第168話 偽”解呪師”事件3
カツーン、カツーン、カツーン……と硬い足音が響く。
ミカは地下へ降りる階段を、欠伸を噛み殺しながら下りる。
ここは暗殺者ギルドのマスターから借りた、第三街区の一軒家。
周囲に集合住宅はあるが、ほとんど人の気配がない不気味な区画だ。
一応、微かにランプの光が漏れている窓もあり、人は住んでいるようだが、皆息を潜めるようにしている。
階段を下りると、目の前には頑丈そうな鉄の扉。
ミカは鍵の一つを使い、扉を開けた。
マスターに渡されたキーホルダーについていた鍵は二つ。
一つはこの家の玄関の鍵。
そして、もう一つがこの鉄の扉の鍵だ。
(随分と家賃が高いと思ったけど、まさか地下室付きとはね。)
ここまでサービスがいいと、後が怖い。
貸し一つ、と思われていそうだ。
(仕事内容によっちゃ、手を貸してもいいけどね。)
悪人を成敗してくれ、なんて依頼だったら喜んで手を貸そう。
ミカの頭の中に、チャララ~ン、というメロディが流れる。
妻と姑にいびられる、うだつの上がらない同心が、実は裏稼業で暗殺集団を率いているという、時代劇の傑作が思い浮かぶ。
(日常のゆる~い感じと、裏稼業とのギャップがいいんだよなあ。)
そんなことを考えながら、ミカは軋む鉄の扉を開け、中に入る。
そこは、コンクリート打ちっぱなしの監禁部屋。
壁のコンクリートと繋がった、拘束具付きの鎖など、設備は万全だ。
部屋の中央には、ロープで手足を縛られ、転がされた小柄な男が一人。
男の名前はコンコーラド。
コンコーラドはピクリとも動かない。
(……呑気に寝てんじゃないよ。 寝たいのはこっちだっての。)
演習で一日中走り回った後に、余計な仕事を強いられている。
ただでさえ腹立たしいのに、イライラが更に増大しそうだ。
だが、実際はコンコーラドは寝ている訳ではない。
気絶しているのだ。
第三街区にある賭場で大負けし、酒場で適当に酒を飲み、いい感じに酔っぱらって家に帰ろうと歩いていた時、ミカに襲撃された。
月明かり以外にロクな明かりもない路地を歩いている時に、いきなり肝臓打ちを喰らい、蹲ったところで顎を殴られたのだ。
自分で気を失わせておいて、寝てるんじゃない、というのも中々理不尽な話である。
だが、それも仕方がないだろう。
誰でも怒っている時は理不尽になるものだ。
ちなみに、コンコーラドを連れて来るのには当然、飛行を使った。
”吸収翼”も使い、暗い路地では目立ちまくりだろう。
だが、ミカは万全を期していた。
黒い布を被ったのだ。
所謂、目出し帽の代わり。
顔さえ隠していればいいかな、というスタイルである。
ミカはコンコーラドを冷たい目で見下ろしながら、そっと溜息をつく。
(……中々面白い物も持っていたし、これは長い夜になりそうだな。)
そんなことを思いながら、左手をコンコーラドに向けた。
バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャアッ!
ミカは”水飛沫”で大量の水をコンコーラドに浴びせる。
「……ぶはっ!? ごほっ……なんっ…………ぶはぁ……っ!」
突然の大量の水に、コンコーラドは目を覚ましても混乱していた。
そんなコンコーラドの様子を冷ややかに見つめ、それでもしばらく”水飛沫”を浴びせ続ける。
地下室の床は、やや傾斜がつけられていた。
おかげで水捌けが良くて助かる。
初めから、水遊びすることも想定して作ったのだろう。
「ごほっ……げほげほっ……!」
”水飛沫”が止まっても、しばらくコンコーラドは咽せ続けた。
そんなコンコーラドを、ミカは黙って蹴り飛ばした。
「ぐふっ!? げほっごほっ……! な、なんっ!?」
訳の分からないコンコーラドは、身を捩りながら、懸命に状況を把握しようとする。
だが、ミカはそれを許さない。
何度も何度も、コンコーラドを蹴り飛ばした。
そうして、コンコーラドが呻き声しか上げられなくなったところで、【癒し】を使う。
「……ぁ……ぁぁ……?」
茫然としながら、コンコーラドが気の抜けた声を漏らして、ミカを見上げる。
そんなコンコーラドを、ミカは黙って見下ろした。
(甚振ったところで、気が晴れないのは分かっていたけど……。)
それでも、こいつらには見せしめになってもらわないと困る。
二度とミカの名を騙ろうなどという、馬鹿が現れないようにするために。
怒りを直接ぶつければ、それでも少しは気が晴れるかと思ったが、無駄だった。
それはそうだろう。
ミカは手加減をしているのだから。
ミカが本気で怒りをぶつけたら、おそらくすぐに殺してしまう。
【身体強化】など使わず、ただ殴る蹴るするだけでも。
「……僕の顔くらいは知ってるんだろう? 何か言うことはないのか?」
ミカがそう言っても、コンコーラドはしばらく茫然としていた。
それから「あ!?」と声を上げる。
「お、お前っ!? 何でお前がっ!」
コンコーラドが激高した。
「てめえっ! ふざけた真似しやがって! これを解きやがれっ!」
そう言って、コンコーラドは身を捩る。
ミカに気づいても、怯えも謝罪もない。
それどころか、未だに恫喝してくるとは。
どれだけ舐められているのか、これだけでよく分かる。
ミカはコンコーラドの罵詈雑言を聞き流し、”氷槍”を作った。
そして、それをコンコーラドの腹に押し当てる。
「てめえっ、ぶっ殺されてえのかっ! さっさと解けって言ってんだよっ! このガキがっ!」
ミカは少しずつ力を籠め、”氷槍”をコンコーラドの腹に押し込んでいく。
「痛てえんだよ、てめえっ! 放しやがれっ!」
恫喝するコンコーラドを無視し、黙って押し込む。
そして、ついにはその臨界を超える。
「痛てえっ言ってんだろ! おい、痛てえんだよっ! 痛っつ、い、いぎゃぁぁあああああああああああっ!?」
ズブリッと腹の皮を突き破り、”氷槍”が少しずつコンコーラドの腹に侵入する。
ミカは悲鳴を上げるコンコーラドを無視し、ぐりぐりと円を描くように動かしながら、ゆっくりと、ゆっくりと押し込む。
悲鳴が監禁部屋に反響し、あんまり煩いので”地獄耳”で音量を下げる。
「はあああああああっ!? ひぃぃいっ! ぎゃぁああああああああっ!!!」
ミカは身を捩り、泣き叫ぶコンコーラドを押さえつけながら、”氷槍”を、じっくりと味合わせるようにぐりぐり動かす。
コンコーラドが気を失ったところで”氷槍”を放り投げ、癒しをかけてやった。
――――そして、振り出しに戻る。
「デムソリックと、ヨークアデスね。」
ミカは腹に”氷槍”が刺さったままのコンコーラドから、情報を聞き出す。
合計で五回ほど腹に刺し、ぐりぐり、気を失う、【癒し】、水ぶっかける、というのを繰り返した。
泣き叫び、許しを請い、何でも話すというコンコーラドを無視し、拷問を続けた。
で、現在が六回目の途中。
ようやくミカが話に応じる態度を示したことで、コンコーラドが必死になって話をしてくれる。
情報屋ギルドの男の言っていた、コンコーラド以外に二人仲間がいそうだ、というのは当たっていた。
「……で、こいつを用意したのは、デムソリックなんだな。」
「そ、そうだ! いや、そうです! だ、だから、頼むから早く治してくれよっ!」
ミカはコンコーラドの言葉を聞き流し、手元のカードを見る。
そこには、『名前 ミカ・ノイスハイム ”解呪師”』と刻まれていた。
このカードとは別に、ミカは自分のギルドカードをちゃんと持っている。
このカードは、コンコーラドが所持していた物なのだ。
(ギルドカードの偽造……。 これじゃあ、被害者が信用してしまうのも無理ないか。)
仲介役だけでなく、こんな小道具まで用意していたとは。
しかも、このカードを用意したデムソリックという男は、現役のギルド職員なのだそうだ。
(……中々話が大きくなってきたね。)
コンコーラドの話が本当であれば、特にミカを嵌めるという目的ではなく、単純にお金を稼ぐためにやっていたらしい。
ギルド職員が仲間にいるため、罪をミカに被せることが可能だと考えたようだ。
というか、このデムソリックという男が、自信まんまんにそう言っていたらしい。
そして、一度でも前科が付けば、以降は更に簡単にミカに被せることができる。
そういう計画だった、とコンコーラドは言う。
ミカは偽”解呪師”の、具体的な経緯と手口を聞き出した。
話を持ち掛けて来たのは、デムソリックからだと言う。
特にそれまでは話をしたことはなかったが、金に困っていたコンコーラドに「いい金になる」と誘ってきたらしい。
万年Dランクでうだつも上がらず、いつも借金で汲々としているコンコーラドなら、簡単に引き込めると考えたようだ。
そして、その通りになった。
仲介役のヨークアデスは、コンコーラドの行きつけの酒場で、やはり金に困っていた奴だ。
声をかけたら簡単に乗ってきたらしい。
手口はこうだ。
ギルド職員のデムソリックが、ターゲット候補をいくつか見繕う。
最近”解呪師”に依頼を出そうとして、受け付けが停止されていると落胆して帰った者だ。
ヨークアデスはあの手この手でターゲットに近づき、「ああ、あの物件は貴方のでしたか。」と話を振る。
そうして「”解呪師”なら良く知ってますよ。」と善意を装って紹介。
コンコーラドは偽造カードで信用させ、「彼の紹介では断れないな。」と値引きもして良心さをアピールする。
そうして屋敷から適当な物を持ち出し、「これが呪われてました。」とでっち上げる。
数か月前から試しを何回も行い、先月くらいから本格的に稼ぎ始めたという。
ちなみに、”幽霊”がうろうろしているような依頼は、尻尾を巻いて逃げたそうです。
コンコーラドから話を聞き、ミカは呆れてしまった。
(通常百万ラーツのところ、今なら八十万ラーツ。 期間限定、今だけの特別価格、ってか。)
テレビ通販の手法そのものである。
いや、テレビ通販の方が、人の心理をついているのだろうけど。
「適当な物をでっち上げるって、よくそんなので騙せたもんだな。」
ミカがそう言うと、コンコーラドが痛みを堪えながらも、下卑た笑いを浮かべる。
「『もう解呪した』って言やあ、誰も疑いもしなかったぜ。 …………です。」
ミカが睨みつけると、コンコーラドが視線を逸らした。
通常の”呪いの排除”の場合、【鑑定】で呪いを確認する。
だが、すでに解呪されている場合、【鑑定】でも”呪われていた物”とまでは分からない。
「人の信用を使って、好き勝手しやがって。」
パキンッ!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!」
ミカはコンコーラドの腹に刺さったままの”氷槍”を横から蹴っ飛ばした。
”氷槍”は中ほどで折れるが、その振動による激痛にコンコーラドが悲鳴を上げる。
(とりあえず、これで大まかなことは分かったかな。)
一方的な話だけでは、隠された部分もあるだろう。
だが、凡その知りたいことは分かった。
ミカは壁と繋がった拘束具を使い、コンコーラドの足を拘束する。
そうしてから、ロープを解いてやる。
「お前の話に嘘がないか裏を取る。 裏が取れれば、パンくらいは持って来てやろう。 だが、嘘をついてれば……。」
「う、嘘なんかついてねえ……。 信じてく――――。」
ドカッ!
ミカはコンコーラドを蹴り飛ばす。
「馬鹿言ってんじゃねえよ。 お前の話を一欠片でも信じると思ってんのか?」
そう言うと、コンコーラドは痛みに顔を歪めて黙り込む。
ミカは腹に刺さった”氷槍”を引き抜き、【癒し】をかけてやった。
「後で水くらいは持って来てやる。」
そう言い残し、ミカは地下室を出るのだった。
コンコーラドから話を聞き出し、一階に戻ると夜が明けていた。
ボロ家ではあるが、一応は使える湯場も備わっている。
ミカは汗を流し、学院の制服に着替えると、そのまま学院に向かった。
途中の食堂で朝食を詰め込み、ゆっくりと学院に向かう。
授業まで大分早い時間だが、門を開ける担当の講師がすでに出勤しているようだ。
ミカは真っ直ぐ教室に向かい、机に突っ伏して眠る。
クラスメイトたちが登校して来たら「体調が悪い。 担任に言っておいて。」と一方的に言伝を頼み、休憩室へ。
そこでようやく横になって眠れた。
で、一日眠って学院終了。
(ふあー……、よく寝た……。)
ミカは起き上がり、ベッドの上で身体を伸ばす。
休憩室の当番だった講師から、リムリーシェやクレイリアらしき女の子が来た話を聞く。
だが、ぐーすか寝ているミカに安心したのか呆れたのか、そのまま戻っていったらしい。
そして、学院を出たら情報屋との待ち合わせの酒場へ。
裏口から入ると、すでに男が待っていた。
「よお、待ってたぜ。」
昨日と同じ席に座り、ミカに隣に座るように促す。
「昨日言った、二人が分かったぜ。」
「聞いたよ。 デムソリックとヨークアデスって言うんだろ?」
「口を割らせたか。」
そう言って、男が笑う。
「主犯はデムソリックって奴らしい。 そっちの調べではどうだ?」
「さすがにそこまでは分からねえな。 ただ、手口を聞く限り、そいつが重要な役目を果たしてるのは確かなようだ。」
偽造のギルドカードは、被害者たちを信用させるのに、重要な要因だったはずだ。
これがなければ、口先だけの”解呪師”をどこまで信用したか。
何より被害者たちは、ギルドで頼もうとして断られたばかり。
そうした情報も、つけ込むのに役に立っただろう。
「もう一人のヨークアデスは後だな。 デムソリックの情報をくれ。 先にそっちを片付ける。」
「そうか。」
そうして、デムソリックの情報を教えてもらう。
「金遣いが荒くてな、こいつもちょくちょく金貸しから摘まんでいたらしい。」
「こいつもかよ。」
ミカは呆れたような顔になった。
「で、例に漏れず、最近はすこぶる羽振りがいい。」
そう、男がにやりと笑う。
デムソリックは、王都の第二支部の職員らしい。
つまり、ミカも顔を合わせている可能性が高い。
「役職は、カウンター関連全般の業務を担当する次長をしている。」
「次長!?」
ミカが思わず声を上げる。
何か、最近聞いた役職だぞ。
「依頼の聞き取りとか、苦情なんかもこいつが担当する。 依頼者も冒険者も面倒見る、担当範囲の広い部署みたいだな。」
そういえば、苦情を止めてたとかって話も、最近聞きませんでしたっけ?
最近というか、つい昨日の話だが。
「こいつの父親が冒険者ギルドの本部にいる。 結構な幹部のようだぞ。」
コネ入社組だ、という情報もゲット。
「父親の圧力もあって、第二支部じゃ支部長もこいつの顔色を窺うくらいらしい。 こいつを抑えられたのは、春までいた副支部長だけだったって話だ。 異動になっちまって、皆困ってるみたいだぞ。」
チレンスタさん……。
上の顔色なんか窺わず、やるべきことを貫いていたのだろう。
頼りのチレンスタが異動してしまい、こいつを止められる人がいなくなってしまったのだ。
「で、その副支部長の抜けたポストを、下から順繰りで昇格して埋めてるらしい。 勿論、こいつもだ。 ちなみに、それにもこいつの父親の息がかかっているそうだ。」
自分に与する者を、引き上げていっているのだろう。
「その、父親ってのは何者なんだ?」
「だから、ギルド本部の大物さ。 副ギルド長の右腕だか右足だかと言われてるらしい。」
「副ギルド長……。」
…………足って何だ?
しっかし、何だか世間って狭いねー。
みーんな、最近耳にした話に繋がっちゃうんだもん。
つーか、昨日だけどな!
「……なあ、大丈夫か?」
男が、ミカの顔を見て尋ねる。
「何が?」
「あ、いや……なんか、怖い笑いしてるからよ。」
言われて気づいた。
口の端が上がっていた。
「ああ、大丈夫だよ。 それより、昨日と同じで張り付けてくれてるんだろう?」
「それはばっちりだ。 行動パターンも把握している。 おそらく今日は行きつけの店で飲んでから帰るはずだ。」
そうして、そいつの家と行きつけの店、張り付けてる人との繋ぎ方を聞く。
おそらくミカの思う通りの男だと思うが、一応情報屋ギルドの人に張り付いてもらい、間違いのないようにしたい。
人違いで腹を探ったら可哀想だからね。
「ヨークアデスのことは、また明日で。 詳しいことを調べておいてくれ。」
「まあ、大体情報は揃ってるけどな。 いいぜ、調べておく。」
「それと、デムソリックの父親のことも調べてくれ。 特に、ろくでもない話がいいな。」
「父親もか?」
男は一瞬驚いたような顔になるが、すぐに了承する。
そうして、ミカは「明日、同じ時間に」と伝えて酒場を出た。
一旦、コンコーラドの様子を見に戻り、パンと水だけ与えておこう。
そうして、デムソリックさんをご招待。
手口はコンコーラドさんを招待した時と同じ。
ただ、第三街区と違い、そこそこ明るい場所だったので誰かに見られている可能性がある。
一応、人通りのない路地でやったけど。
まあ、目出し帽を被り、あっという間に攫って来たので、見られてもきっと目の錯覚だと思ってくれるでしょう。
現在、昨日のコンコーラドと同じように、デムソリックが床に転がっている。
そして、コンコーラドは鎖に繋がれてまま、壁の方で怯えていた。
「こいつがお仲間?」
ミカがコンコーラドに声をかけると、すごい勢いでぶんぶんと頷く。
ミカは満足そうに頷き、デムソリックに水をぶっかけた。
「ぶふぅ……っ! な、何がっ!? ごほっごほっ……!」
お目覚めになった後もしばらく水を浴びせ、それから声をかける。
「げふ、げほっ……! ごほっ!」
「よお。」
咽せている神経質そうな男を、冷ややかな目で見下ろす。
昨日、ミカを呼び出し、恫喝して二十七件の詐欺を認めさせようとした男。
やっぱり、こいつがデムソリックだった。
「げほっ……き、貴様はっ!?」
デムソリックが、咽せながらも懸命にミカを睨みつけようとする。
「自分が何をやっているのか分かっているのか! これは犯罪だぞ!」
詐欺の主犯が何か言っていますね。
ミカは黙って、顎でコンコーラドの方を示す。
デムソリックは最初気づかなかったが、再度示すと意図を察して、コンコーラドの方を見る。
その瞬間、一瞬だけ表情が歪む。
だが、すぐに取り繕った顔になる。
「ほ、他にも監禁されている人がいるのか! 何て凶悪な犯罪者なんだ、貴様は!」
そうして、見事な被害者っぷりを演じてみせる。
「自分の罪を認めず、懲戒を恨んでこんな犯罪に走るなど、どれだけ勝手な人間なんだ!」
「……懲戒?」
ミカがそう聞くと、デムソリックが一瞬口の端を歪める。
が、すぐに毅然とした表情を作ってみせた。
「ああ、貴様のような犯罪者を見過ごすわけにはいかないのでな! 昨日のうちに懲戒の請求を出しておいたんだ!」
あらら。
もう、何やら請求が行っているらしい。
「すでに今日、君の懲戒処分が本部で決まっただろう。 さあ、これ以上罪を重ねず、潔く自首するんだ!」
デムソリックは、相変わらず善良な職員を演じる。
だが、この話を聞き、ミカはちょっと楽しくなってきた。
(カードの偽造だけでも大きな話になったと思ったけど、冤罪による懲戒まで通っちゃったら、それってギルド本部の問題だよな。)
現役職員による詐欺事件、ギルドカードの偽造、冤罪での懲戒処分。
しかも、身内にギルドの大物がいる。
もしも、冤罪による懲戒にその大物が関わっていたら?
(大スキャンダルだよね。 これって、懲戒処分が確定してからひっくり返した方が面白くなる?)
そんな考えが頭に浮かぶ。
これから、どう動くべきだろうか。
頭の中で巻き込むべき人なども考える。
「”氷槍”。」
ミカが呟き、”氷槍”を出した瞬間、コンコーラドがひどく怯えた。
パニックのようになるコンコーラドに驚きながら、デムソリックは理由が分からず顔を引き攣らせる。
(デムソリックは、生かした方が面白くなる? それとも、殺した方がいいか? 改心なんか求めてないし。)
そんなことを考えながら、ミカは”氷槍”を片手に持ち、微笑んでデムソリックに近づくのだった。




