第5章 空賊たち
「ぅおらああああッ!!」
「バォォオオオンッ!!」
キルケとランドは揃って大音声を揚げながら空賊へと突っ込んでいく。
「ランド、発射!!」
「ガオッ!!」
キルケが手綱を引いてランドに指示を送ると、ボォウッ! ボォウッ! ボォウッ!と、ランドの口から立て続けに3つの火球が吐き出される。
この火球はあくまで「威嚇射撃」だ。空賊たちに直撃しない様、火球の軌道も空賊たちから大幅に逸れた方向に発射している。
だが、空賊たちの陣形に一切変化は見られない。ランドの火球を目視してもまったく速度を緩めずこちらへ接近し続けている。
「ソッチも本気って事かよクソッ・・・!!」
舌打ちをするキルケ。キルケたち以外にも空輸便など他にいくらでもいる上、ランドは飛行生物の中でも最強クラスのドラゴンであり、そんな連中にわざわざ襲撃をかけるなどリスクの高すぎるバカげた選択だ。
にもかかわらず、巨大蜂を手繰る、前方の空賊たちはドラゴンの火球を目の当たりにもしても怯まず突っ込んでくる。相手方は多少の犠牲も覚悟の上の、胆の据わった連中だということだ。
「なら私も容赦しねぇぜッ!!!」
「バオオォォォーンッ!!!!」
ランドの飛行速度を加速させ、空賊たちへ一直線に突進するキルケ。遠くに見えた点はやがていびつな輪郭の図形に変わり、更に奇怪な容姿の巨大な昆虫と、それにまたがる人間に姿を変えた。
間近で見る巨大蜂は、毒々しい黒と橙の縞模様に、ボコボコとした複眼に鋭利な脚の爪や大アゴが不気味に黒光りし、何ともグロテスクだ。
(12か・・・)
敵の空賊はあわせて12騎。その12人の空賊誰もが手に手にボウガンを携えており、接近してきたキルケとランドへ一斉に矢を掃射する。
「バォンッ!!」
四方八方から放たれた矢に対し、ランドが水平に広げた翼を垂直に立て、自身の背中に乗ったキルケの身を守る。
ガァン!!
キィン!!キキキキィィィンッッ!!!
そして、ランドの翼に当たった矢のことごとくが甲高い金属音を上げてはね返される。キルケの『賜物』である、『不壊』によって、ランドは一切の物理攻撃を受けつけない、無敵のドラゴンとなっていた。
一件柔らかそうなランドの翼の皮膜が鋭利な矢尻をことごとく弾き返してしまった事に露骨に動揺する空賊たち。キルケはその動揺に乗じて、一気に攻め込んでいく。
「おらぁッ!!」
ドスンッ!!!
一番距離の近かった1騎に向けて、手斧の一撃を巨大蜂に向けてお見舞いする。巨大蜂はモロに頭部への一撃を喰らい、瞬く間に墜落していく。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁーーー・・・」
真下の大海原へ真っ逆さまに落ちてゆく空賊の男。巨大蜂の内の2騎が急降下してその墜落してゆく男の救出へ向かうのを視認しつつ、キルケは勢いを殺さず、次々と他の巨大蜂たちへ強烈な斬撃をブチ込んでいく。
ドスッ!!ズドッ!!バキィンッ!!グシャァッ!!
ある者は賊本人が吹っ飛ばされ、ある者は巨大蜂の翅が斬り捨てられ、ものの1分足らずで9騎の巨大蜂乗りたちはキルケに一掃され、揃って海へと落下してゆく。
「・・・ふぅ」
「バゥ」
ひとまず12騎の内、最初に討った者の救助に向かった2騎以外の10騎を倒せたことで一息つくキルケとランド。
眼下に目を向けると、その残った2騎が、何とか最初に落下した1人が海に墜落する前に助け出すことが出来て、こちらへ浮上してくるのが見えた。その上昇してくる連中に向かって、キルケとランドは降下していく。
「ひッ、ひィ・・・」
「どッ、どどッ、どうか命だけはぁ!!お助けぇ!!」
接近してきたキルケを見て必死に命乞いをする空賊の残った3人。最初の1人は、墜落のショックで失神している。
「・・・フン」
完全に相手方の戦意が喪失しているのを確認した上で___キルケは、片方の巨大蜂を容赦なく斬り捨てる。
ズシャァッ!!
「ひいいいぃぃぃぃぁぁぁぁっっっ・・・」
失神した者を道連れに、悲鳴をあげて墜ちてゆく賊の男。たった1人と1匹残された最後の1騎の空賊は、呆然となっている。
「テメェらの集落に戻って伝えろ。次にまたこの空路を荒らしたら、即座に皆殺しにしてやる、とな」
「ひぃッ、ひッ、ひいいぃぃぃぃッッ!!!」
ビイイィィィィン・・・
敢えて1人だけ倒さずに、脅しをかけて逃がすキルケ。一も二も無く一目散に逃げだしていく賊の後ろ姿を見て、キルケは旋回し、セーレの許に戻る。
「お姉ちゃん!!無事だね!!良かったぁ・・・」
「あぁ、安心しなセーレ。賊どもはみんなブッ飛ばしてやったよ」
「お姉ちゃんは本当に強いなぁ・・・すごいよ」
キルケに改めて尊敬の眼差しを向けるセーレ。
キルケとランドが空賊たちと格闘している間もセーレは漸進を続けており、今やすっかり目的地のソゾポは目前である。
2人と1頭は、ソゾポの中央広場へとゆっくりと降下していく。




