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心霊弁護士 上尾誠司  作者: ニナコ
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宮子の一難去ってまた一難の1日

小説って書くのが難しいと思う毎日であります。

翌早朝、重だるさの残る体で宮子は車を走らせて上尾を家まで送り届けた。

「起きてください、着きましたよ。」

宮子は眠っている上尾を起こした。

「もう着いたの、」

上尾は目をこすりながら言った。

「先生、荷物です。」

宮子はトランクからボストンバッグを取り出して車から出たばかりの上尾に渡す。

「ありがとう、」

「私はこれで失礼しますけど、安静にしてお酒なんか飲み過ぎないで下さいね。」

「みやちゃん、もう帰るのかい。」

運転席へ戻ろうとする宮子の腕を掴んだ。

「どうかしましたか、」

「ちょっとね、」

「一人でいるのが不安なんですか。」

宮子は腕を掴む少し震える手を見る。

「そういう事になるね、」

上尾は力のない笑いで「子供みたいな事言ってごめんね」と言う。

「そんな事ないですよ。私には先生みたいに幽霊と話たり何かする事は出来ないですけど、先生がどれだけ精神をすり減らして私には見えない相手と対峙しているか見て来ました。私ですらその場の空気で気分が悪くなったりするんです。先生が今でも一人を怖がるのは当然だと思います。」

「みやちゃん、」

「一人でいるのが怖いなら、先生が大丈夫になるまで一緒にいますよ。こんな弱りきった人を放っておける程私は無慈悲じゃありませんからね。でも流石に添い寝はなしですよ。」

上尾は宮子の底抜けの優しさに包まれ心の内が軽くなるのを感じた。

「ありがとう、みやちゃん。本当にありがとう。」

上尾は心の底からの感謝の気持ちを宮子に伝えた。

 部屋に戻ると上尾は寝室に入り、宮子の用意したパジャマに着替えてベッドの中に潜り込んだ。

「みやちゃん、本当に一緒にいてくれるんだよね。」

「いますよ。」

「ねぇ、みやちゃん。僕が寝るまででいいからさ、手を握っててもらってもいいかい。一人になるのが本当に怖いんだ。」

宮子は布団の中から出された右手を両手で包み込む様に握った。上尾の白磁の様な手は見た目通りにひんやりとしていて宮子はこのまま死んでしまうのではないかと考えてしまう。

「先生、不謹慎だとは思うんですけど死なないで下さいね。この状況、危篤の人を看取るようですごく不安になります。」

「大丈夫だよ、この位では死にはしないさ。だけど、みやちゃんに手を握られて死ぬなら悪くないな。」

「死ぬなら私の関係ない所でお願いしますね。」

宮子はいつもの調子が戻っていく上尾に毒づいた。

「酷いな、みやちゃんは。まぁ、もし僕が死ぬ事になったら僕はきっと、」

このあとの言葉は寝息と同化していき聞き取る事が出来なかった。

 宮子の存在に安心して眠る上尾は愛くるしい子供の様で宮子の母性をくすぐった。宮子は上尾の寝顔を見たいと上尾の前髪を指で軽く上げてみる。

「中身は子供みたいなのに、見た目は普通に男前なんだよね。」

宮子はどこかの俳優かと見間違う位美形の上尾を見てため息をつき、いつまで上尾の近くにいられるのだろうと考えるのであった。

 寝室を出た宮子を待っていたのは書類や衣類、菓子袋が散らかったリビングであった。上尾はどうしようもないくらいに生活能力が無く、誰かが掃除をしないと平気でゴミ屋敷同然の部屋にでも住み続ける程であった。

「やっぱり、やっておかないと駄目だよね、」

宮子は3日後、異臭漂う部屋に閉め切ったまま籠もる上尾の姿を想像するといてもたってもいられなかった。また宮子は目についたものはやらないと気が済まない性分である。慣れた手付きでリビングに始まり風呂場からトイレまで部屋全体をまともに掃除をしない家主の代わりに疲れ切った体にムチを打ち片付けた。

 掃除と山になっていた衣類を洗濯し終えると正午を過ぎていた。働き詰めでクタクタになった宮子は電池が切れたようにソファに横たわる。

「疲れた、」 

座り心地の良い革張りのソファにうつ伏せになり目を閉じようとすると宮子のスマホに着信が入る。

「何の用だろ、」

着信元を見た瞬間、宮子は飛び起きて電話に出た。

「井上先生、すいません。お約束の事を忘れていた訳ではなく前の仕事が片付かなくて、」

宮子は大内から上尾の所が終わったら井上の所へ行くように言われていた事を思い出し冷や汗をかく。

「いいよ、いいよ。どうせ上尾君の世話でもしてたんだろう。」

「本当に申し訳ありません。」

「それよりも、もうこっち来れそうかな。」

「それなんですけど、」

宮子は「一人にしないで」と訴えていた上尾の事が気がかりだった。悪いとは考えたが別の日に振り替えてもらおうと考えていると井上は宮子の内を見透かしたように先手を打つ。

「上尾君ならもう大丈夫だよ。仕事も終わって家に帰れたんだろう。後は自然治癒みたいなもので回復を待つしかない。宮子ちゃんも分かっているだろう。」

「そうですけど、」

「もう一つ言えば、私は君の今日半日分の時間を買っているんだ。それを急に振り替えるなんて、信用問題にならないかな。」

宮子は反論する空きを与えない井上の言葉に白旗を上げざるをえなかった。

「分かりました。すぐに伺います。」

井上は望んだ回答に満足すると「楽しみに待ってるよ」と言い、電話を切った。宮子は後ろ髪を引かれる思いであったが、高圧的な井上に逆らう事は出来ず書き置きをテーブルに置くと足早に部屋を出て行った。


次回もよろしくお願いします。

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