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ゲームの住人

僕の婚約者は腹黒属性が好きらしい

作者: どんぐり



よろしくお願いします!



(前作『わたくし、悪役令嬢なのですけど!?』『攻略対象とか最悪なんだけど!!』にリンクした内容になっています。

上の二作を読むとより世界観がわかりやすいと思います。

※この話だけでも理解出来る内容にはなってます)





「ク、ク、ク、ク、クレイ様っ!??」


「……う、うん。そうだけど?」


それは、突然のことだった。

親に決められた婚約者との顔合わせ。

そこで……僕の婚約者であるメアリ嬢が、僕の顔を見た瞬間、興奮しキラキラした目で叫び出したのである。


……普通に怖い。急にどうした?


「わ、私、あの、その……っ、クレイ様のこと、好きです!!!」


顔を真っ赤にしながら、そんな恥ずかしいことを大声で言い放った彼女に、とても驚いた。


……て、いや、そういうことが聞きたいんじゃない。


「その……もしかして、どこかでお会いしたことがありますか?」


「いいえまさか! 初めてです!」


「ですよね」


じゃなきゃこんな変な……じゃない、個性的な人は覚えてるはずだし。


じゃあ、どういうことだろう。ますます謎が深まる。


「では、どうして僕のことが好きって?」


「えええ、えっとですね、その、言っても信じて貰えないかもしれません……」


言いからとっとと言えや。


……あ、やばいやばい。

つい素が出るとこだった。


喉元まで出かかった言葉を飲み込み、笑顔を浮かべたまま尋ねる。


「聞いてみるまで何の事かはわかりませんが……信じますよ。

僕達、婚約者でしょう?

なるべく隠し事は無しにしたいと思うのですが」


我ながら嘘つきだとは思う。

僕にだって、隠していることは山程あるし、なんなら初対面の相手を信用して何でも話すのはよく無いと思うし、危機感無さすぎるとは思うが……今回は、別だ。


「……わかり、ました。

あのですね……私、転生者で、前世の記憶を持っているんです」


……。


「そして、大変言いにくいのですが……ここは、私が前世でプレイ……遊んでいた乙女ゲームの世界で、クレイ様は攻略対象だったんです」


…………。


無言で話に耳を傾ける。



「物語の世界、と考えてもらった方が理解しやすいと思うのですが……えっと、ヒロインの女の子役になって、攻略対象の中から誰か一人を選んで攻略、つまり両想いのハッピーエンドを目指す、という話なんですけど!

あ~、説明下手くそですね私昔はあんなに布教してたのに……っ!!」


「……大丈夫です。

なんとなく理解出来ますから」


「流石クレイ様ですねっ!!!」


「で、僕を好きというのは?」


「えっ!?

あ、えっとその、お恥ずかしながら……私、そのゲームでクレイ様を攻略していたんです。

その時からずっと、ずっとずっと大好きで……っ」


「な、なるほど」


「こんな突拍子の無い話、信じてもらえないかもしれませんが、本当に、ずっと前から好きなんです!!

リアコなんです!! ガチ恋だったんです!!!」


「リア……?」


「あ、なんでもないです。お気になさらず。

……そ、それより。こんな変な私ですが、本当にクレイ様の婚約者になってもよろしいのでしょうか?」


「……もちろんですよ」


「っ!!! ありがとうございますっ!!」


彼女は泣きそうな顔で喜んだ。


……だが、勘違いしている。


僕は彼女を話を信じたと言われれば、厳密にはそういうわけではない。

強いていうなら、ゲームの世界なんだという話を持ち出された瞬間、最初から、彼女が何を言うかを理解していたのだ。




なぜなら、僕がゲームの攻略対象なのは僕自身が知っていることだし、なんなら、攻略対象として人生を生きているから、だ。





僕の名前はクレイ。

黒髪黒目で、自分で言うのもどうかと思うが、整った顔立ちをしていると思う。

成績は優秀な方で、運動もまあ平均的には出来る。


よく、友達……と言って良いのか悩むが、一応友達であるセスに、お前はなんでも出来るよな、と言われる。

その後に、おかげで更に笑顔の裏が怖い、とも言われるけど。


でも、こればかりはどうしようもない。

にこやかに笑顔を浮かべていた方が何かと上手くいくし、世の中楽だ。

ただ、毎回心から笑えるほど僕はお綺麗でもないし素直でもない。

そのせいで裏がありそうとか言われても、それはそれで仕方ないことと言うか。



「でも転生者か……珍しいパターンだな。

となると、王子もヒロインも転生者なのかも」



そう、自室で呟く。


ちなみに僕が攻略対象を演じているのは、幼い頃見た夢のせいだ。


夢の中で、神様らしき人がこう言ったんだ。


君は攻略対象で、ヒロインであるセシリア嬢と恋をするんだ、的なことを。


そんなことを言われた僕が返したものは、我ながら冷めた言葉だった。


『恋とか愛とか、本当にあるんですか?

目に見えませんし、信用出来ませんよそんなの。

この世界ではお互いに利益がある家同士での政略結婚が普通ですしね。

だいたい、今日から君は攻略対象とか言われて、はい、と頷くと思いますか?

お断りします』


幼少期に悟り開きすぎだろ?

まあ僕もそう思う。


バッサリ言いきった僕に、神様は粘った。


そういうとこが腹黒属性にふさわしいとかなんとか。

……あ、ちなみに僕は腹黒属性なんですけど。


正論攻め流石!とか言ってた気も……今思い出すと背筋が凍るな。


で、まあ神様に結局は丸め込まれ、本当の恋を知る良い機会だって、とか、あれ?もしかして偉そうに言っといて確かめることもせず逃げるんですかー?と煽られたりしたことにより、僕はゲームの住人……攻略対象となった。



なんどかヒロインに選ばれはしたが、強制力、というものだろうか。

それが働くせいで、記憶が徐々に飛ぶため、結局恋や愛はわからずじまいだ。


……あのホラ吹きエセ神野郎。


と、なんども罵ったけれど、状況は変わらない。

結局、僕は僕で、この何度もループする世界を生きるしか無いわけで。



だが、今まで起きていないことが今の世界で起きていることに、どこか期待のようなものを感じていた。



例えば、昼間のメアリ嬢の発言。

僕の婚約相手は、ヒロインに選ばれなかった時はだいたいメアリ嬢で、そこは変わっていない。

けれど、メアリ嬢は大人しい令嬢で、今日のことは明らかにおかしかった。

そして、メアリ嬢が転生者、というのも初めてのことだ。


他に挙げるとすれば、悪役令嬢とヒロインと王子様属性のこと。

実は、王子様属性は悪役令嬢を溺愛しているらしく、更にヒロインまでもが悪役令嬢に猛アタックしているとか……とにかく、色々とおかしいのだ。



だから、もしかしたら。



「いつものように、つまらない日々を惰性で過ごさずにすむなら……そこそこには楽しめるかな」



そんな期待を込め、僕は明かりを消し、眠りについた。






……この期待は当たり、また、大きく外れることになるとは知らずに。









翌日。


メアリ穣は、俺の元へ会いに来た。

というか、学園まで一緒に行きたいと迎えに来た。


というわけで、今、僕はメアリ穣と馬車に乗り、対面で座っている。


……ん? おかしいような?


「……普通、逆では?」


「逆、とは?」


こてんと、メアリ嬢は首を傾げる。

それと同時に、彼女の栗色の目がくりっと開き、琥珀色の髪がぴょこんっと少し跳ねた。


……なんだか、小動物感があるな、この子。


「こういうのって、僕がやるべきと言いますか……」


「ええっ!??

そんな、畏れ多いですよっ!!!」


「へ」


「大丈夫です!

私が、安全第一に、学校までクレイ様を送り届けますからっ!!!

私なんかに気を遣わないてください!!」


「は、はあ……でも……」


「ふふふ、クレイ様は優しいですね……そういうところも好きです……」


「……そうですか」


駄目だ。この令嬢に普通を求めても無駄な気がする。

そう悟った僕は、抗議を止め、メアリ嬢の方を見た。


彼女は僕の視線に気づいているのかいないのか、ずっと楽しそうな笑顔を浮かべている。


「……何か楽しいことでもありました?」


「はい! クレイ様と一緒で嬉しいです!!」


満面の笑みで言われて、一瞬固まってしまった。


なんというか……ぶれないな、この子は。

逆にここまでくると感心する。


……けど、不思議だ。


「……あの、メアリ嬢は、僕のどこが好きなんですか?

前世で僕のことを知っていると言っても、話せたわけじゃないのに」


そう言うと、待ってましたと言わんばかりの態度で、メアリ嬢は生き生きとしだした。


「よくぞ聞いてくれました!!

推しトークですね!!」


「……オシ?」


僕の発言をスルーして、メアリ嬢は語り始める。

それはもう、キラキラした目で。


「クレイ様はですね、まず、見た目がすっごく好きなんです!

髪とか本当サラサラだし、黒髪っていうのも好きすぎるし、何よりいつも笑顔なのに時たま見せる冷たい目が好きすぎるっていうか、綺麗すぎるっていうか、うわあああ!!ってなっちゃうんですよ!!

あとあと、肌もめっちゃ白くて陶器みたいで綺麗だし、体も細く見えてほどよく筋肉ついてるとことか好みですし、室内の書類仕事の時だけつける眼鏡だって、サラっと落ちる前髪とか長い睫毛とかと相まってもう似合いすぎてマジ優秀世界一って感じですし!

あと何より!何より私!!!

本当の本当のほんっとうっに!!腹黒属性が大好きなんです!!!」


す、すご。ここまで一息……。


「ぶっちゃけ性癖と言っても過言では無いんですけどね!?

いつも笑顔で優しそうなのに、黒いものを抱えてるのが最高にくるっていうか!

優しそうな顔が途端に無表情になって本性出たー!!ってなるのもいっそ好きです!!

しかも、そういうキャラに限って、というかクレイ様のことなんですけど!絶対溺愛してくれるし、大切にしてくれるし、浮気とか絶対しないタイプですし、むしろ束縛して下さい!!って感じで!!!

たまにくる言葉責めもご褒美過ぎて、話し方は丁寧なのにひたすら冷たいっていうか、淡々としてるっていうか、正論で責めてくるところももう好きっていうか!?

何より、いつも表面上の笑顔しか他の人には見せないのに、私だけには本当の笑顔を向けてくれて、好きって言ってくれて、特別にされてる感じがすごい……好きだなあ……ってなるんですよ……。

あとあと、全部サラっと出来てしまうイメージがある腹黒属性ですが、クレイ様はしっかり努力家なとこも推しポイントです!

それに、何気に一人称僕なとこも可愛くて好きです!

たまに言葉責めの時に俺に変わるとこもカッコよくて最高です!

声もほどよい中低音ボイスですし、甘々な時は少し高めのお砂糖吐く感じの声になるのも、責める時はちょっと冷めた胸に突き刺さる低音ボイスになるとこも好きです!!

あ、甘々でちょいえっちぃ低音ボイスも勿論好きです!!

とにかく、クレイ様が大好きです!!!」


「っ、わ、わかりました。

もう……大丈夫ですから」


「え、まだありますよ!?

例えばクレイ様が嫌いな食べ物が」


「もう良いです良いですから!!」


また語り始めようとした彼女を止める。


ていうか、これ、思ったよりも……。


どくんどくんと、心臓が鳴っているのがわかる。

こんなの、始めてだ。


顔を抑えうずくまっていると、メアリ嬢が不思議そうに覗き込んできた。


「クレイ様?

……はっ! あ、あの、もしかしてお気に召さないことが!?」


途端に彼女の顔が青ざめた。


「い、いえ、違います。

……その」


「……!」


「思ったより……恥ずかしい、ですね。こういうの」


顔が熱くなっているのが自分でもわかる。

だって、始めてだったのだ。

演技の時もあったとはいえ、自分のしてきたこととか、自分のことをあんなに好きだとか最高とか言われるのは。


「……え、尊い……照れ顔好き……腕で口元隠すとか解釈一致し過ぎてツラい……」


「……? メアリ嬢?」


「ク、クレイ様。

ちょっと待ってくださいそんな顔真っ赤でしかもちょっと涙目で下から覗きこまれると……し、心臓がっ」


「た、体調不良ですか? すぐに降ります?」


「だ、大丈夫です。幸せ持病みたいなもんです。

……と、というかクレイ様。

引いてます? 引いてますよね?」


「え?」


「この話、前世の頃もしたことあるんですけど、大半の子達にこいつやべーみたいな目で見られていたもので……」


ああ……なんか察する。


悪役令嬢であるエリザベスのことになると途端に饒舌になるセスのようなものだろう。

確かに、全く関係無い立場からすると、こいつやべーと思うかもしれない。


……けど。


「いや、その……恥ずかしくはありましたが、嬉しかった……です、よ」


当然だ。褒められるのは、認められるのは、とても嬉しい。


「ほ、本当ですか?

無理してませんか!?」


「本当ですから! 大丈夫ですから!

……その、メアリ嬢」


「はい! 何でしょう?」


「……僕のこと、好きですか?」


だから……もう少し、聞いてみたくなった。

彼女の口から、好き、という言葉を。


「えっ」


「……」


「ど、どうしました!? 急に!?」


「さっきは言ってくれたのに……」


少ししゅんとしてみると、彼女が慌てふためいた。

……なんだか、可愛い。


「さ、さっきは咄嗟にだったもので、というか、オタク特有の勢いと言いますか……」


途端に顔を赤くしながら、必死に弁解しようとする彼女を、ちょっとからかいたくなる気持ちが湧いた。


……そういえば、さっき、こういうのが好きって言ってたな。


少し考え、彼女に顔を近づけ、耳元で囁いた。

彼女がどうやら好きらしい、低めの声で。


「……俺のこと、好き?」


「ひぇっ!?? な、な、なっ」


「どうなの?」


「っ!????

す、好きです愛してます……っ」


わなわなと震えながらそう言う彼女が、なんだかとても可愛く想えて、僕もこう返事をした。


「僕も、君のこと好きになれると思います」


会ったばかりで、まだ自分の気持ちもよくわからないけど。


……きっと、そうなれるのだろうと、確信のようなものを感じる。



──神様。

どうやら、もうすぐ僕はあなたに負けるらしい。




そんなことを考えながら、彼女の手の甲に、そっと口付けた。




ちなみに。




「推しのめちゃ嬉しそうな笑顔……夢?いや、現実か?大丈夫か?もうすぐ死なね?

……とりあえず、尊い……」





そう言い終わった後、彼女はしばらく動かなかった。


なんでも、キャパオーバーだったらしい。








 

「ちなみに、クレイ様の嫌いな食べ物、ピーマンなんですよ!ピーマンですよ!?

めっっちゃくっちゃ可愛くないですか!?」


「それは流石に恥ずかしいんですけど!?」



お互いがお互いを攻めたり攻められたり赤面したりしつつ、二人はいつも仲良しです。


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