第246話 精神安定の腕輪
火の1の月、2の週の火の日。
第五騎士団の詰所で話し合ってから、二週間が経過した。
その間ミカは宿屋に籠っていたが、籠りっぱなしだった訳でもない。
まず、第五騎士団の人に家から魔法具の袋を持って来てもらった。
キスティルとネリスフィーネの物だ。
ついでに魔法具の袋もいくつか買ってきてもらい、家の物を適当に詰めてもらった。
これをリッシュ村に届けに行ってきた。
それと、王都の北にある山に、数日間山籠もりにも行っていた。
筋トレで鍛えても、鈍った身体は戻らない。
自然の中に身を置き、魔獣たちと戦うことでこそ、ミカの身体と感覚は研ぎ澄まされる。
ところが、困ったことが一つあった。
魔獣が逃げるのだ。
ソウ・ラービを捕まえる時にもちょっと気にはなったのだが、その時は視認、即捕縛したのではっきりとは分からなかった。
しかし、こうして実際に山に籠って、はっきりと分かった。
魔獣たちは、ミカの気配を感じ取っただけで即行で逃げ出している。
これには、ミカも苦笑いしか出ない。
まあ、アグ・ベアとかなら逃げ出しはしないだろうが、そうそう見かけるものではない。
というか、この北の山にアグ・ベアなんかいない。
山の東に回り込み、森を探せばいるだろうが、今回はやめておいた。
あくまでリハビリだ。
山の中で小型の魔獣を追っかけ回し、狩る程度に留めておいた。
そうしてリハビリすることで、ようやくミカは元の身体のキレを取り戻していった。
ミカが宿屋の部屋で腹筋をしてると、アーデルリーゼとノッツェミューラが訪ねてきた。
試作品の第三号を持って来てくれたようだ。
言うまでもないが、第二号も当然のように失敗した。
ただ、二号の失敗で何かヒントは掴めたようで、ノッツェミューラが「今度はそれを試してみる」と言っていた。
「…………どうだい?」
ミカが腕輪を装着し、目を閉じてじっと動かないでいると、ノッツェミューラが声をかける。
「効いて、ますね……。 心の中のざわつきが、ほとんど起こらない……。」
ミカが呟くようにそう言うと、アーデルリーゼがほっとしたように息をつく。
これまで、ヒブジーザのことを考えるだけ暴れ出したくなる衝動に襲われた。
まあ、この腕輪を付けていても「ぶっ殺してえ」とは思うが、それはごく普通の範囲だろう。
必死に抑え込まなくてはならないような衝動が突き上げて来るようなことはなくなった。
「いろんな神々の加護を盛り込んだわ。 相反する神々の力もあって、バランスを取るのが難しかったけど……、何とかなって良かったわ。」
【付与】の材料となる素材には、神々の加護を宿す、と言われているものがある。
実際のところは、特定の効果が対応する神に紐づけられ、そう言われているだけだろうが。
「……まさか、【偽りの神】のお世話になるとはね。」
ミカは思わず苦笑した。
ミカの殺気を消すというか、誤魔化すために【偽りの神】の加護を宿す素材、というのを使ったそうだ。
最初は殺気を抑える方法で試していたが、試作の一号二号ともに効果が無かったため、アプローチを変えたという。
(【偽りの神】とか、寓話の中のお笑い担当かと思ったけど、役に立つじゃないか。)
そんな、失礼な感想を持ってしまった。
「ヤロイバロフかオズエンドルワに聞いてみないと、どの程度抑えられているか分からないけど……。 私が見る限り、いつもの坊やに戻った感じがするわ。」
そう言ってアーデルリーゼが微笑む。
どうやら、これまではアーデルリーゼから見ても、相当にやばい気配を撒き散らしていたようだ。
「心を落ち着けるだけの魔法具も、このレベルになるとかなり危ういバランスで保つ必要があるんだねえ。 中々作り甲斐があって面白かったよ。」
ノッツェミューラがにやりと笑う。
(完全に面白がってんな、この婆さん。 最初の品の良さはどこ行ったんだよ。)
そんなことを思いつつ、ミカは右手に装着した腕輪をそっと撫でる。
この腕輪には、二つの効果が備わっている。
殺気の隠蔽と、精神の安定。
【偽りの神】は隠し事や隠蔽なんかを司るので、これでミカの殺気を誤魔化すことに成功した。
精神の安定は、主に光の神やその眷属神の力を利用しているそうだ。
ただし、光の神は他の五つの神が揃わないと安定しない。
そのため、結局は土、火、水、風、闇、それぞれの神の力も組み込み、打ち消し合ったりされる力を何とかバランスを保ち、高い効果を引き出しているという。
(精神安定剤代わりか……? 精神安定の腕輪ってとこか。)
魔力安定の魔法具、盛り盛りの腕輪に続き、三つ目の装備品。
左腕に盛り盛りの腕輪。
右腕に精神安定の腕輪。
そして、耳飾りに首飾り、両手の人差し指と小指に魔力安定の魔法具。
装飾品がじゃらじゃらである。
とはいえ、これでようやくまともに王都内を歩くことができそうだ。
「ありがとうございました。 お二人がいなければ、どうなっていたことか。」
しみじみそう思う。
だが、ミカがお礼を伝えるとノッツェミューラは首を振る。
「御使い様のおかげで、本当に楽しませてもらってるよ。 こっちがお礼を言いたいくらいさ。」
「偉大なる母……。 それはちょっと。」
あまりに正直過ぎるノッツェミューラに、アーデルリーゼも苦笑いである。
ミカも釣られて苦笑するが、すぐに溜息をつく。
「……はぁ……これでようやく学院にも顔を出せるけど、いろいろ言われるだろうなあ。」
一カ月半くらい学院に行っていない。
一応、王都に戻ってから手紙を出し、近々顔を出せそうだというのは伝えておいたが。
(憂鬱だけど、このままって訳にもいかないよなあ……。)
学院長、王太子には突っ込んだ事情を聞かれるだろう。
キフロドにも心配をかけていると思う。
何より……。
(パラレイラが放置になっちゃってるからなあ。 どうなってることやら。)
一応、オズエンドルワには王都内での【爆炎】騒ぎなどが無かったか、割と本気で確認してしまった。
ミカが突拍子もないことを真剣な顔で聞くものだから、オズエンドルワも目を丸くしていたが。
しばらくは後始末が大変そうだと、ちょっとげんなりするミカなのだった。
■■■■■■
火の1の月、2の週の水の日。朝。
ダンッ!!!
「…………ふざけるなっ……!」
パラレイラは机に叩きつけた拳を震わせる。
精神安定の腕輪も出来上がり、翌日ミカは久々の学院に向かった。
ただ、学院長に会うといろいろ面倒な話も出そうだと思い、先にパラレイラに会いに来たのだが……。
「久しぶりに顔を出したかと思ったら、そんな下らない話をしに来たのかっ!?」
パラレイラは激しい憎悪を瞳に宿し、ミカを睨みつける。
ミカはヒブジーザが、何者かのなりすましの可能性があることを伝えた。
「筆跡が違うだと!? だからどうしたっ! それが何なんだ!? 奴がヒブジーザなのは間違いないんだっ!!!」
パラレイラはガタンッと椅子を鳴らして立ち上がると、部屋を出て行こうとする。
「ちょっと、パラレイラさん!? どこに行くんですか!」
ミカがパラレイラの腕を掴んで引き留めると、パラレイラはその手を振りほどく。
「……お前が情報を集めるからと大人しく待っててやれば、下らねえ与太話を持って来やがって……!」
パラレイラは吐き捨てるように言うと、そのまま寮を出て行ってしまう。
おそらく、また自分で探し出すつもりなのだろう。
ミカは、足早に去っていくパラレイラを茫然と見つめる。
ちょっと、パラレイラの憎しみを甘く見ていたかもしれない。
(…………そう言えば、ネリスフィーネに気を付けろって言われていたんだった。)
ミカが王都に戻ると決めた時、ネリスフィーネが教えてくれたのだ。
パラレイラを家に連れて行った日、ネリスフィーネは真っ青になっていた。
あれは、パラレイラを見て血の気が引いたのだそうだ。
ネリスフィーネは【祝福】により、”何か”が見える。
良くない物が出ている人、というのがあるそうだが、あの時のパラレイラは、正にその良くない物を噴き出している状態だったそうだ。
そういう人の周りでは、良くないことが起きる。
経験からそれを知っていたネリスフィーネは、そんなパラレイラを連れ帰って来たために青くなったのだ。
ちなみに、今のミカも同じような状態になっていたそうだ。
そんなのが見えても傍に居続けてくれたのだから、本当にネリスフィーネには感謝しかない。
(とは言っても……。)
ミカはかりかりと頭を掻く。
どうやら、思いっきり下手を打ってしまったようだ。
はぁ……と肩を落とす。
「…………そりゃ、確かに……絶対に本人じゃないとは言い切れないけど……。」
筆跡鑑定もサンプルが少なすぎては、当然ながら精度は落ちる。
とはいえ、ヒブジーザだと断定するにしても、その証拠がない。
言ってみれば、パラレイラの勘でしかないのだ。
(何か、見落としてるのか……?)
もやもやした気持ちを抱えたまま、ミカは仕方なく教室に向かった。
「ミカ君っ!?」
教室に入ると、リムリーシェが大きな声を上げた。
途端に教室中の注目が集まってしまった。
なんか、久々過ぎてちょっと気恥ずかしい。
「おはよ。 おひさ。」
そんな、軽い口調で自分の席に向かう。
どうやら、ミカの席はそのまま空けてあるようだ。
よかった、よかった。
「ミカ……。」
クレイリアは複雑な表情をしている。
きっと言いたいこと聞きたいことがいっぱいあるのだろう。
だが、それらを飲み込み、笑顔を作った。
「……今日は、お時間はどう?」
教室では話がしにくい。
時間があるなら、放課後に家に一緒に来いということだろう。
だが、ミカは肩を竦める。
「分からない……。 分かるだろ?」
どうせこの後、学院から呼び出しを受ける。
すぐに王太子にも話が行くだろう。
ミカの予定は、それら次第になる。
ミカはクレイリアの耳元でそっと囁く。
「……でも、近いうちに必ず時間を取るよ。」
それだけ伝えて、素知らぬ顔に戻る。
そうして、レーヴタイン組の皆やリムリーシェからの質問攻めに、適当に答えるのだった。
授業が始まる前に、学院の講師がミカを呼びに来た。
どうやら、ミカが姿を現したと報告がいったらしい。
荷物も持って来るように言われ、講師に先導されながら廊下を歩く。
だが、講師は学院長室に向かわず、違う方向に行く。
(…………どこに行くんだ? 外?)
講師はそのまま学院の正門に向かった。
正門の外には、一台の立派な馬車が用意されていた。
講師が馬車のドアを開けると、中にはモーリスが乗っていた。
どうやら、モーリスと一緒にお出かけのようだ。
とりあえず何も聞かず、黙って馬車に乗る。
そうして馬車が動き出してから、モーリスに尋ねた。
「王太子殿下、ですか?」
ミカがそう尋ねると、モーリスは眠ったような顔のまま答える。
「手間が省けて良かろう?」
「まあ、そうですね。」
どうせモーリスに話し、王太子と話し、と同じ話をすることになるのだ。
一緒に済ませてくれた方が、確かに手間は省ける。
その後は特に話もせず、黙ってどこに行くのか外を眺めていた。
第一街壁の門を越え、どうやらムンバーロ子爵の時に連れて行かれた屋敷に向かうようだ。
屋敷に着くと二階の部屋に案内される。
この屋敷、常に近衛の騎士に守られてんだね。
まあ、当然といえば当然か。
そうして、ソファーにモーリスと並んで座っていると、少しして屋敷内の人の動きが慌ただしくなった。
王太子が到着したのだろう。
モーリスが立ち上がるのに続き、ミカも立ち上がる。
ドアが開けられるとモーリスが頭を下げた。
ミカも同じように頭を下げると、数人の騎士に続いて王太子が入室してきた。
王太子に続いて更に数人の騎士が入室する。
これで、元々部屋の中にいた騎士も含め、二十名くらいの騎士がいることになる。
いくら何でも多すぎじゃね?
「無事だったようだな。 よく戻った。」
王太子がミカに、そう労いの言葉をかける。
ミカは首を傾げた。
「何があったか、詳しく話せ。」
王太子に促されるが、ミカは戸惑う。
人払いしなくてもいいのか?
ミカがそう思って騎士を見回すと、王太子も少し思案する顔になった。
そうして、老騎士一人を残し、他を廊下とバルコニーの警護に就かせた。
人払いがされたことで、とりあえず少しだけ詳しい話をする。
家族同然の人を攫われたこと。
賊と戦わされたこと。
心身が弱り、まともに動けなくなったこと。
キスティルとネリスフィーネは婚約が破棄されたことになっているので、あくまでミカにとって家族同然ということにした。
そして、ミカの魔法について変な制限を受けたりしたくないので、あくまで賊との戦いで心身が疲弊したということにする。
くそ……、【癒し】なんてものがなければ「重傷を負った」で済む話なのに。
「元宮廷魔法院の魔法士か……。」
ミカの話を聞き、王太子が難しい顔をして呟く。
「そこについては怪しいと僕は思っています。 字が違いすぎるので。」
「ふーむ……、確かに文字には人それぞれに特徴が出るが……。 それだけで別人と断定するのも危険じゃろう。」
「それは、確かにそうなんですが……。」
モーリスも、ヒブジーザ別人説には懐疑的なようだ。
というよりは、本人とも別人とも断定せずに考えている感じ。
俺が別人説に寄り過ぎなのだろうか?
王太子が足を組み、軽く背もたれに寄りかかった。
「何にしろ、無事に戻ってくれて良かった。 これからは其方にも護衛をつけよう。」
「へ?」
王太子のいきなりの発言に、ミカは目をしばたたかせる。
「何で……?」
「何でじゃないだろう。 其方こそ何を言っている。」
王太子が呆れた顔になる。
「今回のことが、グローノワからの攻撃の可能性がある。 もしかしたら、其方を謀殺するよう教会を唆したという連中も、グローノワの工作員かも知れぬぞ?」
そう真剣な顔で言った。
「我が国の光神教を、グローノワの教会は認めておらん。 教会を弱体化させれば、戦争の時にも有利に働く。 そして、事実そうなっている。」
各地の教会で腐敗が進み、中には癒し手と呼ばれる人たちにも堕落しきった人がいたそうだ。
そうした癒し手たちは労役ではなく、もれなく【神の怒り】の研究施設行きとなったようだが……。
「こうなると、教会を一気に腐敗させてみせた前教皇も、グローノワの手先だった可能性があるな……。 まだ生かしておくべきだった。」
そう、悔しそうに王太子は呟く。
すでに不正も調べ終わり、ミカの引き揚げした魔法具の袋で不正蓄財や隠していた文書なども洗いざらいにしたので、斬首が済んでいるという。
「どこでどう其方の情報を得たのかは知れんが、以前からマークされていた可能性も否定できない。 否定する材料が何もないのだから。」
さすがにそれは考えすぎじゃね、と思わなくはないが、確かに否定するような材料はない。
あまり目立たないようにと思いつつも、結構魔法も使ってきている。
”解呪”を葬り、ミカを葬り、教会も葬る。
一石三鳥の策という見方もできなくはない。
(でも、護衛ってのは困るな。)
正直、ミカ一人のことなら今回も問題はなかったのだ。
戦って勝てるかは別にしても、本気で逃げて逃げ切れないとは思えない。
人質を取られ、逃げることができなかったことが問題なのだ。
ミカはしっかりと息を吸い込み、真っ直ぐに王太子を見てきっぱりと言う。
「僕に護衛は必要ありません。 むしろ、護衛の人を見捨てて逃げる方が厳しいです。」
いくらそれが任務だと言っても、やはり誰かを見捨てて逃げるようなことは忌避感がある。
ミカがそう言うと、王太子がモーリスを見る。
モーリスが片目を開けて、ミカをじっと見ているのを感じた。
すっごい、居心地が悪い……。
ミカも、また襲撃される可能性は勿論考えている。
そのために、キスティルとネリスフィーネにはリッシュ村に居てもらっている。
正直、リッシュ村を襲撃されたらお手上げ状態なのは、どうにも手を打ちようがない。
王太子でも領主でも、頼んで兵を置いてもらう?
ミカと同じような魔法を使う奴に、普通の兵が何の役に立つのか。
それに、下手に兵を置けば、そっちの方が目立つ動きになってしまう。
そのため、リッシュ村についてはバレていないことを祈るしかない。
そして、今からならミカ関連の情報を探れば、ミカの耳にも入ることになる。
表でも裏でも、探ろうとする動きは情報屋ギルドが網を張っているからだ。
実際、御使いの正体や噂の錬金術師を探る動き自体は、いくつも察知していた。
そうした者たちには裏の裏まで探りを入れて、怪しげな背景の無い者でも後ろ暗いネタを暴露するという制裁を加えている。
実際、それでもう何人かお縄についていたり。
大して後ろめたいネタの無い者には、怖~いお兄さんたちが派遣されます。
4区の酒場で張りぼてをやってた用心棒も、派遣されているそうです。
何だか、やってることがすっかりマフィアのボスである。
「お主の方から、何か要望はないのか?」
モーリスは目を閉じて、そんなことを言ってくる。
「要望、ですか?」
「そうだ。 お主が安全に暮らすために、自分で必要だと思うものじゃ。 隠れ家を第一街区に欲しいとか、何かないか?」
モーリスの発言に王太子も頷く。
確かに第一街区に隠れ家を持てれば、いざという時には助かるかもしれない。
だが、無茶苦茶なことをしてくる奴が相手では、いたずらに被害を拡大しかねない。
貴族が巻き添えになったとか、手に負えない事態になる予想しか浮かばなかった。
「今は特に思い浮かびません。 強いて言えば、国からのちょっかいを止めてもらえれば、それだけで助かるんですけど。」
魔法具の袋の引き揚げもそうだが、何か言ってくるとそれに振り回されてしまう。
ただでさえ厄介な状況なのに、そんなことにまで煩わされたくはなかった。
王太子が腕を組み、少し困ったような顔になる。
「ふーむ……。 実は、すでに魔法具の袋からの取り出しの話が、結構あるのだが。」
ミカが雲隠れしていた間に、もう次が用意されていた。
「一切止めた方がいいか? 正直、それはちょっと難しいのだが……。 私としても、その力をアテにするなと言われると、少々困るな。」
以前の問答無用でやれ、という状況とは違い、王太子はいろいろ配慮してくれそうな感じだった。
「魔法具の袋に関しては、いつ行うか、とかスケジュールの調整をしてもらえるだけでも助かります。 以前は、いいから来い、みたいな感じだったので。」
「それについては大丈夫だ。 其方に関してのことは、一度私に話を通すように言ってある。」
「ご配慮、感謝します。」
王太子預かりという地位も、案外悪くないかも。
一蓮托生という形ではあるが、王太子が安泰なら、ミカも安泰という訳だ。
王太子に切られなければ。
今のところは王太子もミカの力をいろいろアテにしているので、とりあえずは大丈夫だろう。
(近いうちに魔法具の袋は片付けに行くか。 あんまり先延ばしにすると、王太子が突き上げを喰らうかもしれない。 王宮内の王太子の立場を揺るがすことは、自分のためにもならないからな。)
引き揚げに関しては報酬など高が知れているので、特に求めなくていいだろう。
その代わり、必要な時に王太子に便宜を図ってもらう方が得だ。
モーリスと王太子の話し合いが思ったほど面倒な話にならず、ほっと胸を撫で下ろすミカなのだった。




