第202話 裏で蠢く者たち ※”火”のあだ名講座
水の2の月、2の週の火の日。午後。
ミカは目隠しをされ、王城に監禁されていた。
「……………………。」
座り心地だけはいいソファーに座りながら、ミカはそっと溜息をつく。
オズエンドルワに呼ばれた翌日、学院で朝から授業を受けていたら学院長室に呼び出された。
学院長室に行くと、学院長のモーリスの他にもう一人。
王宮からの使いと名乗る男がいた。
「貴方が、”解呪師”と呼ばれる冒険者ですか?」
「そうですけど……。」
少々不躾な視線でミカを上から下まで見ると、王宮からの使いが一つ頷く。
「まあいいでしょう。 では、参りましょう。」
「え? 参りましょうって、どこへ?」
戸惑うミカに、王宮からの使いが少し呆れたような顔になる。
「決まっているでしょう。 王城です。」
「はい?」
困惑するミカに、見かねたモーリスが説明する。
「いきなり過ぎて戸惑うのも無理はない。 だが、これは決定事項なんだ。 勅命という形ではないが、陛下からのご命令だと思って謹んでお受けしなさい。」
「ちょくっ!? 陛下から!?」
普通に学院に行ったら、国王から呼び出しを受けた。
訳が分からない。
「い、今すぐじゃないとだめなんですか!?」
「そうではないが、何かあるのか?」
王宮の使いが怪訝そうな顔になる。
きっと、国王の命令より優先するものなど何一つないと思っているのだろう。
まあ、それも間違いではないのだろうが、ミカにだって予定くらいある。
スケジュール調整もせずに、いきなり連行されるのは流石に困る。
「あの…………、何時間か待ってもらう訳には?」
「それは構わないが、なぜだ?」
「放課後に予定があったんです。 勿論、予定をキャンセルして王城に行くのは構わないのですが、無断でキャンセルというのはできれば避けたいなぁ……って。」
「なるほど……。」
簡単に事情を説明すると、王宮からの使いが少し考える顔になる。
「まあ、良いでしょう。」
そう言って、正午までに第一街壁の東門の前にある、官所に出頭するように指示をされた。
(正午って、二時間もないじゃないか!)
それでも、そのまま連行されるよりはマシなので、仕方なく了承する。
モーリスにも学院を早退する許可を貰い、ミカは学院長室から退室した。
ミカが帰り支度するのを心配そうに見ていたクレイリアに、「王城に行ってくる」と小声で伝えると驚いた顔になる。
だが、クレイリアは余計なことは一切言わずに、ただ「お気をつけて」とだけ言った。
流石に侯爵家の令嬢だけあって、王城に呼ばれる意味を理解しているようだ。
そうして学院を飛び出したミカが向かったのは、まず冒険者ギルド。
ギルドの入り口からざっと中を眺め、トリュスが来ていないかを確認する。
ミカがギルドに顔を出した瞬間、ざわめきが起こった。
しかし今はそんなのを気にしていられないので、トリュスが来ていないことを確認するとギルドを飛び出す。
ギルドに顔を出して、なぜざわめきが起こったかと言うと、最近少々不穏な噂が流れているからだ。
「”解呪師”に手を出すと破滅する。」
ミカを陥れようとした冒険者ギルドの幹部が、四人も飛んだ。
そして今度は、ミカを亡き者にしようとした教会が、大混乱に陥っている。
しかも、教皇を含む数十人もの枢機卿、大司教、司教が逮捕され、現在教会は破滅寸前。
規模や影響力で言えば、教会は冒険者ギルドなんか比較にならないほどの巨大組織だ。
その教会でさえ、”解呪師”に手を出すことで、傾くどころか崩壊寸前という有様。
情報屋ギルドが面白がって噂をばら撒いているらしいのだが、それも王都だけでなく王国中に広めているらしい。
熱心な光神教徒ほど「そんなの信じない」と言っている人もいるようだが、次々に明るみになる不正の数々に、絶望した気持ちになっているという。
現国王は熱心な光神教徒であり、また国がとても安定していたため、非常に人気があった。
その国王ですら動かざるを得なかったほどか、と受け止めている人が大半だそうだ。
おかげで、ミカが教会を陥れた、と歪んで捉える人は基本的にはいないらしい。
まあ、中にはいるのだろうけど、多くの人が今回の件は「国王にこそ正義がある」と考えているようだ。
ミカはギルドにトリュスが来ていないことを確認すると、トリュスの自宅に向かう。
なぜトリュスを探しているかと言うと、部屋探しを手伝ってもらうためだ。
実は、放課後に引っ越し先を探すつもりだったのだ。
教会を動かしたヒュームスという女は、ミカの謀殺を企んだ。
そのヒュームスに、教会を通じて今のミカの家はバレている可能性がある。
そのため新たな家を、今日の放課後にキスティルやネリスフィーネと探すつもりだった。
ところが、急に王城から呼び出しを喰らい、引っ越し先を探しに行けなくなってしまった。
少しでも早く新居を探さないといけない状況なので、トリュスにキスティルとネリスフィーネの部屋探しについて行ってもらえないか、頼もうと考えた訳だ。
トリュスなら今回の事情をある程度は理解しているので、説明もしやすい。
そんな訳で、ミカはトリュスの家に突撃をかます。
コンコン。
ミカはトリュスの住まいである集合住宅に押しかけた。
「トリュスー、ミカだけどー。 いるー?」
コンコン。
再度ノックすると、中から返事が聞こえた。
そうして待っていると、ドアがガチャリと開く。
「やあ、ミカちゃん。 どうしたんだ、急に。」
汗だくで、少々息の上がった薄着のトリュスが顔を出す。
もしかして、いけないタイミングで来ちゃった?と心配になったが、どうやら筋トレ中だったらしい。
トリュスは部屋の中央にあった、砂の詰まった魔獣の革らしき袋を隅に片付けた。
それ、米を入れても三十キログラムくらいにはなりそうな袋なんですけど……。
どれだけの負荷をかけてやってるんだ?
加圧トレーニングを教えましょうか?
トリュスがお茶を入れようとするのを、時間がないから、と断る。
「ごめん、トリュス。 キスティルとネリスフィーネに付き合って、部屋探しを手伝って欲しいんだ。」
「部屋探し? 引っ越すのかい?」
ミカは簡単に事情を説明する。
教会の裏に、ミカの謀殺を企んでいた者がいたこと。
教会を通じ、ミカの家がバレているかもしれないこと。
今日部屋探しに行く予定だったが、王城に呼ばれてしまったことを。
「次から次へと……。 ミカちゃんは忙しいなあ。」
「僕のせいじゃないです……。」
ミカは力なく言うが、ほぼ自業自得ではある。
今回のことで、ミカの情報が様々な方面に、一元的にまとめられた形で拡散してしまった。
これまでも、断片的な情報はいろいろ伝わっていた。
情報は主に二つ。
魔法士としてのミカの情報と、冒険者としてのミカの情報だ。
これらは基本的には分けられて伝わり、一方の情報に詳しい者は、もう一方には疎いと言った感じだった。
冒険者たちは、冒険者としてのミカのことは”解呪師”として知っている。
魔法学院に通っていることも知ってはいたが、それ以上のことは知らなかった。
魔法学院では、魔法士見習いとして神童と呼ぶほどに注目していたが、冒険者としてのミカは知らない。
情報屋ギルドなど、一部の者は両方の情報を手に入れ、全体像として正しいミカの姿に気づいていた者もいるだろう。
だが、そうした者はぺちゃくちゃと余計なことを言ったりはしない。
メシの種を、自分の軽口で潰す間抜けはいないからだ。
ところが、魔法学院などがミカという学院生の別の顔に気づいた。
魔法士としても天才的な才に恵まれていたが、”解呪師”などと呼ばれる特殊な【技能】を持つ冒険者だと知ってしまったのだ。
学院生として法で雁字搦めにされた、立場の弱いミカとしては、どう便利にこき使われるのかとげんなりする。
肩を落とすミカを見て、トリュスが苦笑した。
「何の用で呼ばれたかは聞いたかい?」
「いえ…………聞いてません。 何か、聞くこと自体がいいことじゃない、みたいな雰囲気で。」
「ああー……、それはあるかもね。」
呼ばれたのだから、二つ返事でついて来るのが当然と言った感じを、ひしひしと受けた。
なんかもう、反論どころか質問されることすら「意外だ」とか言いそうな連中の相手って、本当に疲れるわ。…………精神的に。
「まあ、覚悟して行くことだね。 用が無くなればさっさと帰れと追い出すくせに、用が済まなければ一週間でも一カ月でも平気で留め置かれるからね。」
「は?」
一カ月?
ミカがぽかんとした顔になると、トリュスが少し疲れたような顔になる。
「何の用事か、分からないのだろう? 王侯貴族なんてのは、平民の生活なんか大して気にかけやしないよ。 一カ月留め置かれれば、一か月分の稼ぎが無くなる。 そんなことを気にかけてくれるような者は、いないと思った方がいい。」
そもそも平民が、国王や貴族に関わること自体が普通ない。
用があるから呼んだ、用が済んだから帰した、くらいしか考えないだろうと言う。
(…………評判のいい王みたいだけど、平民の一人二人のことなんかは、まったく気にしてないか。)
平民を全体としては捉えても、個々についてはその辺の石ころと大して変わらないくらいにしか、考えていないのかもしれない。
「ありがとうございます。 覚悟が少しできました。」
嫌な覚悟だけど。
そうして部屋探しの約束をトリュスに取り付け、自宅に戻る。
「ご苦労様でーす。」
先日から就いてくれている警護の騎士に挨拶して、ミカは家に入った。
念のために着替えなども魔法具の袋に詰め、突然帰って来たミカに驚くキスティルとネリスフィーネに事情を説明する。
二人とも、ひどく心配そうな顔になった。
「まあ、そんなに心配しないで。 大人しくするよ。」
何の根拠もない気休めを言い、家を出ると、ミカは第一街壁の東門の前にある官所に向かった。
目隠しをされながらも、ミカは魔力範囲で周囲を把握する。
目の前に座る男は、学院に来た王宮からの使い。
他にも官吏と思われる男が数名。
三人の女中に、五人の騎士が部屋にいる。
把握できる範囲では。
部屋の広さは、広すぎてぱっと見ではちょっと分からなかった。
奥行きは二十メートルくらいか?
横幅は多分三十メートルを超えていると思う。
ぶっちゃけ、クレイリアの私室よりも広い。
ベッドやソファーもあるが、何でこんなに広いのか、見当もつかない客間である。
「この魔法具の袋の中身を取り出してみなさい。」
ミカが王城に呼ばれた理由。
それは、魔法具の袋からの引き揚げだった。
中身を見てはいけないということで、目隠しがされている。
まあ、中に手を突っ込んだ瞬間に、何が入っているか丸分かりなんですけどね。
それでも、外見などの細部まで把握できる訳ではないので、目隠しの意味がないとは言わないけど。
ミカはテーブルの上に置かれた魔法具の袋に手を伸ばす。
そうして、言われるままに引き揚げを行う。
慎重に三十分以上かけて魔力を置き換え、取り出したのは数枚の硬貨。
銅貨と大銅貨だと思われる。
あとは紙が一枚入っていた。
ミカが数枚の硬貨と紙を取り出すと、一瞬だけざわっとなる。
そうして、取り出し終わった魔法具の袋をテーブルに置いた。
「それで終わりかね?」
「はい。 他には入っていません。」
「そうか。 よろしい。」
どうやら、これはテストだったらしい。
まずはどうでもいい物を入れてみて、実際に引き揚げできるか試したのだろう。
「それでは、次はこれだ。」
「あの……ちょっとよろしいですか。」
すぐに次に進もうとする使いの男に、声をかける。
「……何だね?」
「次は失敗しますよ。」
「何?」
ミカの失敗予告に、大きなざわめきが起こる。
「どういうことだね。」
「どうもこうも、目隠ししてたら途中で寝ます。 今だって眠っちゃいそうなんですから。」
「…………何だと?」
ずっと目を閉じてたら、そりゃ寝るでしょ。
もしかして、寝たことないの?
あ、目を開けて寝る派?
たまにいるよね、どう見ても起きてるようにしか見えない人。
「中身を取り出す時だけ目隠しすれば十分じゃないですか? 消失のリスクも加味して、どうか慎重に判断してください。」
ミカはそう言って欠伸をしながら、背もたれに寄りかかる。
あ、本当に眠くなってきたな。
官吏たちが、ぼそぼそ……と何やら相談を始める。
そして、
「分かった。 取り出す時には声をかけなさい。 取り出すのは、目隠しをしてからだ。」
使いの男がそう言うと、一つ頷く。
おそらくミカの後ろにいる女中の一人に、合図を送ったのだろう。
その女中が目隠しを外した。
「それと、報酬なんですけど。」
「報酬……?」
本気で、心底意外そうな顔で、使いの男が呟く。
「平民は、必死に働いて、頑張って稼いでるんです。 僕は引き揚げで食って行ってるんです。 貴方がたのように、お給料が出る訳ではないので。」
学院生の月の手当て、一万ラーツやぞ?
王国軍の軍属に属しちゃいるが、お給料は貰ってない。
厳密には貰っていることになるのかもしれないが、それは学院に通うことで義理は果たしている。
王城に呼びつけて仕事させようって言うなら、これは別口だよね?
ミカの話を聞き、使いの男は考える顔になる。
「ちなみに仕事で受ける場合、魔法具の袋一つにつき百万ラーツで請け負ってます。 ご参考までに。」
「百万だとっ……!?」
「ええ、そうですよ。」
官吏の男の一人が大きな声を上げた。
再び男たちがざわざわと何事かを話し合い始め、その日は一旦中止になった。
ミカとしては、別に百万ラーツを絶対に寄越せと思ってる訳ではない。
むしろ、普段からこんなに高くていいの?と思っているくらいだ。
まあ、自分から値引きするつもりもないけど。
ミカが報酬のことを持ち出したのは、お金が目的ではない。
気軽に呼びつけ、無報酬でこき使えると思われたら堪らないので、吹っ掛けただけだ。
別に金を払いたくないなら、それでも構わないと思っている。
だが、言っておけば「本当は百万ラーツだけど、お国のために無料でやりますよ。」と恩を着せることができる。
もしかしたら恩など微塵も感じてくれないかもしれないが、最初っから無報酬でこき使えると思われているのと、本来は有償なんだと理解してもらえるのでは、多少違いがあるかもしれないと足掻いているだけである。
「…………で、やっぱり帰してくれないのね。」
ミカは肩を落とし、呟く。
ちなみに、部屋の中には女中が三人待機している。
騎士も五人居て、部屋の前にも二人いるようだ。
どれだけ警戒してるんだっての。
(トリュスの言う通り、お泊りコースかな?)
あり得る、と一応覚悟しておいて良かった。
それでも、もう厄介事は嫌だよぉ……、と泣きたくなってくるミカなのだった。
■■■■■■
【聖地ウープ・サクトゥ 大聖堂】
水色の髪の男が、薄暗い階段を上がっていく。
そうして階段を上がり切り、突き当たりの鉄の扉を開けると、眩しいほどの陽光が降り注いでいた。
普通なら、ここで一度眩しさのあまりに顔を背けるなどの仕草をするものだが、水色の髪の男は特に何も反応しない。
それはそうだろう。
水色の髪の男は、ずっと目を閉じているのだから。
扉を出た先はテラスだった。
普段は厳重に鍵がかけられ、開かずの扉のように伝えられる鉄の扉。
この扉を鍵を持つ者が、実は数名いる。
”水”もその一人。
だが、今日は先に別の者が来ていたため、鍵が開けられていたのだ。
”水”は司教用の衣服を身に纏い、眼下の中庭を眺めながらテラスを通って、教皇執務室に入る。
「おや、私が最後でしたか。」
「やほー。 アーちゃーん。」
窓から執務室に入った”水”に気づき、赤茶けた髪の青年が手を振る。
部屋の中には、すでに四人の男女がいた。
教皇。
赤茶けた髪の”火”。
黒髪の、妖艶な雰囲気を持つ”土”。
十代後半の、少年のような”風”。
教皇も含め、全員が司教用の衣服を身に纏っていた。
”水”が顔を見せると、あからさまに”土”と”風”が顔を背ける。
この二人は、基本的には”水”のことを良く思っていない。
”水”の役割として、この二人によく注意などをするため、昔から嫌われているのだ。
”水”は教皇の前に跪く。
「”光”。 遅くなりました。」
「良い。 何かあったか?」
「大したことではないのですが、少々対処に手間取りまして。 後ほどご報告いたします。」
教皇が一つ頷くと”水”は”火”の隣の席に座った。
「こうして、一堂に会するのも久々だな。 十年振りくらいか。」
そう教皇が言うと、全員が頷いた。
「存外に小鼠が頑固で…………いや、思った以上に肝が小さいおかげで手間取ったが、ようやく少し動きそうだ。」
「それでは、ついに侵攻が?」
”風”が教皇に問う。
だが、教皇は少し曖昧な表情になる。
「実際の侵攻にはもう少しかかりそうだが、大分傾いてきた。 地道に公爵や侯爵に赤酒を配ってきた甲斐があったというものだ。」
教皇がそう言うと、”土”が冷たい笑みを浮かべた。
「我ら”神の子”の悲願のためには、侵攻は絶対に達成しなければならない、重要な工程だ。」
”火”が頷く。
「そのために、配置を少し変更する。 ”土”はグローノワに入って”黒”の管理だ。」
「そんな!?」
教皇の指示に”土”と”風”が戸惑い、顔を見合わせる。
「これからは”意”の集まりが早まっていく。 私もこれから忙しくなる。 グローノワ内の”意”の回収までは手が回らん。」
「そんなの! ”水”にやらせれば良いではありませんか!」
「無理を言わないでください。 私も通商連合の工作で手一杯です。」
反論する”水”を、凄まじい形相で”土”が睨む。
「丁度私の名前が挙がったので、私の方から一つご報告します。」
そんな”土”のことなどまったく気にせず、”水”が報告する。
「エックトレーム内の教会に、軍が中心になって何やら査察が入ったようです。」
「査察……?」
”水”の報告に、教皇が怪訝そうな表情をする。
「不正を働いていた司教らを、片っ端から牢に放り込んでいるようです。」
「そうそう。 ルーちゃんにそれ、報告するつもりだったんだー。」
”水”の報告に、”火”も頷く。
「おかげで、これまで作り上げた密輸のルートが使えなくなりました。 他にも、エックトレームの教会には様々な工作のために便宜を図らせていたのですが、ほぼすべてが壊滅です。」
そう言うと、”水”が”土”の方を見る。
「どこかの誰かが、勝手に私の名前を持ち出してくれたおかげで、通商連合内ですら身分を作り直しです。 エックトレームからの手配書が、連合にまで回っているのでね。」
”土”と”風”が”水”を睨むが、”水”はまったく怯まずに二人の方に顔を向ける。
それはまるで、睨み返すかのようだった。
その様子に、教皇が溜息をつく。
「この大事な時に、”神の子”同士でいがみ合っても仕方あるまい。 ”土”、何があった?」
「【解呪】よっ!」
教皇の問いに、”土”が被せるように答える。
「忌々しい【解呪】の使い手が現れたって言うのよっ!? 放っておく訳にいかないじゃないっ!!!」
「【解呪】だと!?」
「……【解呪】?」
叫ぶように訴える”土”に、教皇は驚いたような表情になり、”水”も訝し気に呟く。
「そうよっ! 【解呪】の使い手が現れたから、教会の奴らを使って殺させようとしたのよっ! 何よ、それがいけないって言うのっ!?」
「お姉ちゃんは間違ってない!」
”土”の主張に、”風”も同意する。
二人の様子を見て、教皇が腕を組んで考える。
「ふーむ……。 本当に、【解呪】の使い手か? まさか……。」
「本当か嘘かなんてどうでもいいじゃないか! そんな奴が現れたって言うなら、消すだけだ!」
”風”の主張に、教皇も頷く。
「分かった。 二人の言うことは正しい。 ”水”も分かっただろう。 身分など、何度でも作り直せばいい。」
「…………分かりました。」
”水”は、教皇に言われて恭しく頭を下げる。
顔を上げた”水”は、とても穏やかな表情をしていた。
それから、他にもいくつかの報告が行われ、それに対して教皇が指示をしていく。
「……”闇”の候補? さすがに今からでは戦力にはならんし、間に合わないだろう。 捨て置け。」
「えーーっ!」
教皇の意見に”火”が声を上げる。
「うう……、テーちゃん。」
などと呟き、しょんぼりする。
解散となり、教皇執務室で果実酒や火酒を皆が思い思いに飲むが、”水”は早々に退席してきた。
そうして、テラスから鉄の扉を潜り、階段を下りる。
「【解呪】の使い手の殺しに、教会を使っただと……。」
”水”の眉間に、深い皺が寄る。
長い長い階段を下りると、そこは先史文明の遺跡がある。
大陸中に散らばる遺跡のうち、いくつかは機能が一部生き残っていた。
ここは、そんな生き残った遺跡の一つだった。
”水”が紋様の描かれた台座の上に立つと、囲むように配置された六本の柱に付けられた精霊球が光り出す。
眩い光が溢れると、やがてその光は弱まっていく。
そして、すべての光が失われた時、そこには誰も居なくなっていた。
”神の子”が勢揃いしましたので、イーちゃんの呼び方講座を……。
イーちゃんが”神の子”を呼ぶ時、ルビの頭文字で対象を判断していただければ。
ルーちゃん ”光” グローノワ側の教皇
アーちゃん ”水” 水色の髪、いつも目を瞑っている アークゥは偽名
イーちゃん ”火” 赤茶けた髪の青年
フーちゃん ”土” 黒髪の女性 お姉ちゃん ヒュームスは偽名
ウーちゃん ”風” 十代後半の少年 お兄ちゃん?
テーちゃん ”闇” ミカ イーちゃんが勝手に呼んでるだけ
”水”や”土”の使っていた偽名は、イーちゃんは気にしません。
あくまで”神の子”としての名前から、あだ名をつけています。




