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【書籍版第2巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第4章 魔法学院中等部の錬金術師

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第218話 ヤロイバロフの覚悟




 土の2の月、1の週の水の日。

 モデッセの森からも外れた平原。

 以前、”銅系希少金属(オリハルコン)”の試作武器の性能テストを行った場所。


 ガギンッギンガキンッギンギンギンギンガギンッ!


 ヤロイバロフとオズエンドルワが凄まじい速さで撃ち合っていた。

 速過ぎて、戦闘に慣れた者でないと目で追うこともできない。

 絶え間なく続く金属音は、耳を塞ぎたくなるほどだった。

 というか、実際にそれを見ている人たちは皆、耳を塞いでいる。

 一人だけ耳を塞がずに見ているミカだが、しれっと”地獄耳(ビッグイヤー)”を発現していた。


 呆気に取られた様子で二人の撃ち合いを見ている人の中で、ケーリャだけが難しい顔をして見ている。

 この場にいるのはケーリャのパーティの三人とトリュス。

 そして、希少金属研究チームの面々。


「はーい、そこまでー。」


 ミカが手を挙げ、声をかけたところで、それまで響いていた金属音が止まる。

 騒音が止んだことに、皆がほっとした表情になった。


「話は、聞いていたけどね……。」

「化け物ですねえ。 ……二人とも。」


 サロムラッサとガエラスが、うわ言のように呟く。


「どんな感じです?」


 ミカは額の汗を拭うヤロイバロフに声をかける。


「いい感じだ。 本気で振っても壊れねえなんて、それだけで有難てえぜ。」


 ヤロイバロフの感想に、ミカが苦笑する。

 何でもヤロイバロフは、本気で斧槍(ハルバード)を振ると壊れてしまうことがあるのだとか。

 まあ、重量やら遠心力やらを考えると、先端にかかる負荷は相当なものだ。

 刃やら柄やらが壊れても不思議はないかもしれないが、そう簡単に壊れるものでもないだろうに。

 普通は……。


「オズエンドルワさんはどうですか。」

「ああ、とてもいい。 素晴らしい仕上がりだ。」


 オズエンドルワも、とても満足しているようだ。

 これなら、贈るミカとしても嬉しい限りだ。


 二人に贈る武器には、相当に【付与】が施されている。

 【軽量化】【硬化】【強靭】は基本セットだが、二人の武器には【硬化】【強靭】が強くかけてある。

 そうしないと壊れてしまうからだ。


 更にバフとして【俊敏強化】【体力強化】【耐久力強化】【鋭利強化】などなど、盛り盛りにしてある。

 それぞれの強化割合は好みによって違うようだが、【付与】のための素材が、二人合わせて三億ラーツかかりました。


 どうやら、素材の市場が滅茶苦茶になってるそうです。

 これまで千ラーツくらいで買えたような素材が、三~五千ラーツになったりしてるようだ。

 一万ラーツだった素材が十万ラーツを超えちゃったりとか、きっと国中の鍛冶屋や防具屋に恨まれていることだろう。


 そんなことを考えながら、ミカも自分の腕輪を装着する。

 これは新アイディアを盛り込んだ腕輪だ。

 試作、というよりは完成品の第一号といったところか。

 正常に機能すれば、このまま持って帰るつもりである。


 ちなみに、【付与】のための素材はこれ一つで四億ラーツかかっている。

 ちょっと単一の素材を大量に買い過ぎて、とんでもない高騰を起こしちゃったんだよね。

 エックトレーム王国内だけじゃ足りなくて、通商連合と七公国連邦からも取り寄せました。

 ごめんて。


「さて、それじゃあ真打ち登場です。」


 そう言ってミカは、(なまく)らの短剣(ショートソード)を手にヤロイバロフたちの方に歩いていく。

 この短剣(ショートソード)も純”銅系希少金属(オリハルコン)”製。

 ただし、刃は潰してある。

 まだミカの武器開発には着手していないからだ。

 とりあえず、ミカが全力で振っても壊れないように基本セットだけ【付与】した短剣(なまくら)を用意してもらった。


「来やがったな、この野郎。」

「もう、この前のようなことにはならないよ。」

「さーて、どうですかねえ。」


 ミカがにんまりしながら進み出ると、ヤロイバロフとオズエンドルワが凶暴な笑みを浮かべ始める。

 ミカ、ヤロイバロフ、オズエンドルワの三人が笑顔で睨み合う。

 ギャラリーの皆さんには、きっと「ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!」とか擬音が見えていることでしょう。


「まあ、相手が死なない程度に本気で行きましょう。 【癒し】があるんで、大抵は治りますから。」


 死ななければ。

 ミカが余裕を見せて言うと、ヤロイバロフのこめかみがピクピクと震えた。


「やってみやがれっ!」


 ヤロイバロフの声を合図に、ミカは一旦離れる。

 百メートル以上を一瞬で移動すると、ミカは一気に二人に突撃した。


 ミカはヤロイバロフとオズエンドルワの間を通り過ぎ、一瞬にして背後をとる。

 だが、二人も即座に反応して体を捌く。

 この速さが見えてるとか、二人もとんでもないね。


 ミカはあえて二人に挟まれる位置に移動し、左右のヤロイバロフとオズエンドルワに短剣(ショートソード)を浴びせる。


 ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギンッッッ!!!


 交互に攻撃を加えているだけだが、超高速の連撃に常人には同時に攻撃をしているようにしか見えないだろう。

 というか、そもそも見えない?


「クソがああああああああっ!!!」

「クッ!」


 ミカの左右に立つ二人は、苦し気ながらも何とか凌いでいる。

 ミカは二人の間で高速に回転しながら、薙ぎ、袈裟斬り、斬り上げなどを織り交ぜてひたすら連撃を繰り出す。


(うん。 いいね。)


 ミカは腕輪の性能に満足していた。

 今回は腕輪の【耐久力強化】の効果を更に強め、【身体強化】を四十五倍にした。

 前回はただ【耐久力強化】だけを施したが、今回はもう一つ仕掛けがある。

 それは、風の属性の【付与】だ。

 ミカはアーデルリーゼに衝撃波(ソニックブーム)の原理を説明した。

 音速を超えると、衝撃波(ソニックブーム)が発生することを。

 ミカはこの衝撃波(ソニックブーム)を「邪魔だ」と判断した。


 衝撃波(ソニックブーム)で遠距離攻撃とかは割と定番の攻撃方法だが、すでにミカにはいくつもの遠距離攻撃がある。

 今更、そんなものは要らない。

 むしろ、高速で動くだけで周囲に被害を及ぼしてしまう衝撃波(ソニックブーム)は、ミカの選択肢を狭めることになってしまう。

 なので、衝撃波(ソニックブーム)を消すことにした。

 厳密には、ごく狭い範囲では発生しているのだが、その大気の動きを鎮めるために風の属性を使っている。


 これにより、ミカは遠慮なく音速を超えることができる。

 大気の動きを鎮める効果により、これだけの動きをしても一切周囲に衝撃波(ソニックブーム)を撒き散らさないし、呼吸もできる。

 ちょっとだけ大気の動きが重く感じて息苦しいが、呼吸できるだけ御の字だろう。

 普通なら、こんな動きをすればまともな呼吸など不可能なはずだから。


「グッ!?」


 オズエンドルワがミカの短剣(ショートソード)を受けきれず、上腕にあたってしまう。


(ごめんね。 すぐに()()()()、【癒し】を使いますから。)


 オズエンドルワが脱落したことで、ミカはヤロイバロフに攻撃を集中する。

 ミカはヤロイバロフの周囲を高速で動き、全方位から攻撃を仕掛けた。


「グッ、ク……ッ!」


 攻撃が集中することで、ヤロイバロフもいよいよ苦しくなってきた。


「ウ、オ、オオオオリャアーーーーーーーッ!」


 ヤロイバロフの相打ち狙いの一閃。

 だが、ミカはその攻撃を難なく躱すと、斧槍(ハルバード)の柄を掴む。

 そうして、短剣(ショートソード)を喉元に突きつけた。


「ここまでですね。」


 ミカがにっこり言うと、ヤロイバロフの身体が赤くなり始めた。

 あ、怒ってる?


 ミカはオズエンドルワに【癒し】を使うと、ヤロイバロフにも使い、最後に自分にも使った。


「アーデルリーゼさーん! 合格ですー!」


 ミカがアーデルリーゼにサムズアップを送ると、アーデルリーゼも返して来る。

 だが、呑気にそんなことをしていられるのは、この二人くらいのものである。

 ヤロイバロフとオズエンドルワを同時に相手をして圧倒したミカに、ギャラリーが静まり返っていた。


「…………何で、そんな【身体強化】ができるんだ?」


 そんな中、サロムラッサがミカの【身体強化】に疑問を持つ。

 いっそ蒼白とも言えそうな顔色になっていた。


(サロムラッサは魔法士だから、適当な誤魔化しは利かないかなあ。)


 魔法士の先輩として、【身体強化】などの知識を持っている。

 理屈で考えて、これはおかしい、と気づくだろう。

 いくら魔力が豊富でも、こんなのが魔力枯渇を起こさないはずがない、と。


(とは言え、”吸収(アブソーブ)”については内緒ね。)


 なので、黙殺する。


「さすがに動きが速すぎて、これ以上は僕の認識がおそらく追いつきません。 知力の上昇とかで、もっと高速になっても認識できるようになりますかね?」

「もっとぉ~!?」


 ミカの提案に、横で聞いていたヤロイバロフが変な声を上げた。







 お手製(ハンドメイド)神話級(レジェンダリー)武器の完成。

 性能テストが終わり、ヤロイバロフとオズエンドルワにはそのまま純”銅系希少金属(オリハルコン)”製の武器をプレゼントした。

 ちなみに、二人の武器にはまだ【付与】を施す余地があり、それは今後考えていくらしい。

 炎を纏った(ソード)とか、ぐるぐる回すと竜巻が起きる斧槍(ハルバード)とかお勧めですけど?


 しかし、この期に及んで二人は「こんなの貰って本当にいいのか?」と言い出す。


「もう、存在するだけで危険な代物なんで。 二人以外に持っていられる方が不安なんですが。」


 と説得した。

 皆、納得の理由である。


 ということで、そんな武器は危険過ぎるとケーリャのパーティやトリュスが辞退した。

 どうやら、ヤロイバロフとオズエンドルワの性能テストを見て、自分たちでは使いこなせないだろうとの結論に達したようです。

 決して、俺のせいじゃないよ。

 なので、ミカの持っている腕輪のようにバフを目的とする物と、純度を落とした武器と防具で十分ということになった。


 そうして、その場でちょっとした会議。

 議題は、”銅系希少金属(オリハルコン)”の流通ルートだ。


「今のところは何とか、情報攪乱に成功してます。 国からの追及も抑えられていますがね。 やっぱり時間の問題だと思いますよ。」


 ミカの代理人として、情報屋ギルドに偽情報をばら撒く依頼を出している、ガエラスが報告する。

 実際は、ガエラスにはその他の代理人たちに指示を出す役割をお願いしている。


「坊主がいつまでも後ろに引っ込んでるから面倒なことになるんだろ。 さっさと公表しちまえよ。」


 ガエラスの報告を聞き、ヤロイバロフが呆れたような顔をしてミカに言う。


「ミカちゃんは年齢が年齢だ。 学院生という立場もある。 普通なら国に守られる立場だが、そのため国には弱い。 バレたくないというのも分かる。」


 トリュスの意見に、サロムラッサも頷く。

 親っさんが腕組みをして、難しい顔をする。


「しかし、これ以上隠し続けるのも、正直現実的じゃねえぜ? バレることを前提で、次の手段を講じるべきだ。」

「もう、錬金術師の存在はバレたも同然と言える。 まあ、交渉を持ち掛けた時点で、国もそれは確定だと思っているだろうな。」

「うぐ……。」


 オズエンドルワの言葉に、ミカは息を詰まらせる。

 あれは早まったか?

 でも、流通ルートへの追及が厳しくって、いつバレるか気が気じゃなかったんだよー。


「通商連合が出元だっていう偽装も、もう見抜かれているでしょうねえ。」


 ガエラスがそう言うと、皆が困った顔でミカを見る。

 皆からの視線を感じ、ミカはいじけたような表情になる。


(……もう、バラすしかないのか。)


 国にバレれば、最悪ミカの自由は一切無くなるだろう。

 希少金属を生み出す鶏、魔法具の袋から引き揚げ(サルベージ)する便利な道具にされるだけ。

 ミカは唇を引き結び、俯く。


 そんなミカを見て、アーデルリーゼが溜息をついた。


「しょうがないわねえ……。」


 そう言ってアーデルリーゼはミカに微笑むと、魔法具研究チームの三人に視線を送る。

 アーデルリーゼの視線を受け、三人は躊躇いがちに頷いた。


「私たちが何とかしてあげる。 坊やは何も心配しなくていいわ。」

「何とかって……。 何をするんですか?」


 アーデルリーゼたちのただならぬ雰囲気に、ミカが尋ねる。

 だが、アーデルリーゼは首を振った。


「坊やは知らなくていいの。 蛇の道は蛇ってやつよ。」


 そう言って、アーデルリーゼが帰り支度をする。

 言いようのない不安にかられ、ミカはアーデルリーゼを引き留めようとする。

 だが、そんなミカをガエラスが止めた。


 そうしているうちに、アーデルリーゼたちは帰り支度を整える。


「こちらから連絡するわ。 それまでは留守にするから。」


 それだけ言って、魔法具研究チームが帰って行く。

 ミカは不安を抱えたまま、その後ろ姿を見送った。







 その日は結局そのまま解散となった。

 だが、ミカはガエラスに声をかけ、時間を作ってもらう。

 当然、聞きたいことは先程のアーデルリーゼのことだ。

 一体アーデルリーゼは何をするつもりなのか。

 ガエラスは何か見当がついているようなので、他の人のいない場所で話を聞くことにした。


 そうして、第三街区のボロ家にやって来た。

 テーブルの向かいに座ったガエラスが、困った顔をしている。


「先に言っておくよ。 ガエラスが教えてくれなくても、僕はどれだけお金をばら撒こうと、必ず聞き出す。 他の情報屋でも何でも使って。」


 ミカがそう宣言すると、ガエラスは目を瞑り、少しの間考える。

 それから一つ溜息をついて、ミカを見た。


「何を知りたいんで?」

「アーデルリーゼさんがしようとしていること。 見当がついているんでしょ?」

「おそらくは…………て、とこですかね。」


 ミカが視線で促すと、もう一度ガエラスが溜息をつく。


「彼女たちは、()()()の魔法具店をやっているんですよね。」

「そう聞いてる。」

「なら、”夜会(ソワイレ)”を頼ったんだと思います。」

「ソワイレ?」


 ”夜会(ソワイレ)”。

 ガエラスも噂でしか知らないと前置きした上で、説明してくれた。


 エックトレーム王国に根付く、裏社会の頂点。

 暗殺ギルド、盗賊ギルドなど、表では商売できないような者たちのギルドや集団が集まり、そうした裏に生きる者同士で無用の衝突が起こらないように調整しているらしい。

 情報屋ギルドも、実はこの夜会(ソワイレ)に属しているという。

 ガエラス曰く、


「真っ当じゃない方法で、情報を得る部門があるんです。」


 とのことだ。

 どうやら情報屋ギルドも、表と裏に分かれているらしい。


「裏側の事情に通じてない情報組織なんて、役に立たないでしょう?」


 そう言うガエラスだが、同じ情報屋ギルドに所属していても、裏が何をやっているかは分からないという。

 多少は裏の事情なども耳にするガエラスだが、奥の奥までは知ることができない。

 両方を完全に把握しているのは、ギルド長だけという噂らしい。


 他にも奴隷商、娼館などの一部も独自の組合を作って、この夜会(ソワイレ)に所属している。

 というより、傘下にあるという感じなのだそうだ。


「そんな所に、僕の情報を流す気?」


 どんな形であれ、アーデルリーゼたちが”銅系希少金属(オリハルコン)”のことを話せば、そこから容易にミカに辿り着くだろう。


「そんな直接的なことはしないでしょう。 おそらくですが、彼女たちの所属先の(ボス)に相談するんだと思います。」


 夜会(ソワイレ)の集まりで話すのではなく、その夜会(ソワイレ)に参加できる者に相談する。

 その者を通じて、夜会(ソワイレ)に働きかけるのだろう。


「今回は、ネタがネタですから。 おそらく錬金術師の正体を教えろと言ってくるでしょうねえ。 ただ、それはアーデルリーゼが飲まないでしょう。 そうなると……。」

「”銅系希少金属(オリハルコン)”を寄越せ?」

「そんなところでしょう。 物が物ですから、いくらお金を積まれても現物には敵いません。 交渉材料に、高純度”銅系希少金属(オリハルコン)”のことは話してしまう可能性はあります。」

「そんなのは別に構わないけど、そいつは本当に信用できるの?」


 ミカがそう聞くと、ガエラスが苦笑する。


「あんな連中を信用する奴なんかいませんよ。 信じた間抜けは土の中。 用心した者だけが生き残る。」


 下手に信用などすれば、毟れるだけ毟られ始末される。

 そういう相手との取り引きらしい。


「信用はできませんが、利には聡いし口は堅い。 そして、案外弁えてるもんです。 強欲が身を亡ぼすことを良く知ってる。 そんな奴を、しょっちゅう見てるからでしょうね。」


 ミカからすると、絶対に関わり合いたくないタイプの人のようだ。

 まあ、そうした者でなければ生き残れないのだろう。

 夜会(ソワイレ)という、海千山千の集まりでは。


「用心さえすれば、そう悪い選択肢じゃないです。 あっしらが無い知恵絞って考えるより、よっぽど確実だ。 噂の錬金術師と繋がりのある者が近くにいることを、その(ボス)も利と考えるでしょう。」

「そう……。」


 ミカは背もたれに寄りかかると、落ち込んだ顔になる。

 ミカが正体を明かしたくないと意地を張ることで、アーデルリーゼたちに少なくないリスクを負わせてしまった。

 そのことを思い悩んでいると、ガエラスが声をかけてくる。


「坊ちゃん。」


 ガエラスに呼ばれ、少しだけ顔を上げる。

 ミカのそんな様子を見て、ガエラスが苦笑した。


「坊ちゃんがそんな顔することはないんですよ。」

「でも……。」

「誰も、坊ちゃん一人にリスクを押し付けようなんて思ってません。 ヤロイバロフさんは公表すべきだって言ってますが、それは国が坊ちゃんを閉じ込めて”銅系希少金属(オリハルコン)”の生成に使い潰そうとすることも分かった上で言っているんです。」

「分かってて言ってるの? それはちょっとひどくない?」

「別に酷かあねえですよ。」


 そう言ってガエラスが笑う。


「その上で、もし本当に国がそんなことをして来たら、乗り込んで坊ちゃんを救出する気でしょうからね。 大聖堂に乗り込んだように。」

「は……?」


 乗り込むって、どこに?

 下手したら王城に監禁されることだってあり得るのに。


「坊ちゃんが隠れようとするから、ヤロイバロフさんじゃ力になれねえんですよ。 堂々と表に出てくれたら、ヤロイバロフさんだって大手を振って交渉に乗り出せるんです。 斧槍(ハルバード)を片手に。 国王陛下が相手でもね。」


 一人で国を相手に戦争でもする気かよ!

 ガエラスの予想に、ミカは思わずポカンとしてしまう。


「もっと、皆を信じてくださいよ、坊ちゃん。」


 ガエラスにそう優しく言われ、ミカは項垂れ、両手で顔を覆う。


「…………ごめん。」


 そうして、ぽつりと呟いた。





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― 新着の感想 ―
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[気になる点] 衝撃波とソニックブームは違うものですのでルビは適切ではないように思います。 衝撃波は英語でショックウェーブです。 衝撃波は簡単に言うと空気が散る前に後ろから押され圧縮された層のことで…
[一言] そもそも根源に母姉があり、村がある以上国に逆らえないし、領主にも逆らえない。 次いで本人は自由にやりたい。 一方で、勲章一つで袋開けをタダ同然でやらせておきながら市井では禁止とか、平民に人…
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