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カカシ  作者: 反重力枕
6/17

運河の街イシル

「シエル、アジトを頼む・・・」

「バスドムさん、いいんですね?」

「ああ、オレもお前たちにも思い出・・・」

 ドッカーーーン!!!

「シエ・・・おま・・・サバっとしてるな」

「ええ!それじゃーバスドムさんお元気で!」


 バスドムは北へ向かって行った。


 それを少し見送ったシエルは一路東の都市イストリアへ向かう。


 整った街道に入るとシエルは浮遊魔法と同時に風魔法で一気に加速した。

「確か馬車で5日ぐらい掛かったわよね?このスピードだと2日で着いちゃう?まいいか」

 途中、魔獣が街道沿いに居たが風魔法でスパスパ切り刻んでおくことを忘れない。


 一晩だけ宿を取らなくてはならないので、ちょうど中間辺りのイシルと言う街に立ち寄る。


 ここはテド運河と言う大きな運河に面した街で貨物船などの補給や中継で重要な場所でもある。

 テド運河とは北の帝国側の山間から流れ王国で言う北東からイストリアの西側を掠め、サウランドの北側を抜け西ウエスタウンの南側へ向かう、流通の要でもある。


 シエルは徒歩にて街の西門を抜けた。無人なので騒動は無い。


 人口は少ないが、旅の人は多いので賑やかだ。宿屋も軒を連ねていた。

「すいませーん、1晩お願いしたいんですけどー」

「はーい」

 奥から獣人と分かる猫耳の女将が出てきた。


「あら〜可愛らしい旅人さんね、どうぞどうぞ〜」

「すみません、お願いします」

「どちらからみえたの?」

「王都からです」

「王都からー。じゃーイストリアへ向かうのね」

「はい」

「それじゃー誰か馬車に乗せてもらえるといいわね〜?そんな旅の人居たような気がするわ。あ、夕飯はもう少し後だから部屋で休んでてちょうだい。ミー、お客さん部屋へ案内してあげて」

 忙しく奥へ消えると同時に12才ぐらいの女の子が出て来た。もちろん猫耳。

「可愛い~」

 思わず声に出た。


「こっち」

 と、言いながら手を引かれて部屋に連れてこられる。

「ご飯出来たら呼ぶ」と言い残し去っていった。

 ぽつんと部屋に残される・・・特にする事も無いので窓から街を眺めた。

 部屋は2階なので小さな街は見渡せる。運河沿いに大きな倉庫が並び、控えめだが繁華街もある。


 そこで探索魔法を発動、そっと目を閉じる。

 シエルを中心に微弱で高精度な魔力の波紋がエリアを広げていき、様々な話し声や人影などを感じる。全ては理解出来ないが、人の感情には僅かながら魔力が乗る。悪意のある行動や言葉には負の魔力が乗るため、それを限定した探知を掛けた。

 半径1キロまで到達し異常は無いがあっても些細な喧嘩ぐらいだった。そこからまた戻すように探知を狭める。

 このレーダー波のような探知は時間は掛かるが相手に悟られない。そして精度も高い。

 反して索敵魔法のリアルタイムでエリアを探知すると魔力を大量に放出するため精度に欠けるし魔法に長けた者には気付かれる。

ちなみにシエルはリアルタイムの索敵は苦手なのだ。


 戻す途中でシエルが反応した。

『いいか対象は見つけ・・・い・・・工作員・・・だ。あとカカ・・・・・・つけろ』

『御意』

(上位の魔道具による通信ね。何か嫌な予感するな。やだな〜)

「ま、何かあれば対応するだけよね」


 窓の外には運河の水面に反射する綺麗な夕日が見えていた。みんなどうしてるかな~なんて思っている所にドアがノックされる。

「おねーちゃんご飯」

 ミーちゃんが呼びに来た。

「はーい、今行くよ」


 部屋を出て階段を降りるとまだミーちゃんが途中に居てこっちを見上げて待っていた。それを見た時無性に可愛く思えて足早に降りミーちゃんを抱きしめた。

「な、な、な、何を・・・」

「ミーちゃん可愛い!ギュッ」

「や、や、や、辞めて~〜~」


 その後はあまり話しては貰えず、大人しく床に着く。

「そんなに急いでイストリアに行かなくてもいいんだし、馬車でも探してゆっくり行こうかな」

 探知で引っかかったのも気にしない事にした。


 そしてカエラの事を思い出し布団を頭まで被る。知らないうちに身体を丸めて眠りに着いていた。



 次の日、宿の女将さんが荷馬車が集まる場所を教えてくれたので行ってみる事にした。言わばターミナルだ。


 路地を抜けそこへ向かう途中どこからが声が聞こえる。

「誰か助けてください・・・」

 その声の主はすぐに見つかった。路地の壁に寄りかかってしゃがみこむ女性がいた。

「大丈夫ですか!」

 女性はシエルを見るとハッとし、申し訳ないような表情で

「あっ・・・いいの、大丈夫よ」

 と、小さな声で言う

「どこか辛いんですか?」

「あなたはダメ、早く行って」

 と同時にその女性の肩に置いたシエルの手を背後から現れた男に掴まれた。

「嬢ちゃん、一緒に来てもらおうかな」

「はい?」

 するとさっきの女性が、ごめんなさいと小さな声で言いながらどこかへ行ってしまった。


 目隠しと後ろ手に拘束されどこかへ連れてこられた。

「離して!」

「そりゃ聞けねぇな、こんな上玉そうそう手に入らないからなへっへっへっ!」

 シエルは何かに気付いていた。


 しばらく歩いて男は立ち止まる、扉の前のようだ。

「おい!俺だ」

 鍵を開け扉が開かれる。シエルは背中を押されて中に入るとかび臭い匂いが鼻をつく。

 目隠しを外されて見るとどこかの倉庫のようだ。


「ボス、上玉が手に入りやした、どうですか?」

「ほほう、なかなかのもんじゃないか」

「ちょっと、これはどうゆう事なの?私、旅の途中でイストリアに行かなきゃならないのよ?」

「あー、残念ながらその旅はおしまいです。何故なら、この瞬間あなたは奴隷として売られる事になりましたから~あははは」

「あなた達何を言ってるの?そ、そんなの嫌っ!離して!」

「大人しくしろ!」

「本当は出荷も終わって、ここから引き上げる予定でしたがね。とんだ上玉が手に入るとは」

 いやらしい笑みを浮かべる

「まあ、売り飛ばす前に私たちと楽しい事しますが」

「へっへっへっ〜、ボスの後は俺たち3人が相手するぜ〜」

 男がシエルの体を舐めまわすように見る

「ちょうど今日は全員いたからな、良かった」

 突然シエルの顔から感情が消える。

「どうしたんだ?嬢ちゃん」

「全員居るんだ、そしてあなた方は犯罪行為の人身売買をしてるって事よね?」

「それがどうした?」

「お仕置きします」

「はっ!拘束されたままでか?俺たち強いぞ?ひゃーハッハッハッハー」

 その時低い衝撃波の如くドンと空気が揺れる。即座に気温が下がり吐く息が白くなる。

「なんだ!何が起こった!」

 1人の男が

「と、扉が開かねぇ!」

「おい女!何かしやがったな!魔法だろ!」

「女を殺れ!早く!」

 シエルは薄ら微笑み

「殲滅します」

 さらに低周波のように空気が唸り出す。鼓膜から脳内にまで突き刺すような脈動が男たちを襲う。頭が割れそうに痛く、耳から血を流す者もいた。


 シエルの拘束は既に消滅しており両腕を左右に広げていた。そして一言。

「クラッシュ」

 の言葉と同時にその腕を胸元まで引き寄せる。メキメキ!ぐしゃ!と、鈍い音がして男たちは崩れ落ちた。


 静まり返る倉庫内。


「ボスとか言う人、あなたは昨夜長距離通信の魔道具を使ってた人よね?」

 答えぬ亡骸を前にシエルが問う。

 最初の時点で残留魔力に覚えがありシエルは気付いていたのだ。


「面倒事は嫌だからね」



 通りを歩き広場のような場所に来たら、何台か馬車が荷物の積み下ろしをしていた。

「すみません、イストリアへ行きたいのですが、どなたか行き先が一緒なら乗せてもらえないでしょうか?」

「なんだ嬢ちゃん、オラ達は途中までだでムリだぁ〜。あそこで馬に餌やってる若造、ベンならイストリアへ行くから聞いてみ。なぁ。」

「ご親切にありがとうございます」

 おじさん達少し顔が赤いようだけど?暑いもんね。

「いや〜、べっぴんさん居るもんだなぁ〜」

「ほんとだな、目の保養なっただ」


「あのーちょっといいですか?」

 馬に餌をやりながらシエルの方を見たベンはガタン!と驚く。

「オ、オイラか?」

「はい。向こうの人達にあなたがイストリアへ行かれると聞きまして、もし宜しければ乗せてもらえないでしょうか?」

「・・・・・・」

「えっと・・・聞いてます?」

 ベンは見とれていた。

「は、はい!」

「驚かせてすみません。で、どうですかね?」

「あ、あ、オイラはいいんだけど・・・」

「いいんだけど?何かあるのですか?」

「護衛のハンターを1人雇っているんだよ。そいつに聞いてみるから・・・あ、来た」

 奥の方からハンター装備の青年が歩いて来た。

「ベンどうした。トラブルか?」

「いやそうじゃない。この子、行き先がオイラ達と一緒なんだよ。だから馬車に乗せてあげてもいいかい?」

「別にいいけどよ、オレが受けたのはベンと荷馬車の護衛だ。あの子の分は入ってねぇぞ?」

「そこを何とかならないかい?」

「ベン、いいか?オレはタダで命張るハンターじゃねーんだよ!」

「そーか・・・そーだよな・・・」

 そこへシエルが割り込む

「あの〜私、こう見えても戦えますよ〜」

 現在シエルの格好は、白を基調とした花柄のブラウスにウエスタン風のベスト。下は細かいプリーツのミニスカートにロングブーツ。

 腰にはレイピアを帯剣している。


 シエル自体金髪蒼眼優しい顔つきの美人である。


 ベンとハンターの男は少し頬の当たりが赤い。

「そ、そうなのか?」

「はい〜。だから護衛枠で結構ですし、運賃もお支払いします」

「じ、じゃーいんじゃね?ベン」

「わ、分かりました、ありがとうございます」

 若いって良いよね


「自己紹介がまだでしたね。シエルと言います。剣も少しやりますが、魔法が得意です」

 頭を少し傾げてニコッと笑った。

「オ、オ、オイラはベン・・・・・・」

 下を向いてしまってる。

「オレはティーク。シルバーランクのハンターだ」

「すごい、シルバーって強いんですね」

「そ、そんな凄くは無いと思う・・・・・・ところでベン、出発はもう出来るのか?」

「ああ、整ってるよ。それじゃシエルちゃん・・・乗って」

「はーい。お願いします」

 御者席にはベンと護衛のティーク、荷台の空いてる所にシエルが座った。


「荷馬車だからね、イストリアまで3日ほどかかるよ。シエルちゃん大丈夫かな?」

「もう全然問題無いですよ~」

 ベンは(ホントこの子大丈夫なのかな?)なんて思っているが、心配なのはお前らだよ。


 一路イストリアへと荷馬車はゴトゴト進む。


 日差しは強いが幌があるのと風が通る事で荷台は快適だ。

 シエルはいつの間にか荷物に持たれて眠っていた。


「シエルはどこから来たんだ?」

 ティークが問うが返事が無いので振り返る。

 その理由の理解と同時に寝顔を見てドキッとした。


 ティークの様子がおかしいのでベンも振り返る。

 また同じようにベンもその寝顔に心を撃ち抜かれる。


 無言のまま2人は馬の背中をじっと見つめるのであった。






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