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カカシ  作者: 反重力枕
9/17

イストリア

「シシリア様、シシリア様!」

 執事が足早に主の元へ向かう

「カルバ、そんなに慌てて何用かしら?」

「失礼します」

 椅子に座る主の後ろへ膝を折り耳元へ寄る。

「シシリア様、イストリアへ向かわせた密偵がイシルの町で音信不通になりました」

「どうゆう事?殺られたって事なの?」

「分かりません、現地では騒ぎになってもおりませんし、ただ連絡が取れません」

「そう」

 女は机の上の羊皮紙をトントンと叩きながら暫し思案し一息吐いてから応える。

「可能性は少しばかり上がったって事よね?良くも悪くも」

 女は立ち上がる

「ガルバ」

「はっ」

「追加の密偵と『キツネ』を放ちなさい。少なくていいわ」

「分かりました。2名近辺に待機している者を向かわせます」

 執事は一礼をし退室する。


「残党は殲滅よ、散々邪魔したお返し。ふふふふふ・・・」




 シエルはギルドの依頼ボードを眺めていた。

「え?なになに〜優先依頼?商隊の護衛ね。サウランドからノクチュアへ向かう商隊にイストリアから合流か。

 サウランドからは荷馬車4台と護衛24名、そこへイストリアより荷馬車4台が合流する際、護衛ハンター6名を募集。

 ランクシルバーランク以上のソロもしくはシルバーを含むカッパー以上のパーティーか。いいわね、報酬もいいじゃない」

「し、シエル・・・おはよう」

「あ、ティークさん居たんだ、おはようございます」

 さり気なくわざとらしくティーク現る!

「それ、受けるのか?」

「はい。記念すべき最初の依頼は商隊の護衛に決定です〜」

 受付で依頼受注の処理を済ます。

 すると隣へティークが来て

「俺も受ける」

 と言い依頼受注の申請をする。

「ありがとうございます。これで定員になりましたのでこの依頼の受付は終了致します」

 受付のお姉さんがそう言いながら三日後の朝が出発だと告げてきた。

「それじゃー私色々準備があるので、またね〜」

「あ、ああ」


「さて、着替えやポーションやら各種道具類を揃えなくちゃ。宿の女将さんにお店聞いてみよっと」

 昼すぎに女将さんにに聞いたハンター向け防具、衣類、武器を扱ってる店に向かった。

「このスカートはちょっと短くて戦闘向けじゃないのよね。可愛くて好きなんだけどな〜」

 店に入ると男性用と女性用とエリアが別れていた。

 流石品揃えも充実している。

 そして女性店員も待機していたのて早速要望を伝えた。

「それでしたら・・・こちら等いかがですか?」

 出されたのは短パンである。

 スカートの中に短パンでガード。しかも下半身の防御と温度調節機能付き。

「買います!」

 値段も聞かず即決である。

 擦り傷程度なら完全防御らしい。女の子にピッタリである。ちょうどシエルのスカートより丈が短いので見た目変わらずだ。

 その他の防具としては着ていたウエスタン風のベストを似たデザインで防御付きのに変え、頭部にも防御付きのキャスケット帽を。

 あとは細かな必需品諸々を購入した。

「後は着替えの服だな〜。可愛いのあるかな?そうだ、下着もかわいいの揃えたいしな〜。それにノクチュアでしょ、寒くなるから暖かそうなデザインのも欲しいし・・・・・・」

 などと女性の買い物漫遊記に付き合うのはちょっと・・・




 商隊の列は谷底のような地形で狭い街道に入っていた。

「こうゆう場所は盗賊に襲われやすいんですよね?」

「そのための護衛ハンターのこれ見よがしの数ですよヤップさん」

「まあ、これを見て諦めてくれると有難いんですけどね〜」

「全員注意しろよ!」

 とリュークさんの指示が飛ぶ。


「!!!」

 馬車から後ろを見ていたレンが反応する。体を起こしてリリーの前に右腕を伸ばした。『パシッ』と音と同時に手には『矢』が掴まれていた。

「襲撃だ!」

 レンは叫びながら矢を思い切り投げ返す。リリーは矢が額の前で止められてた事もあり震えてエリカにしがみついている。

 レンが投げた矢は凄まじい勢いで立ち木の枝の中に消え何かに当たりドサッと影が落ちるた。盗賊の狙撃手だろう。

「すごい・・・なんで当たるのよ・・・」

 それを合図に盗賊達が街道に出て来た。

「おい!よくも殺りやがったな?ただじゃ済まさねえ!」

「クソガキが覚悟しろよ!俺たちゃ50人いる。抵抗しても無駄だ。積荷と・・・そうだな、女を置いて消えな」

 ニヤニヤとしながら武器を構えだした。

 盗賊は前方に35ぐらい後方には15程がいるが既にベテランハンターの2パーティーは戦闘を開始した。

 レンも飛び出し控えめに一人づつ相手をしてやっている。そこへサイモンのパーティーも混ざった。

「このガキ強いぞ!距離を取って魔法だ魔法!」

 魔法の得意な盗賊が中級らしきファイアボールを3発、もう1人が風刃を放つ。それを見たサイモンが叫ぶ「避けろ!」

 その忠告は手遅れのタイミングだった。

 レンは最初に届いたファイアボール、かなりの高速だが右手の逆手に持った刀で斬りあげて消し去る。

 低い位置に入って来た次のは振り上げた状態のままからジャンプし横回転でまた右手の刀で斬る。

 最後に届いたファイアボールは風刃と上下に重なりあっているが左手の順手に持ち替えた刀で縦に斬り飛ばした。

 その間0.2秒程で着弾したような音と煙が上がったが、そう思った瞬間に2人の盗賊は首が飛んでいた。

 サイモンは驚愕しながらも戦いを続け8人を倒した所でレンも7人を倒し戦闘は終わる。

 リリー達も商人を守っていた。



「皆さんお怪我はないですか?」

 ヤップさんが皆を集めて聞いてきた。

「俺達は擦り傷程度だ。後方側はどうだ?」

 リュークさんが尋ねる。

「問題ない」と、サイモン

「オレも大丈夫です」


「いや少しばかり焦りましたよ。この地形であの数でしたからね。でも皆さんお強い!いいハンターさんが雇えて感謝ですよ」

「じゃーもう少し進んだら野営の予定の開けた場所に着く、もう少し頑張ってくれ。こんな危なっかしいエリアはさっさと離れよう」

 ごもっともだ、皆黙々と移動した。


 日が落ち始める頃、目的の場所に到着した。

 馬達も水を飲み草を食んでいる。

 人間達も同様、火を囲み各々食を摂る。


 食後のまったりした時間、コーヒーを飲んでいるとサイモンが話しかけてきた。

「おい」

「・・・・・・」

 オレは視線だけむけた。

「お前さっきの何なんだ?」

「さっきの?なんの事だ?」

「ファイアボールと風刃、当たったんじゃなかったのかよ?」

「あれか。斬った」

「馬鹿な事言ってんじゃねーよ!魔法が斬れる訳ないだろ」

「じゃそれでいいんじゃね?」

 シッシッと手を振ってやったが、そこへリュークさんがやって来る。

「レン君、その話を詳しく聞きたいな」

「リュークさん・・・」

どうも聞かないと納得しなさそうなのがわかる。


「分かりました。場所変えましょう」


 少し離れた丘の上に来た。

「で、どうやって魔法を斬るんだ?」

 リュークさんは適当に石に腰掛け尋ねる。

「前に魔法の発動と消滅の話をしましたよね?」

「ああ、俺には全く見えないのだがな」

「何の話だ?」

 サイモンもついて来ていた。

「キミには俺が後で説明してやる。レン君、続けてくれ」

「はい。簡単な事なんですが、その発動して消滅した一瞬を斬ります」

「どうゆう事だ?」

「魔法発動には魔力とイメージ、大雑把ですがこの2つですよね?それにより核になる物が生まれ、そこを中心としてファイアボールなら炎が生成され消滅を繰り返します。その消滅した瞬間、魔核だけになった時を斬ります。いや、斬れます」

「俄には信じ難いな」

「じゃリュークさん、ファイアボールを空中へ出して下さい。それをサイモンさんが斬って」

 リュークがファイアボールを出し、それをサイモンが剣で斬りつけるが少し揺らぐ程度だ。

「無理だ!こんなもん」

 サイモンが言ってる最中に『シュン!』とオレが斬り消す。

「・・・・・・」


「あとは同じ規模以上の魔法をぶつけるってのもありますよ」

「ふん!」

 サイモンは面白くなさそうだ。そして諦めたような顔をしたリュークさんが言う。

「全く出来る気がしないのは相変わらずだ。これがレンの戦闘スタイルなんだろ?」

「そうですね」

 刀を鞘に収めながら言った。

「コレを得る為に何を犠牲にしたんだ?」

 鋭いなリュークさん。


「全ての防御」


 オレは防具を付けない。

 と言うより動きを阻害するものは身に付けてない。

 それにより攻撃を『躱す』か刀で『打ち返す』、手の甲や足の甲に着けた唯一金属プレートで『逸らす』だ。

 直撃は即ち『死』となる。

 そう説明するとサイモンは

「俺にはそんな賭けみたいな事は出来ねぇ。怖くないのかよ」

 なんて言ってた。怖いに決まってる・・・躱せるかギリギリの斬撃を目で追い続ける時、一瞬の戸惑いで手遅れになる時の判断、相手を殺した後でも放たれた攻撃は止まらない。その意志を持たないのに残留思念か何かで襲い来る攻撃の恐怖・・・・・・


 リュークさんは「後は話しとくよ」と言ってサイモンと戻って行った。


「レ、レン君」

「あぁ?」

 胸リリーが来た。ったく・・・

「さっきはありがとう」

「別にいい」

「レン君居なかったら私死んでたの」

「・・・・・・」

「なんてお礼をしたらいいか・・・」

「いいって」

「でも・・・」

「あのな!しつこい!」

「え?」

「お前ありがとうって言っただろ?オレもいいって言った。終わりだ。分かったか?」

「う・・・うん・・・」

 オレは立ち上がり見張りの方へ向かうが後ろをエリカがついて来た。

「何だよ!」

 立ち止まり振り返った。

 エリカは頭を下げてそのまま

「リリーを守ってくれてありがとう・・・」

 そして顔を上げ

「それだけよ」

 と言いリリー達の方へ歩き出す。

 顔を上げた瞬間目尻に涙が見え少しばかり戸惑った。

「おい!勘違いすんな!」

 立ち止まり振り返らず聞いている。

「何も守っちゃいねぇんだよ」

 女はまた歩き出し戻って行った。


「オレは何も守れていないんだ・・・」





 皆寝静まって虫の音が微かに聞こえてくる。

 オレの見張りの番が終わり毛布にくるまっていた。

 シエル程では無いが一応精密探知魔法を発動すると、2つの反応があった。

 あの商人達だ。

「クソ!筆談だな、シエルなら内容まで分かるんだがな」

 特に動きは無いので要注意枠で保留にしとく。


 ふと、ボンズやシエルの事を思い出した。

「何やってんだろうな」

 毛布を引き寄せる。

 空のコップに触りカタンと音を立て転がった。

 焚き火の灯りがそのコップに反射してチラチラと目に映る。

「・・・うっとおしいが嫌じゃない光だな」


 見張りのハンターの立てる音が聞こえる。

 不思議と安心感があった。


「でも朝日だけは嫌いだ」


 レンは東側に背を向けて目を閉じた。



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