よだかな私と王子と姫
スタートしたばかり。
宮沢健治のよだかの星が好きなので書きました。
『よだかの星』
この言葉は私にぴったりだと思う。宮沢賢治の作品で、『銀河鉄道の夜』や、『注文の多い料理店』が有名だけど、私は『よだかの星』が好きだ。
私はベルン王国の第7王女カノン。小さな時に兄王子がイタズラで風魔法を使った時、飛んできた木の枝で顔を抉られてしまった醜い王女。兄王子は泣いて謝ったけれど、治癒魔法を受けても顔には斜めに大きく傷が残った。
母と父は私の顔を見る度に嘆いてばかりいる。騎士やメイドが裏で醜い王女と噂していることも知っている。
全てを終わりにしたくて、静養に行った土地にあった深い池に飛び込んだ。
王女という身分。すぐに救い出された私には、私とは違う記憶の映像がフラッシュバックのように甦った。
私は昔、日本人だった。ごく普通の高校生だったが、図書館に行く途中でトラックに跳ねられた所で記憶は終わっていた。
ーー私は死んだんだ。そっか。
特に悲しい気持ちはないけれど、転生するならもっと楽しい人生が良かったなと思っている。皆が顔を背けたり、私が王女だと知らない人からは、蔑みの言葉を投げられたこともあった。
ああ、私はまるで『よだかの星』のよだかと同じだ。見た目を忌み嫌われたよだかと私。ひとりぼっちが寂しくて旅に出たよだか。
ーー旅? そうだ。私も旅に出よう。醜い顔を魔法で隠し、広い世界を見てみよう。大切な人ができたら、私の秘密を打ち明けよう。
嫌われ王女が消えても悲しむ人はいない。きっと私が消えた理由を理解するだろう。王宮は、私には生きづらい。明日の早朝に出発しよう。お金と宝石が少しある。なくなれば帰ればいい。これは旅なのだから。
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翌朝早朝に部屋を出た私は城門へ向かう。衛兵には、気づかれないよう目眩ましの魔法を使った。
「こんな朝早くにどこに行くんだい?」
「お姉さまったら、楽しいハイキングを1人で行くつもりなのかしら?」
ひっそり歩く私の背にかけられた声。振り返ると見知った顔がそこにいた。
私の顔を傷つけた兄王子と、2つ下の妹姫。
「旅に出ようと思うの。ハイン兄様、アノン。醜い私はここにはいらないでしょ?」
そう伝えると、2人はニヤリと笑って顔を見合わせた。
「妹の顔に傷をつける乱暴王子もいらないな。馬車を用意した。私もしばらく旅にでる」
「我が儘で魔法を覚えない王女もいらないわね。楽しそうだから着いてくわ。馬車はどこ?」
私を追い越し、歩く2人。
困るな。よだかは一人で旅したのよ。二人がいたら、私はよだかになれない。最後に星になれないわ。
「仕方ないわね。途中まで一緒に行きましょうか」
別れ道がきたら、引き留めない。旅は自由。
多分、続編書きます。