第146話 ユンレッサの結婚と春の人事異動
土の2の月、2の週の風の日。
【神の奇跡】の習得の授業。
クラスの皆はそれぞれ【神の奇跡】の発現を目指し、一生懸命に訓練をしていた。
レーヴタイン組の皆はすでに指示の出ていた【吹雪】の習得が終わり、【戦意高揚】の発現を目指している。
ただし、これは特別に欲しい訳ではないようで、そこまで熱心に発現を目指している訳ではない。
他にやることもないし、と全賭けではなく、普通に発現の訓練をしている。
リムリーシェも指示の出ていた【吹雪】、【戦意高揚】をすでに習得しているので、最後に残った【豊穣】の練習をしていた。
そしてクレイリアだが、実は三つの【神の奇跡】すべてを習得した。
レーヴタイン侯爵家の者として、人の上に立つことを念頭に、【戦意高揚】を習得。
また、レーヴタイン領のために持っているべきだろうと考え、【豊穣】も全賭けで習得したのだ。
命の危険もあるらしい全賭けでも、領地のためにと【豊穣】を習得したクレイリアは、本当に立派だと思う。
ミカはそんな習得の授業中、いつもの考えるポーズで考え込む。
(……確か、表には『訴』って書くんだっけ? いや、『上』だったかな? 竹の先に訴状をくっつけて、二回の制止があるけど、それでも……って流れがあった気がしたな。)
一生懸命、「直訴」の作法を思い出していた。
(魔法学院辞めたい、なんて国王に直訴したら、侯爵の面目丸つぶれだよな。 ていうか、記念パーティでそんな真似したら普通に死罪か?)
平民の無礼な振る舞いは、普通に法で裁かれることになるのだろうか?
不敬罪とか。
どうせ記念パーティで顔を合わせることが避けられないなら、この機会を利用してやろうかと妄想し始めたのがきっかけで、そんなアホなことをミカは考えていた。
もし本当に実行したら、もう王国では生きてはいけないだろう。
少なくとも、国王が許してもレーヴタイン侯爵が敵に回るのは確実。
相当につらい人生になると予想できた。
ミカはちらりとクレイリアを見る。
すでに初等部二年で習得すべき【神の奇跡】の習得が終わったクレイリアは、魔力操作の練習をしていた。
【神の奇跡】は習得したが、魔力の操作は本当に大事だ。
もっとも顕著なのが【身体強化】。
細かな操作が利かず、ばかすか魔力を消費すればあっという間に魔力枯渇。
他の【神の奇跡】も、案外細かな操作をして、魔力量を管理しないといけないらしい。
(俺は常に全賭けだけど……。)
その時、突然教室に眩い光が奔った。
あまりの光量に、原因はすぐに見当がついた。
ミカが光の発生源を見ると、リムリーシェが驚いた顔でミカを見ていた。
そして、予想通りリムリーシェの”判定の腕輪”が眩い光を発していた。
「……リムリーシェ。 全賭け?」
ミカが聞くと、リムリーシェがぶんぶんと思いっきり首を振った。
どうやら、普通に【豊穣】を習得できてしまったらしい。
これはちょっと予想外の結果だ。
本当に、相性というのはあるらしい。
(いや、確かリムリーシェが二つの【神の奇跡】を習得したのは夏の始め頃。 それからやってたと考えれば、もう七~八カ月くらいは習得の練習をしていたことになるか。)
あまり熱心に練習をしていた訳ではないが、それでも八カ月もやっていたなら習得できても不思議はない。
(これが六個目の習得だよな。 習得難度のことを考えれば、やっぱり相性がいいってことになるのかな?)
リムリーシェは光ったままの”判定の腕輪”をどうしようかと、おろおろしている。
いつもは魔力枯渇で倒れてしまうので「後のことなど知らん。」で済むが、今回は倒れていない。
本当に、普通に習得してしまったようだ。
おろおろするリムリーシェを見て、ミカは苦笑する。
「もっと喜びなよ。 おめでとう、リムリーシェ。」
「うう……。 ミカ君。」
捨てられた子犬のような目で見てくるリムリーシェに、ミカはゼスチャーでローブの中に入れるように伝える。
リムリーシェが”判定の腕輪”をローブで隠すことで、何とか教室が落ち着いた。
(習得してここまで困るのも、リムリーシェくらいだろうな。)
すでに初等部の二年も終わりに近づき、自力で一つ目の【神の奇跡】を習得できた子供がそこそこいる。
そして、自力で習得できた子の喜びようといったらすごいものだ。
大声を上げるくらいはまだ普通で、教室中を駆けまわったり、はしゃぎ回る子が大半だ。
それはそうだろう。
これで「自分は周りよりも一段上に立った」という証なのだから。
前にニネティアナが「魔法士は気位が高く、他の人を見下す。」みたいなことを言っていたが、そうした意識がこの環境で醸成されるのだと理解できた。
同じ魔法士見習いたちの中でも、一つ先に進んだ子が周りを見下すのだ。
【神の奇跡】を使えない者に対しての態度がどうなるかなど、お察しという訳だ。
(……競争を煽って習得に真剣に取り組ませたいんだろうけど、道徳教育が必要じゃないですかね。)
強大な力を持つ、驕った者など危険なだけだろうに。
魔法学院には、残念ながら道徳の時間などというものは無かった。
あるのは王国史や王家への忠誠の授業くらいだ。
「おめでとう、リムリーシェ。 素晴らしいですわ。」
「あ、ありがとう、クレイリア。」
ミカを挟み、そんなやり取りが交わされる。
ツェシーリアやチャールも、リムリーシェに笑顔で「すごい。」「良かったね。」と伝えている。
ようやくリムリーシェの表情も、驚きから照れくさいものに変わっていった。
「これで、今年三つの【神の奇跡】を習得したのは三人になりましたね。」
クレイリアが、にこにことミカに話しかける。
「普通はどうなんだ? やっぱり、二つまでかな?」
「そうですね。 中等部では三つの【神の奇跡】を習得した人が一組に入ります。 それ以上を習得してる人は、ほとんどいないようですよ。」
幼年部で【身体強化】。
初等部の一年で【爆炎】か【癒し】。
初等部の二年で【吹雪】か【戦意高揚】。
普通は、順調に習得してもそれぞれで一つずつ。
一年間で二つも習得できた者は、相当な才能に恵まれたか、かなり相性が良い【神の奇跡】だったのだろうと考えられる。
ところが、今年は初等部二年ではレーヴタイン組で四つ。
【身体強化】、【爆炎】、【癒し】、【吹雪】。
ミカとクレイリア、リムリーシェが六つ。
【身体強化】、【爆炎】、【癒し】、【吹雪】、【戦意高揚】、【豊穣】。
多分だが、ここまで豊作の年は前代未聞なのではないだろうか。
まあ、昔はもっと魔法士が多かったらしいので、飛び抜けて才能に恵まれた人がいたかもしれないが。
そして、これは誰にも話していないが、ミカはもう一つ【神の奇跡】を習得している。
おそらく【祓い】と思われる【神の奇跡】だ。
”悪霊の群体”との戦闘で大変役に立った【神の奇跡】だが、ミカの年齢で七つの【神の奇跡】を使える者など、早々いないだろう。
というか、下手したら普通は七つも習得できないかもしれない。
初等部の二年で、三つの【神の奇跡】を習得していれば優秀なグループに入る。
残りは中等部の二年間と、高等部の二年間。合計四年だ。
毎年一個の【神の奇跡】を習得したとしても七つ。
それを達成できた者は相当に優秀とされ、それ以上の【神の奇跡】を習得できる者など、おそらくほんの一握り。
いや、一撮みもいるかどうかだろう。
(……今更だけど、本当に戦場に行きたくなかったら、【神の奇跡】をまったく習得できなかったとか、そういう振りをした方が良かったか?)
本当に今更の話ではあるが。
ただ、最初は習得できないとどこかに連れて行かれそうな感じの噂を聞いていたので、それを選べなかったというのはある。
しかし、調子に乗って何でもかんでも習得するのは、自分の首を絞めることになるのではないだろうか。
(まあ、今からじゃどうにもならないけどな。)
ミカは教室を見回す。
このままいけば、来年はこのクラスの半分が二組に落ちる。
そして、数名が二組から上がってくるらしい。
ミカはレーヴタイン組以外にほとんど友達がいないが、レーヴタイン組の皆は寮でいろんな子供たちと話をしている。
そこで仕入れた話が、昼食の時に話題になったりするのだ。
おかげで、寮の噂なんかもちょこちょこ耳にする。
そして、寮の噂と言えば。
(夜中によく分からん物を見たとか言う噂が、最近は収まったらしいね。)
結局何だったのかミカには分からなかったのだが、どうやらそれは鬼火のような物だったらしい。
火の玉なのか光の球なのかは知らないが、そんな妙な物を「夜中に見た」というのが、あの噂だったようだ。
そして、その目撃情報がここしばらくは聞かなくなったとのこと。
(…………似たようなのなら、ウチに居ますけどね。)
まさか、フィーじゃないよな?
そんなことを考えながら、ミカは授業の終わりを待つのだった。
■■■■■■
翌、土の2の月、2の週の土の日。
ミカは冒険者ギルドに来ていた。
「それでは、明日はこちらで解呪を行いますので。 準備をよろしくお願いします。 預かり品は五個あるんですよね?」
「ええ。 準備しておくわ。 いつも通り朝からでいい?」
ユンレッサの確認に、ミカは頷く。
現在ミカは新規での依頼の受付を停止し、溜まっている分を片付けている。
ただ、例外は呪物の預かりで、こちらはある程度の数が第二支部に集まった時点で片付けていた。
だって、五件も片づけたら一日で五百万ラーツにもなるんだもん。
美味しくって、やめられないよ!
向かいに座ったユンレッサが、書類に何か書き込んでいる。
もう二年以上前になるが、ロズリンデがユンレッサのことを「ミカの担当」みたいに言っていたが、現状は正にそんな感じになっていた。
ロズリンデがこっそり教えてくれたのだが、ミカは土の日と陽の日に来ることがほとんどなので、ユンレッサもなるべく出勤するようにしているのだとか。
随分と気をつかわせてしまっていたらしい。
「あ、そういえばご結婚されたんですよね。 おめでとうございます。」
ミカはお祝いを伝え、ぺこりと頭を下げる。
そして、これもロズリンデ情報なのだが、ユンレッサは最近結婚したのだとか。
お相手は王都に住む一般の方。
こう言うと芸能人の結婚報道のような感じだが、冒険者や冒険者ギルドとは関係のないお仕事をされている方のようだ。
「もう、ロズリンデね! 内緒にしてって言ったのに。」
書類に書き込んでいた手を止め、ユンレッサが顔を上げる。
「何でですか。 めでたいことなんですから、大々的に発表して、ギルドのロビーで披露宴を――――。」
「そんなことやらないわよっ!」
ユンレッサが顔を真っ赤にして怒った。
ただし、今顔が赤いのは怒ってではなく、照れて赤くなっているのだろう。
ミカは魔法具の袋からお祝いの品を取り出した。
ロズリンデから話を聞き、急遽用意したのだ。
くるくるくる……と巻いてある布を手渡す。
「お祝いにこちらを贈らせてください。 ユンレッサさんには随分お世話になったので、せめてもの気持ちです。」
「……ミカ君。 そんな、お世話になってるのはこっちよ。 でも……、ありがとう。」
そうしてユンレッサは受け取った布を広げていく。
そこに入っていたのはカトラリーのセット、二人分。
布にはポケットが付いていて、そこにスプーンやナイフ、フォークが一本ずつ仕舞えるようになっている。
「ミ、ミカ君!? これ、クレシタン製のカトラリーじゃない!?」
中身を見たユンレッサが、驚いて大きな声を上げる。
「そうですよ。 僕も家で使ってるんですけど、すごく使いやすいんです。」
全然傷もつかないし、変に曇ったりもしない。
いつまでも新品同然の状態を維持している。
昔は銀製のカトラリーを「毒に反応する」という理由で使っていたようだが、別に毒だから色が変わっていた訳じゃない。
銀が反応していたのはヒ素などで、硫黄成分などに反応して変色していた。
よく使われる毒が、そうした成分を含む物だったのだろう。
そして、毒に反応するという意味では、このクレシタンという金属は銀よりも優秀である。
どうやら別系統の毒にも反応して色が変わるらしい。
そのうち調味料とかが発達していったら、普通の料理にも反応しちゃいそうだけど。
ミカは使っていないストックから、二セットをユンレッサに贈ることにした。
なので、新たに用意したのは、仕舞うための布だけ。
かかった費用からで考えると何十万ラーツにもなるが、それには金型などの費用も入っている。
金型はミカが持っているので、足りなくなればまた作ればいいだけだ。
「こんな良い物をいただいて……。 ありがとう、ミカ君。」
ユンレッサが軽く目元を拭う。
(そこまで感動するような物ではないんだけどなあ。)
ミカの家では普段使いしている物である。
むしろ、何を買って贈ろうか悩んで、結局手持ちのストックで済ませてしまって申し訳ないくらいだったのだが。
「でも……、これは何に使うのかしら? 珍しいけど……。」
そう言って、ユンレッサがフォークを指さす。
「それはフォークと言って、棒の代わりに使います。 しっかりと固定されるから、食べながらナイフで切ったりするのにも便利ですよ。」
「食べながら切るの?」
ユンレッサが不思議そうな顔をする。
ミカは「こんな感じで使います」というのを、身振り手振りで簡単に伝えた。
「まあ、試しに使ってみてください。 掬うことも刺すこともできるので、慣れると便利ですよ。」
「分かったわ。 ありがとう。 試してみるわね。」
そう言って、ユンレッサがカトラリーを仕舞う。
「そうだ。 ミカ君はまた来月から帰省する予定?」
「あー……、そうですね。 一応そのつもりですが、ちょっとまだ未定です。」
実は、今年の帰省については少し悩んでいる。
キスティルとネリスフィーネがいる現状では、今までのように気軽には帰りにくい。
キスティルは父親が。
ネリスフィーネは教会が。
それぞれ何が起こるか分からないので、一カ月も王都を離れるのはちょっと躊躇われるのだ。
しかし、きっとミカの帰省を心待ちにしているであろうアマーリアとロレッタのことを考えると、帰らないという選択も採りにくい。
ミカも実家の様子が気になるので、短期間の帰省で済ませようかと考えているところだった。
「そうすると、タイミングが合わないと直接は会えない可能性があるわね……。」
ユンレッサが少し考え込むような顔になる。
「何がですか?」
ミカが尋ねるが、ユンレッサは難しい顔のままだ。
ミカは首を傾げる。
「……これは、まだ誰にも言わないで欲しいんだけど。」
と、ちょっと声を潜めるユンレッサ。
「チレンスタさんの本部勤務が決まったの。 今も週の半分は本部に行ってる感じで。」
「ああ、前に言ってましたね。 確か、年の途中からでも異動するかもって言ってませんでしたっけ?」
一年くらい前にも、そんな話をした記憶がある。
「ええ。 実際上層部はそうするつもりだったんだけど、チレンスタさんが『途中で投げ出せるか!』って何度打診されても断り続けてたのよ。」
「……それはそれですごいですね。」
打診する方も打診する方だが、断り続ける方も断り続ける方だ。
普通はどっかで折り合いをつけるだろう。…………どっちも。
「でも、上層部も『一年待ったんだから』って、春からの本部勤務が決定したの。」
「へぇ~……。 もしかして、これでチレンスタさんも幹部ですか? 上層部の仲間入り?」
ミカがそう聞くと、ユンレッサが少し考える表情になる。
「んー……、その一歩手前って感じかな? 上層部に入るには、本当なら大きい支部で支部長を務める必要があるの。 王都とかサーベンジールとか。 でも、チレンスタさんはここでは副支部長でしょ?」
「そういえばそうでしたね。」
支部長ってのが、第二支部にもいるらしいことは聞いたことがある。
会う機会がなかったので影が薄いが、もしかしたら猫か置物でも務められるんとちゃうか?などと失礼なことを考える。
第二支部では、チレンスタが頑張っていた印象しかない。
「だから、いきなりは上層部には入れないみたい。 でも、大きな権限は与えて、ギルドの改革を任されるみたいよ。」
「うわぁ~……。」
それ、一番きつい状態じゃないか。
(権限は与えたんだから『やれ』と上層部は言うが、権限だけで役職が伴わないので現場には舐められる。 上層部は上層部で、改革しろと言いながら自分の権益が侵されそうになると役職を振りかざして抵抗する…………なんて未来しか思い浮かばないんだけど。)
これ、下手したら電車止めちゃうやつだ。
通勤中よく止まったなあ、などと懐かしい思い出が蘇る。
ミカは魔法具の袋から、紙とインクを取り出した。
「もしかしたら会えないかもしれないので、僕からチレンスタさんにアドバイスです。 渡してもらえますか?」
そう言って、その場でさらさら……とアドバイスを書く。
そして、ミカの書いた内容を見て、ユンレッサがぎょっとする。
「ちょ、ちょっと、ミカ君! こんなの本当にチレンスタさんに渡すの!?」
ミカがメモを折り畳むのを見ながら、ユンレッサが聞いてくる。
「チレンスタさんの命がかかってると思ってください。 僕は真面目にチレンスタさんのことを考えて、このアドバイスを贈るんです。」
ミカはメモをユンレッサに渡した。
ミカが書いたアドバイスは二つだ。
『いつでもクビにしろと宣言する。 その覚悟で挑むこと。』
『覚悟の証として、辞表をトップに渡しておくこと。』
この二つである。
ミカがあまりに真剣な顔で言うので、ユンレッサもそれ以上が言えない。
「多分、チレンスタさんが本気でギルドの改革を断行しようとしたら、障害になるのは現場じゃない。 上層部です。」
上役がチレンスタを邪魔だと思うようになったら、立場の弱さを突いてチレンスタを攻撃してくるはずだ。
チレンスタが地位に固執すればするほど、その攻撃は有効になる。
そして、自己保身と責任感の板挟みにより、精神的に追い詰められてしまうのだ。
なので、先にそれを封じる。
ハッタリではなく、本気でクビを覚悟しなければならないが、その覚悟こそがチレンスタを守ることになるはずだ。
「俺を止めたければクビにしろ。」
そう宣言することで、下手な攻撃はすべて跳ね返せる。
チレンスタが自分で自分の立場を守るのではなく、トップに守らせる。
ただし、トップに切られたらそれまでになるが、それならそれで諦めもつくだろう。
そして、相手こそ守りたい権益があるから攻撃をしてくるのだ。
相手からしたら、チレンスタと刺し違えたら、それは負けと同じ。
どこかで必ず自己保身のための選択に迫られる。
権益を守るか、地位を守るか。
といったことを、さらっとユンレッサに説明する。
ユンレッサは、ぽかーんとした顔になっていた。
「まあ、そこまでひどい状態でなければいいなって思いますけど、どんな状態か分かりませんからね。 相当に覚悟して臨んでください、って伝えてもらえますか。」
ユンレッサは、ごくりと喉を鳴らし、頷く。
そこで、ミカはにこっと笑う。
「あ。 あと、ご栄転おめでとうございますって、チレンスタさんにお伝えください。」
散々脅しておきながら、そうにこやかに言うミカに、ユンレッサは微妙な表情になるのであった。




