第233話 二人の王太子
大臣や近衛騎士の戸惑いの声をかき消すように、高らかに笑い声が響く。
「くっくっくっ……! そうか、其方はそう来るか! あっはっはっはっはっ!」
そうして、王族専用の出入り口から姿を現したのは、王太子であるクランザードだった。
王太子は悠然とした足取りで真っ直ぐにミカの前まで歩いて来ると、国王に向き直る。
「一体、何をされているのですか。 陛下。」
王太子は不敵な笑みを浮かべながら、国王に問う。
国王は苦虫を噛み潰したような顔になり、横を向いた。
「クランザード。 其方には関係のないこと。 下がれ。」
「いえ、下がりませぬ。」
国王に退出を命じられた王太子だが、それを真っ向から拒否した。
それを聞き、宰相が間に入る。
「殿下。 これは殿下の関わりなき事です。 どうか、お下がりください。」
「なぜ、関りがないと? 負け戦を勝ち戦に変えた英雄を叙勲するなら、私がいても問題なかろう? それとも、何か違うことが目的か?」
王太子の問いに、宰相は言葉を詰まらせる。
どうやら、【神の怒り】を禁忌とする国の方針に、王太子は関係がないらしい。
国王ははっきりと不快を顔に現し、王太子を睨む。
王太子は不敵な笑みを引っ込め、真剣な表情で国王の視線を受け止める。
「いい加減にせよ、クランザード。 これは其方が知らなくても良いことだ。 去ね。」
「お断りします。」
だが、王太子は再び国王の命を拒否した。
それを聞き、宰相が慌てる。
そのやり取りを見ていた大臣の一人が声を荒げた。
「殿下! いくら殿下でも国王陛下にその態度! 許されませんぞ!」
宰相は取り成すように、王太子に声をかける。
「ここはどうかお退きください、殿下。 後ほど私がご説明に伺います。」
それでも王太子は宰相を無視し、国王から視線を動かさない。
「この者は私が預かる。 よろしいですね。」
「戯けた事を抜かすな! 其方には関係のないことだと言うておる! いいから去ね!」
「いいえ、下がりませぬ。 この者を連れて行くことをお許しいただけるまでは。」
国王と王太子が、睨み合う。
まさか、ここまで王太子が国王に逆らうとは思っていなかったのか、ざわつきが一段と大きくなった。
国王と王太子の確執。
これ一つを取ってすぐに何かある訳ではないだろうが、こじれれば最悪、国が割れる。
そのことが頭によぎった者が何人かはいたのだろう。
大臣たちの中には、青くなる者が出始めた。
「で、殿下。 どうかお退きください。」
「どうか、殿下。 ここは、何卒……。」
そうして青くなった大臣たちは、必死に王太子を諫め始めた。
だが、王太子は真っ直ぐに国王を見るだけで、大臣たちの言葉など意に介さない。
宰相も真剣な表情で王太子を見る。
「クランザード殿下。 殿下の行動の影響を、どうかお考え下さい。 一臣下とは訳が違うのです。 グローノワと戦争中の大事な時に、このような――――。」
「その大事な時に、亡国への途を行く国を憂えてのことだ。 退けぬ。」
王太子が「亡国」という言葉を使ったことで、一瞬にして謁見の間が静まり返った。
王太子は国王を睨むようにして見つめながら、言葉を続ける。
「かつて国の行く末を憂い、国王に逆らった王太子がいた、と私は聞いている。 その王太子は、陞爵の話を断り、自身の家臣の叙爵を要求した辺境伯を庇った。 五十年にも及ぶ長き戦争で傷ついた王国に、内乱を起こす訳にはいかない、と。」
王太子の声が、謁見の間に響き渡る。
それは、今から四十年も前の話。
レーヴタイン辺境伯が、王国の安寧のためにと防護壁を建設した。
その功に対する、国王からの褒美を蹴った話だ。
この時のレーヴタイン辺境伯の要求は、誰が聞いても無茶な内容。
まったく筋の通らない、お門違いも甚だしい馬鹿げた要求だった。
当然、国王は激怒した。
多くの貴族が、辺境伯に要求の撤回を求めたという。
だが、辺境伯は曲げなかった。
このままでは、国が割れる。
内乱が起こる。
そう国中に緊張が走る中、たった一人だけ、辺境伯を庇った者がいた。
現国王、ケルニールス・エクトラムゼだ。
当時王太子だったケルニールスは、廃太子される危険を冒してまで辺境伯を庇った。
内乱を起こしてはいけない。
戦後十六年にも渡り、親子二代で血を流し続けて王国に尽くした。
その忠臣を孤立させてはならない。
ケルニールスは粘り強く有力貴族を説得し、国王も説得し、レーヴタイン辺境伯の陞爵と家臣の叙爵を何とか受け入れさせた。
王太子クランザードは、そのことを引き合いに出した。
王太子は、当時王太子であったケルニールスが如何に先見に優れ、聡明であったかを高らかに説く。
そして、今はその時にも匹敵する、国の趨勢を左右する時だと語った。
「今この者を失えば、利するは誰か! 血を流すは誰か!」
王太子の覇気に満ちた声が、謁見の前に木霊する。
「それを思えば…………、退けませぬ。 決して。」
王太子の覚悟を持った眼差しに、宰相が息を飲む。
戯れに顔を出しただけかと思ったが、どうやら王太子はすべてを承知でこの場に乗り込んで来た。
これは、もはや宰相でも口を出せない。
陛下に判断してもらうしかない。
その場にいる者たちが、国王の判断を固唾を飲んで待った。
重苦しい空気の中、すべての視線が国王に注がれる。
そんな重苦しい空気の中で、国王は大きく息をつく。
「其方は、すべてを承知で来たのだな。 クランザード。」
「無論です。 陛下。」
「分かった……。」
そうして、力なく首を振る。
「好きにするが良い。 ただし、覚悟はせよ。」
国王の言葉に、王太子は恭しく頭を下げる。
そうして、ミカに笑顔を向けた。
「付いてまいれ。」
そう言って王太子は王族専用の出入り口に向かう。
突然付いて来いと言われ、ミカは戸惑った。
というか、どういう話になったのかいまいち分からない。
どうすればいいのかとおろおろとしていると、不意に宰相と目があった。
そして、宰相が「付いて行くように」と目で促すので、戸惑いながらもミカは王太子の後を追う。
教皇や枢機卿も、大人しくミカに続いた。
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王太子の居室に着くと、ミカだけが入室を許された。
教皇や枢機卿たちは別の部屋に案内され、そこで待機しているように命じられる。
「あまり、ヒヤヒヤさせるな。」
テーブルに着くと、王太子が溜息混じりにミカに話しかけた。
部屋の中には、老騎士が一人だけ。
どうやら、人払いをした上での話があるようだ。
「教会を使って、国と一戦する気だったのか? まったく……。」
「そう、言われましても……。」
ミカとしては、教皇や枢機卿たちに任せろと言われたので任せただけだ。
というか、どういう形に話を持って行くつもりだったのか知らなかったのだ。
まさか、あんな堂々と真っ向からぶつかっていくような真似をするとは思わなかった。
(”神々の遣わし者”として祀り上げる気らしいというのは、まあ分かってたけど……。)
国がまた王国軍を差し向けて来たら、今度は徹底抗戦するつもりだったのかもしれない。
”神々の遣わし者”に命を捧げ、殉教者となろう、と。
(人々の心が離れていた時じゃ効果は薄かっただろうけど。 今は教会が全力で抵抗したら、国も無下にはしにくい状況ではあるけどさ。)
それにしても、正面から全力でぶつかり過ぎじゃないか。
もう少し絡め手で行くのかと思ったら、まさかの万歳アタック状態だった。
むしろ、殉教したかったのか?
王太子は少し真面目な顔になると、ミカをじっと見る。
「それは、どうなっているのだ?」
どうやら、ミカの身体を包む光と、背中の翼が気になるようだ。
ミカは”吸収翼”を引っ込めると、小さく呟く。
「もういいよ。 先に帰ってな。」
ミカがそう言うと、光がすっと消える。
と同時に、ミカの中の魔力がごっそり持って行かれた。
これがフィーとの約束の報酬である。
とは言え、ちょっと遠慮なく持っていき過ぎじゃね?
ミカは黙って”吸収”を使った。
「…………よく分からんが、其方は先日の”解呪師”で良いのか?」
「ええ、そうです。」
「ふーむ……、そうか。 ”神々の遣わし者”と言うのは?」
「えっと、それはぁ……。」
教会にはミカ=”神々の遣わし者”ということで大分無茶をさせてしまった。
もしここでミカが否定すると、梯子を外された教会の人たちに迷惑がかかる。
人心を惑わしたとか言って、火焙りにでもされかねない。
ミカが返答に困っていると、王太子が頷いた。
「まあ、良い。 其方が七万もの帝国軍を退けた。 それに相違はないな?」
「はい。 それは事実です。」
「分かった。 それだけ分かれば十分だ。」
そこで王太子は表情を引き締める。
「モーリスに言われて、話がどう転ぶか窺っていた。 正直、想像とは大分違ったが…………、まあ結果だけを見れば想定の範囲内だ。」
どうやら王太子はモーリスに言われ、謁見の間の近くで様子を窺っていたようだ。
「助けてくださるつもりだったのですか?」
「勿論だ。 今は、力ある者が一人でも多く必要だ。」
帝国軍と開戦した今。
大量破壊兵器としての実績を示したミカを、王太子は味方に引き込むことにしたようだ。
(ていうか、やっぱり王太子だったね。)
王妃殿下とどっちかだと思ったが、やっぱり王太子殿下の方だったか。
まあ、ミカとしてもそっちの可能性の方が高いだろうとは思っていた。
モーリスたち、【神の怒り】の研究を継続させる者たちの旗印は、王太子クランザード・エクトラムゼだった。
「それで、其方はどうやって帝国軍を退けたのだ? モーリスの話では、石を降らせたと言っていたそうだが。」
「はい。 これよりも遥かに大きい石を作って、空から降らせました。」
そう言ってミカは目の前で”石弾”をあっさりと作ってみせる。
その石を王太子の前に置く。
王太子は石を凝視すると、後ろに控える老騎士を見る。
老騎士は困ったような顔をして、首を振る。
「…………空から降らせた……か。 そう言えば、噂では戦場を飛び回ったとか何とか。」
「ええ、本当は地上を走った方が移動は速いんですが、人にぶつかればそれだけで相手が死にますから。 吹っ飛んで。」
何でもないことのようにあっさりと言うミカに、王太子が顔を引き攣らせる。
まあ、意味分からんよね。
ミカは少し表情を引き締め、王太子に尋ねる。
「それより、殿下の方こそ大丈夫なのですか? 陛下にバレてしまうんじゃ……。」
王命を破り、隠れて【神の怒り】の研究をしていることがバレれば、たとえ王太子でも只では済まないだろう。
さすがに王太子を斬首まではしないだろうが、最悪廃太子はありえる。
だが、ミカの心配を余所に、王太子は平然としていた。
「問題なかろう。 きっと、デドデリクが何とかする。」
「デドデリク?」
「宰相だ。 デドデリクは、私が裏でこそこそやっていたことに気づいている。」
「え!?」
宰相にバレてんの!?
それってヤバいんじゃ……。
ミカは目を丸くするが、王太子は微かに口の端を上げる。
「デドデリクこそが、王のことをもっとも考えている。 そのデドデリクが【神の怒り】をむざむざ捨てたままにする訳がなかろう。」
【神の怒り】の禁忌は、現王の即位と同時に施行されたらしい。
だが、五十年戦争終結当時からタブー視はされていて、多くの者が口を噤んでいた。
それが、明確に隠蔽を始めたのは現王の即位からだという。
そのため、デドデリクが宰相に就任した時、すでに【神の怒り】は禁忌とされていた。
だが、グローノワという危険な隣国のことを思えば、強力な武器は絶対に必要だ。
デドデリクが前任の宰相からの申し送りを受けた時点で、おそらく【神の怒り】の復活を考えただろう。
そうして秘密裏に【神の怒り】のことを調査する過程で、すでに隠れて活動させていた王太子のことに気づく。
デドデリクは、【神の怒り】が王太子の下で受け継がれているなら、とそのまま見て見ぬ振りをした。
「おそらく、私が王に仇なすならば、この件をリークすることも視野に入れていただろう。」
王太子を陥れる強力な武器としても使える。
そう考えて、あえて目を瞑っていたらしい。
宰相、こっわ。
「この程度も気づかんようなボンクラに、国の宰相は務まらん。 綺麗事だけで務まると思っているような腑抜けにもな。」
そう、王太子は笑った。
王太子は宰相に気づかれていると分かっても、研究を続けさせた。
王太子も、宰相も、命を懸けてこの国を守ろうとしていたのだ。
(…………そっか……。)
ミカは目を閉じ、僅かに熱の籠った息を吐く。
ミカの胸に、熱いものが込み上げていた。
この国は、腐った奴ばかり。
そしてそれは、上に行くほど顕著になる。
権力を振りかざし、平然と弱い者を踏み躙る。
平民一人ひとりのことなど、虫けらか何かとしか思っていなそうだった。
王太子も宰相も、もしかしたら平民のことなど考えていないのかもしれない。
それでも、少なくとも――――。
(保身に走るだけのクズじゃない。)
自らの命を賭して、国のことを考えている。
他者を踏みつけながら、自分が傷つくことは毛先ほども考えないような連中とは違う。
ただ、特権に浸っているだけの連中ではなかった。
(何だ……ちゃんといるんじゃないか。)
ムカつくし、相容れないことも多いけど。
それでも、必死になってこの国を守ろうとしている人はいたのだ。
モーリスは戦乱を見据え、【神の怒り】の研究に協力していた。
レーヴタイン侯爵は自ら剣を振るい、崩れた前線を立て直した。
ヘイルホード地方の領主たちも、自らレーヴタイン領に入り戦ったと聞く。
リンペール男爵は、寝る間も惜しんで後方で必死に支えていた。
ミカはゆっくりと目を開く。
王太子が、ミカを心配そうな表情で見ていた。
(……思っていたよりは、遥かにマシな国だったか。)
まあ、もう少し平民に優しい国になってくれればと思うが。
あと、【神の怒り】の研究施設で何やってるのか分からんのが怖いけど。
(人権が無いのが嫌過ぎるな……。)
大憲章でも作るか?
内容なんてロクに知らんけど。
それなら、普通に憲法を制定させた方がいいか。
(立憲君主制にさせる?)
議会も作って、エックトレーム共和国にしちゃうとか。
そのためには、王家を打倒しないとね。
そうだ、革命しよう。
そんなことを考えていると、王太子と目が合う。
王太子を目の前に、つい不穏なことを考えてしまった。
「……どうかしたのか?」
「いえ、何でもないです。」
黙ってしまったミカに、王太子が声をかける。
ミカはにっこりと微笑んだ。
まさか、革命を企ててましたとは言えんしな。
とりあえず王太子との話が一段落し、ミカは教会の皆さんには先にお帰りいただくことにした。
また今度顔を出すと伝え、協力についての礼を言っておく。
協力の内容は、予想を遥かに超える過激なものではあったが。
そうして改めてお茶が用意され、再び王太子と席に着く。
「ちょっと、思いついたんですが……。」
「ん? 何だ?」
ミカは頭の隅に思い浮かんだ疑問を聞いてみることにした。
「学院長とは、よく会われるんですか?」
「モーリスか。 よく、というほどではないが、まあ顔を合わせるな。」
「僕のことは、以前から聞いてました?」
ミカがそう言うと、王太子はティーカップを手に軽く頷く。
「其方のことは、確かにモーリスから報告を受けていた。 初日に二つの【神の奇跡】を習得した、とんでもない新入生が入ってきた、とな。」
やはり、モーリスは王太子に報告していたようだ。
「その新入生たちが、次々に【神の奇跡】を習得し始めた、というのは?」
「ああ、聞いたな。 もしかしたら、習得のコツが広がるかもしれない、と。」
危険があるため、無闇に伝わることを懸念していたらしいことをモーリスが言っていた。
しかし……。
「口止めを止めさせていた人がいるらしいんですが。 もしかして……。」
ミカがそう言うと、王太子が素知らぬ顔で視線を逸らす。
ミカはじとっとした目で王太子を見続けた。
(やっぱり、王太子か。)
ミカはてっきり指示の出所は王国軍や宮廷魔法院かと思ったが、王太子とモーリスに直通があったのなら、王太子からの指示の可能性が出てきたのだ。
国の将来を憂いていた王太子は、力のある魔法士を求めていただろう。
たとえ侯爵の娘であるクレイリアでも、駒にする気まんまんだ。
(まあ、すでに危ない橋を渡っていただろうしな。 国を守るため、使えるなら何でも使うって気だったのだろう。)
もう少し手段を選べよ、とは思うが。
相手は子供だぞ?
王太子がバツの悪そうな顔になる。
「…………ひどいと思うか?」
「ええ、思います。」
「おい。」
あっさり認めると、王太子が抗議の声を上げる。
「ひどいと分かってて、指示したのでしょう?」
「…………まあ、な。」
王太子はしかめっ面で紅茶を飲む。
ミカはそんな王太子を見て、溜息をつく。
王太子は非情の人ではない。
魔法具の袋から、女の子の持ち物を引き揚げする依頼をしてきた。
持ち主との関係は不明だが、入っていた人形を手にし涙を零した。
痛みを知る人ではあるのだ。
(それでも、必要なら情を捨てる。)
王となるには、そういう強さも必要だろう。
どれほど善政を敷いても、切り捨てなければならない部分はある。
すべてを守り、すべてを救うなど、人の所業ではない。
それこそ、神でもいなければ無理だ。
(周りがしっかり支えれば、そう悪い王にはならないか?)
ミカもティーカップに手を伸ばし、口をつける。
(まあ、盛り盛りの腕輪の【耐毒】もあるし、死にはしないだろ。)
毒を盛られる可能性も、まだゼロではないと思っていたり。
ミカは王太子に笑いかける。
「それで、今後の僕の扱いですが。」
ミカが一番気になるのはそこだ。
明日から前線行けとか言われるかもしれない。
お断りだけど。
だが、ミカの心配を余所に、そんなことにはならなかった。
「とりあえずは、今まで通りにしててくれれば良い。」
「いいんですか?」
「何だ? 前線に行きたいのか?」
「嫌です。 …………まあ、必要なら行きますけど。」
ミカがそう言うと、王太子が笑った。
だが、すぐに表情を引き締める。
「其方の使う【神の怒り】にも興味がある。 七万もの兵を壊滅させる【神の怒り】を、どうやって一人で使ったのか。 是非、研究させたい。」
モルモットにする気か?
まあ、それは適当に誤魔化すか。
「僕の方から、王太子に連絡を取る手段はありますか?」
「モーリスに言ってくれれば、こちらから使いを出すが?」
まだるっこしい方法だ。
それでは、緊急時に連絡のしようがない。
ミカは黙って立ち上がると、とことこと窓に向かう。
そうして、バルコニーに出た。
王太子は席に座ったまま、ミカが何をしているのか紅茶を片手に窺っている。
(えーと、南向きで…………東の端から三個目のバルコニーね。)
部屋の場所さえ分かれば、いざとなれば窓から侵入できる。
本当に緊急の時は、ここから来ればいいだろう。
「……何をしておるのだ?」
「いえ、何でもないです。」
怪訝そうに聞いてくる王太子に、ミカはにっこりと笑顔で返すのだった。




