戦士ハールの祝勝会
初めてのクエストを成功させたおれたちは、記念に祝杯をあげようと王都の酒場に来ていた。
そこはいつでも活気に溢れていて、皆が思い思いに飲んで、騒いで盛り上がっている。
おれたちは二人ということもあったので、少し離れた席に座り祝杯をあげていた。
「今日はお疲れ様!初めてのクエストだったけど上手くいって良かったね」
「本当に良かったです。ハールさんの援護が無かったかと思うと……それ以上は考えたくないですね。あーぁ、もうちょっと出来ると思ってたんですけど、実戦だと中々上手く行きませんね」
ピルマは少しうつむき気味に語った。誰だって最初から上手く出来るわけがないんだ。
まぁ……一部天才みたいなやつもいるけどね。それはそれとして、これから強くなって行けばいいんだから問題なし!
「そういえば、あの時は無我夢中で考える暇なんてなかったんですけど、途中から体が軽くなってなんだか『やれる!』って感じたんですけど、あれはやっぱりハールさんが?」
「そうそう、おれのスキルなんだけど、味方にバフをかけて戦闘能力を上げられるんだ。ピルマは素早さがあるから、その能力が上がるようにバフをかけたんだよ」
「そうだったんですね!だから力がみなぎってくる感覚があったんだ」
おれがスキルの説明を終えると、ピルマはうんうんと、納得したように頷く。
「普通の冒険者ならそれだけで戦闘力が何倍にもなるから、かなり強くなったって実感できるみたいだね。勇者パーティーのときもフェアとウィダには重宝されてたよ。」
「勇者様はどうだったんですか?」
むむ、痛いところを突いてくるな。聞かれたのだから誤魔化すのもよくないし、正直に答えるか。
「一応レリットにもバフはかけてたよ。ただ、あいつはもともと強いから、効果があったのかよくわからなかったんだよね。」
「ハールさんのスキルが無くても強い勇者様なんて、素敵すぎますね!一度でいいからお会いしたいなー」
目を閉じ、うっとりとした表情でピルマそう答えた。
まずい、まずい、また話題がレリットの事になっている。軌道修正!軌道修正!
「ま、まぁ、いつかね。それよりも、今日はピルマのためのお祝いなんだからじゃんじゃん飲んで、食べよう!」
まだまだ、おれの活躍が弱いせいか、彼女は頻繫にレリットの事を話題に挙げる。
正直、悔しいけれど大丈夫だ!まだまだ、ギルドとしてスタートしたばかり。
これから一緒に魔物討伐やダンジョンを攻略して、かっこいいところを見せていけば、いずれは好意を持ってもらえるはずだ。焦らずいこう、頑張れおれ!
ピルマとの祝勝会を終えた翌日からおれたちは、同レベルのクエストをこなしていく方針で動いていた。
戦闘経験の浅さは、場数を踏むことでしか埋められない。
より強力な魔物を打ち取らねばならないのだ。強くなるためには実戦あるのみ!
そんなこんなで魔物討伐を行ってしばらく経ったころ、今回のクエスト報酬を得るためにギルド協会へ申請をしに訪れていたおれたちに、受付嬢から声がかかった。
「ハールさん、ちょっといいですか。新しい応募が来ているのですが……」
「本当ですか!?会います!会います!直ぐにでも会います!」
やった!待ちに待った2人目のギルドメンバーだ。嬉しさのあまり小躍りしてしまったよ。
「いま直ぐは無理ですけど、こちらで調整しますので少し落ち着いてください」
受付嬢に窘められてしまった。それでも、久しぶりの応募に嬉しさが隠せないんだ。
「なるはやでヨロッ☆」
あ、やばい。受付嬢が無表情になっちゃった。今後、この態度はやめておこう……。
「どんな人なんでしょうね?私より強かったらどうしよう……」
「ピルマも成長してるから大丈夫、大丈夫!例え強くても贔屓することはないから安心して!」
おれは将来的にハーレムギルドを目指す男だ。どんな子でも平等に接しなければ、到底ハーレムの実現はできない。心構えはもう出来ている!そして、これから出会う人はその候補になるかも知れないのだ。
よし!次も気合いれてかっこいいところをアピール、アピール!!
欲望に心を支配されたハールは、次の顔合わせに向けて気合を入れ直すのであった。