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【書籍版第2巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第4章 魔法学院中等部の錬金術師

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第180話 不穏な噂




 土の1の月、1の週の風の日。

 ミカは学院から戻るとふと気になって、自宅の庭とお隣との境界を確認する。

 視線を上げていくと、ミカの家に植えてある木の枝が、お隣の敷地にかかっていた。


「枝も案外伸びてたんだなあ。」


 秋に落ち葉を集めたりはしたが、枝までは気にしていなかった。

 ちょっと隣にかかったくらいで、すぐにご近所トラブルになる訳ではないが、やはりきちんとしておいた方がいいだろう。


「でも、冬にやるより春になってからの方がいいか?」


 枝を切り落とすとして、木が成長する時期にやるべきなのか、木が休んでいる時期にやるべきなのか。

 どっちにも、それなりに理屈はつけられる。

 成長する時期に切れば、木が傷口を塞ぎやすいし、寒さに弱い木というのもありそうだ。

 休んでいる時期に切れば、成長を阻害しないので、ダメージも少ないのではないだろうか。


「どっちだと思う?」


 ミカは、庭先で洗濯物を取り込んでいたネリスフィーネに声をかける。


「何がですか、ミカ様?」


 ミカが声をかけると、ネリスフィーネが手を止めて聞き返す。

 フィーは風に揺れるベッドシーツと戯れていた。


「枝を剪定する時期。 暖かい時期がいいのか、寒い時期がいいのか。」

「そうですねえ。」


 ネリスフィーネが、頬に手をあてて考える。


「葉の落ちる木は、葉が落ちた後が良いと思います。」

「あ、そうなんだ。」


 有識者発見!


「詳しいね。 もしかして、花とか育てるの好き?」


 ガーデニングでもやる?


「詳しい訳ではないのですが、教典にそうしたお話(エピソード)があったのを憶えています。 土の神、第三十八章辺りだったと思うのですが。」


 まさかの、出典が教典だった。

 途端に胡散臭くなった。


(……ま、まあ、ああいうのって、経験則なんかに基づいて書かれていることもあるし、まるっきりアテにならないとは言わないけど。)


 中々に悩ましい。

 どう判断すべきだろうか。


「まあ、いっか。」


 とりあえず洗濯物を取り込み終わったら、”風千刃(サウザンドエッジ)”で一気に切り落とそう。

 切り落とした瞬間に”突風(ブラスト)”を自分の家の敷地に向けて吹かせるので、枝一本もお隣には落ちない。

 あまりご近所付き合いはないが、トラブルの元は未然に防いでおこう。


 そうして、洗濯物を取り込むのを手伝い、一瞬で剪定を完了する。

 肩にフィーを乗っけて、家に入った。


「あ、おかえりなさい、ミカくん。」

「ただいま。 もう起きて大丈夫なの?」


 キスティルが自分の部屋から出てきて、ミカに声をかける。

 自室でキスティルが休んでいるのは、外でネリスフィーネに聞いていた。


「うん。 さっき飲んだから。」

「…………あんまり、無理しないでね。」

「ええ、分かってるわ。 ごめんね、心配かけて。」


 そう言って、キスティルは家事に戻る。


 実は、最近キスティルは魔法の練習をし始めた。

 先日フィーに憑依してもらって?されて?から、魔力を多少なりとも感じることができるようになり、魔法に強い興味を持つようになった。

 ただ、やはり国による魔力量の選定、教会の儀式に漏れたキスティルでは、そう簡単に魔力を感じることも操作することもできない。

 そのため、フィーに憑依してもらい、魔力の操作を手伝ってもらっていた。

 魔力は、放出すれば増やすことができる。

 仕組み(メカニズム)は知らないが、ミカの経験でもそうだし、広く認知もされている。

 フィーというアシストを使い、普通ならできないはずのことを、無理矢理可能にしているのだ。

 毎日、魔力の回復薬を飲みながら。


(…………魔力の回復薬(これ)が一本一万ラーツもするって知ったら、卒倒しちゃうだろうね。)


 ミカは魔力の回復薬の値段を、キスティルに教えていない。

 ネリスフィーネも、魔力の回復薬の存在は知っていても、それがいくらする物なのかというのは知らなかった。

 そして、二人が普段買い物に行く店には、魔力の回復薬(こんなもの)は売っていない。

 魔法具屋か、時々道具屋でも置いてる店があるね、くらいだ。


(キスティルの年齢を考えれば、魔力量を増やせるギリギリのタイミングだな。 普通に考えれば、精々あと一年。 長くても二年~三年くらいが限界か?)


 魔力量が劇的に増えるのは、十六歳前後まで。

 早い人では十五歳くらいで増える量が極端に少なくなっていき、人によってはどれだけ【神の奇跡】を使おうがまったく増えなくなるらしい。

 遅い人だと十八歳くらいまで増える人もいるらしいが、そこまで遅い人は稀だ。

 ほとんどの人が、学院を修了する前後で魔力量がほぼ増えなくなる。


 現在、キスティルに触発され、ネリスフィーネも意識して【神の奇跡】を使うようにしていた。

 なので、家では毎日魔力の回復薬を四本くらい消費している。


(四本×三十日で……。)


 などと計算してはいけない。

 趣味らしい趣味を持たず、ただ家事だけをしていた二人が魔法に興味を持ったのだ。

 ミカはただ、そっとその後押しをするだけである。

 黙って、ミカが月に一つ二つ多くお仕事をすれば済む話だ。


 二人が目指しているのは、ミカの魔法のようだ。

 普段ミカが見せている魔法は、水やお湯を作る魔法くらい。

 湯場で沸騰したお湯や、混ぜるための水を用意するのを見ることがほとんどだった。

 キスティルが最初に水を作ったのも、そのイメージが強かったかららしい。


(【神の奇跡】を無視して、どんどん魔法を使う人が増えちゃうね。)


 リムリーシェが水の塊を作ってみせたのは驚いたが、やはりやろうと思えば誰でもできる物のようだ。

 ミカとしては、それを邪魔するつもりはない。

 今のところ自分の優位(アドバンテージ)を揺るがされるほどだとは思っていないし、何より皆ミカの身近な人だ。

 この力を悪用するような人はいないと思っている。


 むしろ、一番悪用しそうなの俺だし。

 いざとなれば、何でもやってやる所存である。


(しっかし、魔力の回復薬をいちいち買いに行くのが面倒すぎるな。)


 毎日四本を消費するのだ。

 ダースで買っても三日しかもたない。

 グロスで買おうとしたら「そんなに在庫がない」と言われてしまった。


(…………自分で作ろうかな。)


 回復薬(ポーション)を自作できるなら、魔力の回復薬も自作できるのではないだろうか。

 今度、パラレイラにでも聞いてみよう。


 そんなことを思うミカなのだった。







 そして、後日パラレイラに聞いた衝撃の事実。

 魔力の回復薬は確かに自作できる。

 だが、その原材料が……。


「魔物や魔獣の魔力っ!?」


 あまりの驚きに、ミカが素っ頓狂な声を上げる。


「ああ。 お前、冒険者やってるって言ったよな。 だったら、魔力の買い取りも知ってるだろ。」

「え、ええ、それは知ってますけど……。」


 何でもないことのように言うパラレイラに、ミカは顔を引き攣らせて頷く。


 冒険者ギルドが、なぜわざわざお金を払ってまで魔力を買い取るのか。

 考えるまでもない。

 ”何か”に利用するからだ。


「ギルドで買い取った魔力の使い道はいくつかあるが、代表的な物の一つは魔力の回復薬の材料だな。 買おうと思えばお前でも買えるが、それなりの量じゃないと取り引きしないから、結構な値段になるぞ? もっと少ない単位で欲しければ、店を紹介してやってもいいが、割高にはなるな。」


 また、魔力の回復薬は他にもそこそこ高価な材料を必要とするらしい。

 さすが、売値が一万ラーツなだけはある。


 ちなみに、普通の回復薬(ポーション)にも魔物や魔獣の魔力は使われているとのことだった。

 知りたくなかったよ、そんな事実…………。







■■■■■■







 土の1の月、2の週の火の日。

 朝、学院へ行く支度をして部屋を出る。


「それじゃ、行ってきます。」

「はーい、行ってらっしゃい、ミカくん。」

「行ってらっしゃいませ、ミカ様。」


 キスティルとネリスフィーネに声をかけると、フィーがミカの肩にふよふよ~……と乗ってくる。


「またついて来るのか? ちゃんと見つからないようにしろよ?」


 ミカがそう言うとフィーは一瞬だけ光を強めた後、スゥー……と薄くなり消えていく。

 ミカとフィーのそんなやり取りを見て、キスティルとネリスフィーネがくすくす……と笑う。


 最近、フィーはミカの学院によくついて来る。

 ミカも周りにバレないようにするなら、と容認することにした。

 ただし、バレた場合には「僕は知らない振りするからな」と言い聞かせてある。


 そうして、”吸収(アブソーブ)”と【身体強化】を発現し、学院に走って行く。

 えらい勢いで大通りを走るミカは、ある意味名物のようになっていた。

 知らない人が初めて見ると、指さして「何あれ!?」と言われるし、ミカに抜かれるタイミングで「あれ? 今日はいつもより遅いな。」と自分の出勤のペースを調整する人もいるとかいないとか。


 そうして、学院に着く。

 ミカが教室に入ると、リムリーシェが目敏くミカを見つけて挨拶をしてくる。


「おはよう、ミカ君。」

「おはよう!」

「おはようございます、ミカ。」


 ミカはすれ違ったりするクラスメイトにも声をかけながら、自分の席に向かう。

 そんな、いつもの光景。


 ただ、最近は少し学院の雰囲気が暗い。

 それは、ある噂が原因となっている。







 昼休み。

 食事中はあまり話をせず、食事に集中するのは以前と変わりはない。

 ただ、食べ方は皆少し大人しくなった。

 ミカがあんまりかっ込まなくなったので、皆も何となくそんな感じになっていった。


「……もう、あの話ばっかりで嫌になっちゃう。」


 向かいに座るツェシーリアが、周りの席で交わされている話にうんざりという顔をする。


「……仕方、ない……。 ……私たちも、無関係じゃいられない……。」

「それは分かってるけどさあ。 学院でも寮でもそんな話ばっかりで、気が滅入っちゃうわよ。」


 チャールの言葉に同意しつつも、ツェシーリアは肩を落とす。


「男子寮もそんな感じ?」


 ミカがメサーライトに聞くと、メサーライトはこくんと頷く。


「寮の方がもっと雰囲気は悪いよ。 寮は半分オフみたいな場所だからね。」

「本音が出やすいんだと思うよ……。」


 メサーライトの言葉に、ポルナードが補足する。


「覚悟が足りねえだけだろうが。」

「それはしょうがないよ。 僕だって、覚悟があるかって言われたら微妙だし。」


 ムールトの呟きにミカが答えると、意外そうな顔をする。


「お前がか?」

「そりゃそうさ。 誰も好き好んで、戦場になんて立ちたくないよ。」


 そう。

 最近、学院に広がる噂。

 エックトレーム王国とグローノワ帝国との戦争が近い、という噂が広がっているのだ。


 実際は学院だけじゃない。

 街中でも、時々耳にする。

 ただ、この学院に通う学院生は、全員が軍人の予備軍。

 自分はまだ正規の軍人じゃないしー、と能天気でいられるようなのは()()しかいない。


 信じ難いけど、一部にはいるんです。

 自分はまだ関係ないしー、と平然と言ってのける猛者というか、…………馬鹿が。

 五十年続いた戦争があったことを知らないのだろうか?


 中等部のミカたちは、まだ戦場に行くことを命じられるような立場ではない。

 でも、高等部の子供たちは、すでに予備役という立場にある。

 戦況次第では、予備役動員令の発令により、本当に戦場に立たなくてはならないのだ。

 そうでなくても、今年高等部二年の学院生は、あと三カ月で正規の軍人だ。

 そんな子供たちが、今この状況でどんな気持ちでいるか。

 それを考えると、雰囲気が暗くなってしまうのも、無理からぬことだと思えた。


 ミカの演習(サバゲー)も、現在は高等部ではなく、中等部の方で行うことになった。

 少々、風当たりが強いのだ。

 自分たちは、これから戦場に行くことになるかもしれない。

 そんな中、中等部のミカは「ガキが遊び気分でやってんじゃねえ」みたいに受け止める人もいるからだ。

 ミカとしては学院に命じられて高等部に参加しているだけだが、そうした陰口は何度か耳にしたし、そう思われるのも仕方ないと思って黙って聞き流していた。

 だが、高等部の学院生たちの心情に気づいたツァトーラルが配慮して、ミカを中等部の方に戻した。


 その時、クレイリアの護衛騎士が、クレイリアに何かを耳打ちする。

 だが、クレイリアは一つ頷くが、特に何かを言ったりはしなかった。


(……さすがにこうなると、学院を辞めるのも難しいか。)


 高等部に上がる前に退学(ドロップアウト)することも以前に考えたが、情勢的に難しいだろう。

 特に、ミカの場合は相当に目立ってしまっている。


(まあ、戦場に行ったとしても自分が生き延びることだけを考えれば、多分そんなに難しいことじゃないんだろうけど。)


 最悪、空飛んで敵前逃亡もできる。

 そんな手段を選べるなら、だが。


 ミカはレーヴタイン組の皆を見る。

 ツェシーリア、チャール、メサーライト、ポルナード、ムールト。

 隣に座るリムリーシェに、クレイリア。

 きっと別々の戦場に送られると思うが、皆が命がけで戦っているのを分かっていて、それでも見捨てて逃げられるだろうか。


(……できなくは、ない。 ………………と思う。)


 一生モノのトラウマになりそうだけど。

 そんな人間にはなりたくないと思うが、それでも「逃げる」という選択肢は常に残しておくべきだ。

 ミカの悪い癖で頭に血が上ると、どうしてもそういうことを考えられなくなってしまうのだけれど。


(それでも、今の俺ならただの兵士や騎士にやられる可能性はほとんどない。 あとは……。)


 自分が【神の奇跡】を喰らったら、どうなる?

 【爆炎】を喰らって、果たして生き残れるだろうか?

 威力が可変なので運もあるが、【爆炎】の直撃を受けて生き残れる自信はさすがにない。


 それと、化け物級の存在。

 今のミカでも、全力でやって「勝てる」と言い切れない化け物が二人いる。

 ヤロイバロフとオズエンドルワ。

 飛んでれば負けないだろう、くらいしか思いつかない。

 こんなのが戦場にいたら、丁寧に尻尾を巻いて逃げます。

 ミカの知る範囲だけでも二人もいるのだ。

 他にもごろごろしていてもおかしくない。


(はぁー……、考えたくねえ。)


 少しだけ現実味を帯びてきた「戦場」に、ミカは思わず溜息が漏れる。


「……ミカ君?」


 ミカのローブを、リムリーシェが軽く引っ張っていた。


「ん?」

「どうしたの、ミカ君?」


 見ると、皆はすでに立ち上がり、教室に戻るところだった。

 考え事に夢中になり過ぎて、気づかなかった。


「ああ、ごめん。 ちょっと考え事。」


 ミカは慌てて立ち上がり、トレイを持つ。

 そうしてトレイを返しながら、食堂を出た。


 廊下を歩いていても、すれ違う人たちのうちの何人かが、やはり戦争について話題にしている。

 学院でも寮でもこんな話が耳に入ってきては、ツェシーリアのように愚痴りたくもなるか。


「ミカ。」


 もうすぐ教室に着くという所で、クレイリアがミカに声をかけてくる。

 皆に先に行ってもらい、ミカはクレイリアの後をついて廊下の端の方に行く。


「何かあった?」

「ミカに、お父様からの伝言です。」


 クレイリアは、周りに聞かれないように、こっそりとミカに伝える。


 侯爵(おっさん)から伝言?

 もうね、嫌な予感しかしないし、こんなの。


「ミカは、今年も里帰りしますか?」

「里帰り? あー……、まだ全然考えてなかったけど、すると思うよ。」

「そうですか。」


 クレイリアが頷く。


「お父様が、今年は冬の終わりに王都には来れないということです。 ミカが里帰りする時はサーベンジールに寄るように、と。」


 王都での面談を、サーベンジールで行いますというお知らせだった。


(しまったな……。 これ、里帰りしないってことにすれば、回避できたんじゃないのか?)


 一瞬そう思うが、結局は同じかもしれない。

 旅費は持つから、サーベンジールに来いとか言われそうだ。


(まあ、普通は王都からリンペール男爵領に行くなら、サーベンジールで一泊するのは当然か。)


 そうなのである。

 なので、ミカがここで言うべき言葉は一つだ。


「分かったよ。 でも、泊る部屋は自分で用意するからね? 念のために言っておくけど。」


 ミカ一人だと思って、「泊って行きなさい」なんて流れになることだけは避けなくてはならない。

 クレイリアが一瞬だけきょとんとした顔になるが、すぐに意図を察したようだ。


「お二人もですか?」


 キスティルとネリスフィーネのことを知っているクレイリアが、確認に聞いてくる。

 ミカは素直に頷いた。


「分かりました。 先手を打って、先に伝えておきましょう。」

「頼むよ。」


 それから、ミカはやや神妙な顔になり、周囲を軽く確認する。


「侯爵が王都に来ない理由って……。」


 そう、小声で聞いた。

 クレイリアも、難しい顔になる。


「影響がないと言えば嘘になると思います。 ただ、皆さんが心配しているほど、具体的に何かあったという訳でもないと思うのです。」

「そうなの?」


 まあ、何かあっても、それを漏らすわけにはいかないのだろうけど。


「直接的な兆候ではないのだと思います。 それでも、開戦は明日かもしれないですし、五年後か十年後かもしれないです。 …………お父様は必要ならば、例え十年後であろうと、このまま警戒を続けるでしょう。」


 予断を許さない。

 そういう段階に入った、ということらしい。


「ありがとう、教えてくれて。」

「いえ、それでは具体的な日程は、また後ほど詰めましょう。」


 ミカは頷いて、クレイリアと教室に戻った。

 そうして席に着くと、ミカはまた考え込んでしまう。


(…………どうすればいいんだ……?)


 先程のクレイリアの話は、いつ開戦してもおかしくない、と受け止めることもできる。

 里帰りは中止した方がいいのか?


 リッシュ村は、戦場に近すぎる。

 レーヴタイン侯爵領とリンペール男爵領は隣接している。

 魔獣の棲む危険な森が間にあるため直接の行き来はできないが、経由するオールコサ子爵領を押さえられたら、どこにも行けなくなってしまうのだ。


(アマーリアやロレッタ、キスティルの家族を王都(こっち)に呼ぶべきか……?)


 疎開、というと都市部から地方に行くイメージだが、戦場から離れる選択が必要ではないだろうか。


(キスティルの父親はもういない。 少なくとも、最大の懸念の一つは消えている。)


 もし万が一、誰かが回復薬(ポーション)でも使って生き長らえさせたとしても、今度は顔を合わせた瞬間に首を刎ねてやろう。

 すでにミカの中でヨークアデスは死んだ存在だ。

 一度死んだ者を何度死なせようと、別に何も思わない。

 ”幽霊(レイス)”や”骸骨(スケルトン)”を倒すのと、何も変わりがない。


(第二街区に、皆で住める大きな家を探すか……?)


 少々気の早い話になるが、もしも目途が立ったらそうしたことも必要だろう。

 第三街区では街壁がない。

 家を用意するとしたら、絶対に第二街区だ。


(でも、村の皆はどうする?)


 ミカが絶対に助けたいと思う人たちは他にもいる。

 キフロド、ラデイ、ニネティアナ、ディーゴやデュール、ホレイシオ……。

 ミカ一人では、彼らのことまでは難しい。


(どうすればいい……? どうすれば……。)


 忍び寄る漠然とした不安に、ミカは頭を悩ませるのだった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 随分前から何故ミカは対【神の奇跡】用の防御系魔法を開発しないのだろう?と不思議に思っていたが、どうやらそもそもそんな事を考えてすらいなかったことが発覚? 短剣とか錬金術よりまずそっちな…
[一言] 最悪、空飛んで敵前逃亡もできる。そんな手段を選べるなら、だが。 ↑他に飛べる魔法を使える者が居ない場合、安全に目視できないほど高い位置から、帝国の首脳が居る建物に向けて、大きな岩かなにかを大…
[一言] 防御用の魔法とか、一定範囲内の魔力の侵入を阻害する魔法とか 『神の奇跡』対策を考えないのは違和感を感じるのですが、コレも物語をスムーズに面白く仕立て上げる為の誘導だろうか、、、 戦争云々…
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