第200話 話し合いの決裂
水の2の月、1の週の風の日。
ミカが教会から救出されて二日ほど経った。
その間もミカとキスティルはレーヴタイン侯爵の別邸に留め置かれた。
何でも教会騎士団の暴発を警戒し、一応まだ自宅には戻らない方がいいとのことだった。
侯爵はずっと王城にいるらしく、教会襲撃に加わったオズエンドルワやヤロイバロフたちも同様だという。
なので、ミカはまだ教会のその後や、第二街区がどんな騒ぎになっていたのかを自分の目では見ていない。
レーヴタイン家の騎士たちから、少し話を聞いただけだ。
ケーリャたちのパーティやトリュスは、ミカが救出された日のうちに帰っていった。
そして、代わりにというのも変だが、次の日に学院長のモーリスが面会に来た。
「力になってやれず、済まなかった。」
開口一番、そう言ってモーリスが頭を下げた。
「何で学院長が謝るんですか。 学院長が謝るようなことではないですよね?」
「そんなことはない。 魔法学院には学院生を守る義務がある。 教会に捕らわれたと聞き、解放や面会の要求をしたが、すべて突っぱねられてな。 手を尽くしたが、結局はどうにもならんかった。」
モーリスは魔法学院だけでは圧力が足りないと判断し、軍務省や王国軍にも要請して教会に圧力をかけ続けたらしい。
そして、どこから聞きつけたのか宮廷魔法院も動き、教会にミカの解放を要求した。
だが、その尽くを教会は跳ね返したという。
(宮廷魔法院が動いたのはステッラン関係からとして……。 まあ、侯爵という肩書にも怯まなかったからなあ。)
何が来ても大丈夫だと思っていたのだろう。
その自信が、どこから来ていたのかは知らんが。
「教会の暴走の理由は分からんが、無事で何よりだった。 学院には来週あたりから戻ってくるのか?」
そうモーリスに聞かれるが、ミカは首を振る。
「分かりません。 自宅に戻る許可が下りれば、としか……。」
「そうか。 まあ、無理はするな。 敵地に捕らわれるというのは、自分が自覚している以上に肉体的にも精神的にも負担がかかるものだ。 まずは、ゆっくり休むがいいだろう。」
モーリスが、思わぬ優しさを見せる。
どうやら、スパルタなだけではなかったようだ。
つーか、えらくしみじみ言ってるな。
経験があるのだろうか?
そして、
「よく我慢したな。」
と、褒められた。
どうやら、ミカがいつ【神の奇跡】を使って脱出を強行するか、気が気ではなかったらしい。
確かに、外との連絡が取れない状態だったら、脱出を強行してただろうね。
そうしてモーリスが帰って行くと、今度は王宮から官吏が十人以上やって来た。
正確には王宮、軍務省、内務省、王国軍、宮廷魔法院などからの、調査担当の官吏だという。
すでに凡その経緯は把握しているので、その確認。
後は捕らわれていた時に、どういったことをされたか、聞かれたか、しゃべったかの調査だ。
おそらくミカのしゃべった内容に、法に抵触するものがなかったか、というのも込みで調査するのだろう。
ただ、実際は一週間放置されていただけなので、聞かれもしなかったし、しゃべりもしなかった。
そのことを伝えると、官吏たちはかなり訝しんでいる感じだった。
なので「僕の身柄を押さえること自体に、意味があったのでしょう」と個人的見解を伝えておく。
ミカの持つ情報ではなく、ミカの命なり自由なりを奪うことに意味があった。
官吏たちはミカの意見に一定の理解を示し、本人たちからしっかりと聞き出すか、と気合を入れて帰っていった。
■■■■■■
水の2の月、1の週の土の日。
昨夜クレイリアとネリスフィーネが王都に戻って来たらしい。
ただ、まだ会わせてはもらえなかった。
そして、午前中に侯爵が王城から戻るので、そこで話し合いが行われるという。
(…………何の話し合い? いつ帰れるか、かな?)
今日は朝から部屋で待機を命じられ、キスティルにも会っていない。
そうして部屋で、ぽぉ~……としていたら女中さんが呼びに来た。
女中に案内され、廊下を歩く。
行き先はどうやら応接室のようだ。
コンコン。
「入れ。」
女中が応接室のドアをノックすると、中から入室を許可する声がした。
侯爵の声だった。
部屋に入ると侯爵、クレイリアがソファーに座り、後ろにムスタージフら騎士が五人ほど控えている。
他にも部屋の隅に数人の騎士が控えていた。
えらく厳重やな。
クレイリア側の横のソファーには、キスティルとネリスフィーネが座っていた。
ミカの顔を見て、ネリスフィーネが一瞬喜色を浮かべる。
だが、すぐに俯いてしまった。
(何でこんなに空気が重いんだ?)
クレイリアもミカの顔を見ると、悲しそうな表情で俯いた。
「クレイリア、ネリスフィーネ、ありがとう。 サーベンジールまで、すごい無理して行ってくれたって聞いたよ。」
「ミカ様……。」
「ミカ……。」
たったの二日でサーベンジールまで行くなんて、強行軍もいいところだ。
そうミカが声をかけるが、二人は声を詰まらせる。
ミカは侯爵に促され、向かいのソファーに座った。
「閣下。 この度はありがとうございました。 お立場を危うくする、大変なことだったと官吏たちから聞きました。」
ミカはしっかりと頭を下げ、お礼を伝える。
侯爵は「うむ」と頷くだけ。
凄まじく重苦しい空気に、逃げ出したくなってきた。
(一体、何があったのやら……。)
他人事のように心の中で呟く。
だが、大変遺憾ながら確実にミカは当事者。
それも、その話の中心にいることは想像に難くない。
「今日は、何かの話し合いとのことですが……。」
もう、さっさと話し合いとやらを終わらせたくて、ミカは自分から話を振った。
侯爵が怖いくらい、というか本当に怖いんだけど…………真剣な表情でミカを見る。
「ミカ君の言う通り、今回私はかなり際どい手段を使った。 余程の理由がなければ、いくら少数とは言え騎士を率いて王都に押しかけるなど、反乱を疑われても文句が言えん所業だ。」
「反乱ですか!?」
ミカの予想よりも遥かに大きな話になり、思わず声が大きくなる。
「前例があるのだ。 だから、普通は予め王都に赴く理由などを伝えておく。 何週間も前にな。 理由があっても、騎馬で押しかける様なことはなるべく避けるようにするのだ。 誤解を受けないように。」
そこまで気を遣っていたとは知らなかった。
まあ、かなり無茶をして国土を広げてきた王国だ。
実際に反乱も起きていたことは王国史で習ったし、そうした歴史からできた慣習なのだろう。
「そして、教会への襲撃だ。 ミカ君を救出するだけでなく、首謀者として教皇らを捕縛して来た。 普通に考えれば、乱心を疑われかねない暴挙だ。」
国民のほぼ百%が信仰する宗教の教皇を捕縛など、どれほどの恨みを買うか。
王や国だけでなく、下手したら王国の全国民を敵に回しかねない。
そんな者を領主に据え続ければ、国王にも非難が向かってもおかしくないだろう。
「そのため、そうした行動に至った理由が必要になる。」
「理由、ですか。」
ミカが繰り返すと、侯爵が重く頷く。
「そうだ。 そうせざるを得なかった、という理由がな。」
「…………僕の拉致監禁ではだめですか?」
「その程度では話にならん。 陛下に訴え、騎士団に動いてもらうのが筋なのだ。」
侯爵の話に、クレイリアは唇を引き結び、膝の上で手をぎゅっと握り締める。
「ですが、普通にやっていれば間に合いませんでした。 実際、僕は有罪らしいですよ?」
侯爵たちが来た時には、すでに異端審問は結審していた。
ミカの言葉に、侯爵が頷く。
「それは仕方ない。 平民を一人二人救うために暴挙に目を瞑ってくれと言っても、まず無理だろう。」
この国じゃ、平民の命は軽いしな。
しかし、それでは……。
「つまり、今回はそうした形では処理がされていないのですね。 理由が、ちゃんとあった……?」
ミカがそう言うと、侯爵が頷く。
「身内のため。 そう陛下には説明した。」
「……身内?」
それって、俺と侯爵が身内ってこと?
ミカは思わず吹き出した。
「あはははっ……、何ですかそれ。 まさか、閣下と養子縁組でもするんですか?」
これからは侯爵って呼ぶの?
普通に嫌だが?
ミカが冗談めかして言うと、侯爵は首を振る。
「それも考えたが、無理だ。 養子縁組をするには陛下の許可がいる。 許可を得る前では、身内とは言えない。」
「それでは、どうするのですか?」
ミカが聞くと、侯爵が一度目を閉じ、大きく息を吸う。
「平民との婚約であれば、陛下の許可は必要としない。」
「はああああああああああっ!?」
ミカは目を丸くし、大声を上げてしまう。
「家督を継ぐ権利を放棄するなど、条件を満たす場合に限るがな。 養子縁組にはこうした抜け道がないが、結婚、婚約にはある。」
侯爵の子供という形では、養子縁組でも家督を継ぐ権利が発生してしまう。
この場合には、権利を放棄すること自体ができない。
というか貴族家の場合は、家を存続させるための養子縁組、というのがほとんどらしい。
そのため国王陛下の許可が必要になる。
家督を継ぐ権利を持たないなら、なぜ養子縁組する必要があるんだ?という考えだからだ。
養育するだけなら養子縁組は不要。
後見として支えればいいだけ。
だが、平民との結婚や婚約は抜け道がある。
権利を放棄した上でなら、クレイリアの婿、若しくはクレイリアが貴族家を離れ嫁に行くという形であれば、陛下の許可を必要としない。
結婚、婚約は家と家の結びつきが目的。
個人の能力など関係なしに、縁を結ぶこと自体が目的だ。
そのため貴族家に入る平民には、どうするか選択する権利が与えられるという。
もしも権利を放棄しないのであれば、当然国王陛下の許可が必要になる。
仮にも、貴族家を継ぐ可能性があるからだ。
今回、法的には許可を必要としないが、夏に侯爵が王都に来た時に報告するつもりだったと釈明した。
「……もう、陛下にはお伝えしたのですか?」
「無論、真っ先に伝えた。 そうしなければ、私自身がどうなるか分からなかったからな。」
ミカは頭を抱えたくなった。
この言い方からすると、おそらくクレイリアが平民になるのではなく、ミカが貴族家に入る形を想定しているだろう。
継承権は持たないが、レーヴタイン侯爵家の者、ということにする気なのだ。
「ごめんなさい、ミカ……。」
クレイリアが泣きそうな顔でミカを見ていた。
まさかこんなことになるとは思いもしなかったのだろう。
(……そこまで悲しそうにされると、俺との結婚が心底嫌だって感じがするな。)
まあ、実際はミカがどうこうではなく、こんな話になってしまったこと自体に戸惑い、思い悩んでいるのだろう。
少々失礼だが、ミカは溜息をついてしまう。
「……閣下もご存じだと思いますが、僕には二人の婚約者がいます。」
そう言ってミカは、キスティルとネリスフィーネを見る。
二人も悲しそうな顔でミカを見ていた。
「クレイリアと婚約する以上、二人との婚約は破棄してもらう。」
「…………は?」
ミカの声のトーンが下がり、思わず侯爵を睨んでしまう。
(何、ふざけたこと言ってんだ……?)
だが、侯爵は眉一つ動かさず、ミカの視線を受け止める。
その上で、更に重ねて言う。
「クレイリアの婚約者が、他に二人も婚約者がいるなど認める訳なかろう。 結婚後に二人を娶ることは認めよう。 だが、婚約の期間はクレイリアだけにせよ。」
「お父様!」
侯爵のあまりに無情な宣告に、クレイリアが非難の声を上げる。
「ミカの気持ちにもなってください! 突然、このようなっ……!」
クレイリアは堪えきれず、涙を流しながら訴える。
だが、侯爵はそんなクレイリアを一瞥するだけ。
キスティルとネリスフィーネも俯き、時折涙の雫がポタポタと落ちスカートを濡らす。
この部屋の空気が始めから重かったのは、予めミカ以外の全員に話をしていたからだろう。
ミカはがりがりと頭を掻き、立ち上がった。
「馬鹿馬鹿しい。 帰るよ、二人とも。」
ミカはキスティルとネリスフィーネに声をかけるが、二人は立ち上がろうとしなかった。
侯爵は一度キスティルとネリスフィーネに視線を向け、それからミカを見る。
「すでに二人は了承済みだ。」
「ふざけないでください。 侯爵家の名前で脅しただけでしょう。 そんなのは了承とは言わない。」
侯爵の言葉に真っ向から反論し、部屋の中の騎士たちが一瞬ざわめく。
無言でミカと侯爵の視線が交錯する。
ミカの視線に徐々に怒りが籠り、殺気が含まれていく。
騎士たちもそれを感じ取り、剣に手を置こうとする者も出始める。
侯爵は視線を逸らすことなく、真っ直ぐに受け止め跳ね返す。
「子供のままごとに付き合っている場合ではない。」
「ままごとで何が悪い。 他人に人生おもちゃにされるよりはマシだ。」
すでに、殺気を漏らし始めたのはミカだけではない。
部屋の中の騎士にも、殺気を抑えきれずに漏らし始める者が出始めた。
一触即発。
張り詰めた空気に、クレイリアは呼吸することすら忘れてしまう。
ミカは自分の中に湧き上がってくる怒りを抑えるのに必死だった。
これでも、必死に抑え込んでいたのだ。
抑えても抑えても、握り込んだ拳が震えてしまうほどの怒りを。
(俺が、自分で決めたんだ……! 例え、成り行きだったとしても! この二人を守ると、俺が決めたんだっ……!)
それを――――。
そんなミカの思いなど何も知らない侯爵が、何を勝手なことをっ!!!
「ミ、ミカ様、だめです! 抑えてくださいっ!」
「ミカくん、いいの! だからっ……!」
ミカの様子に気づいたキスティルとネリスフィーネが、ミカを説得しようとする。
だが、二人の言葉でもミカは止まらない。
殺気の籠った目で侯爵を睨みつける。
ガチャ。
その時、不意に部屋のドアが開いた。
ハニーブロンドの髪の男が応接室に入って来るなり、盛大に溜息をつく。
「やれやれ……、最悪の一歩手前ってとこか。 まあ、間に合ったなら良かったけど。」
「お兄様!」
ノックもなしにいきなり応接室に入って来たのは、クレイリアの二番目の兄、イクセルだった。
「この辺でいいかな。」
ミカはイクセルに連れられて、レーヴタイン家の庭に来ていた。
「内緒話は堂々と、ってね。」
庭のど真ん中。
周りから丸見えだが、その代わり聞き耳を立てる者はいない。
イクセルは応接室に乱入してくると、「出て行け」と命じる侯爵を無視して、強引にミカを外に連れ出した。
訳が分からないが、敵か味方かも分からないので、ミカは警戒したままだ。
「俺は昨夜、クレイリアからの使いで呼ばれたんだよ。」
「クレイリアから?」
イクセルは、簡単にここに来た経緯を説明した。
クレイリアはすでに侯爵の考えをサーベンジールで聞かされており、どうすればいいのかずっと考えていたらしい。
一番上の兄、ハイデンにも相談したようだが良いアイディアはなく、何よりロクに考える時間もなく帰路についた。
ハイデンは侯爵の留守を任されているためサーベンジールを離れられず、王都に着いたらイクセルに相談してみるようにアドバイスを受けたという。
「で、昨夜からずっと考えていたのさ。 赤酒を片手に。」
飲みながらのアイディアらしい。
(……これは、あまり期待できそうにないな。)
ミカは警戒を少し解き、大きく息をつく。
そんなミカに、イクセルは真面目な顔になる。
「済まないね。 父さんは考えが貴族貴族で固まってるんだ。 あれでもね。」
かなり武人寄りの思考をしてはいるが、基本は貴族らしい思考で固まっているらしい。
「俺もどうする気なのかって、心配はしていたんだけど。 まさか、強引に押し通すとは。」
そう言って、呆れたように言う。
何でもイクセルは近衛軍所属のため、侯爵がミカとクレイリアの婚約をぶち上げた時に、割と早い段階で耳にしていたらしい。
以前、別邸に遊びに来た時にクレイリアからミカが婚約した話は聞いていたので、どうする気だろう思っていたという。
なので、今日の午前中に話し合うというので、顔を出したという訳だ。
「…………話し合いじゃないでしょう、あれは。」
「父さんの中では、あれも話し合いなんだ。 一応。」
基本的に侯爵の中では話し合いとは、上から命じられるか、下に命じるものらしい。
意見に耳は傾けるが、一方的に伝えて終了。
それは単なる上意下達だと思うが……。
まともに議論するのは、閣僚級の者が出席している場のみのようだ。
領主である以上、領地では全責任を負う立場だ。
基本的にはそうなってしまうのも分からなくはないが。
「僕は侯爵の部下ではありません。」
「そうなんだけどね……。」
貴族に命じられれば、普通は平民は逆らえない。
どれほど理不尽であろうと。
イクセルは一度空を見上げ、それからミカを真っ直ぐに見る。
「それでも、陛下にお伝えしてしまった以上、クレイリアとミカ君の婚約は決定だ。」
やっぱり、この人もそっち側かとミカは溜息をつく。
「クレイリアは嫌いかい? 我が妹ながら、中々の別嬪だと――――。」
「そういう問題ではありません。」
ミカがそう言うと、イクセルは肩を竦める。
「まあ、貴族の理屈を持ち出すのは酷だよな。 貴族として生きてきたなら、貴族としてのルールには従うべきだろう。 だからクレイリアも、父さんに結婚相手を決められること自体には反対しない。 貴族家に生まれ育つってのは、そういうものだからさ。」
その代わりという訳ではないが、だからこそ様々な特権が許されている。
クレイリアも、その特権を意識せずに使っている。
「ずっと平民としてやって来て、貴族の特権の恩恵を受けていないのに、貴族のルールに従えってのは可哀想だとは思うけどね。」
そこでイクセルは一息つく。
「ミカ君の不満は、具体的にどこだい?」
「どこって……。 いきなり婚約だって言われたら、誰だって……。」
そう言ってみるが、それが普通だと思っている人から共感など得られる訳がなかった。
「婚約そのものを不満と言われちゃあ、俺にはどうにもならないね。 他には不満はないのかい?」
他……?
他って言ったら――――。
「……すでに婚約を結んでいる二人と、婚約を破棄しろと言ってきたんですよ? 受け入れられる訳ないでしょう、そんなの。」
本当、まじふざけんなよ。
教会を更地にして大陸を出て行くことを考えたが、あのプランを再び引っ張り出す必要があるかもしれない。
「婚約の破棄か。 そこが一番の問題かい?」
「そうですね。 こんなの、絶対に受け入れられません!」
ミカが強く断言すると、イクセルが片眉を上げる。
「ちょっと確認したいんだけど、ミカ君が婚約の契約を結んだのは、サーベンジールの司祭に頼んだんだよね?」
「え、ええ……。 そうですけど。」
「書類はどこの官所に出した? それもサーベンジール? それとも王都?」
「王都ですけど。」
ミカの返事を聞き、イクセルがニッと口の端を上げる。
「いいぞ……。 これならプラン七十三号が使えそうだ。」
「は?」
プラン七十三号?
それって、プランが最低でも七十三個あるってこと?
ミカがぽかんとイクセルを見上げていると、イクセルはしゃがみ込み、ミカと視線を合わせる。
「ミカ君は今、とっても大変な目に遭ってるよね? それは誰のせいだと思う?」
「誰って……。」
侯爵だろう。
だが、イクセルの表情を見る限り、それは正解ではなさそうだ。
もっと、根本の……。
「教会?」
「何で自信なさそうなのさ。 教会に決まってるだろ。」
ミカが首を傾げて答えると、イクセルが苦笑する。
「そもそも教会が馬鹿な真似をしなければ、こんなことになってなかったんだ。 ミカ君も普通に暮らしていたはずだ。 そうだろ?」
「それは、確かにそうですね。」
きっかけが教会であることは間違いない。
「だったら、教会にもちょっとばっかし手を貸してもらおう。」
「手を、借りる?」
イクセルは、何の話をしているんだ。
「王城にはワグナーレがいる。 サーベンジールの大司教だ。 知ってるかい?」
「あぁー……、面識はなかったんですけど、先日の教会で初めて会いました。」
猿ぐつわを外してくれたのが、確かワグナーレって人だった。
「ワグナーレとは前に何回か会ったことがあってね。 サーベンジールに里帰りした時とかにさ。 今は王城に来てるって言うんで、昨日も顔を見に行ったんだよ。」
「はあ……、そうなんですか。」
そこまで言うと、イクセルが悪い笑顔になる。
「だからさ、教会のせいで大変な目に遭ってるんだから、教会にも協力させよう。 罪滅ぼしだってね。」
「え?」
何をさせる気ですか?
「細かい方法とかは端折るけど、簡単に言えば婚約破棄の偽装だ。」
「ぎっ……!?」
本当、何する気!?
「サーベンジールの教会に婚約の破棄をしたという書類を作らせる。 で、それを王都の官所に出す。 官所の方にもちょっと細工をする必要があるけど、見かけ上は婚約が破棄されたように見せかける。 ただし、実際は婚約は有効な状態だ。 どう?」
「どうって……。」
何だか、急展開過ぎて頭が追いつかない。
イクセルの大胆なプランに、ちょっと嫌な汗を掻くミカなのだった。




