第196話 おっさんず、集結
水の2の月、1の週の月の日。
監禁されて丁度一週間。
尋問でもされると思っていたが、実際は何もなかった。
ただ一週間、この部屋に監禁しているだけ。
それでも裏では異端審問の準備が進められているらしいことは、毎日夜に届けられるデリバリーで知っていた。
ミカは監禁中の持て余した時間に、魔力を使って様々な物質を作成して、暇潰しをしていた。
「うーん……。 訳分からん。」
カルシウム棒を齧りながら呟く。
齧りながらと言いつつ、実際はちょっと硬いので、単にしゃぶっているだけだが。
「ぐええ……、なんか気持ち悪くなってきたかも……。」
ミカは咥えていたカルシウム棒を窓から放り投げ、ぺっぺっと唾を吐き出す。
なんか、すげーシュワシュワしてたし、唾液と反応してガスでも発生してたのかもしれない。
何やら舌もビリビリする。
「……本当にあれ、カルシウムだったのか? なんかイメージと全然違ったんだが。」
普通に銀色の金属ができた時は、ちょっとびっくりした。
もっと白っぽい物ができると思ったのだが……。
カルシウム不足を補おうと思いしゃぶってみたが、まずかっただろうか。
ミカは念のために【癒し】を使ってみる。
だが、【癒し】を使っても気分の悪さは治まらなかった。
仕方なく、ベッドに横になる。
ここ一週間は本当にやることがなかった。
筋トレでもやろうかと思ったが、十分な栄養を摂取できない環境では筋肉をただ壊すだけだと思い直し、大人しくする。
魔力操作の訓練にも飽きたので、試しに元素の周期表を思い出しながら、一つずつ作成してみた。
さすがに常温で気体の水素やヘリウムは作らず、リチウムから作成開始。
一立方センチメートルくらいの小さな物質を作り、そのために必要な魔力量を計ってみた。
まあ、どのくらい魔力が減ったかは感覚の問題なので、計ったというのは正確な言い方ではないかもしれないが。
それで分かったこと。
物質を作る際に必要となる魔力量に、陽子の数は関係なかった。
ごく単純な比較として、元素番号の小さい物ほど少ない魔力量で作れ、元素番号の大きい物ほど多くの魔力を必要とする。
こうした傾向は確かにあった。
金、銀、銅を作成した時に感じたことだが、「もしかしたら陽子や電子の数で作りやすさが変わる?」と予想したのだ。
金:銀:銅の場合、感覚としてではあるが同じ魔力量で大体1:2:3くらいの質量が作れた。
なので、他の物質でも同様の結果が得られるか試したのだが、見事に予想は外れた。
一部に、大きくこの傾向から外れる物質があったのだ。
鉄やアルミニウムは予想よりも遥かに少ない魔力量で作ることができた。
逆にナトリウム、珪素、チタンなどは、遥かに多くの魔力量を必要とする。
ちなみに、作った物質はすべて窓から捨ててます。
こんな部屋の中で化学反応起こして、自然発火でもされたら大変だからね。
外で何が起ころうが、知ったこっちゃないが。
で、そうして作ったカルシウムだが、「カルシウム不足を補おう」と棒状で作って、直接咥えたのはまずかったか?
普段摂取しているカルシウムって、純カルシウムではなく、化合物なのだろうか。
…………まあ、死にはしないだろ。
「はぁー……、どうなるのかなあ。」
ミカは横になったまま呟く。
今脱出しても、教会はしつこく追ってくるだろう。
魔法学院や宮廷魔法院からの圧力が教会にかかっているはずだが、今のところ変化なし。
どうやらそちらからの圧力にも、教会はまったく怯まないらしい。
「そんな者は知らない。」
「そんな者はいません。」
と突っぱねているそうだ。
もはや、ここまでくればミカも腹を括っている。
もしもこの茶番でミカに有罪を言い渡し、亡き者にしようと言うならば全力で抵抗するのは当然。
その後がどうなろうと知ったことではない。
ミカは、有罪の裁定を下したその場で皆殺しにしてやろうと考えていた。
例えそこに教皇が居ようと。
手始めに、王都の教会の敷地を焦土にし、圧倒的な力をみせつけてやる。
それからキスティルやネリスフィーネ、家族を連れて王国から脱出。
別の大陸に行ってもいいし、何ならグローノワ帝国に手を貸してやってもいい。
復讐に国一つ亡ぼすなど、なんと痛快なことか。
(……………………、なんてね。)
さすがに、そんなことまではできないが。
今、ミカを救おうと力を貸してくれる人たちがいる。
グローノワ帝国がエックトレーム王国を侵略すれば、その人たちがひどい目に遭う。
それが分かっていて、帝国に手を貸すことはありえないだろう。
できれば、教会関係はここで片付けたい。
ここで、しっかりと終わらせたい。
そのためにも、今は我慢の時。
クレイリアはレーヴタイン侯爵の力を借りて何とかするつもりのようだが、ギリギリまでそれを待ってみようと思う。
ネリスフィーネも、サーベンジールの大司教の助力を得に、同行していると言う。
「皆…………、頼んだよ。」
ミカは天井を見上げながら、呟いた。
■■■■■■
水の2の月、1の週の火の日。
夜も明け切らぬような時間に、街道を駆ける騎馬の一団があった。
馬上の者は皆、一様にぼろぼろである。
とてもではないが、これがレーヴタイン侯爵の率いる一団だとは誰も思わないだろう。
サーベンジールを発ってから丸二日。
早馬を乗り継ぎ乗り継ぎして、レーヴタイン侯爵は王都の近くまで来ていた。
近く、と言ってもまだ数十キロメートルは離れている。
後三~四回ほどは中継地点で馬を交換し、少しばかりの休息も必要だ。
夜通し駆け続け、いくら鍛え上げた騎士たちでも限界を感じていることだろう。
同行した騎士たちには、鎧を装備させていない。
少しでも重量を軽くするために、剣だけを持たせた。
レーヴタイン侯爵はちらりと後ろを振り返る。
視線の先には、ぼろぼろになりながらも何とかついて来る、大司教がいた。
何とかここまでついて来たか、とルバルワルスは感心する。
乗馬の経験はあるということで馬を与え、同行させた。
途中でついて来れなくなっても、それは仕方ない。
そうなったらそうなったで、置いていくだけ。
そう思って連れて来たが、存外に根性があったようだ。
王都まで数時間。
異端審問が何時に開かれるか分からないが、とにかく教会に乗り込み、ミカ・ノイスハイムを救出する。
その後の諸々は、後からじっくり対応すれば良い。
ルバルワルスが目を凝らして前を見ると、数百メートル先に兵士がいた。
兵士は松明を高く掲げて振り、こちらに合図を送っている。
先触れで受け入れ準備を整えた中継地点が、あそこにあるのだろう。
「中継地点だ! 小休憩にする!」
ルバルワルスが声をかけると、同行する騎士たちが頷く。
軽く腹に入れ、回復薬で体力を少し回復させる。
「……中々に、楽しませてくれる。」
ルバルワルスは、自らの内に溜まった大きな疲労とは裏腹に、血が滾ってくるのを感じていた。
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「まったく……、一体何が起きてるんだ?」
オズエンドルワは第二街壁の東門で、街道の先を睨みながら呟く。
朝の、もっとも混雑する時間は過ぎたが、それでも人の出入りの激しい時間帯。
街道に設置されている中継地点からの先触れで、レーヴタイン侯爵の一団がこちらに向かっているとのことだった。
いくら少数とは言え、侯爵が騎士を引き連れて王都にいきなり来るとは。
悪意を持って解釈しようとすれば、いくらでもこじつけられる危険な行為だ。
力を持った貴族であるなら、猶更である。
オズエンドルワが危惧するのには訳がある。
前例があるのだ。
数百年も前の話だが、大軍を持つ王家に正面から領主軍をぶつけても勝ち目はない。
そこで、少数の精兵だけで突撃し、王の暗殺を目論んだ貴族がいた。
その者たちは実際に第二街壁、第一街壁を突破し、城壁すらも超えて王城に侵入した。
異変を知らせる兵よりも速く駆け抜け、王に迫ったのだ。
幸い王城を守る近衛軍は、精鋭中の精鋭。
凶刃が王に届くことはなかったが、首謀した貴族家は取り潰し。
一族郎党、全員が処刑される厳しい罰が下された。
他家に嫁いだ者にさえ、生涯監視の目がつけられたと言う。
オズエンドルワは、そっと息をつく。
最近、王都中がピリついていた。
王国軍や軍務省にも不穏な空気が漂い、現場も街の雰囲気に何か感じ取るものがあるようだ。
情報の下りてこない中間管理職は、訳も分からず対処を迫られる始末である。
情報屋ギルドが活発に暗躍していることは掴み、どうやらそれには教会が絡むらしい。
情報屋ギルドに所属する情報屋と親しい者が、少しだけ情報を拾ってきた。
ただ、情報屋にも箝口令が敷かれているのか、あまり話せないとのことだった。
「……ミカ君、か。」
そして、もう一つ。
いつも第二街壁の門を通っていたミカ・ノイスハイムが、最近姿を見せないらしい。
バザル君の話では、学院も休んでいるという。
先週の火の日に、教会関係らしき一団と一緒にいたミカを、複数の騎士が目撃している。
別にミカが口論をしていたと言う訳でもないということで、そのままにしたらしい。
だが、以降の足取りが途絶え、後に残ったのは不穏な空気と、不穏な動き。
「……レーヴタイン侯爵が動いたということは、そっちの線が濃くなったとも言えるか?」
なにせ侯爵は、ミカを国王陛下の記念パーティに連れ出すほどだ。
ただならぬ関係であることは、容易に想像がつく。
賓客としてもてなす、なんてレベルではない。
公式の場に連れ出したのだ。
これに特別な意味を感じない方がどうかしているだろう。
「団長。 見えました。」
街道の遥か先に、騎馬の一団が見える。
「最悪、戦闘もあり得る。 油断するな。」
「「「はっ!」」」
まさかな、と思いつつも、騎士たちに指示を出す。
そうして侯爵の一団を街壁の門の前に誘導し、その後ろに並ぶ馬車には、遥か手前で待機させる。
戦闘になった場合、巻き込んでは可哀想だ。
オズエンドルワは部下たちを展開させ、簡単に包囲を敷く。
ただし、まだ剣は抜かない。
槍を持った兵も展開するが、騎士よりも更に外に配置する。
あまり刺激しないように。
あくまで、通常の警備の一環として、警戒しているという範囲に留める。
剣に手をかけたり、槍を向けられれば、相手も咄嗟に剣に手が伸びかねない。
「侯爵閣下。 これは何事ですかな?」
だが、オズエンドルワの質問に、レーヴタイン侯爵は答えない。
答えないというよりも、答えられないといった感じ。
それほどまでにレーヴタイン侯爵は疲弊していた。
見れば、同行する騎士たちも全員がそんな感じだ。
オズエンドルワは内心で苦笑しつつ、連れて来た癒し手にレーヴタイン侯爵たちに【癒し】をかけるように目配せをする。
普段、門に常駐させている訳ではないが、街の警備で負傷する者もいる。
そうした時のために、元魔法士だったり、元教会の癒し手だったりする者を雇い、詰所で待機させていたりするのだ。
今日はレーヴタイン侯爵の不穏な行動の情報があったので、万が一に備えて臨時招集をかけ数人連れて来ていた。
「【癒し】をかけさせます。 よろしいですね?」
オズエンドルワがそう聞くと、レーヴタイン侯爵は力なく頷く。
どれだけ満身創痍なのかと呆れるが、そうするだけの理由が裏にあるはず。
そう考えて気を引き締める。
その時、レーヴタイン侯爵に同行していた騎士の中に、一人おかしな者がいることに気づいた。
全員が鎧を身につけていないが、一人だけその恰好が浮いている。
というより、その人物は騎士ではない。
司教服を着ていた。
「教会に行かれるのですね?」
「…………そうだ。 時間がない。 通せ。」
オズエンドルワの質問に、今度はレーヴタイン侯爵も答える。
侯爵も、無理に押し通ればまずいことは理解しているようで、許可するように言ってきた。
「…………ミカ・ノイスハイムですか?」
オズエンドルワがそう聞くと、侯爵は片方の眉をぴくりと上げた。
「貴様は……?」
「第五騎士団団長、オズエンドルワ・ソルニータクスです。 閣下。」
「第五騎士団?」
そこで侯爵は背筋をぐっと伸ばし、大きく息を吸い込む。
それまで、疲労で姿勢が崩れていたが、姿勢を正すと途端に覇気が蘇る。
「どこまで掴んでいる?」
侯爵の言葉に、オズエンドルワは首を振る。
「ほとんど情報がなく、断片的な情報で勝手に予想しているだけです。」
「そうか……。」
それから侯爵は眉を寄せて逡巡する。
が、ごく簡単に掻い摘んで説明した。
ミカが教会に捕らわれ、今この瞬間にも異端として処刑されかねない危機にある、と。
それを聞き、オズエンドルワは驚愕し、絶句する。
が、危難にあってパニックを起こすような者に、騎士団の団長など務まる訳がない。
そうした時にこそ、オズエンドルワという男の真価が輝く。
オズエンドルワは、横に立つ隊長の方を見ると即座に指示を出す。
「今日の配置は間違っていたな。」
「は?」
だが、その指示が的確、明瞭だとは限らない。
「南東の門の警備と入れ替えだ。 急げ。」
「はい?」
まったく意味が分からない隊長は、その場で立ち尽くす。
オズエンドルワは大きく息を吸い込むと、途轍もない大声で指示を飛ばす。
騒がしい、第二街壁の門の前にも関わらず、全員に指示が行き届くように。
「総員っ! 南東の門と入れ替えっ!!!」
オズエンドルワの大声に、隊長は咄嗟に耳を塞ぐ。
全員がびっくりし、オズエンドルワの方を向いて固まる。
だが、一番びっくりしたのは彼らではない。
侯爵たちの乗ってきた馬である。
ヒヒィーーーンッ!
ヒヒィーーーーンッ!!!
元来、馬とは臆病な生き物。
軍馬はそれなりに訓練を受けているとは言え、それでも限界はある。
騎士たちの乗った馬は驚き、怯え、暴れ出した。
「どうっ! どうっどうっ!」
さすがに侯爵が連れて来た騎士たちだけあって、突然暴れ始めた馬を上手く宥める。
最後尾にいた司教服の男も、苦労しながら何とか馬を宥めることに成功した。
そんなことを気にした様子のないオズエンドルワは、涼しい顔だ。
「指示はしたぞ。」
「は、はあ……。」
そう言われるが、隊長はさっぱり意味が分からない。
オズエンドルワは侯爵を誘導して、門を通し、自らも伝令用の馬に騎乗する。
「今日は体調が悪い。 早退だ。 あとのことは副団長に全権を移譲する。」
そう言い残し、オズエンドルワは自ら先頭に立って、侯爵を教会まで誘導していった。
後には、さっぱり意味の分からない第五騎士団の騎士たちが残された。
■■■■■■
「……中々、部下思いじゃないか。」
前を行くオズエンドルワに、ルバルワルスが声をかける。
突然の入れ替え命令。
入れ替え中に不逞の輩が入り込んでも、その責任は無謀な命令を下した者にある。
実際に彼らが、これから入れ替えを実行するかどうかは問題ではない。
命令を発した。
この事実こそが大事なのだ。
オズエンドルワは、ルバルワルスの様子や現在の状況から、これから起こることが厄介な問題を含むことになると読んだ。
そのためルバルワルスたちを通した責が部下たちに及ばぬよう、無謀な命令を発した者にこそ、その責があるという事実を作ったのだ。
「閣下こそ。 平民一人のために、随分と大胆なことをなさる。」
存外に楽しそうなオズエンドルワの声に、ルバルワルスは眉を顰める。
騎士団長と言うからには、もっと厳格な男かと思ったが、実はトラブル好きか?
前を走るオズエンドルワの背中を見つめながら、ルバルワルスは呆れたような顔になるのだった。
そうしてルバルワルス、オズエンドルワ、ワグナーレたちの騎馬の一団は、大聖堂に到着した。
厳密には、大聖堂にほど近い一画。
そこで、オズエンドルワの走る馬の前に、突然一つの影が飛び出して来た。
咄嗟にオズエンドルワは馬を止める。
だが、あまりに無茶な停止を命じたため、馬が前脚を上げて嘶いた。
ヒヒィーーーンッ!
「どうっどうっどうっ! どうっ!」
後続のルバルワルスたちも慌てて馬を止め、突然飛び出した者に殺気をぶつける。
「あんまり遅えから、一人で乗り込んじまおうかと思ったぜ。」
だが、飛び出した者は馬に轢かれそうだったことも、オズエンドルワたちに殺気をぶつけられたことも気にした様子がない。
そうして、男が現れた路地から、数人の男女が大通りに姿を現す。
「ヤロイバロフさん、無茶過ぎます!」
「そうだな。 危うく馬が怪我をしてしまうところだった。」
「まあ、ヤロイバロフの旦那が相手じゃ、確かに馬の方が可哀想だな。」
緊張感の欠片もない連中が、口々に好き勝手を言っている。
その様子に、ルバルワルスが怒鳴りつけようとした時。
「あんたが、レーヴタイン侯爵だろ? 待ってたぜ。」
浅黒い、スキンヘッドの大男が、不敵な笑みを浮かべて言う。
「もう異端審問は始まっちまってる。 急いでくれ。」
「貴様……。 何者だっ?」
平民で、貴族の顔を知る者は少ない。
しかも事情を知り、首を突っ込む気まんまんなのは誰が見ても明らか。
「俺はヤロイバロフだ。 名前くらいは知ってると思ってんだが。 自惚れ過ぎか?」
「いや…………知っている。 何しに来た?」
予想外に危険な男が現れ、ルバルワルスが警戒する。
サーベンジールにもヤロイバロフの拠点があり、要注意人物として報告は受けていた。
普通に暮らしてもらう分には構わないが、いざとなれば相当な火種になりかねない、と。
「勿論、坊主を助けにさ。 正直、教会から出すだけなら俺だけでもできた。 なんなら、坊主が自力で脱出することもできただろう。 ……だが、そうはしなかった。」
ヤロイバロフの言葉に、ルバルワルスは驚く。
教会から出るだけならできた、というのは思いもしなかったからだ。
だが、そうしなかった理由……?
「いくらでも湧いてくるから、か?」
「ああ。」
根を絶たねば、いくらでも災いの芽が生えてくる。
雑草のように。
「露払いは任せてくれ。 異端審問をやってる場所も調べた。 今はもう、異端審問所じゃやってねえらしい。 付いて来てくれ。」
そう言うと、ヤロイバロフはさっさと大聖堂に向かって歩き出した。
ルバルワルスやオズエンドルワは顔を見合わせる。
付いて行っていいものかどうか、正直悩む。
だが、場所を知っていると言うなら、付いて行く方が良さそうだ。
「前を拓くのは俺がやる。 しっかり付いて来てくれ。」
ヤロイバロフは腰に着けた魔法具の袋に手を入れると、得物を取り出した。
それは、二本の棒状の得物。
料理用の道具で、所謂おたまとフライ返しと呼ばれる物だった。
かなりサイズは大きいが。
「…………何の冗談だ?」
オズエンドルワが、呆れたようにヤロイバロフに聞いた。
だが、ヤロイバロフは不敵に笑う。
「本気で暴れたら、大聖堂が瓦礫になっちまう。 これでも料理中に魔獣に襲われた時はこれで倒してんだ。 あんたが腰にぶら下げてる剣ほどじゃなさそうだが、中々の強度だぜ?」
オズエンドルワが今持っている剣は支給品ではなく、自前の逸品だ。
一目でそれを見抜き、そこまでではないが、と言ってのける。
支給品の剣よりは遥かにマシな得物なのだろう。
何より、ヤロイバロフが持っているから違和感がないが、普通に考えればありえないほどに大きい。
柄の部分の太さなど、槍と変わりがない。
「いいだろう。 あんたは大雑把に減らしてくれればいい。 取りこぼしは私が片付けよう。」
ヤロイバロフ、オズエンドルワで前を切り拓く。
次にルバルワルス、ワグナーレと続き、レーヴタイン家の騎士たちは後方を止める役と、ワグナーレの護衛役にさせる。
ヤロイバロフと一緒に来ていた者たちは中までは入らないようだ。
ルバルワルスたちが乗って来た馬を、繋ぎに行ってくれている様子。
大雑把に役割分担を決めると、男たちは頷き合う。
そうして、大聖堂に乗り込むのだった。




