第214話 赤茶けた髪の青年
土の1の月、1の週の陽の日。
今日から冬となり、年が明けた。
元の世界でいうところの元旦だ。
だが、この国には新年を祝うような風習はない。
これではお餅が食べたいのに食べられないではないか。
まあ、たとえ正月があっても、この国にはお餅が存在しないのだが。
(盆暮れ正月、祝祭日すらありやしない。 何でこんなに余裕がないんだ?)
経済的、精神的な余裕ではなく、意識に余裕がない。
(意識変革が必要だろう。 これは。)
ただでさえ憂鬱な年の幕開けなのに、輪をかけて気分が沈む。
なぜ今年が憂鬱な年なのか。
それは、今年の春に高等部になるからだ。
ついにミカの恐れていた予備役になってしまう。
グローノワ帝国の侵攻が囁かれる、このタイミングでだ。
ミカでなくとも、憂鬱にもなろうというものである。
「あ、ミカ君。」
ミカが冒険者ギルドを出ると、声をかけられた。
声のした方に振り向くと、そこにはリムリーシェ、ツェシーリア、チャールの三人がいた。
「あれ? どしたの、三人して。」
「お買い物したり、遊びに来たの。」
この三人は相変わらず仲が良い。
チャールとツェシーリアは他にも多くの友人がいるが、リムリーシェはちょっと少ない。
あまり人付き合いは上手い方ではないようだが、それでも仲良くしてくれる子がいるのは、お兄さんとしても安心です。
…………と、レーヴタイン組以外に友人のいない誰かは思います。
(学院の外になら、いっぱいいるさ!)
トリュスだろ、ケーリャだろ、サロムラッサにガエラス……。
そう考えていき、
(あれ? これって友人か? 知り合いではあるけど。)
あと、いっぱいはいなくね?
そう思い至り、ちょっとだけ落ち込んだ。
「ここ、冒険者ギルド?」
「そうだよ。」
「へぇー……。」
ツェシーリアが珍しそうに、入り口から中を覗いた。
「そんなおっかなびっくりじゃなくて、普通に入って平気だよ。 あ、冒険者登録していけば?」
「しないわよっ!」
「小遣い稼ぎになるのに。」
ミカの提案をツェシーリアが即答で却下した。
サーベンジールの赤蜥蜴石の採集ほどではないが、モデッセの森などでも定額クエストがある。
【身体強化】を使えるし、ある程度の力のある学院生なら、そこそこ稼げると思う。
だが、魔法学院や騎士学院の学院生は、そういったものに興味を示す子供がほとんどいない。
魔法士様や騎士様だぞ、という意識があるのか、冒険者を一段低く見ている印象だ。
いや、一段低く見てるのは、一般の人たちも同じか。
冒険者はどうしても、粗暴や厄介者というイメージがつきまとう。
本当に強い冒険者は、魔法士も騎士も蹴散らすほどなのにね。
結局、強さの何たるかや礼節などは、職業ではなく個人次第なのだが。
まあ、折角来たんだからと、ちょっと社会科見学。
三人を連れて、ギルドの建物に入った。
「あれ、ミカちゃん? 帰ったんじゃないのかい?」
先程までミカと話をしていたトリュスが、三人を連れて戻ってきたミカに声をかける。
ミカは、今日はふらっとギルドに立ち寄り、預かりの呪物の解呪をしていた。
なぜ元旦からそんなことをしたのか。
勿論、理由がある。
それは、お年玉が欲しかったから。
この国にそんな風習はないので、自分からギルドに貰いに来たという訳です。
ほんの数分の仕事で二つの呪物の解呪を行い、二百万ラーツのお年玉。
やったね。
ただ、皆には見えないようにさせているが、実は今日はフィーが肩に乗っている。
よせばいいのに、また呪いを視覚化させやがって、気色の悪いもやもやの靄を見る羽目になった。
元旦から、いらんことすんなっての。
ちょっとフィーにはお小言を喰らわせました。
ミカはトリュスに三人を紹介した。
「学院の友達だよ。 地方の学院からずっと同じクラスなんだ。」
「同郷の友達か。 皆魔法士なんてすごいね。 私はトリュスだ。 よろしく。」
そうして、軽く自己紹介をして、ギルド内を案内する。
チャールが「……取材……。 ……ディテール、助かる……。」などとぶつぶつ呟いている。
何だ、取材って?
依頼の張られる掲示板やカウンターを見学し、丁度時間的にお昼になるので三人をランチにご招待。
ギルド近くの、ちょっとお高いレストランに来た。
前にガエラスに教えてもらったお店だ。
「好きなだけ頼んでいいよ。 あ、ここは白パンが美味しいから。」
寮の食事も悪くはないが、やはりお高い店の料理は手間暇がかかり、材料もいい。
質より量を優先せざるを得ない寮の食事とは、どうしても味に差が出るのは当然だろう。
ミカは皆が遠慮しないように山ほど白パンを注文する。
店員がちょっと顔を引き攣らせていたが、頑張って焼いてね。
オードブルやシチュー、メインの肉料理などを注文し、一息つく。
雑談していると、パンだけが最初にやってきた。
どうやら数が多すぎて、残りは今焼いてますとのことだった。
「このパンはこのままでも美味しいよ。」
そう言ってミカが一つかぶりつくと、三人も手を伸ばす。
その柔らかさに、目を丸くしていた。
(そうそう、キスティルとネリスフィーネも、最初はすごい驚いてたね。)
白く、柔らかい、雑味のないパン。
そのままでも甘味を感じるパンを、三人は夢中になって食べた。
だが、ツェシーリアの手が止まり、じっとパンを見ている。
「…………なんて物食べさせるのよ。」
ふと、そんなことを呟く。
「こんなの食べちゃったら、もう寮のパンなんて食べられないじゃない。」
ツェシーリアの零すそんな感想に、ミカは苦笑する。
「そりゃ悪かった。 なら、一生分食いだめしとけ。」
まあ、しばらくは食べられないだろうけど、自分で稼ぐようになればお金の使い道は自由だ。
街中にある共有の窯は、有料だが借りることができる。
あとは発酵させる酵母を何とかできれば、自分で焼くことも可能だ。
「このパンは、発酵させることで膨らませてるんだよ。 自分で作ろうと思えばやれなくはないよ。」
「そうなの?」
ミカは声を潜めて教えてあげる。
あまり店の人には聞かれたくない話だ。
出された料理の素材がどうだの原価がこうだの言うのは、少々マナー違反だと思っている。
自分で思っているだけならいいんだけどね。
褒めるならともかく、種明かしみたいのはあからさまにするべきではないだろう。
そうして次々に出てくる料理を一心不乱に食べ、多目に頼んだパンもすべて平らげた。
特にツェシーリアは、焼きたての白パンに感動して涙ぐんでいた。
きっと、将来の夢が「パン屋さんになる!」になったことだろう。
元の世界のパン屋は、甘い夢をぶち壊すほどにすっごい大変な仕事だけどな。
最後に出てきたデザートも平らげ、一休み。
三人とも満足してくれたようだ。
「ミカはいつもこんなお店に来てるの? 贅沢ねえ。」
ツェシーリアがお腹を摩りながら聞いてくる。
「いつも外で食べたりはしてないよ。 家で食べてる。 屋台で食べてたりもするし。 ここに来たのも何カ月振りだ?」
「家では自分で料理してるの?」
何気なくリムリーシェに聞かれ、思わず無表情になる。
この話題はまずい……。
ミカはまだ、キスティルやネリスフィーネのことを皆に話していない。
「んー、惜しーい。 七十点かなー?」
その時、どこかの席から、そんな声が聞こえてきた。
何やら料理に点数をつけているようだ。
ここの料理に七十点とは、中々に辛口の採点。
(おいおい、そういうのは思っても言っちゃだめだって……。)
美味しかったよ、ご馳走様、で済ませば双方が笑顔でいられる。
点数を店の人に伝えたところで、その店の料理が良くなる訳じゃない。
所詮は個人の好みの話なのだから。
九十九人が百点を出しても、一人だけ十点ということだって普通にあり得る。
個人の感想に簡単に左右されては、飲食店などやってはいけない。
(店の雰囲気が悪くなる前に、さっさと出るか。)
何やら、まだぶつぶつ言っているのが聞こえる。
店の人の耳に入ったら、微妙な空気になりかねない。
折角いい店に食べに来たのだ。
気持ちよく帰りたい。
「それじゃ、ちょっとこの後にも用事があるんで。 出ようか。」
ミカは適当な理由をつけて、出ることにした。
会計を済ませ、店を出る。
「ご馳走様、ミカ君。」
「……ご馳走様……。」
「ご馳走様。 悪いわね、奢ってもらっちゃって。」
皆が喜んでくれたようで何より。
店の出入り口の、少し横に移動する。
「皆はこれから買い物。」
「うん。 チャールの文房具を買いに行って、ツェシーリアはお洋服とか。 あと、小物も見るんだっけ?」
「チャールは紙とかインクが無くなるの早過ぎ。 何であんなに買って、一カ月しかもたないのよ。」
「……これでも、抑えてる……。」
チャールは、何やら大量に紙やインクを消費しているらしい。
執筆でもしてるのかね?
「それじゃ、気をつけてな。」
「ミカじゃあるまいし、気をつけなきゃいけないようなことなんてないわよ。」
リムリーシェが、ツェシーリアの言葉に苦笑する。
本当に口ばっか達者だな、こいつ……。
そんな風に、ミカがちょっとげんなりしていると、
「あれー、テーちゃんだー。」
ちょっと気の抜けるような声が聞こえた。
声の方を見ると、丁度レストランから出てくる人が一人。
外套のフードをすっぽりと被り、顔は見えなかった。
声は男のもの。
そして、フードで顔は見えないが、明らかにこちらを見ている。
(…………何だ……?)
何というか、妙な胸騒ぎがする。
下腹のあたりから、ぞわそわした感じが上がってくる。
「ミカ、知り合い……?」
ツェシーリアがそう聞いてくるが、ミカも訝し気な表情にしかならない。
そんなミカの様子に気づき、外套の男が声を上げる。
「えー!? 忘れちゃったのー?」
そうして、外套の男はゆっくりとフードを取る。
「ッ!?」
「あ、思い出したー?」
外套の男は赤茶けた髪の青年だった。
つーか、何普通に話しかけてんだ、こいつ!
ミカは咄嗟に三人を庇うように前に出て、魔力範囲を展開する。
だが、その瞬間に赤茶けた髪の青年は、ばっと後ろに飛び退いた。
丁度、ミカの魔力範囲から逃れる位置に。
「ちょっとちょっとー、いきなりそれは酷いんじゃないー?」
そんなこと言う。
(こいつ! 俺の魔力範囲が見えてるのか!?)
立ち位置が絶妙すぎる。
ミカも自分の魔力は見えるが、他人の魔力は見ることができない。
だが、赤茶けた髪の青年の動きは、ミカの魔力が見えているとしか思えなかった。
「ミカ君、どうしたの?」
後ろにいる三人が、戸惑っているのが分かる。
ミカは苦し気に赤茶けた髪の青年を睨んだ。
(今やり合うのはまずい! 三人を巻き込んでしまう!)
何より、ここは王都の中。
陽の日で賑わう、南東の大通りなのだ。
赤茶けた髪の青年と本気でやり合えば、どれほどの大惨事になるか。
(こいつは、俺と同じで魔法を使える……! 鎧ごと、人を引き裂く魔法を!)
ミカでも、あの威力を実現しようとすれば、かなりの苦労をすると思う。
鎧を引き裂くなど、やったこともない。
”風刃”に魔力を注ぎ込めば、やれなくはないとは思うが。
「テーちゃーん。 これ引っ込めないー? これじゃあ、話もしにくいしー。」
「……話?」
こんな奴と、何を話すことがあるのか。
だが、今の状況はかなりまずい。
何とか王都の外に出さえすれば、全力で戦えるのに……。
(【身体強化】は発現しっぱなしだけど、防具を装備してない……。)
出力は落としていたが、【身体強化】の発現だけは維持していた。
そして、今は当然四倍まで上げてある。
五倍は自分の身体にもダメージが入って行くので、リスクが大きい。
(……まあ、防具は意味がないか。)
鎧を引き裂くのだ。
いくら防具を身につけても、ほとんど意味をなさないだろう。
ミカは魔力範囲を狭め、半径二メートル程度までにした。
それを見て、赤茶けた髪の青年がてくてくと歩いてくる。
魔力範囲に触れない所まで。
(やっぱり、見えてやがるっ……。)
あの身のこなしを見る限り、相当に戦い慣れてるのも分かった。
「…………三人とも、ゆっくり後ろに行って。 悪いけど、今日は帰るんだ。」
ミカは赤茶けた髪の青年から視線を外さず、後ろの三人に声をかける。
赤茶けた髪の青年を刺激しないように、慎重に三人を逃がしたい。
リムリーシェたちもミカのただならぬ雰囲気に気づいているのか、何も言わずに従った。
三人がゆっくりと魔力範囲から出て行くのを感じつつ、赤茶けた髪の青年を警戒する。
三人を守るように、後ろに長く魔力範囲を伸ばす。
そうして、二十メートル以上離れたのを確認して、魔力範囲を切った。
「…………これでいいのか?」
「久しぶりだねー。 テーちゃん。」
まるで旧友に会ったかのように、にこにこ笑いかける青年。
ミカの警戒など、欠片も気にしていない。
気づいていない訳ではないだろう。
これは、余裕だ。
(舐めやがってっ……。)
沸々と怒りが湧くが、それをここで出すわけにはいかない。
見える範囲だけでも、百人単位で人が溢れているのだから。
「ルーちゃんにテーちゃんのことを話したんだよー。 でも、放っておけってー。 酷くないー?」
それじゃあ、放っておいてくれよ。
何で話しかけてくんだよ。
「あ、テーちゃんから話しかけてきたってことにしよー。 そうしたら、言われたこと破ったことにならないよねー。」
ミカのせいにされた。
相変わらず、勝手に話が進むな。
「…………何やってんだよ、こんな所で。」
無駄だろうと思いつつ、聞いてみる。
だが、青年はぽんと手を打つ。
「お仕事の途中だったー。 歩きながらでいいー?」
そう言いながら、青年が歩き出す。
(これ、放っておいちゃだめか?)
このまま見送ったらどうなるのだろう。
ふと、そんな考えが浮かぶ。
(………………。)
だが、ミカは大人しく付いて行くことにした。
(下手に機嫌を損ねれば大惨事だ。 その辺の騎士に止められるとも思えない。)
ミカの知る限り、青年を止められる可能性があるのはミカ、ヤロイバロフ、オズエンドルワくらいだ。
ミカの想像する以上の化け物だった場合、ご愁傷様。
止められる者などなく、王都が瓦礫の山に変わるだけ。
青年はミカの前を軽い足取りで歩き、ちらりとミカを見た。
それから、ふっと視線をずらす。
「どうした?」
「んー、何でもないー。」
再び青年は軽い足取りで進んで行く。
「仕事の途中って言ったよな。 何やってんだ?」
答えてもらえるか分からないが、とりあえず聞いてみる。
聞くだけは無料だ。
もし対価が必要だった場合、その辺の人の命で支払うことになるかもしれないが。
ミカとしては、自分の命で支払う事態だけは全力で避けるつもり。
「”黒”の管理だよー。 まあ、まだそこまで忙しくないけどねー。 アーちゃんとかは、他にもいろいろやってるけどー。」
だが、ミカの予想に反して、青年はあっさりと答える。
(アートルムッ……!)
それ、超重要なワードじゃないのかよ!
何あっさりしゃべってんだ!
「アートルムって何さ。」
ミカは何気ない振りをして聞く。
「”黒”は”黒”だよー。 ”意”を集めるのー。」
「ウォルンタース……?」
また、よく分からない単語が出てきた。
ていうか、あっさり話していいものなのか。
「そのウォルンタースってのは――――。」
「着いたー。」
ミカが問いかけるが、青年の目的地についたのか、遮られてしまう。
そこは、広場のような場所だった。
公園のように遊具があるわけではないが、中央の台座の上に像があり、周囲には休日を憩いの場で過ごす人たちがいた。
青年は台座に向かって真っすぐ進み、その後ろに回る。
(…………建国王の像か。)
ミカは青年から視線を外せないため確認できないが、おそらくエックトレーム王国の初代の王だろう。
小国同士のゴタゴタに乗じて、王権を奪い取った簒奪者。
まあ、そんなのは奪われる方が悪いとも思うが、苛烈な国是を定めた張本人だ。
他の王家を一切認めず、『唯一の王』を目指した冷酷無比な男。
それに倣っちゃう歴代の王もどうかと思うが、そんなことを最初に始めたのは、この男からだ。
ミカは青年の後に続き、像の後ろに回る。
台座の後ろには特に何もなく、青年は台座に向かって手を伸ばしていた。
「…………何してんの?」
「だから、”黒”の管理だよー。」
管理?
何もない所に手を伸ばして……?
(――――ッ!?)
一瞬にしてミカの全身が総毛立つ。
(アートルムって、あの黒い繭だろうがっ!)
ミカの見ている前で消えていった黒い繭。
(あるのかっ!? そこにっ!)
見えない黒い繭。
それを管理しているということは、そういうことなのか!?
「テーちゃんが”神の子”になったら、手伝ってねー。」
ミカの様子に気づいているはずの青年は、なおも呑気にそんなことを言う。
(まずいまずいまずいっ! どうすんだ!? 黒い繭がこんな所にあるなんて!)
青年が言うには、ウォルンタースとやらを集めるという黒い繭。
具体的なことは分からないが、そのままにしておいていい物ではないだろう。
(……後でどうにかするか? でも、どうやって!?)
見えない物をどうすればいいのか。
何より、後からでも何でも、手を出せば敵対行動確定だ。
ミカがやったことはすぐにバレて、ミカ個人が狙われることになる。
「さ、次行こうー。 あと二っつねー。」
青年はにこにこしながらミカに話しかける。
ミカの頬を嫌な汗が流れた。
「他にも、あるのか……?」
「あるよー。 午前中に三っつやってー、ここも終わったからー。 あと二つだよー。」
全部で、六個?
(そんなにも、黒い繭があるのか。)
ミカが愕然としていると、広場の中に数人の騎士たちが走り込んできた。
「いたぞーっ!」
騎士たちは剣を抜き、ミカたちの方に駆けてくる。
抜き身の剣を持つ騎士たちに、周囲が騒然となった。
子供を抱え、逃げて行く女性。
状況が理解できず、おろおろするばかりのお年寄りもいる。
(馬鹿野郎がっ! 刺激すんじゃねーよっ!)
シェスバーノ隊の騎士がいるのだろうか?
青年の顔を知る騎士が、捕えにきたようだ。
「あれー? 見つかっちゃったー?」
だが、青年はまったく動じておらず、呑気な口調だ。
ミカたちは、四人の騎士に半包囲されてしまった。
(くそっ! どうすりゃいいんだっ!?)
焦った表情のミカが、青年と騎士を交互に見る。
騎士たちが突っ込んだところで、青年が倒せるとは思えない。
だが、騎士を止めれば青年を庇ったように見えるだろう。
では、ここで青年と敵対するか。
それもできれば避けたい。
本気でかからなくては、おそらくやられるのはミカだ。
だが、王都内で全力で戦えば、周囲の被害は甚大になる。
(どっちも、下手すりゃお尋ね者コースじゃねえか。)
逃げるべきか?
しかし、青年が逃がしてくれるだろうか?
ミカは行動を決められず、気持ちばかりが焦る。
騎士は相当に殺気立っている。
ミカは青年の方を見た。
青年と目が合う。
その瞬間、ミカの目の前で青年の頭が跳ねたのだった。




