戦士ハールの野望
いったい何を言えばみんなを納得させられるだろう。そのことばかりをずっと考えていた。長いこと過ごしてきたメンバーだ、説得も一筋縄ではいかないだろう。地味な能力とポジションだったけど、重要な役割を担っていたことは間違いないだろうし、みんなもそれを分かってくれているはず。おれが抜けることで戦力がすくなくなるし、連携も取れなくなるだろうから引き留める理由も分かる。まぁ、フェアとウィダに関しては、愚痴を吐く相手と仲裁役がいなくなると困るって事もあるんだろうけど……。
「ごめん、みんな……。一緒に過ごしてきて、今更抜けるってのもあんまりな話だよな」
確かにわがままなのかも知れないが、この機会を逃したらこれからも同じ人生が続くと思うと耐えられない。
「ほんとビックリしたよ~、急に抜けるなんて言うんだもん。あんまり嬉しくないサプライズだよ!」
フェアが少し怒った顔で問いかけてくる。
「なんで一言相談してくれなかったんですか。力になれたかもしれないのに……」
ウィダも怒ったような困ったような顔をしている。
「不満があるなら言ってくれ。できる限りのことはするよ」
レリットも心配そうな面持ちで聞いてくる。だけど、言える訳がないよな。お前みたいに、たくさんの女の子たちから羨望と敬愛の目を向けられてるのが羨ましいだなんて。かっこ悪すぎだろ。だから本当の理由はぼかしつつも、みんなに納得してもらえる理由を話さなければならない。
「おれは……自分の力がどこまで通用するか試したいんだ。最大の敵はもう倒した。後は、魔物の残党や未踏のダンジョンだけ。そこならおれの力でも十分通用するはずだ。だからギルドを作って、仲間を募集して、新しい絆を築いていきたい」
本当は可愛い女の子たちに囲まれて、かっこよく魔物を倒してキャーキャー言われたい。自分の力だけでメンバーを守りたい。欲望の塊みたいな理由かもしれないが、活躍したいんだ、おれは。勇者パーティーの一員ではなく、一人の男として存在を証明したい。
それからしばらくの間は押し問答が続いたが、おれの気持ちが変わらない事を理解してもらえたのか、レリットが折れてくれた。フェアとウィダはレリットが一番なので、彼が決めたのであれば素直に従う方針である。
「みんな、ありがとう。おれのわがままを受け入れてくれて」
正直かなりほっとしている。いままで強い自己主張をしてこなかった分、上手く丸め込まれるか、説得に負けて自分が先に折れてしまうのではないかかなり不安だった。それでも、これ以上惨めな気持ちは味わいたくない思いが勝ったのだろう。なんとか最後まで意思を貫くことが出来た。
「そうと決まれば早く王都に戻ろう。討伐報告をしたらハールの一人立ちを祝って乾杯しようじゃないか」
「はい!はい!賛成!やっぱり初めが肝心だもんね。パーッとやろう、パーッっと」
「そうですね。ハールの旅立ちを祈りましょう」
レリットがお祝いを提案すれば、フェアとウィダも即決である。
申し訳なさ半分、嬉しさ半分の複雑な感情だけれども、明るい未来が待っていると思うと自然と笑顔になる事ができた。
「あぁ、必ずみんなをビックリさせるようなギルドにするよ!」
そうだ。絶対にレリットに負けないくらいの名声と女の子たちを集めた素晴らしいギルドを築くんだ!
不純度100%の邪な野望を胸に秘め、ハールは王都への道のりを軽快な足取りで歩きだした。
読んで頂いている読者の方へ、ありがとうございます。
小説書くのが初めてなせいか筆を止めては書き、止めては書きの繰り返しですね。
今までの話と齟齬はないか、これからの展開につなげるためにはどう表現しようか考えていると
すぐに時間がたってしまって驚いています。
これからも遅筆ではありますが、頑張って書いていきますので、
評価、レビューのほど、よろしくお願いいたします。