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カカシ  作者: 反重力枕
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ウエスタウン

 村を立ち3日目の朝、遠くにウエスタウンが見えて来た。

 乾燥し砂漠化した地帯にあるオアシスに栄えた都市で、鉱石の産出が多く豊かである。

「見えて来ましたね。昼過ぎには着きますよ」

「・・・そうですか」

 ブラスも気配に気づいた。

「出ましたね。出逢わずに街に入りたかったんですがね」

「大丈夫です。このためのオレですから」

 盗賊が街道を塞いだ。前に8人、後ろに5人。

「ボンズさん、人数多いですが?だ、大丈夫ですか?」

「んー、何とかなります」


「おい、馬車と金と装備品全部置いていけ」

「・・・・・・」

「おい聞いてんのか?殺すぞ!」

「あーっとわりー。聞いて無かったわ」

「なんだこのガキ?あーめんどくせぇ、殺せ!」

 盗賊達が各々武器を構え向かってくる。

「ブラスさん、駆除でいいんですよね?」

「はい、当然です!」


 ボンズは先に後ろの5人に巨大な風弾を放つ。

 5人共急に見えない何かに殴り飛ばされたかのように身体をあらぬ方向に折り曲げながら吹っ飛ぶ。

 その衝撃は現代で言うなら高速道路で跳ねられる、いやサーキットで跳ねられる感覚だろう。

 衝撃波もすざましい。前にいた8人は固まった。

 ボンズが前に向き直る。

 盗賊の頭らしき男が前に出た。

「ふ、ふざけたガキだな。武器も持たずに魔法だけかよ」

 男は身体強化を重ね掛けし視認出来ない程のスピードで袈裟斬りに振り抜く。

 だが『キーン』と音と共に刀身が折れ、横にいた男の眉間に突き刺さる。

 そのまま後ろに倒れるとそれを見た6人の男達は動揺し後ずさった。


「魔法は使わなかったぞ?」

 ボンズは高速で振り抜かれる剣を側面から殴り折っていた。

 頭らしき男は柄だけになった剣を握ったまま理解が追いつかずそのまま尻もちをつき固まった。その隙に残りの6人にはガンズが回し蹴りから斬撃を放ち首の動脈を断った。

 一応加減した。らしい・・・


 ブラスは口を開き絶賛驚愕中。

「おい盗賊、なんて言ったんだっけ?」

「な、な、な、な、何にもい、い、言ってねぇ。た、た、助けてくれ」

「はあ?お前オレに刃を向けといて勝ち目がねぇから助けろなんて都合がいいじゃねーか。オレを殺そうとして剣を抜いたんだろ?だったら死ぬ覚悟も済ませたはずだよな?」

「いや、まてまてまてまて金を好きなだけやるから、な?」

「いらね」

 ボンズが間を詰めて辺りを見る。

「じゃー仲間の死体を街道脇に寄せろ」


 それからその男をロープで縛り上げて死体と一緒に転がした。

「お前にチャンスをやる。衛兵に突き出すよりもいいだろ?恐らく縛り首だからな」

「ち、ちょっと待ってくれ!これじゃ魔獣に襲われる!」

「街に着いたら衛兵に伝えてやるから待ってな。あーそれじゃ一緒だな」


「ブラスさん?」

「は、はい」

「行きましょうか?」

 ブラスは思う。ボンズの強さは異常だ、ハンターとかの戦闘力では無い別次元だ。

 確実に急所のみの攻撃と、とにかく静かで速い。まるで暗殺者のようだ。


 そうこうしてるうちにウエスタウンの入口検問所に着く。

「身分証と目的を」

 ブラスは言われるまま出す。

「はいどうぞ、仕入先からの帰りでございます」

「ああブラス様、ご苦労さまです」

 そして・・・

「おい身分証と目的を言え」

「はい身分証」

 ガタン!衛兵が驚く

「申し訳ありません!お通りください」

「ん?どしたの?」

「いえ、どうぞ!」

「変なの・・・」


「ボンズさん、どうかしましたか?」

「なんかオレの身分証見たら様子が変なんです。ま、通れたからいいんですけどね」

 そう言いながら仕舞う身分証をチラリとブラスは見た。驚いた。

 問いただすのはやめよう。絶対聞かない方がいいに決まってる。

 商会主のデュラセル同様、同じ決意をするブラスであった。


「それでボンズさん、どうします?ウチの店まで来てみますか?」

「いや、この辺りでいいです」

 ボンズは飛び降りた。

「そうですか。今日までありがとうございました。店の方にも遊びに来てくださいね」

「こっちこそ乗せていただいてありがとうございました。そのうち装備や武器を見に行きます」

「それに私には『情報』もありますのでご入用の際はなんなりと」

「その時はお願いします」


 ゴトゴトと遠ざかる馬車を見送ると目付きが鋭さを増す。

(街に入ってから付けられてると言うよりも監視って感じか。気配が薄いな・・・)

 ボンズはギルドに向かいながら思う。


「オヤジ、何となく分かってきたぜ・・・」




 相変わらず煙をもくもく吐き出すヘンリー工房。


「出来たぞ、ボーズ」


 レンはそれを2本とも握って掲げる。

「儂が合図をしたら魔力流すんじゃ」

 爺さんが手をかざして「今じゃ!」ドン!と衝撃と低周波の唸り音が合わさる。すると黒色の柄にシルバーの亀裂模様が刻まれた。

「完璧だ、爺さん!」

 そう、『刀』の完成だ。

「当たり前じゃて、儂が作ったんじゃぞ?失敗などあるか」

「爺さんいいのか?こんな高価な材料を使いまくったけど」

「かまわんよ。どうせ使う予定など無いわい」

「そうか」

「そしてな、新しい物を作るのに最高の材料使わんで職人の名折れじゃて」

 真っ黒の刀身に赤紫の様な色で刃文が輝く。

 使用者固定、自動修復、不壊。

「魔力の通りの良いミスリルと真逆の特性のアダマンタイトの合金じゃからな、魔力抜けの反応もピカイチじゃぞ!ほっほっほ〜」

「爺さん、ありがとよ」

「礼なんか言うでないわい気持ち悪いクソボーズじゃの」

「ったく口の悪いジジイだな」

「ところでボーズ、その服はどうしたんじゃ?」

「服って これか?」

 着ている服を指さす。

「デュラセルって商人の護衛をやった時に駄賃に貰ったんだよ」

「ふーん、それなウチのカミさんが作ったやつじゃ」

「え?えーーーーーっ!マジか」

「ハンター向けの服を製造する職人じゃ。なかなかのぶっ壊れ性能じゃぞ?その服」

「そうなのか?」

「デュラセルの小僧に聞いてないのか?いつもウチの工房の商品はデュラセル商会に卸してるが・・・いや、カミさん言ってないかもな。素材も儂が知らん物だったからの。かーぼんなのちん?とか何とか言っておったの。それに魔力処理のオンパレード。ほっほっほ〜」

「カーボンナノチューブ」

「おう、なんだボーズ知ってるのか」

 オレは確信した、奥さんは転生者だ。

「奥さんは今居ないのか?」

「帝国へ修行の旅じゃ。その服一点物だぞ」

「そーか。詳しく聞きたかったんだがなぁ。(いや、絶対めんどくさい事になる!)で、剣はいくらだ?」

「金貨200」

「ほい」ジャラッ!

「!!!!・・・・・・」

「なんだジジイ?」

「迷い無く出しおったわい、金持ちじゃの・・・」

「爺さん、注意事項は?」

 オレは腿の鞘に刀を納めながら問う。

「そーじゃの・・・切れ過ぎ注意じゃ」

 一瞬ポカンとして


「違いねぇ」



 工房を出て振り返る。


 相変わらずもくもくと煙を吐き出している建物を見てなぜか口許が緩んだ。前に向き今日までの4日間を思い呟く。


「また来よかな」




 翌日、ギルドのロビー。


 依頼ボードの前が慌ただしい。


 一際大きな紙で他の依頼に被せるように『優先依頼』と言うのが貼り出されていた。

「なになに、護衛の依頼か。サウランドよりノクチュアまでの商隊の護衛。シルバーランク以上のソロ、またパーティならシルバーを含むカッパーでも可。食事付きで報酬は前金貨10後金貨20か。サウランドより商人の荷馬車が4台、東の都市のイストリアより荷馬車4台合流の計8台。必要人員24人。イストリアより護衛ハンター6名も合流・・・ふーん」


 隣で他のハンターも仲間と相談している。

「おい、なかなかいいんじゃねーか?」

「そーだな。期間がえーっとサウランドからイストリアまで単独馬車で4日だろ?商隊となると速度落ちて休憩増えるから1週間だ。そんでイストリアからノクチュアまでが単独でも1週間が商隊だと2週間。トンボ帰りしても1ヶ月以上だ」

「運河使えば帰りはもっと早いし楽だぜ」


 オレはそれを聞いて「暇だしやろ」と決めた。


 依頼受注のカウンターへ向かうと何時ぞやの胸女パーティーに出くわした。ついてない・・・

「あ・・・」

 と胸女が気付く。

 オレはチラッと見たがそのままカウンターへ向かった。

 ハンタープレートを見せて何かの魔道具で読み取り受注はすんなり終わった。出発は明後日の朝だ。

「明後日まで必要な物の準備をしてゆっくりすっかな」

 と出口に向かおうとしたら、また胸パーティー。もう胸パーティーと呼ぼう。

 すっと通り抜けようとしたら・・・


「ちょっと無視しないでよ」

 話しかけてきたぞ?

「はぁ、もう謝っただろ?」

「そ、それはもういいわ」

「じゃ用事ないな」

「い、いや待ってよ、そうじゃないの」

「だったらなんだよ」

「護衛の依頼受けたんでしょ?私達も受けたの」

 と、他の3人の女達がオレに顔を向ける。あの時突っかかってきた女も居る。

「あそ。じゃ」

「ちょっと!何ですぐに行こうとするのよ!」

「もーっなんだよ」

「同じ依頼を受けて一応仲間みたいな感じになるんだし、んーと・・・紹介するわね。私はリリー、カッパーよ。そして見覚えあると思うけどこっちがシルバーのエリカ」

 あの時突っかかってきた女だ。黒髪で目元が誰かに似てる気がするが思い出せないからいいや。

「そしてこの子もシルバーのマリ、獣人族なの。最後はカッパーのリエラ」

「レンです。また明後日な、じゃ」

 めんどくさいのでとっとと出てきた。後ろで何か言ってたが無視だ無視。


 この世界での人種だか、人族、獣人族、エルフ族、魔族が居る。だいたい分かるだろうが、ただ魔族と言うのは魔力の保有量が多く頭に小さな角の様な突起がある。

 ただそれだけである、邪悪ではない。


 ここのギルドマスターが魔族だ。


 そしてこの王国は中央に王都を構え東にイストリア、西にウエスタウン、南にサウランド、北にノクチュアの5大都市でなりたっている。

 ただ、北のノクチュアのさらに北に国境があり先には北の帝国がある。

 昔は帝国と戦があったのだが、先人達の努力の末問題は解決し和平条約が締結された。

 戦に発展した火種と言うのは帝国貴族の1部の者の王国への私的恨みだった為などと言われている。

 確かに帝国はただ寒いだけで領土も広く資源も豊富。魔石の産出も帝国産がほとんどで国民も裕福なのだ。攻め入る理由など無い。

 そして帝国では魔術の研究も盛んでほとんどか生活向上に利用されている。

 昔は軍事目的の高威力、非人道的魔法や魔道具などがあったらしいが現在では全て封印されている。はずだ・・・






「これ、分かった事だけ報告しなさい」

 天蓋ベットに白いレースのカーテンで見えないが煌びやかなドレスの女が座って問う。

「はっ!やはり全て蒸発しており死体はおろか身につけていた装飾品の痕跡すらありません。爆心より離れて待機していた者すら蒸発状態でした」

「下がっていいわ」

 兵士が退室する。

「ほぼ始末出来たと思ってもいい状況、でも死体が無いとなると・・・だから得体の知れない工作員なんか使いたくなかったのよ!でも、ついでに奴らも消えたかしら・・・」

 女はワインを飲み干す。

「ガルバ、ガルバ居る?」

「はいシシリア様」

 どこからともなく初老の執事が現れる。

「一応調査の者は出してあるわよね?」

「もちろんです。その筋に長けた者を各地に」

「そう。そして一緒に始末出来たんでしょ?」

「はい、かなりの熱量でしたので避けようが無かったと確信しております。そしてアジトらしき施設も辺りがガラス化する程の炎で焼かれていました」

「そう・・・残っていても指揮系の者だけね。でも油断しないで、カカシには・・・」

「かしこまりました」


「死んでればいいのよ、死んでれば・・・・・・リリアン」


 この女は現国王の後妻シシリア。


 国王のアーノルドは原因不明の病で療養中である為、現在は宰相のヘブンが代わりを務めている。

 国王の前妻のミリアンナは自殺した。自殺したとされている。何者かに暗殺された事は分かっているのだが、公表されなかった。何かの圧力によるものだ。

 前妻のと間には1人娘がいた、リリアンと言う。国王はたいそう可愛がった。

『儂が死んだら国はリリアンに任せる』そう遺言にも記されている。

 後妻のシシリアはそれが気に入らなかった。二人の間にも子供はいるのに何故前妻との子を?とだ。

 ごもっともだが仕方ない。


 この辺りからシシリアの様子もおかしくなり、国王も病に伏した。

 だが、守ろうとする者もいた。


 国王は帝国との繋がりを確たるものにするため、帝国から妻を摂る。

 それゆえ、帝国を巻き込む。いや、帝国が王国を巻き込んでのかもしれない。




これより1日1話投稿にします。

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