きながら向かう。
「【身体強化】は使いません。 使わせたかったら、僕が使わざるを得ないようにしてください。」
「勿論、初めからそのつもりだとも。」
くっそ、ちょっと勘を取り戻すくらいのつもりだったのに。
七対一では、すぐに【身体強化】を使うことになりそうだ。
それでも、なるべく粘ってやる。
「それじゃあ、行きますよ?」
ミカの目がすっと冷えると、ムスタージフたちも剣を構え直す。
ミカは仕掛けられる前に、自分から突っ込んで行った。
まずは正面。
ムスタージフに全力でナマクラ様をお見舞いする。
だが、簡単に受け止められ、そのまま反撃がきてしまう。
(チッ……!)
即座に距離を取り、体勢を整える。
そう言えば、これは短剣の戦い方ではない。
つい自分から仕掛けてしまったが、短剣の本来の戦い方はこうじゃない。
ミカの、【身体強化】無しでの短剣の戦い方は、懐に潜り込むことが第一だ。
戦場に行ってからこっち、【身体強化】を使った戦いばかりですっかり忘れていた。
ミカは後ろから斬りかかった騎士の剣をぎりぎりで躱し、至近距離に踏み込む。
そうして、脇をすり抜け様に、ナマクラ様で膝を後ろから斬った。
深追いはせずに、即座に態勢を整える。
(そうそう、こんな感じ。)
思い出してきた。
うん、やっぱり訓練に来てよかったな。
次々に斬りかかってくる剣を躱し、少しずつ手傷を負わせていく。
仕留められる時に確実に仕留め、無理は禁物。
午前中から始めたこの訓練は、昼に大きな休憩を取ったくらいで、その後は小休憩を挟むだけでずっと続けられた。
「…………呆れました。」
学院から帰って来て、訓練場でぶっ倒れているミカを見たクレイリアは血の気が引く思いだった。
しかし、その理由を聞き、心底呆れたようにそう呟く。
あのミカが長期で休んでいたくらいである。
モーリスから心身が弱ってあまり動けない状態らしいと聞き、居ても立っても居られない気持ちだった。
そのミカが学院に戻って来たのだ。
まだ病み上がりである。
なるべく労わらなくてはと思っていたら、その張本人が自分の家でとんでもない無茶をやらかしていた。
「心配していた私が馬鹿みたいではないですか。」
クレイリアは頬を膨らませ、ぷんすか怒る。
着替えを済ませ、クレイリアの私室で紅茶をいただいているのだが、クレイリアの機嫌が直ってくれない。
「ムスタージフもムスタージフです。 隊長ともあろう者が……。 貴方は本来、ミカの無茶を止める立場でしょう?」
「面目次第もございません……。」
クレイリアに叱責され、ムスタージフが項垂れる。
「ま、まあまあ。 クレイリア。 これは、僕がお願いしたことだから……。」
当初の想定よりも、大分ハードにはなったが。
結局、午前中は何とか素の状態で切り抜け、午後から控えめに【身体強化】を使用した。
当然ながら、ミカは何回も討ち取られている。
本職相手にこの人数は、やっぱきついって。
ミカがムスタージフを庇おうとすると、クレイリアがキッと鋭い視線で見る。
その視線を受け、ミカはぴしっと姿勢を正した。
だらだらと油汗を掻きながら、視線を落としてじっと固まる。
蛇に睨まれた蛙か、俺は?
ちらっと視線を上げてクレイリアを見ると、とても悲しそうな表情になっていた。
クレイリアのその表情に、ミカの胸がズキリと痛む。
「…………ごめんなさい。」
ミカが頭を下げると、少しの間を置いてから、クレイリアの溜息が聞こえた。
「もういいです。 身体の方は、すっかり良くなったということでいいのですね?」
「うん、それはもう。 本当に大丈夫。」
ミカは顔を上げて、クレイリアに笑いかける。
そんなミカを見て、クレイリアはもう一度溜息をついた。
だが、すぐに笑顔を作る。
「今日、早速来てくれたのは嬉しいです、ミカ。 学院長との話はもう済んだのですか?」
「そっちはとりあえず済んだ。 まあ、学院長って言うか、王太子との話ではあるんだけど。」
ミカがそう言うと、クレイリアが表情を引き締める。
クレイリアは、ミカが王太子預かりという身で、処分保留中だということも勿論知っている。
もっとも、何の処分なのかというのは伏せられたままだが。
王太子にも、そこはクレイリアには伝えない方が良いと言われてしまった。
いくらレーヴタイン家の令嬢とは言え、王国の禁忌に関わらせない方が良いという判断だ。
「またちょっと王城に行くことになるけど、多分一日か二日で済む程度だから。」
「軍務に関わることですから、詳細を明かせとは言いませんが……。 本当に大丈夫なのですね?」
ミカが頷くと、クレイリアも一旦はそれを受け入れる。
いろいろ言いたいこと、聞きたいことがあっても、クレイリアはこうして飲み込んでくれる。
それに胡坐をかけば、そのうちクレイリアに愛想を尽かされそうだ。
…………まだ、大丈夫だよね?
手遅れじゃないよな?
ミカは軽く咳払いをし、紅茶で喉を潤す。
そうして、クレイリアに人払いを頼む。
例の如く、ムスタージフとばあやさんは部屋のドアの前に陣取るが、とりあえず会話を聞かれないで済む。
ミカはクレイリアの隣に座り、こそこそと内緒話を始めた。
「それで、一カ月半くらい前に何があったかなんだけど……。」
ミカは、ヒブジーザらしき男にキスティルとネリスフィーネを攫われたことを話した。
その時に、ミカの持つ特殊な力によって、我を失ってしまったことも。
「魔法、ですか……? 【神の奇跡】ではなく?」
「空を飛んだりできるでしょ? あれ以外にもいろいろできるんだけど。」
そう言ってミカは、ムスタージフたちには見えないようにして、小石を手の中で作ってみせる。
「クレイリアなら聞いてるでしょ? 僕がどうやって戦場で戦っていたか。」
「そ、そうですね……。 信じ難い話でしたが、とても不思議な力を使っていたと聞いています。 ……その力で、大軍も?」
クレイリアの確認に、ミカは頷く。
クレイリアも、いろいろと騎士や兵士たちの見たものの話は聞いていたが、それをミカに聞いてきたりはしなかった。
軍務や戦場でのことを、あれこれ聞くのは良くないと思ったのかもしれない。
普通ならそれでも聞いてしまったりするものだけど、クレイリアはとても思慮深く、自制心の強い子になっていた。
もしかしたら、前に自らの軽率な行動で大変な目に遭ったことが影響しているのかもしれない。
「まあ、実際はただの魔力で、火を作ったり、水を作ったりもできるんだけど。 もしかしたら、この力はとても危険なのかもしれない。」
「それはそうでしょう。 大軍をも退ける力です。 使い方を誤ったら大変です。」
「あー……、それもそうなんだけど。 そうでなくて。」
ミカは感情を強く乗せるように魔法を使うことで起きた、自分の変化を伝える。
クレイリアは話を聞きながら、目を見開き、唖然とし、口元を手で覆う。
「狂った……? 完全に、我を忘れて?」
微かに声を震わせ、確認してくるクレイリアに、ミカは重く頷く。
ひどい話である。
貴女の婚約者は狂人です、と自白しているようなものだ。
だが、ミカはこれを隠したままにしようとは思わなかった。
今度こそ愛想を尽かされそうだが、それも仕方ない。
感情を乗せて振るう魔法は危険。
これは、ミカが七万ものグローノワ帝国の軍を殲滅しても、何も起こらなかったことからも明らかだ。
人の命を奪うことが鍵ではない。
感情こそが鍵なのだ。
それは、あの男が怒りや憎しみにこだわっていたことからも分かる。
対策として、感情を無にする必要まではないだろう。
普通に使うだけなら、おそらく問題はないのだ。
振り絞るような、絞り出すような強い感情と合わさることが危険なのだと思う。
ミカは右腕に着けた精神安定の腕輪をクレイリアに見せる。
「今はこれで、いろいろと抑えているんだ。」
ミカがそう言うと、クレイリアはそっと手を伸ばし、腕輪に触れた。
「腕輪をしていれば、大丈夫なのですか?」
「うーん……、絶対大丈夫かは分からないけど、少なくとも凡その見当がついた。 やってはいけないことも分かった。 腕輪はあくまで安全対策で、一番は自分で気をつけることだと思ってる。」
気をつけていても、うっかりしてしまうことはある。…………人間だもの。
精神安定の腕輪は、あくまでそのうっかりで即発狂、とならないための対策だ。
「何より問題なのは、今回は敵が僕を明確に狙ってきたことなんだ。 キスティルやネリスフィーネは、そのために巻き込まれただけ。」
ミカがそう言うと、クレイリアが重い表情で頷く。
「そうして、僕と関わる人はそうやって巻き込ま――――。」
「ミカ。」
ミカの話を遮り、クレイリアが真剣な表情でミカを呼ぶ。
「言いたいことは分かりました。 でも、それ以上は言わないでください。」
そう言って、ミカの手を取る。
「私は、何も変わりません。 何があろうと、私はこれまで通りです。」
「クレイリア……。」
言いたいことを先に潰されてしまった。
何も、ミカもクレイリアと疎遠になろうと思っている訳ではない。
ただ、この件がある程度片付くまでは、ミカの近くにいると危険だと分かってもらう必要があった。
そしてそのために、今だけは、少しだけ距離を考えるべきだ、と。
ミカは肩を落とし、溜息をつく。
そうして、苦笑した。
「……また、抜け出されちゃ困るもんな。」
ミカがそう呟くと、クレイリアが可笑しそうに笑う。
「そうですよ? だから、馬鹿なことは考えないでくださいね。」
そうして一頻り二人で笑い合う。
ミカは笑いを引っ込め、少し真面目な顔になった。
「第五騎士団に男の似顔絵がある。 何枚も模写して、王国中の王国軍や領主軍に指名手配を出してる。 それを貰って来て、屋敷の騎士たちにもよく顔を憶えさせて。」
ミカがそう言うと、クレイリアも表情を引き締めて頷く。
「そいつは、僕と同じ様な力を使う。 【神の奇跡】じゃない。 詠唱なんかなしにいきなり頭を吹き飛ばし、鎧ごと胴体を引き裂く。 そういう力を持っているんだ。」
「呪文もなしに、ですか……?」
ミカの話に、クレイリアが驚いた顔になる。
「はっきり言うよ。 屋敷の騎士じゃ何百人いても護衛にならない。 十二人の騎士が、何の痕跡も残さず消えた。 同じことができる騎士はいる? いれば、その騎士は対抗できるかもね。」
「何の痕跡もなく、ですか?」
「そう。 タネ明かしすると、そいつは違法な魔法具の袋を持っていた。 人を収納できる魔法具の袋だ。 でも、そんなの持ってても、普通は痕跡を残さずに消すことなんかできやしないよ。」
ミカは、若干の胸のざわつきを感じた。
だが、精神安定の腕輪が良く効いてるようで、すぐに心が落ち着く。
「対策の立てようなんかないかもしれない。 でも、知っておいた方がいいと思って。」
「ええ……、そうですね。」
クレイリアが頷くのを見て、ミカは立ち上がる。
伝えるべきことは伝えたのでミカは帰ろうとするが、そこでふと思いつく。
「その……いつも、心配かけてごめんね。」
ミカがそう言うと、クレイリアは目を丸くし、それから深々と溜息をついた。
「今更それを言うのですか、ミカ。」
本当に呆れたように、クレイリアは言うのだった。
そうして、ミカはレーヴタイン家の馬車で魔法学院の近くまで送ってもらう。
クレイリアは、ミカを乗せた馬車を見送った。
「魔力で、石を……。」
そんなことを呟いて。
■■■■■■
火の1の月、3の週の月の日。
学院が終わった後の放課後。
第三街区の喫茶店。
情報屋ギルドの繋ぎ役、レブランテスと打ち合わせ中である。
「じゃあ、荷物は一旦潜らせてから送るからよ。」
「ああ、悪いね。」
「そんなに気にするほどのことじゃねえ。 ちと時間はかかるが、間違いなく送るからよ。」
2区にあるミカの自宅の荷物の話である。
レブランテスに、丸ごと全部をリッシュ村に送る手配をしてもらった。
一旦地下に隠して、もしも追跡者がいたとしても誤魔化せるようにしてもらうのだ。
レブランテスは、すっかりミカの便利屋ポジションである。
そうして、家の契約を終了させる。
ミカは現在、第三街区の宿屋を転々とする生活をしていた。
自宅を襲撃されたということで、今後の自分の家をどうするか、方針が立てられないのだ。
学院の寮では、寮生を巻き込んでしまう。
どこかに拠点を構えれば、そこの周辺に住む人が危険だ。
宿屋も大変ご迷惑をおかけするが、転々としていれば襲撃されるリスクは減るだろうと考え、現在は根無し草生活である。
まあ、食事は用意されるし、有料で洗濯も頼める。
実は、こんな生活でもそんなに不満がなかったりして。
目下の問題は、学院に辿り着かれると厄介だなあ、ということだ。
毎日ではないが、頻繁に通っている。
宿屋などより、学院で堂々と襲えばいいじゃん、とか考えられると非常に困る。
「そうそう、オズエンドルワから伝言だ。 なるべく早くに顔を出してほしいってよ。」
レブランテスが、ミカの用意した引っ越しの代金を数えながら、言ってくる。
最近、ミカは第二街壁の門を通ることがほとんどない。
先日、壊れた短剣の代わりを買いに行ったくらいだ。
そのため、以前のように門の騎士に伝言するのではなく、情報屋ギルドに連絡を取ったのだろう。
「なるべく早く? じゃあ、この後でもいいかな?」
「いいんじゃねえか?」
引っ越し費用の支払いが終わると、ミカは第五騎士団の詰所に向かった。
「済まないね。 急に呼び出して。」
「いえ、それより何かありました。」
オズエンドルワは執務机に腰を下ろし、ミカに数枚の紙を差し出す。
一番上は、ヒブジーザからの置手紙だ。
「そいつのおかげで面白いことになってきたよ。」
そう、心底うんざりしたような顔になる。
とても、面白いことの話ではなさそうだが。
「何があったんですか。」
ミカが尋ねると、オズエンドルワは腕を組む。
「どこから説明するか。 そうだな…………ミカ君から紙を借りる時、気になることがあると言ったと思うんだが……。」
「そうですね。 そう言ってました。」
「私が気になったのは、ずばり言えばミカ君だ。」
「へ? ……僕?」
何だ何だ?
気になるって、まさかときめいちゃったとか、そんな話じゃないよね!?
ミカが表情を引き攣らせていると、オズエンドルワが苦笑する。
「今回の狙いはミカ君だろう? 攫われた二人は、あくまでミカ君をおびき寄せるための、言わば餌だ。」
「え、ええ……、それはそうだと思います。」
そこで、オズエンドルワがミカを指さす。
「他にもミカ君を狙った奴に、思い当たることはないか?」
「他……?」
他にミカを狙った奴と言えば……。
「教会を唆した…………、ヒュームス?」
「その通りだ。」
そう言ってオズエンドルワが足を組む。
「二人に接点があるのかどうかは分からん。 同じ目的なのかも、正直言えば分からない。 だが、偶然にも二人に狙われたことは事実だ。」
「ええ、確かにそうです。」
「そこで、私は仮定としてこの二人には何か繋がりがあったのでは? と、そう考えた訳だ。」
「なるほど……。」
ロクでもない奴同士、どこかで繋がっていてもおかしくはない……?
悪いことする奴は、だいたい友達ってやつか?
「しかし、残念なことにヒュームスに関してはまったく手掛かりがない。 七公国連邦から来たというのも、どこまで本当か分からん。」
「そうみたいですね。」
ガエラスが偽名や嘘の身分ではないか、と言ってたっけ?
「ところが、もう一人関係者らしき人物がいる。」
「もう一人?」
「憶えていないか? アークゥという男だ。」
「あぁー……、言ってましたね。 確か、アム・タスト通商連合の実業家とか何とか。」
でも、こいつも雲隠れしちゃったんじゃなかったっけ?
「ミカ君のことに、このアークゥという奴は直接は絡んでいない。 あくまでヒュームスと繋がりがあったらしい、というだけだ。」
オズエンドルワは組んでいた腕を解くと、机に手をつく。
「ただ、こいつは事業を行っていたので、その事務所に通商連合の捜査が入っている。 関係者数人も逮捕されているんだ。」
「あ、そうなんですか。」
それは初めて聞いたな。
オズエンドルワは、ミカに渡した数枚の紙を指さした。
「通商連合まで人をやって、事務所から押収された書類に、その紙と同じ筆跡がないか調べさせた。 当たりだ。」
「うそっ!?」
ミカは渡された紙を慌ててめくった。
メモ書きのような物もあるし、こっちは……宿屋の台帳か?
「サンプルとなる文字が少ないので絶対ではない。 だが、いくつかの共通点から可能性は高そうだ。 ラタジース伯爵領を、ラタジーズ伯爵領とスペルミスをしているだろ? 押収したメモ書きでも同じミスをしていた。」
筆跡が似ているだけでなく、同じスペルミスまでしていたとなると、確かに可能性は高いと思う。
「誰なんですか、そいつ。 やっぱり、ヒブジーザですか?」
「いや、イークリースという男だ。」
「イークリース?」
聞いたことのない名前だ。
ミカが眉間に皺を寄せると、オズエンドルワは深い溜息をつく。
「面白くなってきたと言っただろう? 残念ながら、我々はそのイークリースを知っているんだ。 …………誰だと思う?」
イークリースを知っている?
ミカはまったく見当がつかず、首を振る。
オズエンドルワはそんなミカを見て、小さく息をつく。
「赤茶けた髪の青年だ。」
「………………………………え?」
ん?
ちょっと待って?
「いやいやいや、何ですかそれ。 おかしいでしょう。 何言ってんですか!」
オズエンドルワが首斬ったやんけ。
それも、半年も前に。
「身体的特徴、間延びした口調、所持していた首飾りを身につけていたこともあり、それを事務所の関係者が見ている。 赤茶けた髪の青年で間違いない。」
「ヒブジーザの正体が赤茶けた髪の青年!? 本気で言ってるんですか!? 首を刎ねた本人が!? 目の前でそれを見ていた僕に!?」
ミカがそう捲し立てると、オズエンドルワは肩を竦める。
「…………中々面白い話だろう?」
「ええ、そうですね!」
ちっとも面白くないけどなっ!
だが、その時。
ミカの頭の中に、フラッシュバックのように蘇る。
『あれー、テーちゃんだー。』
『だめだよー。 勝手に話しちゃあー。 首ねじ切るよー?』
『テーちゃーん。 これ引っ込めないー? これじゃあ、話もしにくいしー。』
『殺すー? テーちゃんをー? 何でー?』
赤茶けた髪の青年と、ヒブジーザの言葉。
ミカは思わず頭を振った。
(死人が蘇ったって? そりゃ”動く死体”はいるさ。 けど、”不浄なる者”は自我が――――。)
そこまで考え、ミカの思考が完全に停止してしまう。
愕然とした表情で固まってしまったミカに、オズエンドルワが訝し気な顔になる。
「…………どうかしたのかい、ミカ君?」
だが、声をかけられても、ミカにはそれが聞こえなかった。
真っ白な思考の中、ミカは心の中で呟く。
ルネーシー……。




