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【書籍版第2巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第4章 魔法学院中等部の錬金術師

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第186話 理想の冒険者の生活




 土の3の月、3の週の水の日。

 ミカはサーベンジールに来ていた。

 帰省中、森で魔獣たちと戯れつつ、精霊球(スパエラメント)について学ぶ充実した日々を送っていた。

 だが、精霊球(スパエラメント)について学ぶうちに、ちょっと試したくなってきたのだ。

 そこで、組み込み方を本で学びながら、実際にちょっと試す。

 そのための材料を、魔法具店に買いに来たという訳だ。


「まさか、精霊球(スパエラメント)を使うようになるとはのぉ。」


 と、魔法具屋のお爺さんが驚いていた。


「魔法具作りに興味があるのかい?」

「んー、これはこれで面白いと思いますけど、あくまで魔法具は手段ですよね?」

「それは確かにそうじゃの。 何か、別にやりたいことがあるのかい?」


 お爺さんの質問に、ミカはにやりとする。

 そんなミカの表情を見て、お爺さんはハッとする。


「もしかして、錬金術(あれ)に手を出しているのかい!?」

「あははは、まあ趣味の範囲ですよ、趣味の。」


 そう言えば、あまりのめり込まないようにと、前に忠告してくれてたね。

 お爺さんが「はぁ……」と溜息をついた。


「ほどほどにするんじゃよ? ハマり過ぎて、破滅していった人を何人か見てるんでのぉ。」


 熱心にこの魔法具店に通っていた人が、ある日ぱたりと来なくなる。

 後に風の噂で……なんてことが何度もあったらしい。


「僕はハマりたくても、学院がありますから。 どうしても普段は学院(そっち)を中心にせざるを得ないので。」

「そういうことが考えられているうちは、まだ平気じゃの。」

「そのうち、考えられなくなりますか。」


 ミカは苦笑する。

 学院に通い、指名依頼をこなし、魔法具作りはその次あたりか。

 まだまだ、ミカは大丈夫そうだ。

 優先順位が上がってきたら、ちょっと警戒が必要かもしれないが。


 そうして、しばしお爺さんと魔法具作り談義。

 あの属性とこの属性を混ぜると、減衰するだの乱れるだのと、少しマニアックな話に花を咲かせる。

 お爺さんの昔やらかした失敗談に、ミカは涙を浮かべるほど笑ってしまった。


 お爺さんは希少金属について、「魔力を含まない」という立場を取っていた。

 パラレイラに教えてもらったことを教えようかとも思ったが、やめておいた。

 パラレイラに悪いし、何よりお爺さんにとって錬金術は趣味だ。

 事実よりも、楽しんで没頭できる方がいいだろう。

 今更「事実はこうですよ」と教えたところで、過去の研究が台無しだと落ち込ませるだけだ。







 魔法具店を出たら、お次は冒険者ギルドへ。

 と言っても、別に依頼を受けようと言う訳じゃない。

 カードに溜まった魔力を精算に来ただけだ。

 去年、カードの中の魔力をそのままにしてユンレッサに見られたら、ひどく驚かれた。

 まあ、三千件近い討伐の記録があれば、驚くのも無理はないが。

 ということで、魔法具作りの材料を買いに来る時、ついでにギルドにも寄ることにしたのだ。


 そうして、特に並ぶこともなく、さくっとカウンターにカードを出して精算。

 金貨二枚以上になった。


(……なんか、魔獣を狩ってるだけで、並みの冒険者の一カ月の稼ぎを余裕で稼げそうだな。)


 それだけの数を狩ってるからなのだが、依頼でも何でもない、ただの狩りでも結構な稼ぎだった。


(――――ッ!?)


 その時、不意にミカの身体が持ち上げられた。

 ミカは咄嗟に身体を捻り、身体を掴んでいた腕から逃れる。


「あれー? 坊ちゃんじゃないですか。」


 呑気なガエラスの声が聞こえ、ミカを持ち上げようとしていた人物の正体も分かった。

 ケーリャだった。


「ケーリャッ! びっくりするじゃんっ! いきなり抱えようとするのはやめてよっ!」


 ミカの猛抗議に、ケーリャはただ残念そうな顔をするだけだった。

 絶対分かってない。

 絶対にまたやるな、この顔は。


「急にケーリャが動き出したから何かと思ったら、ミカ君がいたのか。」


 サロムラッサが、苦笑しながらこちらに歩いてきた。

 その横には、ガエラスもいる。


「何で三人がサーベンジールにいるの?」

「あっしらは、仕事であちこちを転々としてただけですよ。」


 そう、ガエラスが答える。

 確か、ケーリャのパーティはBランクの依頼を求めて、国境に跨る山脈の方に行っていたはずだ。

 そんな話を聞いたのも、もう半年も前のことだが。


「立ち話もなんだし、どこかで食べながら話そうか。 ミカ君に聞きたいこともあったし。」


 サロムラッサが、そんなことを提案してくる。


「僕に聞きたいこと?」

「まあ、それは食べながらにしよう。」


 サロムラッサの提案に、ケーリャとガエラスが頷く。

 そうして、近くの食堂へ場所を移す。

 移動中、何度もケーリャが抱っこしようとしてきたけど、何とか回避した。







「そんなにあっちこっち行ってたんですか。」


 食事をしながら三人の話を聞き、ミカは溜息のように呟く。

 すでに粗方食べ終わったが、ケーリャだけがまだまだ食べそうな感じだった。


 ケーリャ、サロムラッサ、ガエラスは、この半年で様々な土地を渡り歩いてきた。

 狙いはBランクの依頼だが、Bランクの依頼が無くなれば次の街へ。

 護衛の仕事をしながらあっちの街へ、郵便物輸送の警護をしながらこっちの街へ、と。

 いくつもの街で、いろいろな魔物や魔獣と戦い、いろんな人と出会い、別れて、サーベンジールにまでやって来たらしい。


(くっそーっ、羨ましいっ! そんなの、理想の冒険者の生活じゃないかっ!)


 ミカの理想とする冒険者像の一つだ。

 常に根無し草というのはあれだが、時にはそうして気の向くまま、風の吹くままに流れる冒険の旅。

 行く先々の街で依頼をこなして稼ぎ、次の街へ。

 街から街へ渡り歩く、風来の冒険者だ。


(恰好良すぎるっ! 俺だって、そんな旅に行ってみたいよっ!!!)


 サロムラッサたちのように半年か、できれば一年くらいかけて旅をしてみたい。


 ミカは「キィーッ!」と呻きながらハンカチを噛み、悔し涙を流す。

 心の中で。


「坊ちゃんの方も大変だったんでしょう? あっしらは旅先だったんで、どうにもできなかったんですがね。」

「ん? 大変?」


 なんじゃら、ほい?

 ガエラスの言葉に、ミカは首を傾げる。


「偽の”解呪師(ディスペラー)”が出て来たり、ギルド本部まで巻き込んでいろいろあったみたいじゃないか。」


 サロムラッサがそんなミカの様子に、苦笑しながら言う。


「あー、ありましたねえ、そんなことも。」

「ありましたねって、坊ちゃん……。」


 あっけらかんと言うミカに、ガエラスが半目になって、呆れたように零す。


「別に大変ってほどのことじゃないですよ。 馬鹿どものせいで余計な手間はかかりましたけど。」


 たっかい()()を払うことになったが、回収もできたし、少しだけど儲けもあった。

 四百万ラーツ近い金額を、少しと言えてしまう自分の金銭感覚にちょっと驚くが。


「情報屋ギルドの繋がりで、あっしも後からいろいろ聞きましたが、よくもまあ無事に切り抜けたと驚いたもんです。」

「ギルド本部の、それも上層部が絡んでいたのだろう?」

「そうですね。 主犯の父親が、ギルド幹部でした。 まあ、絡んでいたというよりは、主犯の奴の暴走に巻き込まれたって感じでしたけど。」


 こじつけでもミカに懲戒処分を下せば、同様の被害が発生した時に「また、あいつか。」と簡単に罪を被せられる。

 それで何とかなると本気で思っていたのだから、これまで本当に何でも思い通りにしてきたのだろう。

 周りが気を遣って見逃してきたことを、本気でそれで問題ないと思い込むほどなのだから。


「そんなことより、もっと旅の話を聞かせてくださいよ。 どんな魔獣がいました?」


 ミカがキラキラした目で催促すると、サロムラッサとガエラスが顔を見合わせて苦笑する。

 それから、今回の旅のことを詳しく、ミカに話して聞かせてくれたのだった。







■■■■■■







【王都イストア 王城】


 コンコン。


 軽いノックの音が部屋に響くが、返事はない。

 それも仕方のないことだろう。

 まだ、部屋の主は就寝中なのだから。


 ガチャ。


 数拍の間を開け、扉が開かれる。

 そうして入って来たのは、六人の女中(メイド)

 その後ろに八人の騎士たちが続く。

 女中(メイド)たちはカーテンを開け、テーブルを拭き、花を入れ替え、とテキパキと動く。


 女中(メイド)のうちの一人。

 初老の女性がベッドの傍らまで静かに進み、部屋の主に優しく声をかける。


「陛下。 おはようございます。」


 大きなベッドで眠る初老の男性の名は、ケルニールス・エクトラムゼ。

 エックトレーム王国の現国王。

 ここは、そのケルニールスの居室であった。


 居室と言っても、その広さは庶民の一軒家くらいは軽々入る広さだ。

 王族。

 それも陛下や殿下と呼ばれる者には、プライベートというものはほぼ存在しない。

 この居室には会議に使えるだけの広さを持ったテーブルが置かれ、十人が座れるソファーもある。

 ここは、ケルニールスにとっての生活の場であると同時に、会議室でもあり、応接室でもあり、執務室でもある。


 ケルニールスは目を瞑り、身動ぎもしない。

 静かに寝息を立てている。

 そんな様子を見た初老の女中(メイド)は、そっと溜息をつく。


「狸寝入りはおよし、ニル。」


 周りに聞かれないよう声を落とし、そっと囁く。

 それまで眠っていたはずのケルニールスが、ぱっと目を開く。


「最悪の目覚めじゃな。 目を開けたら、よぼよぼの婆さんがおったわ。 …………ここはあの世か?」


 そんな悪態を呟きながら、ケルニールスは身体を起こす。

 初老の女中(メイド)はそんなケルニールスに言い返すことはせず、ベッドから下りたケルニールスに黙ってガウンを肩にかけた。


「デドデリク。 何でニースラーザがいるんだ? 悪夢の続きかと思ったではないか。」


 デドデリクと呼ばれた四十前後の男は恭しく頭を下げる。


「勿論、陛下に元気を取り戻していただきたいからです。 最近、少々お疲れのようでしたので。」

「…………余計なことをするな。」


 そう言ってケルニールスは、デドデリクに向かって手で追い払うようにする。

 それを合図に、部屋にいた女中(メイド)と騎士も、全員が退出する。

 最後にデドデリクが退出する時、初老の女中(メイド)ニースラーザに目配せした。


 デドデリクは、この国のかじ取りをする宰相。

 国王であるケルニールスに適切な助言を行い、国王にとってもっとも望ましい結果を求め、日々腐心する。

 エックトレーム王国という国が発展し、平穏であることも、究極的には国王であるケルニールスのため。

 常に中心に王を置き、その上で国政を仕切ることのできる賢人だった。


 そして、女中(メイド)のニースラーザ。

 ケルニールスの幼少の頃より仕える、姉同然とも言える女中(メイド)だ。

 ニースラーザ自身は国王陛下に仕える女中(メイド)でありたいのだが、ケルニールスがそれを許さなかった。

 先程の様に狸寝入りをしたり、ちょっとしたことでニースラーザの澄ました顔を崩そうと悪戯をするのだ。

 いい年をして……。


 だが、そんなニースラーザも本来は隠居の身。

 すでに暇をいただいた身なのだが、中々楽隠居とは行かなかった。

 度々デドデリクに呼び出され、国王陛下の話し相手をさせられる。

 …………という設定。


 部屋から全員が退出したのを確認し、ケルニールスの表情が真剣なものに変わる。


「何か報告か?」


 席に着きながら、紅茶を淹れるニースラーザに声をかける。


「ラタジース伯爵領他、いくつかの領地に、不逞の輩が出入りしているようです。」


 この場合の不逞の輩とは、チンピラのことではない。

 王国に、ひいては王家にとって害をなす存在のことだ。


「領主は?」

「おそらく領主は気づいていないだけかと。 (くみ)している訳ではなさそうですが……。」


 領主が気づいていないだけなら、教えて取り締まらせればいい。

 だが、万が一与していた場合は、当主の首を刎ねるだけでは済まない。

 最悪、家を取り潰さねばならない。


「慎重に調べを進めよ。 領主の忠誠に揺らぎが無いなら、大事になる前なら寛大に処理してやってもよい。」

「はい。」


 大事になってしまっては、それなりに責任を取らせる必要が出てきてしまうが。

 それは仕方のないことだろう。

 それが領主を務めるということだ。

 知りませんでした、で済むなら領主などいる必要がない。


「ただ……。」

「どうした。」


 ニースラーザの淹れてくれた紅茶を一口飲む。

 口いっぱいに広がる香りと爽やかな酸味に、暗い報告を聞いている割に気分が晴れる。


 基本、ニースラーザからもたらされる報告は良くないものが多い。

 なぜなら、彼女にはそうした情報を集めさせているからだ。


 王宮や、王家としての組織ではない。

 ケルニールスが、個人的に組織させた情報組織。

 王宮や軍務省なども、諜報活動や情報収集する部署がある。

 そして、そうした所にもケルニールスの組織は人を潜り込ませている。


 ケルニールス独自のアイディアではない。

 これまでの王も、必要だと思った者は自分で作るのだ。

 王の目や、王の耳などと市井の者が呼んだりする組織。

 その存在は、噂では誰もが知っている。

 信じる者は信じるし、信じない者は信じない。

 そんな、存在すらあやふやな組織だった。


 ケルニールスは、カップを置いた。

 それから、ニースラーザに視線で続きを促す。

 ニースラーザは、真っ直ぐにケルニールスを見て、報告を続ける。


「教会が関与している可能性が高いです。」

「教会? どのレベルでだ?」

「おそらく……司教が。」


 ニースラーザは「ふぅ……」と息をついた。

 信心深いニースラーザには、こうした現実は精神的に堪えるのだろう。


「司教か……。 その司教の派閥は?」

「教皇派です。」


 ニースラーザの返答に、ケルニールスは首を振る。


「惜しいが、司教程度では話にならんな。 もう少し()()情報が欲しい。」


 そう、呟く。


 ケルニールスの作った情報組織は、中々優秀な人材が揃っている。

 もたらされる情報にはそれなりに満足しているが、一つだけ不満があった。

 それは、組織自体が()()ことだ。


 どうしても、古くからある巨大な組織の、奥深くにまで入り込めない。

 買収して引き込むことで、情報を得ることもできるが、そうしたことは漏れやすい。

 ギルド程度ならまだ入り込む余地もあるが、教会は中々に厄介な存在だった。

 それでも、以前よりは入り込めているが……。


「引き続き、()()に努めよ。」


 ケルニールスは肘掛けに腕を置き、頬杖をつく。

 ニースラーザは恭しく、頭を下げた。


「軍務省あたりでも、教会内に入り込めている者はいないか?」

「軍務省は基本的に、外に向けてですので。」


 軍務省内にある諜報機関は、グローノワ帝国内での工作や情報収集を主に行う。

 王宮の持っている情報収集を目的とする部署も、教会は主目的ではない。


「デドデリクを情報収集(こっち)で使う訳にもいかんしな。」


 宰相のデドデリクには、当然ながらもっと重要な仕事を山と任せている。

 情報収集(こっち)はケルニールスの趣味のようなものなので、できれば分けておきたい。


 ケルニールスが紅茶を飲み干すと、ニースラーザがお代わりを注ぐ。


「こちらは、まだはっきりした動きではないのですが。」


 そう前置きして、ニースラーザが気になる動きとして報告する。


「いくつかの教区の大司教や司教が、少し怪しい動きをしています。 ただ、何をしているのかはっきりしないのですが……。 教皇にもその動きは広がりそうで。」

「ほぅ……。」


 ケルニールスが頬杖をやめ、身体を起こす。


「どんな動きだ?」

「そこまでは、まだ……。 ただ、少しずつ活発に動き出していて、どうにも怪しく見えます。」

「連中が怪しくない時があるのか?」


 ケルニールスが、軽く口の端を上げる。


「その動き、よく注意しておいてくれ。」

「はい。」


 ケルニールスは軽く腹を摩った。

 少し、空腹を感じる。


「今日の報告はそのくらいか?」

「はい、陛下。」


 ニースラーザが恭しく頭を下げた。


「では、また。 それと、陛下ではないだろう?」


 ケルニールスがそう言うと、ニースラーザは仕方なさそうに苦笑する。


「遅くとも、来月中にはまた来ます。 ニル。」


 ニースラーザからの返答に、ケルニールスは満足そうに頷くのだった。





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