第161話 在位二十年記念パーティ
火の1の月、1の週の土の日。
気温のあまり上がらない初夏。
夕方、というにはやや早い時刻。
ついに来てしまった。
国王陛下、在位二十年記念パーティ。
ミカの『直訴』決行の日である。
いや、しないけどね、そんなこと。
命が惜しいので。
「はぁ~~~~~~~~~……。」
「ミカったら、もう。 さっきから溜息をつきすぎです。 何回つけば気が済むのですか。」
盛大な溜息をつくミカに、クレイリアが注意をする。
すでに礼服に着替え終わり、現在はクレイリアの部屋で待機中。
髪も上げているため、おでこがスースーする。
ソファの向かいに座ったクレイリアは、真っ赤なドレスに身を包み、普段は身につけないネックレスやらブレスレットやら目立つ髪飾りもつけている。
すごい気合の入れようだ。
というか、むしろそうしない方が失礼なくらいなのか?
国王陛下に会うのにまったく着飾らない方が、「嫌々来てる?」と思われそうだ。
コンコン。
ミカが背中を丸めて小さく溜息をついた時、部屋のドアがノックされる。
クレイリアに視線で促され、ミカも背筋を伸ばしシャンとする。
クレイリアの前でならだらけた姿も見せられるが、他の侯爵家の方の前ではそうはいかない。
……本当は、クレイリアの前でもダメなんだろうけど。
そうして入って来たのは、三人の若い男性。
クレイリアと同じハニーブロンドの、上は二十代半ばくらい、下でも二十歳前後の人たち。
「お兄様!」
クレイリアが表情を輝かせ、部屋に入って来た男性たちの下に走って行く。
(お兄様? どちらが? というか、三人ともか?)
ミカもとりあえず立ち上がり、クレイリアと三人の男性たちを見る。
明るく挨拶を交わし、親し気に話をしている。
(……………………。)
何だろう。
完全に別世界ですね。
楽しそうに談笑する、金髪の美男美女。
きらきらとしたその光景は、完全に映画かお伽噺の世界だった。
そうして、ミカが「ほけ~……」と見ていると、一番若そうな男性がミカに近づく。
「君がミカ君かな? 初めまして。 ウルバノ・レーヴタインだ。」
そう言って、右手を差し出す。
「は、初めまして。 ミ、ミカ・ノイスハイムです。」
慌ててミカも手を出し、握手を交わす。
ちょっとだけ声が裏返った。
「随分緊張してるみたいだね。 今からその調子じゃもたないよ?」
そう言って、ウルバノが微笑む。
それから、順番に挨拶を交わしていく。
どうやらこの三人は全員がクレイリアの兄で、上からハイデン、イクセル、ウルバノというようだ。
ハイデンは長男で、レーヴタイン家の跡継ぎ。
現在はレーヴタイン領の領主軍で、大隊長を務めている。
このまま行けば、将来レーヴタイン領を継ぐことが確定しているため、軍人として鍛えられながらいろいろ勉強中とのことだった。
イクセルが次男で、近衛軍に所属しているらしい。
類まれな剣の才能に恵まれ、現在は近衛軍で揉まれているのだとか。
近衛軍は王国軍から独立した王宮直轄の軍。
直接王家に関わる重要な施設や、王族の警護などにあたるエリート集団のようだ。
『軍』と言ってはいるが、実際はそこまで人数は多くないらしい。
まあ、選抜されたエリートを集めているなら、それも当然だろう。
ウルバノは三男で、王国軍に所属。
レーヴタイン領に常駐している、王国軍にいるらしい。
(兄弟が、そんなバラバラでいいのか……?)
一族で一丸となって、領地を守るとかしなくていいのだろうか。
と思ったら、将来的にはそうする予定のようだ。
現在近衛軍にいるイクセルや、王国軍にいるウルバノも、いずれはレーヴタイン領に戻るつもりだという。
今は近衛軍や王国軍と、レーヴタイン家とのパイプ役となるべく、日々奮闘しているようだ。
将来の近衛軍や王国軍の幹部と親しくなっておけば、領地に戻ってからも繋がりは残る。
それこそが先々のレーヴタイン領のためになるという、深慮遠謀だ。
あと、領主軍だと過度に周りが忖度する可能性があるので、「外で揉まれて来い」というレーヴタイン侯爵の意向らしい。
実に侯爵らしい教育方針だと思う。
ハイデンが気さくに、ミカに笑いかける。
「こうして言葉を交わすのは初めてだけど、私は何度か君を見ているよ?」
そう、ハイデンが言う。
ミカは目をしばたたかせた。
どうやらクレイリア誘拐事件の時、ミカが侯爵の家に留め置かれていた際に何度か見かけたらしい。
「君の故郷の、リッシュ村まで調査に行ったのも私なんだ。 あの時は中々の強行軍で大変だったよ。」
「あ。」
調査が来たというのはミカも聞いていたが、あれはハイデンだったらしい。
謎の少年の素性を急いで調べるため、早馬を乗り継ぎながら、単騎でめっちゃ駆けたという。
「こう言っちゃなんだけど、あの時の君は怪しい部分がなくはないだろ? どんな話が飛び出すか分からないし、調べる事情が事情だ。 村にもサーベンジールにも話が漏れることがないように、私だけで行けって。」
跡取り息子に単独で調査に行かせるとか、無茶すんな、あの侯爵。
ただ、クレイリア誘拐と学院逃れ疑惑。
非常にデリケートな問題に触れるため、それらの情報すべてに触れても問題ないという人選でハイデンに行かせたらしい。
ちなみに、その時の調査結果を知る者は、侯爵と騎士団長だけだという。
(取り調べの時、侯爵の横にいた騎士は俺のこと知ってたよな。 あの人が騎士団長ってことか?)
もう何年も前のことで、名前を忘れてしまった。
確か、マ……マ、マ…………マルゲリータ?
そんな感じの名前じゃなかっただろうか。
ちょっとピザが食べたくなった。
緊張によるストレスで、胃が痛くて食欲ないけど。
そんな話をしていると、使用人が呼びに来た。
そろそろ出発するので、集合するようにとのことだ。
前を歩く三人の兄弟に続き、ミカもクレイリアと並んで廊下を歩く。
そうして玄関ホールに着くと、侯爵がハニーブロンドの美人と待っていた。
「ほう、悪くないな。」
侯爵がミカを見て、そんなことを言う。
「アナタったら。 そんな風に言ってはいけないわ。」
隣に並ぶ美人が侯爵を窘め、ミカに微笑みかける。
「とてもよく似合ってるわ。 貴方がミカ君ね。 初めまして。」
そう、とても品の良い笑顔でミカに笑いかける。
しかし、残念ながらそんなことでミカの緊張が解ける訳がない。
「は、初めまして。 ミカ・ノイスハイムと言います。 ほ、本日は――――。」
「ルバルワルスが無理を言ったのよね。 ごめんなさいね、一度言い出したら聞かなくて。」
ミカに優しく笑いかけるこの人は、ソインラージュ・レーヴタインというらしい。
侯爵の奥さんだという。
ハイデンたち、クレイリアの兄の母親でもあるのでもう四十代のはずだが、えらい若く見える。
そして、ハイデン、イクセル、ウルバノ、クレイリア。
皆、ソインラージュ似の美男美女。
侯爵の遺伝子どこ行った?
仕事しろよ。
「私は、今日貴方に会えるのをとても楽しみにしていたのよ。」
ソインラージュは、ゆっくりとミカの前まで進み出ると、その手を取る。
「貴方への感謝は、一日たりとも忘れたことはありません。 私の大切な娘を、助けてくれてありがとう。」
「っ!?」
そう、頭を下げた。
これには、ミカの方がパニックになってしまう。
ただでさえ緊張でガチガチだったのに、もはやどうすればいいのか分からずアワアワする。
「そこまでにせんか。 今にもひきつけを起こして倒れそうだ。」
侯爵が声をかけると、ソインラージュは「あら。」と呟いてミカを見る。
引き攣った顔のミカを見て、少し困ったように苦笑する。
「嬉しさのあまり、つい……。 ごめんなさい。 困らせるつもりはなかったのよ。」
そう言って、ミカの手を放して元の位置に下がる。
「クレイリアは、今日はミカ君の傍にいるように。 さすがに一人で行動させては、困ることも出てくるだろう。」
「はい、お父様。」
「基本的に僕たちも付いてるつもりだから、まあ大丈夫でしょ。」
そう、ウルバノが軽く言う。
そのウルバノの言葉に、ハイデンやイクセルも頷く。
今日は、レーヴタイン家の兄弟が総出でミカのお守りをするつもりらしい。
ていうか、そんなことをしてまで、何で俺をこんなパーティに参加させるんだ!?
ミカのそんな心の叫びは、当然誰かに届くことはなく、すぐに馬車が玄関前に到着した。
馬車は二台。
一台目に侯爵、ソインラージュ、ハイデン、クレイリア。
二台目にイクセル、ウルバノ、ミカ。
もはや、ミカには溜息をつくことすら許されない。
地獄の宴の開宴である。…………心象的には。
「びっくりしたかもしれないけど、母さんが君に感謝しているのは本当なんだ。 まあ、大目に見て欲しい。」
馬車で王城に移動中、イクセルが声をかけてくる。
侯爵がいないだけマシではあるが、イクセル、ウルバノだってミカからすれば気を緩められる相手ではない。
「母さんはクレイリアを溺愛してるからね。 クレイリアが王都にいる間、自分も王都の別邸で暮らすって言い出すくらいだから。」
ウルバノの言葉に、イクセルが苦笑する。
(…………だから、なのか?)
何だか、やたらと侯爵家の皆がミカに好意的だ。
平民のミカにここまで好意を向けるのは、ちょっと普通じゃないと思う。
やや厳しめだが、それでも侯爵はミカにかなり好意的だ。
そうでなければ、王都に滞在するたびにわざわざミカと面談する機会を何度も作りはしないだろう。
こうして記念パーティに連れ出すなど、破格ともいえる待遇だ。
それが有難いかどうかは、また別の話ではあるが。
そして、クレイリア救出という功績のため、母親や兄弟からのミカに対する好感度もめちゃ高状態だ。
それだけ、クレイリアが家族から愛されていた、ということなのだろうけど。
そんなことを考えていると、王城の城壁に差し掛かる。
先程から、何台も並んだ馬車を追い越して、レーヴタイン家の馬車はスイスイ進んでいる。
もしかしたら、あの並んだ馬車はすべて貴族なのだろうか。
侯爵家の馬車はそんな馬車を横目に、ノンストップで城門に着く。
そこで数人の騎士たちが馬車の中を確認に来た。
だが、ドアを開けた騎士にイクセルが軽く手で挨拶する。
すると、その騎士たちが即座にぴしっと敬礼して、ドアを閉めた。
もしかして、お知り合いですか?
とてもとてもスムーズに、王城の前に到着。
ウルバノに促され、ミカは馬車を下りようとする。
ビクッ!
王城の入り口まで騎士が両側にずらりと並んでいた。
その光景に、何かがひゅんとなるくらいびびった。
出迎えと警備を兼ねた騎士が、ここだけで百人くらいいた。
多分、上級貴族用の、特別な時だけ使う出入口とかなのかもしれない。
離れた場所に、並んだ馬車から下りた人が入って行く、別の入り口も見えた。
上級貴族向けの特別待遇は、ミカには心臓に悪すぎる。
もうやだ、帰りたいよ……。
レーヴタイン侯爵家に用意された、専用の休憩室でまったく気の休まらない休憩を取り、パーティ会場へ。
何でも国王陛下在位二十年の記念式典などは、前日にすでに行われているらしい。
関連する行事がいくつもあり、昨日からそれらの行事は催されていて、今日のパーティは比較的気楽なもの。
気楽なものと言っても、王国中の貴族が揃う完全フォーマルなパーティですけどね。
それでも、立食形式だったりして、テーブルマナーがどうとかの堅苦しいものではない。
「ふぁ~……。」
思わず目を見開き、声が漏れる。
めっちゃ広いパーティ会場。
そして、凄まじく煌びやかだった。
すでに何十人もの貴族たちが、会場のあちこちで談笑をしている。
場違いどころじゃねーよ、ほんと。
「ミカ、こちらです。」
クレイリアに声をかけられ、我に返る。
ミカは慌てて前を行く侯爵と夫人について行く。
ハイデンら、クレイリアの兄弟は、ミカとクレイリアを守るフォーメーションを組んで、左右と後ろについていた。
そうして侯爵の後をついて行くと、見たことのある人を発見。
学院長のモーリスである。
モーリスは年配のご婦人と談笑していたが、ミカに気づくとぎょっとして両目を見開いた。
あの爺さんの両目が開くところなんて初めて見た。
貴族枠での参加なのだろうか?
魔法学院という国の機関のトップなので、もしかしたらそっちの枠での参加なのかもしれない。
そうして、会場のかなり前の方に到着。
というか、最前列ですね、これは。
一段高くなった場所に、おそらく国王陛下や王妃殿下らが座るであろう立派な椅子が置いてあり、その段差まで四~五メートルくらい。
おそらく近衛軍の騎士と思われる数人が、誰もいないその段を警護している。
続々と会場に入ってくる貴族たちを眺めながら、ミカの緊張は更に張り詰めていった。
侯爵と夫人は、どっかの貴族の夫妻と談笑している。
すでにパーティは始まり、ちょっと長めのスピーチをよく知らんおっさんが話していた。
国王陛下、王妃殿下、王太子殿下が段の上の椅子に座り、挨拶する貴族ににこやかに応じていた。
今は公爵家が国王陛下に挨拶をしている。
一通り公爵家の挨拶が終わったら、次は侯爵家である。
会場をぐるりと見渡すと、見たことのある顔をちらほらと見つけた
学院の貴族用の食堂や、廊下ですれ違ったなどで見かけたことのある学院生。
どうやら、国王陛下に家族まで挨拶するのは公爵家や侯爵家だけだが、パーティへの参加自体はいいらしい。
オズエンドルワやステッランもいた。
さすがに手を振ったりはしないが、向こうも気づいたようだ。
かなり驚いているのが分かった。
ミカは何とはなしに、段の上を見る。
中央に座るのが、ケルニールス・エクトラムゼ。
エックトレーム王国の百七代目の王で、今年六十歳。
(まさか、国王陛下をこの目で見る日が来るとはねえ……。)
特に感動などはないが、テレビも写真もない時代だ。
名前は聞いたことがあっても、姿を知る者がこの国でどれだけいるか。
普通の平民はまずお目にかかることはない。
精々騎士で出世したとか、官所で出世したとかの、ごく一部の者だけだ。
「ミカ。 あまりじろじろ見ないようにね。」
あからさまに見ていたミカを、クレイリアが窘める。
まったく見るな、ということではないだろうが、少々不躾だったようだ。
「まあ、気になっちゃうのは仕方ないけどね。 なーに、すぐに近くで見れるさ。」
「うっ……。」
ウルバノの明るい言葉が、ミカの胃に抉り込むように決まった。
(ここでお留守番じゃダメですか……。)
あの段に上がりたくない。
しかし、ミカの願い空しく、無情にもレーヴタイン家の順番がやってくる。
「在位二十年、おめでとうございます、陛下。 この二十年が平和であったことは、陛下のご威光によるものであることは疑いございません。 どうか、いつまでもその聡明なる――――。」
「はっはっはっ。 よいよい、ルバルワルス。 其方の祝辞は昨日の式典で散々聞いたぞ。 いいから早く、其方の家族と話をさせよ。」
「は、ははっ! ソインラージュ。」
侯爵の祝辞を遮り、陛下が家族と話をさせろと催促する。
少々無礼な振る舞いだが、侯爵も別に気を悪くしてる感じではない。
その程度には気安い関係が築かれている、と見てよさそうだ。
まあ、何をされようと不機嫌さを表に出せば「何か不満でもあるのか?」と恫喝されても逆らえない相手だ。
なにせ、法が適用されないのだから。
エックトレーム王国において、法が適用されない人が三人いる。
国王陛下、王妃殿下、王太子殿下。
つまり、段上で椅子に座っている三人は、今この場でパーティ会場にいる全員を殺して回っても罪に問われない。
そういう存在。
ケルニールス・エクトラムゼ国王陛下。
六十歳になるというが、溌溂とした印象を受ける。
ただ、脳筋国家の王にしては武人というよりは、智謀の人に見える。
歴史に倣えば、国土拡大派ではなく、知略派に属する王なのかもしれない。
実際、治世の間に一度も戦争を起こしていないし。
王妃殿下は五十歳前後くらい。
王太子殿下は四十代前半くらいに見える。
(……年齢的に、王妃と王太子に血の繋がりはない?)
他に何人王子がいるのか知らないが、どうか継承問題で内戦とかはやめて欲しいな、と思う。
王妃が自分の子を即位させようと暗躍するのは、割と定番のお話だからな。
そういうのは、お話の中だけにしていただきたい。
七公国連邦と同じ轍を踏んだら、笑ってやるぞ?
そんなことを思いながら見ていると、陛下を挟み王妃や王太子も話に入って、侯爵夫妻と笑顔で話している。
とりあえず、表面上は問題なさそうだ。
表面上はね。
そうしてハイデン、イクセル、ウルバノとお祝いを伝え、クレイリアの番になる。
「陛下、在位二十年、おめでとうございます。」
とても綺麗な所作で、カーテシーをする。
「おお、クレイリア。 大きくなったな。 前に会った時のことは、さすがに憶えておらぬか。」
「憶えておりますとも、陛下。 頭を撫でながら、この髪飾りを『瞳の色と合い、よく似合っている』と褒めていただきました。」
陛下はうんうんと、まるで孫に会った祖父のように相好を崩す。
珍しく目立つ髪飾りをしていると思ったら、そんな思い出の品だったのか。
そんなクレイリアを他人事のように眺めていたミカだったが、ハタと気づく。
(あ、次、俺だ。)
そう思った瞬間、きゅうーーっと心臓が締め付けられる感じがした。
この状況は、緊張しいには辛すぎる。
そうしてクレイリアが終わり、ミカの番になる。
侯爵がミカの横にやって来てた。
「お、お初にお目にかかります、陛下。 在位二十年、おめでとうございます。」
ミカは丁寧に頭を下げる。
だが、特に声がかからない。
ちらっと見ると、陛下が「お前、誰?」って顔をしていた。
(あ!? 名乗るの忘れた!)
テンパり過ぎて、祝辞は何とか伝えたが、自分の名前を言い忘れてしまった。
滝のような汗が噴き出す感じに、ミカは増々テンパってしまう。
ミカは緊張して気づかなかったが、本来は名乗る名乗らないの問題ではない。
レーヴタイン侯爵がミカを紹介し、それから祝辞を述べるのが正しい流れだろう。
さっさとこの心臓に悪い状況を終わらせたくて、逸ってしまったことが一番の問題だった。
陛下は、そんなミカの心情を察したように苦笑する。
それからレーヴタイン侯爵へと視線を向けた。
「あー……もしかして、ルバルワルス。 其方の隠し子か?」
「陛下、ご冗談を。」
侯爵も苦笑する。
「陛下もご存じの者です。 今年、魔法学院で中等部になりました。」
「ほう、魔法学院か……中等部。」
そう呟き、少し考えるような表情になるが、すぐにはっとする。
「もしや、例の神童か!」
「ご明察です、陛下。」
そう言って、侯爵が一礼をする。
「ほほぅ、聞いておるぞ。 確か名は…………ミカ・ノイスハイムと言ったか。」
何で知ってんのぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
ミカは仰天し、思わず目を見開いて固まってしまう。
「我が領の魔法学院に通っていた頃から、少々縁がありまして。 気にかけていた者です。」
「そうか。 其方の領地で学んだ者であったか。」
陛下は感心したように頷く。
「レーヴタイン領出身の子供は毎年優秀な者が多いが、この者は特に優れていると聞く。 これからも励むがよいぞ。」
そう声をかけられたミカだが、放心していてそれどころではなかった。
侯爵が咳払いをしても気づかず、軽くぺちぺちと叩かれてようやく気がついた。
だが、残念ながら記憶が飛んでいた。
陛下と侯爵の視線がミカに注がれるが、何がなんだか分からない。
「下がってよいぞ。」
そう陛下に声をかけられ、何とか頭を下げ、侯爵家の皆に付いて行く。
段を下りた所でクレイリアに声をかけられる。
「見ているこっちがハラハラしました、ミカ。」
そう言われるが、ミカはそれどころではなかった。
(ハラハラどころか、こっちは心臓が潰れるかと思ったわっ!?)
祝辞を伝えた以降の記憶がほとんどない。
国王陛下との初めての謁見は、散々な結果に終わったミカなのだった。




