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心霊弁護士 上尾誠司  作者: ニナコ
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湯沢 資産家別邸③

幽霊との交渉を書いたのですが、交渉はどういう事を話すのか分からなくてすごく難しかったです。

 宮子が別荘のある敷地へ足を踏み入れると漂う空気に押しつぶされそうになる。

「みやちゃん大丈夫?」

「何とか、先生こそ昼間辛そうでしたけど、本当に中に入って大丈夫ですか。」

宮子は昼間の上尾の様子を思い出す。

「場数を踏んでいるからね、慣れてくると多少は違うよ。」

車のライトを消して上尾の姿ははっきりと確認出来ないが、声色からして無理をしている事は明らかだった。

「みやちゃん、」

上尾は弱々しい声を出すと宮子の左手を握りつぶしてしまいそうな力で繋ぐ。

「ここを出るまで僕から離れないで、」

宮子は震える上尾に「分かりました」と返す。上尾は少し安心したのか手の力を少し緩めて宮子の指と自身の指を交差させ、恋人繋ぎにする。

「行くよ」

上尾は芯の通った声で宮子に告げるとゆっくりと家の方へ歩き出した。

 ドアノッカーを2回鳴らして懐中電灯の明かりを頼りに中へ入ると靴やゴミが乱雑していた。出来る限り中のものを踏まないように廊下進み、一番奥のドアに上尾は手をかける。

「失礼します。」

上尾がドアを開けて中に入るとそこは30畳以上ありそうなリビングルームだった。上尾は迷う事なく真ん中にあるテーブルと椅子に行き、深く頭を下げた。

「はじめまして、私は弁護士の上尾誠司と言います。」

「あんたが、昼間来た弁護士か、」

この家のかつての所有者である新島が椅子に座り二人を睨みつけた。

 上尾は懐中電灯をテーブルの上に置き新島の許可を得る事なく向かいの椅子に宮子と座る。

「一体、弁護士がこんな所に何の用だ。」

「大変申し上げにくいのですが、早急に立ち退きをお願いしたくこちらに伺いました。」

「立ち退きだと、」

新島は立ち上がり叫んだ。

「ご存知の事かと存じますが、先日からこの建物の取り壊しの工事が行われています。」

「知ってるよ、あいつら許可なくこの家と庭にズカズカと入り込んでものは壊すわどうなっているんだ。」

「何の断りもなしに工事を始めてしまった事は謝罪します。ですが、こちらをご覧ください。」

上尾は書類を取り出して目の前の男に見せる。

「2年前にご遺族がこちらの不動産を売却しておりまして、現在はこの山田に権利があります。」

「この家を売っただと。」

新島は信じられないと言わんばかりに言った。

「急な事で驚かれるのも無理は無いと存じます。私は弁護士として新島さんにこちらから立ち退いていただくように説得する為にこちらに来ました。新島さんがこの家から離れなれないご事情があるのでしたら、私は出来る限り力になりたいと考えております。」

「お前みたいなやつのちから何ぞ必要ない、」

身を乗り出し上尾に殴りかかろうとする。

「新島さん、私は出来る限り穏便に事を済ませたいと考えております。依頼者の山田もそう望んでいるからです。それでも立ち退きを承知して頂けないようでしたら、強硬手段も取らさせていただかざると得ません。」

上尾は言葉に力を入れて新島を脅す。

「いい加減にしろ、この家も土地も俺のもんだ。」

上尾の殺気に怖気づいた新島はテーブルを八つ当たりするように両手で叩く。叩いた衝撃で密閉された空間に風のようなものが起こる。正面の閉め切られたカーテンがふわりと舞い、その隙間から見えたものに宮子は体の体温がなくなっていくのを感じた。

「みやちゃん、大丈夫。」

冷や汗をかく宮子に上尾は小声で聞く。宮子は「大丈夫です」と答えると上尾の手を握る。

「今すぐこの家から出ていけ。」

 新島は声を震わせて二人に向かって怒鳴りつけた。

 上尾と宮子が家を出ると東の空が明るくなり始めていた。二人は無言でホテルに戻り、昼過ぎまで泥のように眠った。

 宮子がベッドから出て時計を見ると時刻は1時を過ぎていた。

 リビングに行くとバスローブを着た上尾がパソコンと紙の資料を相互に睨みつけていた。

「先生、おはようございます。」

宮子が上尾に声をかける。

「おはよう、みやちゃん。」

上尾は寝起きの宮子に言った。宮子は上尾にインスタントのコーヒーを淹れてテーブルの上に置いた。

「ありがとう、」

「今回も私には相手の方が見えなかったので先生の話しか聞こえなかったんですけど、すごく難航してましたね。」

「相手は死んだ人間だからね、これが生きてる人間だったらやりようがあるんだけど、」

再び上尾は資料に目を戻して唸り始めた。

 宮子はシャワーに入り新しいシャツとジーパンに着替えた。

「何か手伝える事ありますか。」

「ちょっとお腹空いたかな。」

「昨日コンビニでパン買って来たので、それ食べますか。」

宮子は封を開けてメロンパンを上尾に渡す。

「みやちゃんは用意がいいね、」

「私にはこの位しか出来ませんから。」

「そんなこと無いよ、僕はみやちゃんがいてくれるから救われているんだ。」

メロンパンを齧り、宮子に言った。

「みやちゃん、昨日カーテンの方を見てすごく怯えてたけどどうして。」

「あれですか、」

宮子は上尾の隣に座り上尾の目を見て話す。

「女の人が見えたんです。」

「女の人?」

上尾が返すと宮子は大きく頷く。

「真っ赤な膝上のネグリジェを着た女の人です。すごく怖い顔をして外から睨みつけていたんです。」

「そんな事があったのか、家主との交渉に集中していたから気付かなかった。」

上尾はため息をついて冷めたコーヒーに口をつける。

「でもこれで腑に落ちたよ。」

「どういう事です。」

「みやちゃん、悪いんだけどまたあの家に行ってくれないか。やらなきゃいけない事がある。」

そう言うと上尾は立ち上がりバスローブを脱いだ。

「私、車取って来ますね。」

宮子は上尾の方をなるだけ見ないように部屋を出て駐車場へと走った。




次回で湯沢の別荘は終わりの予定です。

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