幼馴染で親友で相棒で心通じる仲間のこいつに恋するわけないだろ!(死亡フラグ)
今日は友達と二人で遊園地に遊びに行く。
一応、相手は女だがデートではない。
小さい頃から一緒で、下ネタぐらいなら気にせず言えるぐらいの奴だ。
待ち合わせ場所に時間ピッタリに着いたが、まだ来ていないみたいだな。
「すまん。すまん。ちょっと遅れてしもた」
嘘だろ……嘘だと言ってくれ。
「なーなー。そんな見つめてどないしたん? ほら、さっさと行くで」
ただ、髪型が変化しただけ。服装が変化しただけ。
中身は1ミリも変わっていない。
なのに、なのに。
いつも一緒に遊んで、異性として意識したことなんてなかった。
だって、生まれた時から一緒で学校のクラスもずっと一緒。おまけにずっと隣の席でバカやっていたような間柄だ。
幼馴染、親友、相棒。言葉にするならそんな関係性で過ごして来たんだ。
「い、行こうか」
声が上ずってしまった。
「どないしたん? 今日、体調悪いんか?」
「い、いや。なんでもない」
「ほら、早く行くで。乗り物乗られへんなってまう」
あいつは俺の手を引っ張った。
いつもなら「慌てんな」とか「せっかちすぎんぞ」とか。適当に言えていたのにそんな言葉すら返せなかった。
言葉を考えるよりもドキドキが勝っているというのか。
――――――
「ジェットコースター。楽しかったなー!」
「うえっ。気持ち悪い」
「男のくせに情けないのう」
「男女関係ないから。こういうのは」
初手ジェットコースターは流石にきつい。
あいつは子供みたいにピンピンしているが、俺の方はもう限界だ。
これからのアトラクションに支障が出る。
さっきはあいつが行きたい場所を選んだから、次は俺が行く場所を決められる。
「次はあれ行こうぜ」
「おっ。お化け屋敷やな。ええで」
ふふふ。掛ったなバカめ。
昔からこいつはお化けとか幽霊が苦手だ。
ここでちょっとでも男らしい所を――
「ギャァー!」
え、え?
お化け屋敷ってこんなに怖いのか?
「きばりや。こんなんただの作り物やのに」
「こ、これはな……わ、悪いか! 怖いもんは怖いやろ」
あー。ダメだ。男らしい所を全然見せれていない。
「ほな。次はあのぐるぐる回る奴やろか」
「コーヒーカップな。まあ、休憩にはいいな」
二回連続、男らしい所を見せられなかった。
だが、よく考えろ。
これはお互いにデートだと思って遊んでいる訳じゃない。
うん。楽しければそれでいいんじゃないか?
そうだ。あいつはあいつで中身が変わった訳じゃない。ちょっと、異性として意識してしまったが、楽しければ――
あれ、コーヒーカップに乗ったはずだよな。
なんで、今、ベンチで寝転んでいるんだ?
「大丈夫なんか? 今日、調子悪いんか?」
世界がぐにゃんぐにゃんして、気持ちが悪い。
唯一の救いとしては、膝枕して貰っていることぐらいか。
「めっちゃ回しただろ。あれは体調以前に耐えられるはずないだろ」
「そか。ちとやりすぎてしもうたみたいやな」
「可愛い女子高生に膝枕して貰えたと考えれば、まあ悪くはないな」
ちょっと、ふざけてみた。
まあ、ふざけると言っても、この程度はいつも話している内容ではあるのだが……
「そ、そやろ」
ん? なんか。歯切れが悪いな。
いつもならスパッとツッコミが飛んでくるのに、なんか照れた感じの声だった。
もう少しだけ踏み込んでみるか。
「今の俺たち。まるで、カップルみたいだな」
「な、な。そ、そうかもなあ」
やっぱり、反応がいつもと違う。
「うわーん! おとーさん。おかーさん。どこー」
「どうしたん? 迷子なんか?」
彼女はすぐに迷子の幼女に手を差し伸べた。
困っている人を見るとすぐに前に出てしまうのがあいつのいい所でもある。
俺が出ると、誘拐犯みたいに見られるかもしれないな。
幸いな事に子供を探している声が遠くから聞こえる。
あいつとアイコンタクトを取る。
(両親はあっちにいる)
(了解や。相変わらず、すごい耳やな)
言葉を介さずとも言いたいことは分かる。
「泣くな。ウチらが責任持って、お父さんお母さんの所に送ったる」
「ぐすっ。おねえちゃん。ありがとう」
あいつの明るい笑顔は迷子の幼女にも効く。
今まで、なんとも思っていなかった笑顔にドキっとしてしまった。
――――――
「娘をありがとうございます!」
「今度は目を離すんやないで」
無事、迷子の子を送り届けることができた。
「おねーちゃん。ありがとー。一緒に遊ぼー」
「わ、悪いな。ウチ。友達と来とるんや」
「あの人、恋人じゃないのー?」
幼女が俺の方を指差した。
隠れていたはずなのによく見つけ出せたな。
それにしても、こ、恋人? 子どもの考えることはちょっと刺激的だな。
「こら。失礼なこと言っちゃダメでしょ」
「い、いや、ウチはええんやで。遊園地楽しんでな」
親子と別れた後、あいつは俺の方を見ていた。
(恋人やて。良かったなぁ。彼女ができて)
(そうだな。相棒)
(ちぇ)
なんの抗議か、口を膨らませた。
こんな仕草を今日は可愛く見えてしまう。
「じゃ、次は恋人らしく。あれ乗ってみるか?」
「観覧車かい。あんたが乗りたいだけやろ」
絶叫系はもうコリゴリだ。今度こそ休憩も兼ねて、のんびり回ることにした。
だが、遊園地特有の壁に俺たちは阻まれた。
「行列が長いな」
120分も待たされるみたいだ。
「せやろ? まっ。どの乗り物もこんな感じやろ」
遊園地はカップルが多い印象があるが、付き合い始めのカップルが行くのにはかなりリスクがある場所だ。
この待ち時間で話すことがなくなってしまって、気まずくなるからだ。(さっき調べた)
ただ、俺たちみたいにずっと一緒にいるような仲になると、無言でも気まずくなることない。
「あの、カップルやばくない」
「女の子可愛いー」
女子高生らしき集団が俺たちのことを話している。
「彼氏の方もイケメンじゃない」
「確かに。モデルか何かなのかも」
おー。照れること言ってくれるな。
ちょっと浮かれたのがバレたのか袖を引かれた。
(ぷぷ。イケメン彼氏やって)
(笑うなよ。可愛い彼女さんよ)
俺たちほどになると、言葉がなくても会話ができる。
――――――
「なあ、今日。可愛くないか?」
観覧車に乗ってから、聞いてみた。
このまま解散になったらモヤモヤするだろうし、このタイミングで聞いてみた。
「な、なんや急に」
「それは俺の台詞だ。なんで、そんな可愛くなってんだよ。デートでもあるまいし」
今まで、異性として意識したことはなかったが、今日はなんか違った。
「ほんまに可愛いか」
「うん。めっちゃ可愛い。お前じゃなかったら一発で惚れていた」
正直、性癖が捻じ曲がるぐらい好きだ。
あいつの胸は絶壁も絶壁だ。
俺はちょっと胸があるぐらいが好きなのだが、今日はその性癖が更に悪い? 方向にねじ曲がってしまった。
「その言い方やと、ウチやと惚れていないってことになるやん」
「それは照れだ。察してくれよ」
「あんたにも照れっちゅう概念があったんやな」
「失礼な。こちとら思春期真っ最中の男子高生やぞ」
「ふーん。じゃあ。こういうのはどうや」
隣に座って縋ってきた。
「これ、電車とかでなる奴だよな」
「全然照れへんやん」
やばいな。照れこそしなかったが、体が密着してちょっと興奮してしまった。
おそらく、バレてないがちょっと腰を引いてごまかすか。
「そりゃあ、こんなエセ大阪弁。一緒にいても楽しいが、どんな事されても照れるわけ……」
「バレバレやで。何がとは言わんが」
「はしたないぞ」
見られてしまっては言い訳ができない。
「ほんま、変態さんやな」
「俺は正常だ。誰が何と言おうと正常なんだ」
「こんな美少女に寄り掛かられたらしゃあないわ」
「いつもなら自称美少女なのに今日は本物だから困る」
手を重ねて来た。
「今夜、ウチ。誰もいないんや。泊まっていかへん?」
なるほど、この展開で断るなんてことは出来ない。
――――――
帰り道、ちょっと浮かれた頭で町を歩いていると変な男たちに囲まれた。
「おお。兄ちゃん。お金と女置いてけや」
人数多めのカツアゲか。
(監視カメラはないで)
(警官の足音もしないな。ちょっと準備運動してくる)
「おい。無視すんなよ」
彼女に延ばされた手を弾いた。
「はっ? 死にたいの――」
「俺の」
「ぐえっ」
「彼女に」
「全員で抑え――うわぁ!」
「手を」
「ダメだ。こいつ。強すぎる!」
「出すな」
周りにいた奴らは全員倒したな。
「相変わらず強いなあ」
「早く帰ろうか」
邪魔が入ったが、何も問題はない。
――――――
「今夜は寝かさんで」
風呂上がりで髪を下ろした彼女も可愛い。
俺には男らしさがないせいで、俺が襲われるみたいな構図になってしまったが、俺はこれで満足だ。
明日からもあいつは俺の幼馴染で親友で相棒で心通じる仲間だ。
ただ、ちょっとだけ関係が変わっているかもしれないが……
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この後、どうなったかはご想像にお任せします。
やる事やったかもしれないですし、夜通しゲームをしてたかもしれないですね。
活動報告やツイッターの方にこの作品を作った経緯とかありますので、お暇でしたらぜひどうぞ。