護衛 2
陽の光があまりにも邪魔するのでそんなに寝られなかった。
やる事も無いのでうろつく。
するとリュークさんが近づいて来る。
「レン君だったかな、先程は助かったよありがとう」
「いえ、間に合って良かったです」
「ところでさ、君の使った魔法ってファイアボールのように見えたんだが、違うのかい?」
「ファイアボールであってます」
「でも普通じゃ無かったよ?発動も威力も。全く違うものに見えたんだ」
「ちょっと発動の仕方が違うんですよね」
するとリュークさんは手の上に火魔法で炎を出した。
「コレが基本なんだが違うのかい?」
「間違いは無いですがオレのは違います」
オレは軽く手を振った。
少し離れた空中にキレのいい破裂音と共に青白い閃光が見えた。
「ちょっと待ってくれ、どこが火魔法なんだ?」
リュークさん困惑してる。
オレ達の使う魔法は基本魔力圧縮から始まる。
一般的には圧縮と言う概念は無いのだがバスドムには最初からこう教えられた。
1魔力を倍に圧縮すれば2魔力。さらに倍で4魔力。それを続けて5回で32魔力。とてつもない威力になる。
容量の問題では無く発動時の反応なので普通、威力を増すにはどんどん魔力をつぎ込まなければならない。足し算である。
オレ達は掛け算みたいな感じだ。
そして魔法とは高速で発動と消滅を繰り返しているため、例えば火魔法だと手のひらの上で燃えているように見えるが実際は点いたり消えたりを繰り返している。
オレの出した火魔法はその1ターンだけの発動なのだ。
そしてファイアボール。普通、は魔法のイメージ、規模、目標の座標、持続時間で発動する。
簡単に言うと、目の前で決められた威力の火の玉を生成しそれが目標に到達しダメージを与えるまで消滅しないように持続させなければならない。よって魔力量は発動からダメージを与えるまでの分必要になる。無駄である。
オレのは少しの魔力を圧縮をして魔法のイメージと発動のタイミングだけだ。後はそのまま打ち出し目標が離れようが動こうがコントロールして着弾と同時に1ターンのみ発動する。高威力でロスも無い。
リュークさんにそんな事をざっくり説明した。
「なるほど・・・私には全くやれる気がしない。それに聞いた事も無いよ」
「まあ・・・あまり公言しないで下さい。師匠に叱られますから」
「当然だ、ハンターなんて秘密だらけだからな」
リュークさんは笑って快諾してくれた。
「さて、そろそろ出発だな」
「ですね」
オレとリュークさんは所定の位置に戻った。
まだ眠いが馬車でウトウトしよう。
「シエルちゃん、イストリアの街が見えてきたよ」
「うわぁーほんとだー」
シエルは御者席の2人の顔の間に割り込む。当然2人の肩に手を置いてだ。
ティークとベンはシエルの顔が至近距離にある事と、なんとも言えないいい匂いに撃沈である。
若いって良いよね
西門で身分証と目的を告げる。
「はい、イシルより荷物の搬入です」
「オレは護衛」
「はい身分証です。仕事に来ました」
そこで衛兵が身分証見るなり『ガタッ!』と驚きシエルの顔を見る。
ニコッと微笑み返す。
ぽっと赤らんだ衛兵。
「ど、どうぞお通り下さい」
「ご苦労さまです〜」
御者席の2人は
「「??」」
知らない方がいいだろう。
「シエルちゃんはこれからどうするんだ?」
「私はギルドに行ってハンター登録します。お金稼がないとね」
「オ、オレも一緒に行くよ。用事もあるから。ついでに案内も出来るし・・・・・・」
ベンがティークをジト目で見ながらため息を吐き
「じゃーオイラはここで。ティーク、また連絡するよ。そしてシエルちゃん、オイラこの辺りをうろついてるから見かけたら声掛けてね」
「はーい、ベンさんありがとうございました」
シエルとティークはギルドに向かう。
ギルドに着くと夕暮れという事もあり依頼上がりのハンターで混み合っていた。
ティークに続き開け放たれた入口からシエルが入ると全ての視線を集めた。
ティークは自慢げにしている。彼女でも無いのに、案内しただけなのに、特に関係無いのに!
シエルは気にする訳でもなく空いている受付カウンターに向かう。
「こんにちは」
カウンターから綺麗なお姉さんが笑顔で応える。
「いらっしゃいませ。どの様なご要件でしょうか?」
「ハンター登録したいのですが、こちらでいいですか?」
「はい、ここで出来ます。今日は身分証などをお持ちですか?」
きたぞこのパターン・・・
シエルは懐から身分証を出し提示すると『ガタッ!』と派手にお姉さんが驚く。
「これでいいですか?」
「は、は、は、はい。た、た、ただ、た、只今お作り致します。それとこちらに必要事項をご、ご、ご記入下さい」
サラサラと記入しお姉さんに渡すと慌てて奥へ走って行った。
少し離れた所からティークが身分証を見たらしく青くなっている。ドンマイ。
程なくしてお姉さんがオジサンと戻って来た。
どこからともなくティークが
「あのオッサンがギルドマスターだよ」
・・・・・・
「お嬢さんはハンターランクの事は理解しとるかね?」
「はい」
「見た所経験者のようだから、能力テストを行って適正なランクを与える事になる」
と言う事で闘技場。
「剣術よりも魔法が得意なのよね?それでは目の前の的を攻撃魔法で破壊して下さい。そして次々と遠く離れて的は小さくなりますので全て破壊出来るよう頑張って」
シエルは難なく全て破壊した。
「す、凄いわね・・・はい、次!」
次は頑丈そうな的に変わる。
「今度は威力テストです。的が縦に並んでますが、後ろ程丈夫になってますので順次破壊して下さい」
シエルは少し頑張るよ!なんて思った。辞めておくんだ!
「初め!」の合図。
シエルは手を軽く上げると『ドン!』と衝撃波から始まり低周波の脈動音が鼓膜を圧迫する。耳の奥から激痛が走るほどだ。
シエルは(んー、これはやりすぎだよね?少し緩めた方がいいかも)と思い圧縮を抜いた。賢明である。
そして「ショット」の声と共に上げた手を軽く振り下ろす。
『ズドーォォォォォン!!』
手前の的から全て、魔法防壁付与の壁ごと消し飛ぶ。
「「・・・・・・・・・」」
職員とティークの顔色が抜けてます。
てか、ティーク居たのかよ
「あはっ、やりすぎちゃった」
「・・・・・・で、で、では・・・次。防御、回避です」
職員、壁はいいのか?
「これからゴールドランクのハンターに手伝ってもらいテストします。2人のハンターの1人は初級攻撃魔法のファイアボール、もう1人は剣術での攻撃を同時に行います、それを捌いて下さい」
シエルはハンターの前に向き合った。
「初め!」
攻撃魔法のファイアボールが高速で3発打ち出され、もう1人の木剣による胴体へ切り込みが放たれた。
シエル目の前で3発のファイアボールは消滅。
木剣の横薙ぎは人差し指と親指により摘まれて止まる。
実際に摘んで止めたのではなく得意の重力魔法で力の向きを変えたのだ。
「女の子に傷が付いちゃったらどうするんですか?責任取ってくれます?」
と、首をかしげてニコッと微笑む。
2名撃沈、罪な女である。
ティークが小さな声で「お、オレが取ってやる・・・」などと言っていたが放っておこう。
1人のハンターがシエルに聞いてきた。
「さっきのファイアボール、初級とは言えどうやって消したんだ?」
「ああ、あれはですね同規模のファイアボールをぶつけただけですよ。相殺?」
「え?出すところも飛んでる所もファイアボールすら見えなかったんだが?」
「内緒で〜す」
とまぁ色々あったが、見事?シルバーランクのハンター証を手に入れた。
「さて、今宵の宿を探さねば・・・あ、受付のお姉さんに聞いてみようかな」
夕方の依頼処理でてんてこ舞いだった受付もひと段落してぐったりしているお姉さんに声を掛けた。
「あのーすみません」
「あはい、何でしょう」
「今日泊まる宿を探してるんですが、どこか紹介して頂けますか?」
「はい、えーっと・・・」
記憶を探るような仕草をした後
「あ、このギルドの目の前の宿がいいですよ!安全で女性ハンターに人気なんです。それに今日一部屋空いたはず」
「ありがとうございます!近くて良かった〜」
受付のお姉さんに挨拶をしてギルドを後にした。
食事も終え三階の部屋の窓際。
探知魔法を発動。
「・・・・・・うん。異常無し」
部屋に結界を張る。
ラフな部屋着に着替えベットに横になりフーっと息を吐いた。
「こうやって落ち着くとな〜」
身体を横に向ける
「淋しいな・・・」
静かに目を閉じ・・・また開く
「てゆーかバスドムさん分かりやすいよ!作戦続行中じゃん!あの子達気付くかなー?特にレンくん・・・」
「へーくしょん!うーっ」
レンでは無い、商隊代表のヤップのくしゃみだ。
「イストリアまであと2日って所ですね」
ヤップは馬車と並走しているリュークに話しかける。
「順調でなによりだ。まあ、この辺りは治安も良いからな」
「問題はイストリア以北ですね」
「まったくだ。デュラセル商会も物好きなもんだな」
「まぁまぁ、大事な貿易ですよ?帝国は物作りの国、ノクチュアの国境での取引は毎年量も増えてますし互いの国の為です。色々情報交換もありますし」
「そんなに気の知れた仲の友達でも居るのか?」
「何年もやってればね。プライベートでも会ってますよ。人情深くいい人達です。もっと国交も深まればいいと思うんですがね」
「そうなんだ。過去に起きた事をいつまでも引きずったところで何も産まないのにな」
「若い者で壊さないとダメなんですよ」
「まずは金だ。そして割のいい依頼だ」
「陸路じゃ無くて、ですよね」
「運河が使えれば・・・楽なのにな」
「こう流れが強くてはね、帰りに楽しましょうよ」
「それな、運河の使える依頼があればだが・・・」
「世知辛いですな」
「違いない」
そんな2人の後方レンの馬車。
相変わらずサイモンの野郎が張り付いてリリー達に話しかけていた。
「パーティーの子達はハンター登録して間もないんだよね?」
「そうよ」
エリカが答えた
「エリカちゃんはシルバーだし凄く強そうだね。何かしてたの?」
グイグイ来るね。コイツ・・・
「私、個人の護衛をしてたの」
「してた?やめたの?」
「・・・・・・契約期間が終わった」
「そうなんだ。凄く綺麗だからモテるでしょ?」
「・・・・・・そんな事ないわ」
サイモン・・・空気読めよ。オレは寝てる振りしてるげど、それなりに気まずい。
「リリーちゃんも何かしてたのかな?」
「私は兵し・・・おじいちゃんに護身のためと仕込まれたの」
おい今兵士って言わなかったか?
「へー凄いな。そうだ、この依頼が終わったら俺たちと合同で依頼受けようよ、ね?」
「あー考えとくね」
「よし、約束だな」
サイモンは喜んで戻って行った。いい返事だと思っているのだろうか。
やっと静かになったからオレは意識を手放した。
「おい情報はまだか?」
「まだだ。ハンターなのか商人なのかも不明だ」
「違うかもって事もあるな」
「まあ指示待ちだからな、気楽にやろうぜ」
「焦ってもな、勘のいいガキにも悟られちゃ終わりだかんな」
「そーだ、休憩の時の通信で一報だ」
「なんだ?」
「イストリアへ向かった潜入がよ、イシルで音信不通らしいぞ」
「まじかよ、聞いた話じゃ裏の奴隷商で曲者揃いだったんじやなかったか?」
「そーなんだけどな、連絡取れねぇらしい。詳細不明だ」
「気持ちわりーな・・・まさか!」
「可能性は無いとは言えねぇ」
「やめてくれ、始末されたんじゃ無かったのかよ」
「カカシだからな」
「その名前言うなよ・・・まあ上手くやるしかないか」
「そーゆー事だ」