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【書籍版第2巻発売中!】 神様なんか信じてないけど、【神の奇跡】はぶん回す ~自分勝手に魔法を増やして、異世界で無双する(予定)~ 【第五回アース・スターノベル大賞入選】  作者: リウト銃士
第3章 魔法学院初等部の”解呪師”

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第117話 ノイスハイム家の事情3




 ミカはすっきりとした顔で、姿勢を正した。

 そして、真っ直ぐに村長の顔を見てから、しっかりと頭を下げる。


「僕の家族を助けてくれて、ありがとうございました。」


 これまでミカは、村長に対して多少のわだかまりがあった。

 最初は”学院逃れ”の、話し合いの時の村長の態度からだが、その後も正直「気に食わねえ奴」と思っていた。

 表面上は村長として、国に選ばれたミカを持ち上げる様なことを言いはするが、内心が透けて見えていた。

 だが、こうして話を聞いてみると、村長の態度も「そりゃしょうがない」と思ってしまう。

 村長がミカに複雑な感情を抱くことに、納得してしまったのだ。


 ミカが顔を上げてにかっと笑うと、村長は驚いた顔をする。

 それから、少々複雑な思いの滲む苦笑になった。


「これからは、君がしっかりとお母さんとお姉さんを支えてあげなさい。 ……と言っても、流石に学院生の身では中々難しいかもしれないがな。」


 単純に、距離が離れすぎている。

 直接ミカが家族を支えるのは、普通に考えれば難しい。


「そうですね。 ですが、できるだけのことはするつもりです。」

「ああ、そうしてあげなさい。」


 村長も、いくぶんかすっきりとした笑顔になる。

 しかし、長い年月をかけて固まってしまったわだかまりは、そう簡単にはなくならないだろう。

 それは仕方のないことだ、とミカにも理解できる。


「そういえば、その後のウオディはどうなったか分かりますか? また勝手に借金を作られたら堪らないんですが……。」


 ミカが今後を考える上で、もっとも懸念していることはそれだ。

 だが、村長は首を振る。


「そこは心配しなくていい。 借金取りが来た時には、もう亡くなっていたからね。」

「そうなんですか?」


 死因は分からないが、どうやらとっくに亡くなっていたらしい。

 借金取りが取り立てに来たのも、ウオディが死んだことで、堂々と家族に請求できるということもあったようだ。

 そう考えると、十分な負債を負わせたので「そろそろ行くか」と()()()()可能性が高そうだ。

 願わくば、アマーリアたちが受けた絶望の、ほんの一欠片でも味わって死んでくれていれば、と思う。


 最大の懸念が消えたことで、ミカは残った問題を片付けることにした。


「それでは、残りを清算してしまいましょうか。」

「ん?」


 ミカの言っていることの意味が分からないのか、村長はぽかんとした顔になる。

 ミカは魔法具の袋から、一番のタグのついた袋を取り出す。

 そこから、さっき銀行で下ろしてきたばかりの、大金貨が五枚入った袋を取り出すと一枚ずつ並べる。


「なっ……!? だ、大金貨!?」

「大金貨四枚。 四百万ラーツになります。 どうぞ、お納めください。」


 絶句する村長をよそに、ミカは丁寧に頭を下げた。

 だが、村長は驚き過ぎて固まってしまっている。


(まあ普通は子供が持つような金額じゃないからね。 無理もないけど。)


 十歳そこそこの子供が出していい金額ではないだろう。

 だが、まずは余計な負債を片付けてすっきりしないと、ノイスハイム家の将来を考えることもできない。


 しかし、いつまで経っても村長の動く気配がない。

 ミカは少し顔を上げて、ちらりと村長を窺う。

 相変わらず、村長は固まっていた。


(いくら何でも驚き過ぎだっちゅーねん。)


 ミカとしても、いつまでもこんな大金を出したままにしてほしくない。

 早く仕舞って欲しいのだが。


「あの……。」


 そう声をかけると、村長がはっと息を飲む音が聞こえた。


「き、君はっ……!? どうしてこんな大金を!?」

「自分で稼ぎました。 兼業で冒険者をやっていますので。」

「か、稼いだ……!?」


 村長は驚き過ぎて、何やら呼吸まで早く忙しなくなっている。

 過呼吸でも起こすんじゃねーのか、これ?


「落ち着いてください。 自分でも上手くいき過ぎてて、ちょっと怖いくらいですが。 寮生活でお金がかからないので、少しずつ貯めていたんです。」

「そ、そうなのか……?」

「もう、三年くらい冒険者をやっているんですよ。」


 ミカがにっこり笑って説明すると、村長も訝し気ながら納得してくれた。

 三年間こつこつ貯めたんですよ、と思ってくれただろう。

 実際は、一年で一千万ラーツくらい稼いだけどな!


「驚いたが、……分かった。 今おつりを用意しよう。」


 そう言って村長が立ち上がる。


「おつりは結構です。」


 だが、ミカはそれを笑顔で拒否する。

 村長は一瞬びっくりした顔をするが、すぐに表情が険しくなる。


「何を馬鹿なことを。 すぐに用意するから――――。」

「おつりは利子とでも思ってください。 それがだめなら、ご迷惑をおかけしたお詫びか、謝礼でも構いません。」


 ミカは銅貨一枚たりとも受け取るつもりがないことを伝える。

 ミカの真剣な目に、村長も本気で言っているのだと気づく。

 そうして、しばらくミカと村長は、まるで睨み合うように視線を交差させる。


 が、先に根負けしたのは村長だった。


「まったく……なんて子だ。 信じられんよ。」


 村長が首を振る。


「火事のあったあの日から、とんでもない子だと思ってはいたが……。」


 しみじみと、溜息まじりに零す。


「助けていただいた分、感謝の気持ちを上乗せするのは普通のことでは?」

「その考えが、もう普通の子供ではないんだよ……。」


 ひどい言われようである。

 村長が苦笑すると、ミカも何となくつられて苦笑する。


「その気持ちとして…………受け取っておこう。」


 村長は席につくと、返済の記録を書いた紙に、完済したことを記す。

 そうして、ウオディの借用書と一緒にミカの前に差し出した。


「これで君の家の借金は無くなった。 早くアマーリアさんに伝えてあげるといい。」


 村長の目が、これまで見た中で一番優しいものになる。


「君のお母さんは、本当に頑張っていたんだ。 早く帰って、安心させてあげなさい。」


 ミカは借用書などを受け取ると、魔法具の袋に仕舞う。

 そうして、ぺこりと頭を下げる。


「お世話になりました。 これからもよろしくお願いします。 今後は、何かあれば僕にも連絡をいただけると助かります。」

「分かった。 そうしよう。」


 村長がしっかり頷く。

 ミカは村長の家の出ると、家の前でもう一度しっかりと頭を下げる。

 それから、家路を急ぐのだった。







 ミカは家に戻る前に、返済の記録にざっと目を通した。

 返済の期間は六年近い。

 最初は、本当に苦しい生活の中で、何とかやりくりしていたのだろう。

 毎月二千ラーツや三千ラーツを返済していた。

 そんな中、ある月の返済額が五百ラーツなんて記録まであった。

 子供二人を育てながら、その五百ラーツを絞り出すのにどれほどの苦労をしたか。

 それを思うと、ミカは溢れる涙を堪えることができなかった。


 村長は、無理に毎月返さなくてもいいと言っていたらしい。

 それでもアマーリアは、例え少額でも毎月返済に行っていたのだという。


 返済開始から二年くらいで、返済額が少し増える。

 毎月一万ラーツ前後に返済が増えた。

 おそらく、ロレッタが働き出したのではないだろうか。

 ただ、見習いのため、ほんの足しくらいにしか収入は増えなかったのだろう。

 ミカやロレッタの成長による、生活費の増加もある。

 それでも、僅かずつだが返済額は増えていった。


 そして、ここ一年くらいは、大きく返済が進んでいる。

 というか、返済総額の半分以上が最近の返済だ。


「ロレッタが一人前になったからかな?」


 一人前の仕事をするようになり、給料が増えたのだろう。

 その給料の多くを、返済に回しているようだ。


 ミカは大きく息を吐き出し、返済記録を袋に戻す。

 こんな苦労をしながら、アマーリアがミカを育ててくれていたことに気づかなかったとは……。


「お金に苦労していることは、薄々気づいていたのにな。」


 アマーリアとロレッタに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。







 ミカが家に帰って借金を完済したことをアマーリアに伝えても、すぐには信じてもらえなかった。

 村長から受け取ったウオディの借用書や、アマーリアの返済の記録を見せ、本当のことだと分かるとアマーリアがぶっ倒れた。

 どうやら、驚き過ぎて眩暈を起こしたらしい。

 ベッドで休んでもらうことにした。

 ついでに、【癒し】もかけてあげた。


 それから程無くして、帰ってきたロレッタにも同じように伝えると、ロレッタはへなへな……と腰を抜かしてしまった。

 二人とも、そんなに驚かなくても……。


 これでノイスハイム家の問題も片付き、めでたしめでたしとミカは思っていた。

 ところが、ここで一つの問題が持ち上がった。


「私、結婚なんてしないわよ?」

「何で!?」


 ミカが、結婚の際の支度金も用意できることをロレッタに伝えた時の返答がこれだ。


「何でって、結婚したいような相手もいないし、結婚したいとも思わないもの。」


 ロレッタには、どうやら結婚願望がないようだ。

 たぶん結婚は無理そうだと子供の頃に気づき、すっぱりと断ち切ってしまったのだろう。

 その価値観で固まってしまったらしい。


「ようやく機織りで一人前として認められるようになったし。 それに……。」

「それに?」

「私には、ミカがいるからねー。」


 がばっとミカに抱きつき頬擦りするロレッタに、ちょっと複雑な気持ちにならなくもない。

 もしかして、重度のブラコンを発症してないか……?

 姉の行く末に、少しばかり不安を覚える。


「ミカが結婚する相手は、お姉ちゃんがしーっかり見てあげるからね。 ちゃんと紹介するのよ。 どこの馬の骨とも知れないような小娘に、うちの大事なミカは――――。」

「何言ってんの!?」


 姉弟で同じようなこと考えていた。


(……ま、まあ、状況が急に変わっても、考えは早々変わらないか。)


 それでも、借金が無くなり、心に余裕を持てるようになれば、心境にも変化が出てくると思う。

 変に急かしても仕方のないことなので、そのまま様子を見ることにした。







■■■■■■







 翌日の朝、ミカはコトンテッセの冒険者ギルドに来ていた。

 酒場に併設されたギルドには、冒険者らしき男が数名。

 ただし、仕事で訪れたというよりは、単に酒を飲みに来ているだけのように見えた。


 サーベンジール、王都の冒険者ギルドと、大きなギルドしか使ったことのないミカは、コトンテッセのギルドに失望してしまった。

 酒場の一画に小さなカウンターが一つあり、そのカウンターの横に依頼を張り出す掲示板があった。

 だが、ロクな依頼がない。


(前にニネティアナがコトンテッセ(ここ)の冒険者を、少し低く見てる感じで話してたけど……。)


 申し訳ないが、納得してしまった。

 こんな街で冒険者をやるくらいなら、さっさと大きな街に行った方がいいだろうに。

 そうしない理由は、やはり競争相手が少ないことか。


(少ないパイを分け合って、それで良しとしている冒険者(れんちゅう)。 大きい街でしのぎを削る冒険者からすれば、ぬるま湯に浸かってるように見えるだろうな。)


 ミカは早々にコトンテッセに見切りをつけて、隣のオールコサ領の領都、ヤウナスンに行くことにした。







 ノイスハイム家の借金を返済したことで、ミカの貯金は大きく減ってしまった。

 もっとも、最悪の事態として全財産入れてもまだ足りないということも覚悟していたので、それはいい。

 だが、休暇中でやることもないのなら、依頼でも受けて少し稼いでおくかー、と考えたのだ。

 リッシュ村にはギルドはないので、近場のコトンテッセのギルドに来てみた。

 だが、想像以上にしょぼい状況に、愕然としてしまった。


 考えてみれば当たり前ではあるが、そもそもこれまでミカの利用していたギルドとは、街の規模が違い過ぎる。

 単純な人口比較でも、おそらくサーベンジールとコトンテッセでは二桁違う。下手すれば三桁だ。


 例え迷惑な魔獣が出ても、倒して欲しいと思う人がどれだけいるか。

 そして、その中で「お金を払ってでも倒して欲しい」と思う人がいるかどうかが問題なのだ。

 極端な話、街のど真ん中に魔獣が現れて、その魔獣を退治して欲しいと思う人が何人いるか。

 そのために実際に費用を負担してもいいと思う人がどれだけいるか。

 それが、依頼の質や量に大きく影響する。


 討伐対象の魔獣のランクで報酬のある程度の相場はあるが、早く解決して欲しい場合にはそこに上乗せしてくる。

 数ある依頼の中で、自分の依頼に注目してもらう大きなポイントは報酬だからだ。

 しかし、コトンテッセでは冒険者に競争がなければ、依頼者(クライアント)にも競争がない。

 どちらにもそうした競争が働かないのだから、出てくる依頼も、留まる冒険者も弛んでるのも頷ける。







 ミカは昨夜、アマーリアとロレッタに、自分が冒険者をしていることをはっきりと伝えた。

 危険のある依頼を受けていることも伝えた。

 そうやって、学院に通いながら稼いでいるという、ありのままのミカの生活を伝えたのだ。


 ミカの話を聞いた二人は、とても複雑な表情をしていた。

 勿論、心情的には止めたいのだろう。

 だが、同時に理解もしていたのだ。

 これが、ミカの本当にやりたいことなのだと。


 ロレッタがはぁー……と溜息をつく。


「本当にもう、しょうがないんだから……。」


 そう、諦めたように力なく笑う。


「昔っからミカはやんちゃなところがあったけどさ。 冒険者って魔獣と戦ったりすることもあるんでしょ?」

「まあ、そういうこともあるかな。」


 最近はほとんど”幽霊(おばけ)”ばっかりですけどね。

 などと余計なことは言わない。


「お母さんは、ミカが無茶をしないか心配だわ。」

「気をつけるよ。」


 何カ月か前にも、危うく死にかけましたけどね。

 などと余計なことは言わない。


「まあ、そんなに心配しないで。 僕これでも結構強いんだから。」

「そうなの? そうは見えないけどねー。」


 ロレッタが揶揄(からか)う様に言う。


「アグ・ベアだって倒したよ。 一体かと思ったら二体いて、あの時はちょっとびっくりしちゃった。」


 ミカは「あはは。」と笑いながら言うが、それを聞いた二人の表情が凍りついた。


「アグ……、ベア?」

「え、うん。」

「あの、何年か前に村を襲った……?」

「うん、そう。」


 ミカは「すごいでしょー、だから心配しないでね」くらいのつもりで言ったのだが、失言だった。

 二人からめっちゃ怒られました。

 あんな危険な魔獣と戦うなんて、と。


 どうやら二人にとって、もっとも恐ろしい魔獣はアグ・ベアなのだ。

 それ以外の魔獣など見たことないから。

 その唯一見たことのある魔獣は、二人にとっては恐怖そのものなのだろう。

 集会場を襲撃された時の恐怖がそのまま、鮮明に記憶に植え付けられているのだ。


 とりあえずお説教が一段落し、ミカは休暇中も冒険者としての活動をすることを二人に伝えた。

 二人は「これだけ言ってもまだ分からないのか」と呆れた顔をしていた。

 そんな顔をされても、やるものはやるんです。


「いろいろイレギュラーなこともあるから、もしかしたら一日二日帰れないこともあるかもしれないけど、心配しないでね。」

「しない訳ないでしょう!?」

「心配するに決まってるじゃない!」


 まあ、それは確かにそうかもしれないが。


「毎日帰ってくるつもりだけど、どうしても手が離せないって状況になることもあるんだよ。 そこを分かってもらえないと、帰省をやめて、どっかの宿屋に泊まることにするよ?」


 そうミカが言うと、二人は渋々ながら外泊を認めた。

 ミカも念のためとして言っているだけで、本当に帰って来れないなどと思っていない。

 だが、そういうこともありえるのだと分かっていてもらわないと、余計な心配をかけてしまう。


 こうして、心配するアマーリアとロレッタを説き伏せ、ミカは休暇中も冒険者として活動することにした。

 数週間のあり余る時間を使った、ミカの冒険者活動が始まった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] ギルドに活動記録が残ると、移動時間がおかしいことも、やがてばれちゃうね(^-^;
[良い点] もーーーーーーーよかった。。 学院パートもいいけどずっとずっとノイスハイム家の事情が心配でした。アマーリアロレッタ幸せにね。
[良い点] お母さん頑張ったな。ロレッタあんなクソ親父をみてたら結婚する気持ちも無くなるわ
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