オレンジ
東京の地下深奥。年月を遡ること、十一年前。
「この迷宮都市に巣食い始めてから、だいぶ時が経った。どうやら頃合いらしい。戦略部が動き出している」
「しかし戦略部副顧問が、なぜそんなことを危惧するのです?」
テーブルを囲んで、紅茶を提供しながら、白銀の騎士は尋ねた。紅茶を受け取って、副顧問はうなった。
「事態は深刻でね。わたしはどうやらお払い箱らしいということだ」
「あなたが無視されている?」
「そうだ。若者たちが徒党を組んで、何かを引き起こそうとしている。行き詰まったこの地下世界からの脱出。それが彼らの目的だ」
「無茶だ。だって……」
「その通り。わかるよ、騎士君。しかし君のように物の道理のわかる連中ばかりではない。この異次元につながった不可解な世界が、地上の正常な世界と邂逅したとき、この地球は混沌の渦に叩き落される。それだけは避けなければならない。どうだ。ひとつ、手を貸してくれないか」
「もちろんです」逡巡の間もなかった。と、同時に騎士の住むアパートの一室が吹き飛んだ。
激しい灼熱と轟音が混乱をきたした。
「こっちだ。転移する!」
副顧問の手を繋ぐと、次の瞬間には涼しい別の場所にいた。草原だった。柑橘類の樹がまばらに立っていた。しかしそれでもここは地下だ。風はどこまでも人工的で、月明かりはどこまでも一定だった。
「どうやら我々は試されていたようだ。ここまで手が及んでいようとはね」
「これから僕たちはどうしたら?」「組織を。……組織を作る」
「組織?」
「そう。東京軍として東京軍そのものに対抗する組織。騎士によって構成され、この地下迷宮を守護する組織。名を、ガーディアンズ」
「ガーディアンズ……」
人工的な風がそよいだ。
「ここからだ。すべてはここからだよ」
副顧問と白銀の騎士の付き合いは、この瞬間に血盟に変わった。