81: ハルトの思惑
獣人達を連れたハルトは、東の島へと来ていた
「あなた、王国を見限ったのですか?」
「旦那様が見放すようなことを王国がしたとは思えないのですが…」
「元から考えていたのだが、邪神との戦いが終われば、俺達は危険視されるだろう」
「それは…」
「神をも殺す力を持てば、人間は必ず恐怖を抱く。排除しようと考えてもおかしくはないだろう」
「確かに、その可能性はありますね」
「だろう?だったら、大陸から離れるのもいいかと思っていたんだが。ゼウスのじいさんが、この島のことを教えてくれてな」
「この島には何かあるんですか?」
「何もない」
「え?」
「正確には、人の手が入っていないと言った方がいいかな」
「未開の地ということですか?」
「俺たちがいた大陸からは少し離れているので、船で来ていた人間はいないようだ」
「そうなのですか」
「俺たちが自由に開拓をしても、誰にも文句を言われることはない」
「では、ここに国を作るのですか?」
「国ではないだろうが、のんびり暮らす分にはこの島はうってつけだ」
この島なら好き放題しても誰にも文句言われることがないので。ハルトは、のんびり暮らそうと思っていた
「獣人達は?」
「この島なら奴隷としてじゃなく、自由に生きてもいいだろう」
「なるほど」
「最初に生活の基盤を整えてやれば、後は勝手に生きるだろう」
「奴隷の解放を目指すのですか?」
「それもいいかもしれないな、長い間奴隷として使われてきたんだ、もうそろそろ解放されてもいいだろう」
「この島なら、迷惑はかかりませんからね」
「最終的にどうするかは、獣人たちに決めさせればいいだろう」
ハルトは奴隷制度を否定しているわけではない
モンスターがいるこの世界では、親を亡くした子供達が奴隷になることはよくあることだ
大人になり報酬を得ることで、奴隷から解放されることは法律で決まっているので、むしろ貧しく飢えて死ぬ子供は減っている
だがそれは人間に限ったことで、獣人は生涯奴隷から解放されることはない
ハルトに逆らえる国は少ないので、大陸の外に連れて行くというのであれば、反対されることはないだろう
それを確実にするために、わざと怒ってみせたのだ
現にハルトが去ってから、王国と帝国は話し合いを始めている
ハルトが望むなら、獣人の解放も認めるところまで話し合いは進んでいた
「ハルト様、我々はいったい、どうすればよろしいのですか?」
「この島で暮らすのか、それとも元の大陸に戻るのか決めてほしい」
「この島で…」
「俺たちは解放されるのか?」
「私は奴隷になんて戻りたくない!」
「俺だってそうだ!」
獣人の待遇は決して良いとは言えなかったので、戻るのはやはり嫌なようだ
「俺たちの国を作ろう!」
「そうだわ、自由になるのよ!」
「ハルト様、お願いします。この島に置いてください!」
「俺たちの独立を!」
「お願いします!」
「勿論、構わないぞ」
「ありがとうございます」
「忠誠を誓います」
「自由にして構わない。俺に忠誠を誓う必要などないぞ?」
「いいえ、我らだけでは到底生きていけません」
「生活の基盤は整えてやるから、自由に生きても構わないぞ?」
「それでも私たちには、ハルト様が必要なのです」
長く奴隷として生きてきた彼らには、独立と言ってもすぐには無理なようだ
「わかった、最初は俺が皆をまとめよう。だが、いずれはお前達で独立を果たすんだぞ?」
「ありがとうございます」
「私達も頑張ります」
まずは生活をしていくために建物や、畑などをハルト達が手分けをして作り出していく
「皆は防壁や建物を作ってくれ」
「分かりました」
「俺は漁をするための、船や港を建設する」
「漁ですか?」
「ああ、魚も食べたいだろう?」
「いいですね」
「ずっと、肉ばかりだったからなぁ」
「ハルト団長、儂は漁の仕方を知ってますぞ」
「それはいい、しばらくはクレイ隊長に任せることにしよう」
「任されました」
帝国南部では元々漁が盛んだったようだが、モンスターのせいで現在は行われていない
「ハルト様」
「どうした?」
「私も傭兵団に入れてほしいのです」
「傭兵団に?」
「俺もお願いします!」
「私も!」
連れてきた獣人83名のうち、30名が黒の傭兵団へ入団を希望した
「ふむ。クレイ隊長、どうみる?」
「よろしいのでは?」
「そうか?」
「はい、元々獣人は身体能力に優れていますから。ハルト団長が作る装備をすれば、そこらの騎士団にも負けることはあり得ません」
「訓練はどうする?」
「邪神との戦いは無理でしょうが、終わった後であれば、儂が鍛えてみせます」
「そうか、では諸君らの入団を認めよう」
「「ありがとうございます」」
このことがきっかけで、あることが起きるのだが、今はまだ知る由はない
「では、作業を開始してくれ」
ハルト達が島に渡って6日後
カイン国王からハルトへ通信が入る
『ハルト殿、申し訳なかった』
「いえ、囮にされたのは獣人達ですから」
『そうだったな…改めて獣人達には謝罪をしよう』
「国王陛下が奴隷に謝罪など…」
『いや、ダンタリオン陛下とも話たのが、王国と帝国は、獣人の奴隷化を廃止する事にした』
「それは…」
『隠すつもりはないので話しておくが、我らはハルト殿の怒りを買ったことで恐怖を感じている』
「やはりそうですか」
『我らなど簡単に潰せるだろうからな』
「それを心配しなくても大丈夫ですよ」
『誠か?』
「ええ、俺は大陸からは離れますからね」
『大陸から離れる?』
「ええ、とある島で獣人たちと暮らすことにしました」
『それは…』
「元々考えていたのですよ。強い力を持っていれば、恐怖されるか、もしくは利用しようとされるでしょう」
『間違いなく、そうなるだろうな』
「なので、大陸を離れる事しました」
『そうか…邪神はどうするのだ?』
「もちろん倒しますよ」
『…それが聞けたのならば、安心だ』
「ゲンズはどうなってます?」
『まだ動いてはいない』
「そうですか。では、こちらから仕掛けます」
『我らも、国境付近に軍を集結している』
「そうですか、明日にはそちらに向かうので改めて話しましょう」
『わかった』
国王との話し合いを終えたハルトは、仲間達に説明する
「そうですか」
「儂らも行きますぞ」
「そうだな…ソフィア、カナエ、クレイ隊長と20名は連れていく。残りはこの島の開拓を続けてくれ」
「居残りですか〜」
「行きたい…」
「本番は邪神との戦いだ。それまではこの島を優先してくれ」
「わかりました〜」
「理解…」
「わかりました、ご主人様」




