第171話 冒険者として
火の3の月、2の週の水の日。
冒険者ギルドでの話し合いから一週間ほどが経った。
偽”解呪師”の事件の顛末やギルドの不祥事も公表されたが、実はまだすべてが終わった訳ではない。
ギルドとしての、ミカ個人に対する詫びだ。
現役のギルド職員によって、三十件近い冤罪を被せられそうになった。
しかも、でっち上げによる懲戒請求で、ミカは実際に降格されたのだ。
すでに訂正されたが、書類上元に戻ったから、これでいいよね?とは当然ならない。
ミカは「これが有名税か」と金に物を言わせて情報を集め、少しばかり強引な方法で犯人たちを捕え、自白させた。
だが、こんなのは普通の冒険者にできるようなことではない。
ギルドという巨大組織の力に捻じ伏せられ、社会的に抹殺されるところだったのだ。
「誠意ある対応を望みます。」
と、情報屋ギルドに交渉の代理をお願いし、現在担当者間で交渉が行われている。
ここで「詫び金」として引き出した金額の二十%を報酬とする、という契約なので、情報屋ギルドが張り切って交渉していた。
(今回、情報屋ギルドは大儲けだな。)
ミカからの報酬だけでも八百万ラーツに近い。
きっとほくほく顔の人が何人もいることだろう。
それと、詐欺の被害者たちへのギルドの詫びだが、ミカは一旦ストップさせている。
というのも、本来ミカへの依頼受け付けは停止されていたのだ。
それは被害者たちも分かっていた。
それなのに、「伝手があるから、やってもらえるよ」という話に飛びついた。
これって、自業自得じゃね?
偽造のギルドカードという小道具があり、また現職のギルド職員が主犯ということで、ある程度はギルドにも責任はあるだろう。
だが、被害の賠償はデムソリックやコンコーラドらが行うべきことで、ギルドが行うのは変な話だ。
それでもギルドは「少しでも早くこの件を片付けられるなら」とお金で解決しようとしたが、それをミカが禁じたのだ。
「そんな金があるなら、僕への詫び金に積ませろ。」
と、情報屋ギルドの担当に伝えているので、これも交渉のカードにしている。
ただし、各被害者の事情は確認させた。
淫紋の呪いのように、本当に切羽詰まった状況では、騙されてしまっても仕方ない。
ズルだと分かっていても、良くないと分かっていても、それでも縋ってしまう。
それほどに追い詰められた人になら、ミカもすぐに解呪にあたるなどして、助けてあげようと考えていた。
だが、そんなのは一件もなかった。
すべて屋敷の”呪いの排除”。
すぐに助けなくては、と思うような依頼は一つもなかった。
ということで、被害者たちには勉強代だと思って諦めてもらうことにした。
被害にあったお金は、頑張って本人たちから返してもらってください。
ヤロイバロフに報告に行ったら、すでに粗方情報を掴んでいた。
さすがにヤロイバロフは顔が広いようで、知り合いの情報屋からいろいろ聞いていたようだ。
「副ギルド長まで飛ばしちまうとは、おっかねえ奴だなぁ。」
それが、開口一番に言われたことだった。
「俺なら、そこまで舐められたらギルド本部に乗り込んで暴れちまいそうだけどな。 よく我慢したもんだ。」
ヤロイバロフが暴れたら、ギルド本部が無くなっちゃうでしょ。
建物ごと。
「舐めきってたからこそ、こんな杜撰な方法でも大丈夫だと思ってくれたんでしょうけどね。」
「まあ、確かにな。」
ヤロイバロフが楽しそうに頷く。
完全に面白がってんね。
「俺も、ギルドの上の方がろくでもないことになってんのは耳にしていたけどな。 思った以上に腐ってたようだな。」
ヤロイバロフは腕を組み、深刻な顔になる。
「力を持つと、使いたくなっちまうのは分かるけどよ。」
そう呟くヤロイバロフを、ミカはじっと見上げる。
「何でヤロイバロフさんは威張ったりしないんですか?」
ヤロイバロフくらい強かったら、もっと横柄になっても不思議はない。
もっとも、想像もつかない強さのヤロイバロフがそんな奴だったら、ミカは絶対に近づかないが。
「威張ったり、殴って言うことを聞かせたり、そんな奴は散々見てきたからな。 ああはなりたくねえ、って思ったもんだぜ。」
そう、しみじみと零し、肩を竦める。
子供の頃、苦労していたようなことを前に言っていた。
そうした経験が、ヤロイバロフを今のような皆に慕われる人格者に育てたのだろう。
反って、力を得たら自分もそうなってしまっても、おかしくないのだが。
「坊主だって、その年でCランクの二つ名持ちだ。 増長したっておかしかねえだろ。」
「僕ですか?」
ヤロイバロフの言葉に、ミカはきょとんとなる。
(……俺が天狗になって、威張り散らしたらどうなる?)
まず、ヤロイバロフにどつき回される。
んでもって、ごめんなさいというまで、オズエンドルワに転がされる。
最後に、侯爵の前に引き出されて、正座で油汗をたっぷり掻かされる。
…………そんな、恐ろしい映像が見えた気がした。
「まったく増長しないかは分かりませんが……、なるべく謙虚に行きたいと思います。」
「何だそりゃ。」
俯き、縮こまるミカに、ヤロイバロフが変な顔になる。
が、そんなミカの頭を、ヤロイバロフがガシガシと撫でた。
「まあ、これで大体のところは片がついたんだろう? お疲れ。 頑張ったな。」
そうしてヤロイバロフに声をかけられて、初めてミカは「これで終わったんだ」と実感することができた。
自宅ではキスティルとネリスフィーネが、当然ながらミカのことを心配していた。
だが、二人はヤロイバロフからある程度の話を聞いていたようだ。
勿論、心配しすぎないようにかなりの部分はぼかし、いざとなればヤロイバロフも手を貸すと言って。
あまり心配かけまいと、ミカは帰れない理由を「遠方での仕事」と嘘をついた。
最初からバレバレの嘘だったが、帰ってからそのことを怒られた。
怒られた、というか泣かれたんだけど。
「……ちゃんと、本当のことを話して欲しかったな。」
「心配かけたくないからって、嘘をつかれるのは本当に悲しいです。 ミカ様……。」
自分が同じことをされたらどう思うかと言われ、ミカはただ謝るしかなかった。
久々の、土下座をしながら……。
土下座するミカに、フィーが何度も体当たりをかましてきた。
フィーは関係ないだろう、お前は。
いや、一応フィーにも心配をかけたのか?
そうして現在、ミカは山の中で身を潜めていた。
ここは王都から、丸一日歩いた場所にある山。
アグ・ベア討伐に行った村とは離れているが、あの村の近くにあった山と同じ山である。
村があったのは山の東側。
そして、現在ミカがいるのは南西側だ。
高等部の野外演習として、毎年夏に行われる大規模な演習にミカも参加させられていた。
俺、まだ中等部なのに……。
この山には、普通に魔獣がいる。
そんなに強い魔獣ではないが、ソウ・ラービくらいは生息する、ごく普通の魔獣の領域だ。
とても危険なので、王国軍の騎士団も協力する、国が全面バックアップした大規模な演習なのである。
ということで、ミカも冒険者装備だ。
いつも演習では【身体強化】は使わないが、さすがに今回ばかりは使わせてもらう。
魔獣の領域に【身体強化】なしでいるようなことは、もう二度としない。
この演習で行われるのは、いつもの拠点を攻めたり守ったりではなく、オリエンテーリングだ。
山の南西側全域を使い、十カ所あるチェックポイントを地図を片手に指定の順番で回る。
仮に一番近いチェックポイントから、最短距離で回る場合に一番、二番、三番……と番号が振られていたとする。
だが、各チームに渡された地図には七番、二番、九番という風にそれぞれ回る順番が指定されているのだ。
一つのチームに魔法士は一人、騎士は六人。
五日以内にすべてのチェックポイントを回り、スタート地点である麓まで戻って来いという内容だ。
また、山の中には大勢の騎士団の方々が配置されている。
騎士たちは指定された範囲を巡回したりして、学院生たちを探す。
この騎士たちに見つからないように行かなくてはならないのだ。
と言っても、まったく見つからないというチームは、これまで出たことがないという。
少ないチームでも、三回か四回くらいは見つかってしまうらしい。
で、見つかったら地図に印が付けられ、減点となる。
ただし、これは騎士学院の騎士の話。
魔法士にそんなものはない。
魔法士には、とにかく最後まで歩き切ってくれ、無事に戻って来てくれと懇願…………厳命が下る。
温室育ちじゃ役に立たねえよ、ということで山に放り込むが、この山は踏破するだけでもちょっと大変らしい。
その上魔獣まで出るので、魔法士を必ず生還させろ、と騎士たちは厳しく命じられている。
騎士たちの代わりはいくらでもいるが、魔法士は代わりがいないんだ、ということのようです。
ちょっとだけ、騎士たちに同情してしまった。
扱いの差がひどい……。
山に配置された本職の騎士たちも、いざとなれば魔法士を助けるためにいる、とも言える。
全員に回復薬と一緒に笛が渡されるが、魔獣に襲われたりしてピンチになったら「躊躇わず吹くように」とのことだ。
そんな演習の三日目の昼前。
ミカたちのチームは七つ目のチェックポイントに先程到着し、休憩をしていた。
(一日中、山の中を歩き回るとか……。 こんなのを三日もやってれば、さすがに疲労が溜まるな。)
【癒し】で体力は回復するし、【身体強化】も使っている。
それでも、身体の芯に溜まっていく疲労を感じる。
ミカはチェックポイントで配られるパンと燻製肉を齧りながら、膝の上に置いた地図を眺める。
二日分の糧食も持たされているが、チェックポイントにはもう少しマシな食事が用意されている。
糧食はチェックポイント以外で野営する時に食べたり、遭難した時用だ。
チェックポイントに行けば補充できるので、状況によって自分たちの判断で消費して良いことになっている。
すでに七つのチェックポイントを通過し、ペースとしてはかなり良い方だ。
ミカのチームは、魔法士が足を引っ張らないので、他のチームよりもスムーズに進んでいる。
このままの調子で行けば、今日中に八つ目のチェックポイントに到着し、四日目にはすべてのチェックポイントを歩き切れるだろう。
ただし、今いるチェックポイントは八番、次のチェックポイントは二番。
ほとんど、山を下り切るような距離の移動である。
(無理をすれば、夜までには着くか……? いや、さすがに無理し過ぎだな。 ここまで来たら、そこまで無理をする必要もない。)
リーダーの考え次第だが、時間的には相当に余裕がある。
安全を優先し、確実な踏破を目指す方がいいだろう。
「ミカ君、食べ終わった?」
ミカが水袋をごくごく飲んでいると、隣に座っていた女騎士が声をかけてくる。
この女騎士はタクウィーラ。
ミカのいるチームの紅一点で、副リーダー。
女性ながら、脳筋の男たちを向こうに回し、上位の成績を収めている女傑だ。
今回のオリエンテーリングではミカの直掩を務め、緊急時には自己の判断でミカを連れて脱出する役目を負っている。
実際、この三日間で四回ほど魔獣の襲撃を受けた。
だが、すべて騎士たちが撃退した。
ミカは完全にお客様扱いで「歩くのが疲れたら負ぶってあげようか?」くらいの勢いである。
騎士たちには、当然ながら真剣が配られている。
すでに高等部になると、自前の剣を持っている者もおり、そうした者は自分の剣を使っても良い。
ということで、ミカも自前の短剣とナイフを買って、装備している。
二つ合わせて二百万ラーツを超える、専門店で買った中々の逸品である。
ちなみに買ったナイフは、以前見かけたごつくてめちゃ格好いいナイフではない。
あれは残念ながらミカの手には合わない。
買ったのはミカの手のサイズに合った、重さや重心のバランスも専門家にアドバイスを受けて選んだ物だ。
ただし、防具と違ってオーダーメイドではなく、既製品。
それでも、さすが専門家が選んだだけあって、非常に使いやすい。
まだ一回も使ってないけど。
ミカは水袋の蓋を閉めると、地図を仕舞う。
「そろそろ行きますか?」
「レッジナンサーが指示を出し始めたみたい。 多分、もう少しで移動を始めると思うわ。」
タクウィーラが、チームメイトの騎士たちを見ながら言う。
レッジナンサーというのはチームリーダーだ。
かなりの大男だが、実は結構温和な性格らしい。
ただ、剣の腕はいいらしく、度胸もあるという。
成績上位者二名を配置したチームというのは、おそらくミカへの配慮ではないかと密かに思っている。
いくら普段の演習で好成績を収めているとはいえ、まだ中等部だ。
将来を嘱望された魔法士に万が一があってはいけないと、格別な配慮がなされている。
…………そんな配慮するくらいなら、無理に参加させなくてもいいんですよ?
三日目、夜。
すでに辺りは真っ暗になっていた。
ミカのチームは、八つ目のチェックポイントまであと一キロメートルという地点で、無理をせず余裕を持って野営をすることにした。
単純に進めれば一キロメートルでも、山の中の一キロメートルは気が遠くなるほどの遠さだ。
山道ではない。
山の中なのだ。
基本的に山道には騎士団が配置されているため、見つからないように横切ることはあるが、山道を呑気に歩いていたらすぐに見つかってしまうからだ。
ミカは木の根元に座り、背中を預ける。
すでに糧食も食べ終わり、目を閉じて身体を休めていた。
(……うう……横になりたい。)
横になってはいけない訳ではないが、ミカは自主的に、警戒するために横になることを避けていた。
横になって眠ると、本当に熟睡してしまう。
いや、横にならなくても熟睡してしまうのだけど。
それでも幾分かは眠りが浅いのか、少しの物音でも目が覚める。
こういう野営でも警戒する訓練だと思って、なるべく気を緩めないようにしていた。
チームメイトの騎士たちが交代で番をしているので、それなりに安全ではあるのだけど。
ギャァァーー……ッ!
ゥワァァァ……!
ミカは目をパチッと開ける。
(悲鳴……?)
微かに、人の悲鳴のようなものが聞こえた。
ミカが立ち上がると、チームの騎士たちも周囲を警戒していた。
「どこからだ?」
「全周警戒だ。 全員いるな?」
「ああ、ウチじゃない。 多分、近くの別のチームだ。」
騎士たちが状況を確認しようとしていると、タクウィーラがミカの横に来て、引き寄せた。
「ミカ君。 私から離れちゃだめよ。」
その時、ピィィィーーーーーーーッ!という笛の音が聞こえてきた。
緊急用の笛だ。
二つ三つの笛の音が、必死に鳴らされている。
周囲を警戒しながら、レッジナンサーは状況把握に努めている。
「ミカ君っ!」
ミカがレッジナンサーに向かって駆け出すと、タクウィーラが引き留めようと手を伸ばす。
だが、その手は間に合わずに空を切った。
「助けに行ってきます。 皆さんはここで待っててください。」
「何を言っている。 騎士団が救助に向かう。 我々は自分たちの身を守ることを考えればいい。」
レッジナンサーの言うことは、学院生の対応としては正しい。
だが……。
「すみません。 今は学院生として言っている訳じゃないんです。」
「何?」
レッジナンサーが怪訝そうな顔をした時、再び笛の音が聞こえた。
「ご迷惑をかけることは分かっています。 でも、見過ごしたくないんです。 冒険者として。」
そう言ってミカはペコリと頭を下げると、すぐさま真っ暗な草叢に向かって駆け出した。
「あ、おいっ!? 待てっ!」
きっと、レッジナンサーのチームはミカを探しに来るだろう。
この暗闇だ。
下手をすれば、そのことでレッジナンサーのチームが危機に陥ることだって、可能性としてはある。
それでも、今危機に陥っている人を見捨てたくなかった。
レッジナンサーの言う通り、騎士団が駆け付けて、ミカが行った時にはすべてが終わってるかもしれない。
だが、騎士団よりも早くミカが辿り着く可能性だってある。
ミカは”地獄耳”を使って笛の音の元を探す。
魔力範囲で周囲の地形を把握しながら、とても山を走っているとは思えない速さで木々の間を駆け抜ける。
(今行きます! もう少しだけ頑張っててください!)
そうして山の中を駆けて行くと、怒号が聞こえてきた。
(こっちか!)
ミカは僅かに進行方向を修正し、更に速度を上げる。
さすがにこれだけ学院生や騎士団がいる場所で飛ぶわけにはいかない。
更に言えば、”石弾”などのあからさまな魔法も使う訳にもいかない。
ミカは走りながら短剣を抜く。
最近の演習ではナイフばかり使っているが、第五騎士団での出稽古ではナイフと並行して、短剣の戦い方も練習中である。
(見つけたっ!)
怒号を頼りに暗闇を進むと、木々の間から遠くの松明の灯が見えた。
そうして松明を目印に進んで行くと、崖のような壁を背に、半円に騎士が立って魔獣と戦っていた。
複数の呻き声も聞こえるので、怪我をしている人もいるようだ。
ミカは更にスピードを上げる。
だが、騎士たちを襲っていた魔獣の群れは、ミカにも気づいたようだ。
数匹がこちらに向かってきた。
騎士たちが持つ数本の松明だけの、薄暗い戦場。
それでもミカには魔力範囲があり、迫り来る魔獣たちの動きを完全に捕捉していた。
「ハッ!」
正面から襲ってきた魔獣を横薙ぎに、真っ二つにする。
どうやらここに集まっている魔獣たちは、すべて小型ばかりらしい。
少しばかり数は多いが、ミカならば余裕である。
(……魔法が使えれば。)
ちょっとばかりハンデが大き過ぎる。
短剣だけで戦うのは少々苦しい。
”石弾”を使えれば、数十メートル先の獲物も仕留められる。
だが、それが使えないとなると、手の届く範囲の魔獣を一体一体倒さなければならない。
…………そんなの、やってられないよねえ?
ミカは飛びかかって来た魔獣を斜めに斬り上げた。
と同時に、くるりと回転しながら後ろから襲いかかろうとしていた魔獣を、小さく「”風刃”。」と呟き真っ二つにする。
(あからさまな魔法はアウトだけど、見えてなければ使ってないと同じじゃね?)
バレなければ、やっていないも同然というスタイルである。
さすがに離れている魔獣を”風刃”で攻撃すれば「おかしくね?」と思われるだろうが、短剣の間合いにほぼほぼ近ければ大丈夫。…………だと思う。
ミカは襲ってくる魔獣を次々に斬り払い、襲撃されていたチームに駆け寄る。
「大丈夫ですか!」
ミカが声をかけると、ローブを着ていることに気づいた騎士が驚いた顔をする。
「助太刀すまない! 君は魔法士なのか?」
「そうです!」
ミカは魔獣を斬りながら答える。
「頼む、時間を稼ぐから怪我人に【癒し】を使ってやってくれ! …………使えるよな?」
「大丈夫です! 貴方にも使いましょうか?」
「あー、後で頼むよ。」
そんなやりとりができるくらいには、余裕がありそうだ。
先程までは救援の目途が立たず焦った表情をしていたが、【癒し】の使える魔法士が来たことで心に余裕ができたらしい。
ミカは半円の中心で寝かされていた魔法士に【癒し】を使う。
魔法士の周りには、演習の開始時に各自に配られた回復薬が数本転がっていた。
回復させた端からまた攻撃を受け、また回復させ、と繰り返したのか?
それとも他にも怪我人が出て、回復薬を使ったのか?。
また、その横で魔法士を看ていた騎士も足に怪我をしていたので、これも【癒し】で治した。
魔法士は気を失っているようだが、騎士の方は怪我が治ったことで戦線に復帰。
チームの戦力が立て直された。
「すまん、助かった。」
「どういたしまして。 じゃあ、ここはお願いしますね。」
「え?」
ミカがそう言うと、騎士は剣を振り下ろしながら不思議そうな顔になる。
「突貫して、潰してきます。」
「はあ!? おい、ちょっとっ!?」
騎士が止めようとするが、ミカはニタァと笑うとそのまま魔獣の群れに駆け出した。
と言っても、残りは十匹余り。
一~二分くらいで片がつく。
ザシュッ! ズバッ!
斜め右の魔獣を短剣で真っ二つにしながら、左側の魔獣も”風刃”で切り裂く。
ミカは踊るように魔獣の間をすり抜け、そのたびに魔獣から血飛沫が上がる。
「なんだ、あれ……。」
「すげえ……。 剣が見えねえぞ。」
騎士たちに群がっていた魔獣が片付き、残りはミカの周りの数体のみ。
だが、騎士たちは加勢することも忘れ、ミカの踊るような戦いぶりに魅入る。
(剣が見えないっていうか、剣じゃないし。)
魔獣を斬り上げたと思ったら、足元の別の魔獣からも血飛沫が上がる。
そちらは”風刃”で切っているのだ。
剣が見えない、というのも当然だろう。
そうして、すべての魔獣を片付けた頃、騎士団がやって来た。
それから更に間をおいて、レッジナンサーたちミカのチームも合流。
勝手に飛び出したことを、めっちゃ怒られました。
その後に、騎士を助けてくれた、とお礼も言われたけど。
そして、翌日のオリエンテーリング。
ミカの少し前に二人、ミカの少し後ろにも二人。
「……………………。」
「……………………。」
「……………………。」
そして、左右にはミカの一挙手一投足に警戒する、レッジナンサーとタクウィーラ。
とても息苦しい一日を過ごすことになった。
でも、四日目ですべてのチェックポイントを回り切ったよ。




