第226話 開戦
水の1の月、1の週の風の日。
ミカは放課後、学院の寮に来ていた。
コンコン。
パラレイラの部屋をノックするが、返事はない。
ドアノブを回すが、鍵がかかっていて開けることができなかった。
仕方なく食堂の方に行くと、調理場ではおばちゃんたちが夕食の準備をしていた。
「こんにちはー。」
「あら、いらっしゃい。 どうしたの、今日は?」
おばちゃんは、小気味良く野菜を切る手を止めずに返事を返す。
「パラレイラさんに会いに来たんですけど。 最近いつ来ても居ないんですよね。」
「あー、パラレイラね。 そういえばここのところ、毎日出掛けてるわよ。 一時期はずっと引き籠っていたけど、最近は外出してばっかりよ?」
何でも、ミカが無理矢理散歩に連れ出して以降、今度は出掛けてばかりになったらしい。
両極端な人だなあ、まったく。
別のおばちゃんが、飲み物を出してくれた。
ミカはお礼を言って、コップを受け取るとちびりと飲む。
果実ジュースかな?
「外で何やってるか聞いてます?」
「特には聞いてないわねえ。 ずっと部屋に籠りっぱなしになるよりはよっぽどいいから。 おばちゃんたちも放っておいてるんだけど。」
本当にまったく仕事してないのな、あの人。
それが許される職場というのも、ある意味天職か?
ミカも将来、是非ともそういう職に就きたいと思う。
(科学の研究の方はどうしてるのかね? 外で研究をしてるのか? それとも別件?)
そういえば、散歩の時に少し様子がおかしかった。
変なことに巻き込まれ…………むしろ、変なことを巻き起こしてなければいいが。
パラレイラは間違いなく猪突猛進タイプ。
いざ行動に移したら周りのことなどまったく気にしないから、何かやらかさないか少々不安になった。
「パラレイラさんのことで何か気づいたら、メサーライトにでも伝言してください。 また引き籠った、とか。」
「ええ、分かったわ。 ありがとうね、ミカ君。」
ミカはジュースを飲み干し、コップをおばちゃんに返す。
(パラレイラは少し様子見かな? 何かあればおばちゃんたちが言ってくるだろう。)
とりあえず元気にしているなら、放っておいても大丈夫か。
ミカはおばちゃんにお礼を言うと、寮を出た。
そうして次にやって来たのは第三街区のボロ家。
親っさんとアーデルリーゼ、そして今日は裏魔法具店の親玉、偉大なる母と呼ばれる老婆が同席していた。
ミカがボロ家に入ると、三人が立ち上がる。
ミカは三人に手で座るように促し、自分も席に向かった。
だが、老婆だけは座らず、ミカの方にやって来た。
老婆は六十歳は過ぎていそうだ。
だが、しっかりとした足取りで姿勢も真っ直ぐに、綺麗な所作で進み出る。
そうして、ミカの前に跪いた。
「お初にお目にかかります、錬金術師様。 裏魔法具店の集まりでまとめ役をしております、ノッツェミューラと申します。 以後、お見知りおきを。」
「え、あ、はい……。」
思った以上にしっかりとした挨拶をされ、ミカの方が戸惑う。
裏で魔法具店をやっているような人たちの長というので、もっと粗暴というか、粗野な感じをイメージしていた。
だが、この老婆は見た目も品があり、その所作も美しい。
しっかりとした教育を受けてきた者であり、それを長年積み重ねてきたことが伺えた。
ミカがどうすればいいのかおろおろしていると、アーデルリーゼが苦笑する。
「偉大なる母、その辺りで。 坊やが困ってるわ。」
アーデルリーゼに言われ、老婆がゆっくりと立ち上がる。
「失礼いたしました。 錬金術師様は、寛大にも裏魔法具連に大変貴重な素材と機会をお与えくださいました。 そのことを、一言お礼申し上げたかったのです。」
「い、いえ、そういうのはいいので。 秘密を守っていただければ、それでいいですから。」
「勿論です。 もしも裏魔法具連がこの秘密を漏らした場合、その責はすべて私が。 こんな年寄りの命では釣り合いも取れないでしょうが、何卒ご容赦を。」
「そ、そこまではいいです。 ノッツェミューラさんの覚悟は分かりました。 それと、僕のことはどうかミカと。 その、錬金術師様は勘弁してください。」
ミカが困った顔でそう言うと、ノッツェミューラが柔らかく微笑む。
(この人、本当に裏で魔法具店なんかやってるのか?)
ミカは、裏の世界で偉大なる母と呼ばれているらしいこの老婆に、驚きを隠せなかった。
だが、その数分後には、また別の意味でミカは驚くことになる。
「これが手付けで譲ってもらった”銅系希少金属”で作った糸だよ。 今裏魔法具連の連中に織らせてるところだ。 ……けど、こいつは中々織りにくくてねえ。 そっちに関しては、ちと手間取ってる。」
何と、これから頼もうと思っていた”銅系希少金属”を糸状に加工するのを、すでに実現してしまっていた。
アーデルリーゼから研究チーム増員の許可が下りたと聞くと、ノッツェミューラはすぐに弟子の中から腕のいい技術者を三人選んで研究を開始したらしい。
糸が中々作れないという話を聞き、手始めにとすぐに取り掛かったそうだ。
サンプル用の少量の糸を手に、ミカと親っさんが茫然とする。
「こんな、あっさりと作っちまうなんて……。」
実際に苦労してきた親っさんの驚きは、ミカの比ではないだろう。
ノッツェミューラはにやりと笑うと、ミカを真っ直ぐに見る。
「純”銅系希少金属”の糸でローブを織る気なんだろう? 素材を回してくれれば、糸だけはどんどん作れるよ。 どうする?」
最初の時の品の良さは鳴りを潜め、ノッツェミューラの素材狂いの顔が前面に出ていた。
あ、やっぱアーデルリーゼの同類だわ、と納得した。
「分かりました。 延べ棒を十本渡しますので、まずは糸をどんどん生産してください。 織る研究のためにも、まずは糸を作らないと。」
「ああ、任せときな。」
ミカのリクエストに、ノッツェミューラはしっかりと頷く。
ほんと、最初の品の良さはどこに行った?
「一旦、糸をいただけますか? 僕の方でも、ちょっといじってみたいので。」
「そう言うと思って、今日はすべて持って来てるよ。」
ノッツェミューラが、巻かれた糸をミカに渡す。
何というか、元が金属とは思えないくらい柔らかいな、この糸。
(ていうか、これ。 指に巻いて引っ張ったら、指の方が落ちる?)
かなり取り扱いに注意を要しそうな糸である。
ミカが糸をいじっていると、ノッツェミューラが少し真面目な顔になった。
「糸に加工するため【軽量】と【靭性】は【付与】で上げてありますが、【硬化】は入れてない状態です。 今後の研究課題としては織ることと、織った後に何を【付与】するかです。 防具として刃を通さず、衝撃を吸収する。 そうした研究はまだできる段階ではありませんので。」
「そうですね。 最優先は織る方法の確立です。 糸の生産と並行して、引き続き織る方法を研究してください。」
”銅系希少金属”の糸は【硬化】を入れていないおかげで、鋏でも切れる状態だ。
この糸を布にした段階で【硬化】や何やをいろいろと【付与】し、防具として最大の効果を得られる【付与】パターンを探さなくてはならない。
まだまだ先は長そうだ。
そうしてノッツェミューラの加入により親っさんの手が空いたので、ミカの純”銅系希少金属”製の武器と防具を発注する。
「短剣とブーツだな。 鎧とか手甲はいいのか?」
「鎧は着るのが面倒そうで、ちょっと……。 布ができたら、ローブと一緒にベストも作ろうかと思ってます。」
「なるほどな。 ブーツも見た目は革にするんだな。」
「ええ。 ”銅系希少金属”は中に仕込んでください。」
所謂、安全靴だ。
これまでとあまり見た目は変わらないのに、ゴリゴリに”銅系希少金属”で固めている、というのがミカの目指すところである。
まあ、それでも装飾品なんかはバレバレなんだけど。
こうして、それぞれに”銅系希少金属”の研究や発注を指示して、今日は解散となる。
この後銀行によって、それぞれに研究費や材料費などを振り込まなくてはならない。
今日だけで、五億ラーツ以上が消える……。
数日中に、”銅系希少金属”の売却代金で十数億ラーツが入金される予定だけど。
なんかもう、金額が大き過ぎて頭がおかしくなりそうだ。
■■■■■■
水の1の月、2の週の陽の日。
ミカは前日の夜から高熱を出し、腹は下すわゲロは吐くわで面会謝絶となっている。
ということにして、リッシュ村に来ていた。
いや、自宅のベッドで悶絶しているんです、ええ。
決して『王都外への移動禁止令』を破ったりなんかしていませんよ。
「ただいもっ!」
「ミカ!?」
突然現れたミカに、家でお掃除中だったアマーリアが驚愕する。
「今年は、帰省できないって手紙に……。」
「うん、そう。 それでちょっとお願いがあってさ。」
アマーリアの疑問をさらっと流し、自分の要求だけをずばっと切り出すいつものスタイル。
「これで織物を作って欲しいんだけど。」
そういってミカが取り出したのは、純”銅系希少金属”製の糸。
餅は餅屋ということで、織物職人にお願いすることにしました。
「…………? これでって、これだけでは織物は作れないわ? 織物一枚作るのにも、沢山の糸が必要で――――。」
「それは分かってるって。 まず、作れそうか試してもらいたいんだ。」
「試す?」
アマーリアは、よく分からないという顔をする。
「これ、元は金属なんだよ。 特殊な加工をして、糸にすることはできたんだけど、織物にするのが難しいみたいで。」
「……金属? これが?」
アマーリアは糸の先をふにふにと摘まんだり、引っ張ったりしている。
「あ、扱いには気をつけてね。 多分、指に巻いて引っ張ったら指が落ちるから。」
「へ?」
「いつもの糸のつもりで扱うと、大怪我しちゃうと思う。 だから、気をつけてね。」
ミカがそう注意をすると、アマーリアが顔を引き攣らせた。
「ホレイシオさんには話を通してあるよ。 機織り機とかも使っていいって許可は貰い済みです。 まあ、まだ糸が少なくって機織り機は使えないだろうけど。」
家に来る前に先に工場の方へ行き、ホレイシオにいろいろと話を通していた。
きちんと機織り機の使用料やら、アマーリアとロレッタが抜けても大丈夫かなどを調整してもらっている。
完全に抜けるのは無理だが、まあ多少はということで決着がついた。
機織り機に損害が出た場合、ミカが全額保証する特約も付いている。
機織り機って、一台で二百万ラーツだってさ。
案外安いんだね。
これなら専用で何台か入れてもらおうかなあ、なんて考えてます。
アマーリアはちょっと焦った表情になった。
というか、少し青褪めてる?
「ちょ、ちょっとミカ!? 何? どういうことなの? お母さんにもちゃんと分かるように説明してちょうだい!」
話を勝手に進めていくミカに、アマーリアが困惑する。
ミカはアマーリアを落ち着かせ、一旦席に着く。
そうして、この糸を織物にすることがとても重要なのだと説明した。
「これは特殊な金属から作った糸なんだけど、まだ研究段階なんだ。 この研究に、今十人以上の人に携わってもらってる。」
「そんなになの?」
さすがに”銅系希少金属”がどうのこうのはアマーリアには荷が重すぎるので、かなり端折った説明になってしまうが仕方ない。
「研究チームには、月に二百万ラーツを報酬として支払ってる。 一人ね。 勿論、お母さんにも出します。」
「に、ひゃ!?」
アマーリアは専属で研究してもらうわけではないが、まあいいよね。
だが、ミカがそう言うと、アマーリアは慌てて首と手を振る。
「ミ、ミカが何か大事なことをしてるのは分かったわ! でも、そんな、手当なんてお母さんは受け取れないわ! それも、そんな大金!」
アマーリアは必死になって固辞した。
これには、ミカの方がちょっと困ってしまう。
「でも、無報酬って訳にも……。 お母さんの仕事をする時間が減っちゃう訳だし。 それは、収入が減るってことだから。」
「そんなの全然平気よ。 ミカがこれまで仕送りしてくれたり、置いて行ってくれたお金が手付かずで残っているし、毎月貯えもしているのよ? ミカのおかげで本当に生活が楽になったわ。」
どうにも、アマーリアはお金を受け取ってくれそうにない。
ミカは腕を組み、「んー……」と考え込む。
(どうしよう。 ここは甘えておくか?)
アマーリアには贅沢をすること自体が、そもそも発想として無さそうだ。
まあ、こんな何にもない村で贅沢と言っても、たかが知れているとも言えるが。
それに、どうせまたアマーリアやロレッタがお金に困る事態になれば、ミカが出すことになるだろう。
というか、元々そのつもりなのだから、今ここで無理に説得する必要はないのではないだろうか。
(お金を持っておく人が、俺かアマーリアかの違いってだけであって、一緒の財布だと思えば。)
個人ではなく、ノイスハイム家というお財布で考えれば、どちらが持っていても大した違いではないだろう。
ミカは組んでいた腕を解くと、アマーリアを真っ直ぐに見る。
そうして、丁寧に頭を下げた。
「ありがとう、お母さん。 その、お願いします。」
ミカがそう言うと、アマーリアがほっとした表情になり、次いで柔らかく微笑む。
「もう、ミカったら。 そんなに畏まらなくてもいいのよ。 お母さんにはよく分からないけど、真剣に何かしているのね?」
アマーリアにそう聞かれ、ミカはしっかりと頷いた。
そんなミカを見て、アマーリアも頷く。
「分かったわ。 お母さんに任せて。」
「必要ならお姉ちゃんの手を借りてね。 それもホレイシオさんに許可を貰ってるから。」
「もう。 そんなこと勝手に決めたら、ロレッタが怒るわ。」
そう言いながら、アマーリアが可笑しそうに笑う。
こうして、辺境の開拓村に”銅系希少金属”織物の別動隊が秘密裏に動き出すこととなった。
そして、ついでに教会に寄って、いつものように寄付をして来た。
金貨五十枚。
ラディの顔が青くなって、赤くなって、それから白くなった。
でも、いつもみたいなお小言は何も言われなかったよ。
良かった、良かった。
リッシュ村からの帰り道。
ミカは国境の防護壁にやって来た。
エックトレーム王国とグローノワ帝国の軍がぶつかり合うという噂を毎日のように耳にするが、実際の状況はどうなのか気になったからだ。
「グローノワ帝国の軍は見えないな……。」
上空からダブランドル平原を見下ろすが、王国軍しか見当たらなかった。
戦闘後、ということはないだろう。
すでに戦闘が行われたにしては、王国軍が整い過ぎてるし、倒された兵が戦場に散乱していないとおかしい。
「一日の行軍距離は二十キロメートルぐらいが目安だっけ?」
まあ、もっと早く移動した例などいくらでもあるが、普通はそこまで急いでの移動はしない。
そして、普通は人数が多ければ行軍速度は落ちる。
十人百人程度の部隊と、一万十万の大軍団で行軍速度に差が出るのは当然だろう。
おそらく帝国軍はまだ遠くにいて、こちらに向かっている最中なのだ。
「…………それでも一日で二十キロメートルも移動できるなら、明後日には戦闘をしてても不思議はないか。」
空を飛んで行けば索敵できるだろうが、その情報を知らせる術がない。
というか、ミカがそんなことしなくても、王国軍も当然偵察ぐらいは放っているだろう。
「やろうと思えば、帝国軍を叩くこともできるけど。」
後々が面倒そうだ。
ミカは空から、じっと王国軍を眺める。
さすがに何万人なのか何十万人なのかは、見ても分からない。
王国軍は、防護壁の数百メートル前に展開していた。
防護壁の高さは五メートルくらい。
防衛のために使うには、ちょっと低いか。
平原に出て、正面からぶつかり合うつもりのようだ。
この選択が良いのか悪いのか、ミカには分からない。
「……頼んだよ。」
そう呟き、ミカは王都に向けて飛び去った。
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水の1の月、2の週の土の日。
今日は特訓をお休みして、クレイリアの部屋に来ていた。
学院で昼食に誘われ、昼食の後はゆっくりお茶を飲む。
陽光の降り注ぐ気持ちの良いバルコニーで紅茶を楽しむが、会話が弾んでいるとは言い難かった。
さすがのクレイリアでも、いつ開戦するのかというこの状況は精神的に相当堪えるようだ。
普段は気丈に振る舞っているが、今日はクレイリアの方から昼食に誘ってきた。
クレイリアは何かを言って来たりはしない。
ただ、漠然とした不安を抱え、居ても立っても居られなかったのだろう。
(クレイリアにとっては父と兄だもんな。)
今、戦場に立っているのは、クレイリアの家族なのだ。
不安になるのは当たり前だ。
大丈夫だよ、とか。
そんな気休めは求めていないだろう。
ただ、それでも誰かに一緒にいて欲しかったのだ。
やや重苦しい空気。
クレイリアの後ろに控えるのはばあやさんと、騎士隊長のムスタージフ。
他にも数名の女中と騎士が部屋に控えていた。
皆、クレイリアの心情を慮ってか、沈痛な面持ちだ。
ミカがテラスから庭園を眺めていると、一人の騎士が門から玄関に向かって走って行った。
「どうかしたのかな?」
「そうだな……。 クレイリア様。 少々、失礼いたします。」
ミカが呟くと、ムスタージフが他の騎士と交代して、部屋の外に出て行く。
この状況で騎士が慌てて報せに来たのだ。
おそらくは開戦の報ではないだろうか。
それはクレイリアも感じているのか、表情がやや強張っていた。
(…………いよいよ始まったか。)
ミカとしても他人事とは言い難い。
さすがに、すぐに予備役動員令が出たりはしないだろうが、それでも軍に籍を置く者として無関係ではいられない。
これからのことを考えてミカが沈鬱な気持ちになっていると、ムスタージフが戻ってきた。
だが、ムスタージフの表情が厳しい。
正規の軍人で、隊長を任されるムスタージフがここまで表情に出すのには、少し違和感を感じた。
開戦そのものは分かっていたことだ。
その報告が届いても、すでに覚悟はできていただろうに。
「クレイリア様。 申し訳ありません、こちらへ。」
ムスタージフはバルコニーに出ず、クレイリアに部屋に入るように促す。
クレイリアはミカの方をちらりと見て、それからムスタージフを見る。
「構いません、ムスタージフ。 そのまま報告を。 貴方が言わなくても、私がミカに話すわ。」
「いや、ですが……。」
「ムスタージフ。」
クレイリアに促され、ムスタージフが逡巡する。
だが、ムスタージフは覚悟を決めたのか、真っ直ぐにクレイリアを見た。
その目は、まるで睨んでいるかのように鋭い。
「二日前の水の日。 グローノワと開戦いたしました。」
そこでムスタージフは大きく息をつき、一度ごくりと唾を飲み込む。
「領主軍と王国軍は壊滅的打撃を受け、敗走した、と……。」
「なっ!?」
「何ですって!?」
ムスタージフの口から伝えられたのは、思いもしなかった領主軍と王国軍、敗北の報だった。




