第219話 文献の紛失
土の2の月、3の週の風の日。
放課後。アーデルリーゼの魔法具店。
二週間ほど連絡の取れなかったアーデルリーゼたちだが、無事に帰って来たようだ。
昨日、アーデルリーゼからの使いだという子供が、ミカの家に手紙を届けに来た。
ミカがアーデルリーゼの店に行くとすぐに二階に案内され、いつものカウンターにアーデルリーゼがいた。
その姿を見て、ミカはほっと胸を撫で下ろす。
店内には品の良いお婆ちゃんが隅のテーブルに着き、研究チームの一人が魔法具作成の相談に乗っていた。
「ガエラスさんに聞きました。 アーデルリーゼさんが、その……。」
夜会という呼び名を口に出していいのか分からなかったので、ミカは言い淀む。
そんなミカに、アーデルリーゼが微笑みながら言う。
「あら、聞いちゃったの? ……仕方ないわねえ、あのおしゃべり。」
「僕が無理に聞いたんです。 教えてくれないと、お金をばら撒いて聞きまくるぞ、って。」
「そんなことする気だったの? 消されちゃうわよ?」
アーデルリーゼが揶揄うように言う。
「結論から先に言うと、流通ルートに指定の業者を使うことになるわ。 これまでのルートにそこを挟むだけ。」
これまで使っていたルートは、アーデルリーゼや親っさんから直接”銅系希少金属”を受け取る一次卸から、末端の小売店に卸す三次卸までの間に、更にいくつかの中間業者を挟んでいた。
しかし、おそらく二次卸までは国に特定されてしまったようだった。
目眩ましのために無駄な業者を挟んだりしていたのだが、それを辿って一次卸にまで迫って来ていたのだ。
「そんなので、本当に大丈夫なんですか?」
ミカが不安げに尋ねるが、アーデルリーゼは軽い手振りで説明する。
「ええ、大丈夫よ。 これまで無駄に回してた、国にバレてしまった中間業者は外して、一次、指定業者、二次、三次の流れに変更するだけ。 むしろ、坊やからしたら分かりやすい流れになるでしょう?」
「まあ、多少はすっきりはしますけど……。」
二次や三次の段階で、無駄にぐるぐる回してた分が無くなるので、分かりやすくはなる。
「そして、無駄を省いた分をそのまま指定業者の取り分にするの。 これまでかかってた費用のままで済むわ。」
「複数の業者分の手数料を全部ですか? 結構な手数料を取るんですね……。 それで国の追及から逃れられるなら安いものですけど。」
どうしても、バレないだろうか、という不安が付きまとう。
ミカのそんな様子とは対照的に、アーデルリーゼは余裕そうだ。
カウンターに肘をつき、身を乗り出すようにミカを見る。
「国の上の方にも働きかけるから、追及の手がそもそも緩むわ。 指定業者は、中でいろいろ動かして辿れないようにするみたい。 毎回違うパターンでね。」
無駄に動かす役を引き受けてくれるらしい。
というか、上の方に働きかける、ってどうゆうこと?
国の大臣とかって、やっぱり裏社会と繋がってるんでしょうか?
アーデルリーゼの話を聞き、ミカは複雑な表情になる。
しかし、すぐにその表情を引き締めた。
「それで、夜会の条件は?」
ミカがそう尋ねると、アーデルリーゼが眉を寄せる。
「一つが指定業者への手数料。 もう一つが…………ごめんなさい。 高純度”銅系希少金属”を譲ることになってしまったわ。」
申し訳なさそうにするアーデルリーゼに、ミカは首を振る。
「そんなのは全然構いません。 アーデルリーゼさんたちは、何か理不尽な条件を負ったりはしてないんですか?」
ミカがそう言うと、アーデルリーゼが少し驚いたような顔になる。
だが、すぐに微笑んだ。
その微笑みは、少しだけ悲し気だった。
「そういうのは無いわ。 でも、手付けで延べ棒一本を譲ることになったの。」
アーデルリーゼの話を聞き、ミカは頷く。
裏社会の人間に高純度”銅系希少金属”を渡すことに少々躊躇いはあるが、仕方ない。
「分かりました。 それじゃあ、手付けで延べ棒二本を渡してください。」
「え?」
ミカの言葉に、アーデルリーゼは目を見開く。
「それだけの成果を期待しています、ってことで。 渡してください。」
「でも……。 いいの?」
アーデルリーゼが確認するが、ミカはしっかりと頷いた。
「構いません。 ただし、夜会が今後アーデルリーゼさんたちに何か言ってきたら、すぐに教えてください。」
そこでミカは真剣な目でアーデルリーゼを見る。
「潰しますから。」
その、あまりに力強く真剣な目に、アーデルリーゼは息を飲んだ。
これまで、ミカは逃げ過ぎていた。
だが、ガエラスに諭されて気づいた。
ミカに足りないものは、覚悟だと。
ミカには守りたいものがある。
しかし、そのために過度に守り過ぎた。
どれだけ強大な力があろうと、それが振るわれることがないと分かっていれば、一方的に叩かれるだけ。
反撃が来ると恐れられなければ、一方的に攻められるだけなのだ。
ヤロイバロフほどの腹の据り方は、さすがにすぐには無理だ。
それでも、いざとなればこの力が振るわれる、その矛先が向けられると思わせなければならない。
その相手が国であろうと、夜会だろうと。
ただただ、穏便に済ませようとしていればつけ上がる。
守りをどれだけ固めようと、守るだけでは守り切れない。
そんなことは分かっていたはずなのに。
過度に恐れ過ぎていた。
相手が、国という強大な存在だったために、逆らえないと思い込んでいた。
ミカは少しだけ表情を和らげる。
「向こうが条件を追加してきたり、アーデルリーゼさんたちに何かを負わせようとしたら、すぐに言ってくださいね。」
そう言うミカを、アーデルリーゼはじっと見つめた。
が、しばらくすると力を抜いて、大きく息をつく。
「ふふ……。 そう、いじめないであげて。」
そんなことを言う。
アーデルリーゼのその言葉に、ミカはきょとんとなった。
「何だかんだ言っても、夜会は弱い者の寄り合いなのよ。 皆、こそこそと裏路地で生きていくことしかできない、そんなのの集まり。」
アーデルリーゼの目が、少しだけ寂し気になる。
「一人では生きて行けない。 だから肩を寄せ合う。 そんな、弱い人たちの集まりなの。 だから、あんまりいじめないであげて。」
「あ……と、その……。」
アーデルリーゼの言葉に、ミカの方が戸惑う。
「ア、アーデルリーゼさんたちに、変に不利益がかかったりしないなら、いいんです。 その、お世話になるのはこっちですし。」
「ええ、それは大丈夫よ。」
アーデルリーゼが、優しい微笑みをミカに向ける。
ミカは、アーデルリーゼのその微笑みを見て、少しだけ安心することにした。
「まさか、本当にあんな坊やが……。」
ミカが帰った後のアーデルリーゼの魔法具店で、テーブルに着いたお婆さんが呟く。
お婆さんの前には、アーデルリーゼと研究チームの三人が並んで立っていた。
「錬金術師なんて、頭のおかしい奴ばかりだからねえ。 噂の錬金術師は、どんな頭のイカれた爺さんだ、って思っていたのだけど……。」
その呟きに、アーデルリーゼたちが苦笑する。
お婆さんは品は良さそうだが、その実ちょっと口が悪そうだ。
「偉大なる母。 あの坊やを国に持って行かれるのは、私たちには損失でしかありません。 どうか……。」
アーデルリーゼに偉大なる母と呼ばれたお婆さんは、それまでとは打って変わった鋭い目をアーデルリーゼに向ける。
偉大なる母。
グレートマザーともママとも呼ばれたりするが、実際は裏魔法具店の女主人でしかない。
ただの魔法具狂い、素材狂いだが、同好の士が集まり、隠れて魔法具店を営むようになった。
そうして裏魔法具店を営む者たちをまとめる役をやっていたら、夜会にも顔を出すようになった、というだけ。
表では扱えない特殊な魔法具は、裏側で生きる者たちにとっては重要な仕事道具。
マザーは夜会でも一目置かれる存在になった。
アーデルリーゼたちは、何とかミカの存在を隠し通してマザーの協力を得ようとした。
だが、希少金属の生成に成功した錬金術師だ。
マザーは頑として折れなかった。
そこで仕方なく、こっそりと窺うだけという形を採って、ミカに会わせることにしたのだ。
マザーは”銅系希少金属”の延べ棒を、慎重な手つきで眺める。
「まったく……。 こんな面白そうな高純度希少金属を隠し持ってるなんて……。 私、ちょっと怒っているのよ?」
「すみません、マザー……。」
アーデルリーゼたちは、悪戯の見つかった子供のような面持ちになる。
まるで、母に叱られる娘のような光景。
「…………まあ、ね。 貴女たちが隠そうとした理由も分からなくはないわ。」
コトン、と延べ棒をテーブルに置く。
「いい子みたいじゃない。 貴女たちのことを、とても心配していたわね。」
夜会が、アーデルリーゼたちに酷な条件を突き付けていないかを心配していた。
”銅系希少金属”なんかよりも、アーデルリーゼたちのことを何よりも案じていたのだ。
少しのやり取りを見ていただけだが、それが演技かどうかくらいは分かる。
「あれで、ヤロイバロフと騎士団長を相手にして、倒してみせたのかい?」
マザーの問いに、アーデルリーゼたちが頷く。
マザーは喉に嫌な渇きを感じ、テーブルに置かれたお茶に手を伸ばすと、喉を潤す。
とても信じられない話だった。
Aランクの冒険者として名高いヤロイバロフ。
剣の達人と言われるオズエンドルワ。
この二人がたっぷりと【付与】を施した、神話にでも出てくるような武器を使い、それでも手も足も出なかった。
もっとも、何よりも信じられないのは四十五倍にも達したという【身体強化】の方だが。
一体どれだけの魔力を捧げ、消費し続ければそんな真似ができるのか。
そんなこと、試そうと思っても試すことすらできない馬鹿げた魔力量が必要になる。
それを維持する魔力量というのは、どれだけ化け物じみた魔力量の持ち主なのか。
マザーは先日見せてもらった、魔力を安定させる魔法具の設計図を思い出す。
「本当に、あんな魔力を素通りさせる魔法具で、希少金属を?」
「理屈は分かりませんが、とても作りやすくなったと喜んでいました。」
「それが理解できるとしたら、頭のイカれた錬金術師だけさ。 いや、有象無象じゃイカれっぷりが足りないかね。 きっと、まともに理解できる奴なんかいないわね。」
マザーはテーブルに置いた延べ棒を、コツンコツンと軽く指で弾く。
「魔法士……神童とも呼ばれる天才的な学院生、”解呪師”の二つ名を持つ冒険者。 希少金属の生成に成功した錬金術師。 冒険者ギルドを揺るがし、教皇以下、数十人の枢機卿と司教たちを葬った呪師。」
マザーが、ミカに関わる噂などを挙げていく。
「最年少で銅勲章を持ち、今も王城に呼ばれている。 何かの軍務のために。 ……そして、侯爵令嬢の婚約者ときた。」
一つひとつでも、中々のものだ。
ところが、それらがすべてたった一人の少年にまつわる噂なのだ。
その上、
「ヤロイバロフとオズエンドルワを同時に相手して、跳ね返せる暴力をも持ち合わせている。」
という。
マザーは大きく溜息をついた。
「あの子…………自分が王になろうとは思わないのかい?」
そんなことを尋ねる。
今すぐ王城に乗り込み、騎士たちが集まるよりも早く王家を根絶やしにできるだろう。
もはや何も恐れることがないほどの力を持ちながら、何をびくびくしているのか。
「そういうのは興味がないようです。 ……平穏に、気ままに冒険者がやりたいようです。」
「…………呆れるねえ。」
アーデルリーゼとマザーは顔を見合わせ、苦笑した。
マザーは肩を竦める。
「天才と何とかは紙一重なんて言うけどね。」
きっと、頭の大事な所の螺子がごっそり抜け落ちてしまっているのだろう。
だが、笑ってばかりもいられない。
そういう、普通とは違う思考回路を持つ者は危うい。
何が逆鱗に触れるか、予想がつかないからだ。
マザーはテーブルに肘をつき、頬杖をつく。
努々、利用しようなどとは思わない方が良い。
僅かばかりの利を掠め取り、ほくそ笑んでいても、あの子のくしゃみ一つでこちらはすべてを失う。
あれは、そういう存在。
外見に惑わされてはいけない。
あれは、正真正銘の怪物だ。
マザーは立ち上がると、アーデルリーゼたちを見る。
「あんな子に睨まれたら、裏魔法具連は一溜りもないわ。 なるべく協力してあげなさい。 裏魔法具連は、”解呪師”を全面的にバックアップするスタンスを取る。」
マザーの指示に、アーデルリーゼたちが頷く。
「できれば名前を出させてもらえると、夜会の意思を一本化させやすいんだけど。 嫌がるのね?」
「ええ……。」
「そう。」
いくら本人が嫌がったところで、時間の問題だと思うが。
マザーは少し考えるように視線を動かし、それからアーデルリーゼたちを見る。
「仕方ないから夜会は私が何とかするわ。 …………その代わり、何としても裏魔法具連を深く食い込ませて。」
マザーは指を一本立てて、顔の高さまで上げる。
「”銅系希少金属”を使った魔法具の開発を、何としても裏魔法具連で受けられるようにして頂戴。 こんな面白そうな希少金属、皆が遊びたがるに決まってるでしょう?」
マザーは、子供のような無邪気な顔をして言う。
それはそうだろう。
何と言っても、彼女は魔法具狂い、素材狂いたちの親玉なのだから。
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土の2の月、4の週の陽の日。
アーデルリーゼの魔法具店に行った数日後。
ミカは教会に来ていた。
「そんな!? 本当ですか!?」
ミカの声が、静かな図書館の中に響く。
ミカは呪いを研究したいと思っていた。
きっかけは、一人の少女。
”幽霊”となりながらも自我を保ち、呪いを宿していた少女、ルネーシー。
あの少女の存在が、ミカの心に重く圧し掛かっていた。
”幽霊”を研究しようかとも思ったが、普通の”幽霊”をどう研究すればいいのか。
ヤロイバロフ、サロムラッサ、トリュスやユンレッサに自我を保った”幽霊”について聞いてみたが空振り。
それならば、まずは呪いについて研究し、自我を保った”幽霊”という存在の手掛かりを掴もうと思ったのだ。
だが、ミカの呪いの研究はまったく進んでいなかった。
とにかく、文献がまったく見つからないのだ。
そんなある日、ふと思いついた。
(【解呪】という【神の奇跡】があったのなら、教会になら何か関連する文献があるかも。)
そこで王都の大聖堂に行き、キフロドに頼んでみた。
「呪いの研究じゃとぉ!?」
キフロドは「また、ロクでもないもんに興味を持ちおって」と思っているのがよく分かる顔をしていた。
だが、すでにキフロドには”解呪師”として活動していることも白状させられているので、
「もっと安全に解呪できないかとかさ、もっと誰でも解呪できるようにならないかとか、いろいろ考えてるんだよ。」
と、でまかせを言って騙くらかした。
そうして教会の敷地内にある、図書館の利用許可を得たのだが……。
「まったく無いんですか!? 一冊も!?」
と、思わず声が大きくなってしまう事実があった。
「どういうことなんじゃ?」
図書館の管理を務める男性にキフロドが尋ねる。
キフロドに尋ねられた男性は、やや戸惑いながらも説明をしてくれた。
「呪いについてや、【解呪】について書いた本は、確かにあったようなのです。」
現存する本の中に「何々によると……」とか、「何々を参照」といった形で呪いや【解呪】について言及している物はあるらしい。
だが、具体的なことどころか、ごく僅かなそうした文献が「呪いはある」「解呪はできた」という事実を伝えているだけで、何も分からないそうだ。
「その、参照元の何々とかが一冊も無いんですか!?」
「ええ……。」
これは、半ば公然の秘密のような感じになっているらしい。
【解呪】という【神の奇跡】が失われたというのも、公然の秘密のようなもの。
だが、かつて失われた【解呪】という【神の奇跡】に興味を持つ者はいて、その研究に乗り出す物好きも稀にいるらしい。
「……ですが、あまりに文献が無いもので、皆が諦めてしまうのです。」
キフロドが怪訝そうな顔で、おでこを指先で揉む。
「それは、王都の教会に無いという話ではなく、どこにも無いのか? 他の教会にも?」
「すべての大聖堂を調べた訳ではないので何とも言えません。 ですが、私はこれまで五カ所の大聖堂で勤め、読書は好きなのでよく図書室に通っておりました。」
しかし、どこでもそれらの文献は見かけたことがないらしい。
知り合いなどにも手紙で聞いたことがあるが、やはり他の大聖堂にも無かったという。
「……そんなことが、あり得るのか?」
キフロドが増々怪訝そうな顔になる。
そんなキフロドに、男性が言いにくそうにしていた。
「何じゃ?」
その様子に気づき、キフロドが尋ねる。
キフロドに尋ねられ、男性は声を潜める。
「これは、あくまで私の憶測なのですが……。」
そう前置きして、男性は一度俯く。
「…………おそらく、これらの本は人為的に隠されたものだと思っております。」
男性はかつて、聖邪検省という教会の組織にいたことがあるという。
「そこでも、禁書目録の本が紛失しているのです。」
「なっ、んじゃと……!? 禁書じゃぞ!?」
驚きのあまり、一瞬だけ大きな声を出したキフロドが、慌てて口を塞ぐ。
「禁書目録の本は、必ずいくつか保管しています。 実物が無ければ、類似の本が出た時に比較することができませんから。」
だが、その保管されているはずの本も、実際は紛失しているという。
新たに追加された禁書を封印書庫に仕舞いに行く時、そうしたあるはずの本が無くなっていることに気づいたらしい。
上役にそのことを伝えると、気にしてはいけない、と言われたそうだ。
何でも、ずっと昔からそう申し送られているのだとか。
「それらに共通するのは呪いや、かつて存在したという【解呪】の【神の奇跡】について書かれた本だということです。」
「うーむ……。」
その話を聞き、キフロドが難しい顔をして考え込む。
(…………なーんか、変な感じ。 呪い関連の本はともかく、何で【解呪】関連の本が禁書に指定されるんだ?)
【神の奇跡】だぞ?
いまいち、教会の考えていることはよく分からない。
そんなことを思いながら、ミカは考え込んでしまったキフロドに声をかける。
「キフロド様。 調べてみることはできませんか?」
「調べる? 何をじゃ?」
「その禁書目録です。 この図書館の文献もですが、何が紛失しているのかを確認するのは必要なことだと思いますが。」
公然の秘密ではなく、無い物は無いとして、それなりに処理すべきだろう。
ミカがそう提案すると、男性が慌てた。
「心配せんでもええ。 お前さんのことは言わないでおく。」
そもそも公然の秘密というなら、ある程度の人は知っていたはずだ。
そこで犯人探しに至らなかった理由も分からないが……。
「何で、誰もその本を探そうとしないんですか。」
ミカがそう尋ねると、男性が諦めたような笑みを零した。
「多分だけどね。 それらの文献が失われたのは、四百年は前だと思う。 古い物など、もっと前かな。」
男性の返答に、ミカは目を丸くする。
そんなに前から紛失しているのに、ずっとそのままにしているのか。
(管理が杜撰過ぎるだろう。 いくら何でも……。)
コンピューターで管理するようにはいかなくても、もう少しやりようがあるだろうに。
(そういえば、古い文献とかを置いてる割にはチェインドライブラリーになっていないのな。)
これでは、持ち出し放題である。
教会だから、人を疑うようなことをしないのか、悪いことする人を想定していないのか。
それでパクられまくりでは、笑い話にもならないだろうに。
(いい加減過ぎだろ、教会。 いろいろと。)
期待していた本が教会にも無く、ミカは落胆した。
そんなミカに、キフロドが頭を撫でる。
「どうやら、しっかり調べる必要があるようじゃの。 済まんな、ミカ。」
そう謝るキフロドに、ミカは首を振る。
「何か見つかったら、教えてください。」
ミカにそう言われ、図書館に来た目的を思い出し、少しばかり渋い顔をするキフロドだった。




