第235話 夜会との協定
水の2の月、4の週の火の日。
春らしい、爽やかな王都の朝。
そんな青空の下、
「こんにゃろ、待ちやがれ!」
ミカは大聖堂の屋根の上で、フィーと遊んでいた。
ふよふよ~……と浮かんだフィーを捕まえようと手を伸ばすも、フィーは素早く躱す。
ミカは”吸収翼”を背にしたまま、空を自由に飛び回り、フィーを追いかけ回していた。
眼下の大通りには人々が溢れ、多くの人がミカを指さして眺めたり、祈ったりしている。
これは、教会の宣伝工作の一つ。
”神々の遣わし者”が教会を見守っている、神の意とともにあるという印象操作だ。
国に【神の怒り】を使ったと疑いをかけられたミカは、王太子の預かりという立場にあり、処分はあくまで保留という微妙な立場。
つまり、王太子がミカを切り捨てない限りは、ほぼ安泰と言っていい。
ただ、ミカも王太子のことを心底信用しているという訳ではないので、別の後ろ盾、支えを持つことにした。
それが教会だ。
ミカは正式に、教会にバックアップを頼むことにした。
教会は”神々の遣わし者”との関係が良好と信者たちに思ってもらえば、離れていた信者たちが戻ってきてくれる。
ミカとしては、ほぼすべての国民が信仰する宗教を後ろ盾にし、いざとなれば「扇動しちゃうよ?」と思わせることができる。
国、王太子、教会が互いに窺い合う状況に持ち込んでいる最中だ。
実際、前教皇が好き勝手やっていたことがバレて以降、教会は非常に苦しい状況だった。
寄付なども激減したらしい。
まあ、生臭坊主の飲み食いやご乱行に使わせるために寄付してたわけじゃないもんな。
ふざけんな、金返せ、の大合唱が起きたのも当然と言えば当然だ。
ミカは、その教会の信用回復に一役買った、という訳だ。
ちなみに、王都の空が光った「光の神の奇跡」も、最近ではミカのせいにされているらしい。
俺じゃないのに……。
(まあ、保護者責任はあるか?)
そんなことを思いながら、ミカが素早く手を繰り出すも、フィーは後ろに回り込んでしまう。
どうにも推進力が風力のため、空中ではキビキビした動きができない。
とはいえ「地上なら捕まえられるか?」と言うと、そうでもない。
もしかしたらフィーは、本当に光速で移動できるのではないだろうか、とちょっと本気で疑っている。
「御使い様ぁ! お時間です!」
大聖堂の一番高い窓から、教会の人がミカに呼びかける。
本日のアルバイトはここまでのようだ。
「おーい、帰るよー。」
ミカはフィーに声をかけてから、大聖堂の窓に向かう。
いつの間にかフィーは、ミカの左肩に乗っていた。
やっぱ速えな、おい。
「お疲れ様でした、御使い様。」
ミカが窓から入ると、恭しく跪き、十人ほどの男女がミカを迎える。
この人たちは、教皇やキフロドが特に敬虔な者として、ミカの世話役を任されている人たち。
笑顔で「”神々の遣わし者”のためなら死ねる」と言ってのける狂信者たちだ。
”笑う聖母”の上位版。
…………いや、同類か?
ちなみに、教皇はブラホスラフのままだ。
国王は教皇を罷免すると言ったが、実際の罷免には手続きが必要だからだ。
あの場では罷免の手続きを指示したが、どうやら手続きは行われていないらしい。
そのため、教皇位が空位ではない時に”神々の遣わし者”が次の教皇を指名したということになる。
そうなると、当然ながらそちらも無効。
結果的には、何も変化なし、ということになった。
ミカは羽織っていた白いローブを脱ぐと、学院のローブを受け取る。
この白いローブは、アルバイトの制服。
”神々の遣わし者”としての演出の一環らしい。
ミカは大聖堂の階段を下りて、礼拝堂に入る。
後ろにずらずらと付き従う狂信者たちにも、少し慣れてきた。
最初はかなり落ち着かなかったけど。
「フィー。」
ミカが肩に乗ったフィーに声をかけると、フィーはスゥーと消えていく。
ミカが礼拝堂に入ってきたことに気づき、キフロドが声をかけてくる。
「おお、ミカ。 ご苦労じゃったの。」
「いえ、遊んでただけですから。」
この程度で印象操作になるなら、お安い御用だ。
「これから学院か?」
「んー……、ちょっと別件があるかな。 その後に学院にも顔を出すつもりだけど。」
ミカは頬をかりかりと掻く。
現在、ミカは自由登校状態だ。
王太子預かりという立場を得たことで、学院に必ず通わなくてはならないという訳ではない。
そもそも、学院で飛び抜けた成績を収めていたミカが、戦場でも大きな実績を残した。
こいつ、学院に通う意味ある?というのは、当然の疑問だ。
そのため、なるべく顔を出すけど、他にやることがある時はそっちを優先するよ?という特例が認められた。
学院長も、王太子側だしね。
ミカは大聖堂の裏口から出て、第三街区のボロ家に向かった。
世話役の狂信者たちは、大聖堂で通常の業務に戻る。
あの人たちは、あくまで教会関連の時だけミカに付く。
でないと、ミカが鬱陶しいから。
最近、その世話役の人たちに名前を付けようとしている、と教皇から教えてもらった。
その最有力候補が『聖餐隊』。
この人たち自身が、”神々の遣わし者”のための贄ということらしい。
俺の知ってる『聖餐』と違う……。
ミカは立場固めのためにいろいろ動いているが、ミカ=”神々の遣わし者”だと知る者は、実はそこまで多くない。
戦場を派手に飛び回ったが、それはただの”神々の遣わし者”だ。
ミカという学院生を知る者は、一般の騎士や兵士ではまったくと言っていいほどいない。
教会のアルバイトでも同じだ。
ミカは大聖堂に、正面や裏口から普通の子供として出入りしている。
皆はキフロドや教皇、枢機卿の知り合いとしか思っていない。
まあ、ええとこのボンボンくらいには思ってるかもしれないけど。
スマホでも普及してれば飛んでるところをパシャパシャ撮られて、ばんばんインターネットに上げられて、とか起きるがこの世界にそんな物はない。
おかげで、ちょっと見られたくらいでは、そう簡単にはミカ=”神々の遣わし者”という情報が広がらないで済んでいる。
基本的には、ただただ「有難や~」と拝んでくるだけなのだ。
なので、知る人は知っているけど、一般の人はまず知らない。
そういう状況になっている。
「お待たせしました。」
ミカがボロ家に入ると、中にいた人たちが立ち上がる。
中にいたのはアーデルリーゼと、裏魔法具連の代表ノッツェミューラ。
そして、
「お久しぶりです。」
ミカがそう声をかけると、二人の男が苦笑し、別の一人が苦虫を噛み潰したような顔になった。
「まさか、こうしてまた顔を合わせることになるとは思いませんでした。」
苦笑していた男の一人が、当たりも柔らかく言う。
この男の人は、4区の酒場でマスターをしていらっしゃいます。
そう。
偽”解呪師”事件の時に、ミカが家を貸してもらったお店のマスター。
暗殺者ギルドで幹部を務め、名前をユースバルトと言うらしいです。
やっぱり、暗殺者ギルドの幹部だったんだね。
どうりで貫禄があると思ったわ。
マスターの隣に座る男は、偽”解呪師”事件の時にお世話になった情報屋ギルドの窓口。
名前をレブランテス。
「随分と出世したじゃねーか。 なあ、”解呪師”さんよ。」
「出世って言うんですか、これ?」
そう、二人で笑い合う。
ミカは、渋い顔をして横を向く男に声をかける。
「またお会いできて嬉しいですよ。」
そう言われた男は、増々顔を渋くした。
この男はデリバリー。
ミカが教会の尖塔に監禁されていた時に、食料と情報を届けてくれていた男だ。
「…………もう、声かけんなっ言ったろうが。」
男はそう小さく呟くが、ミカはにこにこと笑顔を向ける。
名前をエフモントと言うらしいです。
ミカが手で促すと、全員が着席する。
ミカも席に着き、全員をゆっくりと見回す。
「さて、それぞれの意見をお持ちいただけたと思いますので、早速伺いましょうか。」
ミカがそう言うと、ノッツェミューラが頷く。
「私どもは、以前より御使い様と協力関係にあります。 異存はございません。」
ノッツェミューラの言葉に、ミカがやや微妙な顔になるが、頷く。
その御使い様はやめてほしいんだけどなあ。
「情報屋ギルドは如何ですか?」
ミカが話を振ると、レブランテスが頷く。
「もう少し突っ込んだ確認がしたいそうだが…………概ね合意だ。 もう動くところは動いてる。」
レブランテスの言葉にミカは頷き、マスターに視線を向ける。
「暗殺者ギルドとしても、概ね合意です。 元々、我々は”解呪師”の敵に回るつもりはありません。 このお話をいただく少し前にも依頼があったようなのですが、お断りしていたそうです。」
「依頼があった? どこでですか?」
「七公国連邦の支部です。 おそらく依頼に来た男も代理人でしょう。 実際の依頼者までは辿れなかったようです。」
「そうですか。」
七公国連邦で”解呪師”の暗殺依頼?
そういえば、ミカの首に三億を懸けたヒュームスとかいう女が、七公国連邦から来たという話じゃなかったか?
何か、繋がりがあるのだろうか。
少々気にはなるが、今はこっちに集中しよう。
ミカはデリバリーを見る。
デリバリーは渋い顔をしつつも、ミカに頷く。
「盗賊ギルドも異存はねえ……。 つーか、何で俺が使いっ走りやらされてんだよ。 幹部と話してくれよ。」
「使いっ走りは俺も同じだ。 まあ、諦めるんだな。」
不満気なデリバリーを、同じ使いっ走りのレブランテスが宥める。
この二人は、それぞれのギルドでも、幹部という訳ではない。
ただの構成員だ。
だが、ミカと縁ができたのが運の尽き。
噂の御使い、そして”解呪師”からのリクエストとして、担当に抜擢されたのだ。
「僕との繋がりを利用すれば、幹部入りも夢じゃないですよ? あんまり悪戯が過ぎると、しばきに行きますけど。」
「幹部になんかなりたくねえんだよ! こっそり細々とやりたいんだよ、俺は!」
デリバリーが不貞腐れるが、マスターがちょっとだけひんやりした目になった。
「突然のことで戸惑うのは理解できますが、そろそろ腹を据えましょう。 何なら、お手伝いいたしますよ。」
そろそろ暖かくなってきたと言うのに、マスターの息だけは白くなりそうなくらいひんやりしている。
つーか、腹を据える手伝いって、何する気だよ!
「僕の方から無理を言って来てもらっていますので、あまり責めないであげてください。 …………エフモントさんも、お願いします。」
ミカがそう言うと、デリバリーは大きく溜息をついて、頷く。
この場に各ギルドから代表や代理を集めたのは、勿論考えがあってだ。
ミカは夜会と協力体制を取ることにした。
王太子と教会が牽制し合う状態から、夜会も加わった更に複雑な状況に持っていくために。
もっと言えば、国が何か強行して来た場合には、この三者で協力させる。
現在、ミカを取り巻く勢力はレーヴタイン侯爵、国、王太子、教会。
そこに夜会も絡ませて、三竦みどころか五竦みにして、それぞれが迂闊には動けないという状況を作るのだ。
勿論、進んで争わせるつもりはない。
だが、権力であろうと、暴力であろうと、ミカに何か仕掛けてくればあらゆる方面から攻撃を受ける。
そういう状態に持ち込むのだ。
情報屋ギルドとのパイプにガエラスを使わなかったのは、ガエラスには別で何か動いてもらうこともあり得るからだ。
それなら、窓口は窓口で、別に専用を用意してもらおうと考えた訳だ。
(面倒なこと、この上ないな……。)
そう思わなくはない。
この国の総力。
表も裏も相手にすることになる。
だが、これまで意図的に避けていた、そうした勢力と無縁ではいられなくなってしまった。
ミカが関わりたくなくても、向こうから勝手に迫って来て、雁字搦めにしてくるのだ。
ならば、仕方ない。
圧倒的な暴力と、表と裏の政治力をフルに活用し、自分の自由は自分で守るしかない。
やや窮屈な自由ではあるが、そこは受け入れるしかないだろう。
ミカは各ギルドの意見を聞き、頷く。
「では、大筋合意ということで、協定を結びましょう。」
協定とは言っても、内容は安全保障条約である。
何からの安全を保障するのか。
それは、ミカという脅威からである。
ミカが本気で暴れたら、裏の組織であろうと壊滅は必至。
今の夜会は、ミカが「あいつらは敵か?」と疑念を抱くだけで、壊滅されかねない脅威にさらされているのだ。
そこで、あらぬ疑念を払拭し、常に話し合う状態が作られれば、安心という訳だ。
ただし、ミカが疑念を抱くような行動を取れば、即座に協定を破棄。殲滅行動を取る。
そのため、夜会内でもよくよく監視し合い、巻き添えを喰らわないようにしてなさいね、という脅迫…………もとい事前確認である。
こんな不平等条約だが、夜会はほぼ丸飲みだ。
なぜ、そんなことになるのか。
それは、ミカが圧倒的かつ絶望的なまでの強者だからだ。
七万もの軍隊をたった一人で壊滅させた人間兵器。
戦場を飛び回り、帝国軍の兵を殺しまくったミカを相手に、勝てると思うお花畑は夜会に居なかったらしい。
また、ミカは王太子という国家権力と、教会という国内最大勢力とも協力関係にある。
まともに相手をしては、相打ちに持っていくことすら絶望的なのだ。
勿論、ミカにも弱点はある。
キスティルやネリスフィーネ、リッシュ村の人たち。
では、その人たちを人質にすればミカに勝てるだろうか?
ミカとしては「見捨てられないな」と思うが、各ギルドの上層部はそう判断しなかった。
もしもミカがそうした人たちを切り捨てれば、残るのは「敵対した」という事実だけ。
そのため、
・ミカに対し、敵対的行動を取らない
・ミカの要請に可能な限り協力する
という協定を結ぶことに合意したのだ。
まあ、あくまで可能な限り協力するだけなので、断ることもできる。
断れば、
「ああ、そういう態度取るんだ。 ふーん。」
というだけの、何とも優しい協定である。
その後がどうなるかは知らんがな。
現在、情報屋ギルドには、ミカ関連の情報の統制を依頼している。
レブランテスが「もう動いている」と言っていたのは、そういうことだ。
ミカ=”解呪師”=錬金術師=”神々の遣わし者”という情報が無闇に広がるのを止めてもらうことになっている。
また、これらの情報を探ろうとする者がいた場合、その動きもミカに届けられる。
ちょっと探るぐらいなら放っておくが、本格的に探ろうとする者がいた場合、そいつの情報が丸ごとミカに報告されるのだ。
なぜ探っているのか、その背景も調べ上げて。
暗殺者ギルドや盗賊ギルドには、特に何かを依頼している訳ではないが、やはり敵対的な行動をする者がいる場合は報告が来る。
まあ、ミカを暗殺しろだの、噂の錬金術師から”銅系希少金属”を盗んで来い、なんていう依頼があった場合、まるっと情報がミカに届く仕組みだ。
あとは、お仕置き部隊として暗殺者ギルドから怖~いお兄さんでも派遣してもらおうかね。
ミカのことを探ると、いろいろ不幸なことが起こるという演出のために。
大事に大事に隠しておいた物が、壊されたり無くなってたりとかも悪くないかもね。
呪師に手を出すと、祟りがあるそうだし。
ミカは各自から渡された協定合意の用紙を受け取り、ざっと確認する。
これで、夜会に特に大きな影響力を持つ三つのギルドと裏魔法具連が、ミカと協定を結んだことになる。
とは言え、こんなものに大した意味はない。
法的に効力のあるものではないのだから。
そして、それは相手も分かっている。
こんな紙切れ一枚で、自分たちが本当に安泰などと考える能天気は、おそらくいないだろう。
ミカに協力的であるということを、これからの自分たちの行動で示し続ける必要があるのだ。
「それでは、夜会の統制をお願いしますね。 ……くれぐれも、不幸な事故がないように。」
ミカが抑えめの声でそう言うと、全員が真剣な表情で頷いた。
そうして、秘密の会合は解散。
一人だけ残ったアーデルリーゼから布を受け取る。
「坊やの持ってきた布でいろいろ【付与】を試しているけど、この状態の”銅系希少金属”に満遍なく【付与】の効果を行き渡らせるのはちょっと大変みたい。」
「あらら、だめですか。」
ミカは受け取った布を引っ張ったりくしゃくしゃにしてみる。
おや、皺がまったくつかないぞ?
形状記憶シャツが作れるかも?
しかし、織物ができても、今度は【付与】が上手くできない、か。
一難去って、また一難である。
まあ、実際はまだ一難も去っていないんだけど。
「結構実験でだめにしてしまうことが多くて……。 布、もう少し手に入らない?」
「あー……、ちょっと時間かかりますね。 そっちも今、トラブってて。」
ミカは肩を竦めて首を振る。
この布は、アマーリアに渡していた糸から作ってもらった純”銅系希少金属”製だ。
アマーリアは機織り機を使った、”銅系希少金属”織物の作成に成功した。
そうしてできた織物をアーデルリーゼに渡し、強度や対衝撃の実験をしてもらっているのだが、【付与】が思うようにいかないらしい。
「どうやってこの布を作っているのか分からないけど、その手法を教えては貰えないの?」
「これは…………ちょっと秘密ですね。 まあ、教えてもこの質の物は作れないと思いますよ。」
アマーリアは、機織り職人としては一流の腕の持ち主だ。
ロレッタも中々筋が良いらしく、アマーリアほどではないが、高品質な”銅系希少金属”織物を織ってくれる。
えっへん。
(でも、機織り機の方が持たないんだよなあ。)
いろいろな部位に負担がかかるのか、”銅系希少金属”用にしていた機織り機が壊れてしまった。
アマーリアとロレッタ、二人ともだ。
これは普通の機織り機ではだめそうだと、現在様々な部位を金属で補強した特別な機織り機の製作中である。
ホレイシオに貸してもらっていた機織り機の弁償で一台二百万ラーツ。
これが二台。
そして、現在製作中の特注機織り機が一台一千二百万ラーツ。
これも二台。
合計二千八百万ラーツの出費である。
ちなみに、特注機織り機は特急料金でこれである。
普通に頼むと四百万ラーツで三カ月かかるとのことで、三倍出すから一カ月にしてくれと頼んだ。
当然無茶だと言われたが、まあ頑張って作ってもらうと言うことでお願いしてある。
アーデルリーゼにはもう少し待ってもらって、糸だけはどんどん作ってもらおう。
ローブやベストが作れても、【付与】が上手くいかないのでは意味がない。
どんどん実験させてあげたいが、こればっかりはしょうがない。
「まあ、もうちょっと待っててください。 準備ができたらじゃんじゃん作りますから。」
「分かったわ。 それじゃあ、皆の分の腕輪の方を優先して作っていくわ。」
「お願いします。」
アーデルリーゼと軽く打ち合わせをして、学院へ。
昼前に到着し、そのまま食堂に行く。
「いただきます。」
まだ誰もいない食堂で、手を合わせて一足お先にランチ。
そうして食べていると、
「ミカ……。」
「はほ。」
一人でランチを頬張っているミカを見て、クレイリアが呆れたように呟いた。
「ははははひほひほはっへ……。」
「いや、しゃべんなくていいから。 そのまま食べてなよ。 僕たちも持ってくるから。」
口いっぱいに頬張りながら言い訳をするミカに、メサーライトが突っ込む。
そうして、皆が揃ってのランチ。
グローノワとはまだ戦争を継続中だが、今のところは特に食料制限などはかかっていない。
一時期やんわり制限をしたが、それもすでに解除されていた。
ミカは食べ終わり、お水を飲みながら一休み。
「…………まだパラレイラってふらふらしてんだ?」
「うん、寮のおばちゃんがミカに伝えてほしいって。 今朝。」
なぜか、ミカが外をふらふらしているという話から、メサーライトが思い出したようにおばちゃんからの伝言を伝える。
どうやら、パラレイラの徘徊癖はまだ治まっていないらしい。
毎日戻っては来ているようだが、何をしているのかも分からない。
聞いても答えてくれないため、さすがにちょっとおばちゃんたちも心配になってきたようだ。
(んー……。 本当に、何やってるんだろね?)
おばちゃんたちにも「何かあれば言ってください」って言っちゃったしなあ。
いい大人なんだから、と放っておくのも悪いか。
(何やってるかだけでも確認してみるか?)
ちびりとお水を飲み、そんなことを考えるミカだった。




