さよならデスゲーム
ハルトの名前変更。
当然だが俺は死を経験した事がない。鍵付き水槽で脱出を失敗した俺は今、死んだと思った瞬間に落ちる感覚。同時に滑る感覚に陥っている。
死はローションたっぷりの真っ赤なウォータースライダーを滑り落ちる感覚なんだろうか?長いスライダーを滑り、悲鳴と共にずるにゅるん!と滑り終わり、滑り止めのクッションに包まれた。
「お疲れでした!17歳。ハル様入ります!」
「17歳コース入ります。皆、お部屋の準備して!」
まるでガソリンスタンド。流れる様に服を脱ぐように言われてジャグジー風呂。選べる美女の全身マッサージにまたジャグジー。つるつるピカピカのまま柔らかい素材の部屋着を渡された。
あっという間だったので、ずっと頭にはてなが浮かんでは消える。スゲーな天国。語彙力も無くなる程だ。お洒落なテーブルに案内かれ大好きなアイスとジュースが置かれた。何かテレビが流れてる。
ふと、音の方を見上げれば大きな映画スクリーンから流れる沢山の悲鳴の声。
「な、に?」
画面の中では水中の鍵付きケースの中で死んでる僕が居た。パタパタと身体を触りつねる。痛い。
「あれはよく出来た偽物です」
「うわああああ!」
悲鳴が出た。黒い髪オールバックの黒い執事服。眼鏡まで黒な男がいる。気配なく後に立つな。今、わけわかんなくてふわふわしてんだから!余計に怖いわ!
「ハル様。あれは偽物で貴方は死んでおりません」
「え、は?」
席を引かれ座れと促される。とりあえず落ち着く為にジュースを飲んだ。美味い。久しぶりの市販のジュースだ。
「ちなみに皆、死んでおりません。見せかけていますが我、財閥の手掛けた偽物です」
執事風の男が笑顔で話す。ずっと笑顔で何か怖い。
「ピリピリしたサラリーマンのおじさん。割りと可愛い女子高生も?」
「サラリーマンのシンジ様はカウンセリングと医者の力で心身共に回復なされた後で記憶消去し病院に長期入院の記憶を植え付け病院にですがお帰りに……別れた奥様が迎えに来て無事に復縁予定らしいです」
怖いワードが飛び交うが執事は黒のハーフリム眼鏡を上げ早口で続ける。
「女子高生のカノコ様はリラクゼーションやレジャー施設を堪能した後に記憶を抹消。田舎の祖母の所に帰省中に神隠しにあった様に記憶を植え付け心配した家族とのわだかまりも消えたらしいです」
記憶消去や記憶植え付け以外はサービスが充実している!?
「え、じゃあ俺は?満喫したら帰れるの?」
「はい。ですが、少しお付き合いをして欲しいのです」
ガラガラとお菓子を乗せたワゴンが出てくる。そして執事が正面に座った。笑いが消え真剣な顔だ。
「貴方様は真剣にこのデスゲームに参加されておりました。殆ど不正解でしたが大目に見るくらいには……」
外れてたの?え?どや顔したよ。めちゃくちゃした。
「答えを見られないように一人ずつ呼んで正解でした。ちなみに代表でやった水中鍵開けも失敗。普通なら即死亡。なめてます?デスゲーム」
「なめ、てません」
顔が熱い。絶対に真っ赤だ。やめてくれ。
「そのくせ、僕は死なないと主人公気取り。フラグ立てまくりで見ているこちらが恥ずかしかったですよ」
死にたい。てか、何で俺はボロクソに言われなきゃならないんだ。
「だけど、その真剣な主人公気取りな貴方がご主人様も気に入りました」
嬉しくないよ。何だそれ。それよりも……。
「ご主人さま?」
「そう!このデスゲーム主催者のご主人様です!」
声高らかに叫ぶ執事の目線に大きな映画のスクリーン。写るのは俺の死体に驚く参加者の姿。
「貴方には私とご主人様と見届けて頂きたい」
この中に主催者がいる。
俺はまた選ばれたのか?この狂ったデスゲームに引き寄せられたみたいに……。
ごくりと唾を飲んで拳を握る。デスゲーム。実はドキドキしてたんだ。漫画や小説の世界。人は死ぬのは怖い。でも、何故か死なない自信があった。だから、本当はもっと参加したい。
「それはこのデスゲームを?」
返事はイェスだ。平凡だった俺は刺激を求めてた。
「いえ。違います」
「え!?」
まさかこのデスゲームには別の陰謀が!?
「ご主人様の花嫁探しゲームです」
「帰ります」
そういえば俺も囲碁将棋部の合宿に向かう最中に拐われたんだ。まだ合宿してるかな?
「ご主人様と花嫁候補を見つけた方には報酬のなかなか手に入らないゲーム器とゲームそして賞金ゲットのチャンスがあります」
「やります」
すまない。囲碁将棋部の皆。所詮、俺も男子高生。欲望には弱いんだ。ちなみに俺は記憶は残り合宿後に怪我した事にして入院プランらしい。
こうして俺の異常なクイズゲームが始まった。
……本当に良かったのかな?
シンジ。冴えないサラリーマン。実は胃に穴があいてたらしく本当に入院。メンタルもかなりきていた。好きなタイプは素朴な人。
カノコ。不思議大好き女の子。少し五月蠅いので候補から脱落。神隠しに興奮したらしい。好きなタイプは人外か不思議な人。