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カカシ  作者: 反重力枕
3/17

ギルドへ

 朝日は遠くの山の立ち木を掠めて尚も眩しさを窓から強引に差し込んで来る。

 目障りになり布団を被った。

 久しぶりに布団で休んだからか、身体はベットから剥がれ辛い。


 昨日、路地で助けた女の子に案内された宿は彼女の家でもあった。

『女神の(ぬか)亭』

 主人はロベス(30)、女将はリタ(28)、そして助けた娘のシル(12)。そしてコック見習いのトム(16)でやってる。

 食堂と宿屋が一緒になった造りだ。1ヶ月泊まって銀貨10枚のところを5枚の半額にしてもらった、娘を助けてくれたお礼らしい。そのかわり料理は定額でいっぱい食べろだって。


 ベットから体を起こしぼーっとしてると

「レン、起きてる?朝ごはん早く食べて欲しいんだけどいい?」

 ドアの外からシルの声がする。

「わかった今行く」朝食付きのためだ。


 オレは昨日デュラセルのジジイから貰った黒を基調とする服を着て装備を装着する。

「お高いと書いてあったがこりゃそーとーだな」

 要所要所にしっかりと補強が施してあるにもかかわらず、動きの阻害は全く無い。温度調節機能も装備してるみたいだ。快適だな。


 手荷物やお金は収納魔法があるから手ぶらだ。


 階段を降りて行くと女将のリタがちょうど料理のプレートを持ってテーブルに置くところだった。

「おはようございます、遅くなってすみません」

「あら、おはよう。いいのよ、昨日はホントにありがとうね」

「いえいえ、こちらこそお値打ちにして頂いてありがとうございます」

「慌てなくていいからゆっくり食べてね」

 この男、別人の様な態度である。


 食事をしてると奥のテーブルでコーヒーを飲んでいた大柄なオヤジが話しかけてくる。

「おい若いの、見ない顔だが依頼か何かで来たハンターか?」

「・・・」(スープをすするオレ)

「おい聞こえねえのかボーズ」

 カップを置いて。

「るせぇな。見たらわかるだろ?飯の邪魔すんじゃねぇーよ!クソジジイが!」

 別人じゃありませんでした。


 レン以外固まった状態で当の本人は悠々と食事を済ませる。

「女将さんご馳走様でした。それじゃ行ってきます」

「あ、あ、あ、ああどういたしまして。い、行ってらっしゃい」

「お・・・お、お、おい、ボーズ」

 ギロッと睨みながら「なんだよオッサン」

「さっきの話だがどうなんだ?」

「あーっと、これからハンターやるから?この街に来た。うん」

「そ、そうか。ギルド行くんだろ?」

「そうだ。あ、そのギルドだが・・・何処にある?」

「なんだよ、ここから出て目の前が噴水のある広場だろ?それ挟んだ真向かいだよ」

「気が利くじゃねぇかオッサン。ありがとよ!」

 残った一同苦笑である。


 オッサンの言う通りギルドはあった。

 石造りの4階建てで表には『サラウランド中央ギルド』と看板が掲げてある。


 入口付近には幾人ものハンターらしき者がたむろしてワイワイと談笑していた。その入口ドアを開けて入ろうとする4人組の若い女性ハンター達に続くようにオレもギルドに入った。


 中は広いロビーで幾つもの椅子やテーブルがあり、各々座ったり立ち話をしたりとかなりの人数で賑わっていた。

 入ってすぐの所に『ハンター登録をする方へ』と言う冊子を見つけ手に取る。


 なになに・・・ハンター登録には15才以上で言葉が通じれば誰でもなれる。登録に必要な物は身分証、無ければ最低でも名前があれば可。適当だな。


 ハンターにはランクがあり、下はアイアン。

 順にカッパー、シルバー、ゴールド、ミスリル、最上級のアダマンタイトとなる。それぞれ受けられる依頼や報酬額が変わってくるから頑張れってか、なるほど。


 などと読みながら歩いていると冊子を持つ手に『ぽよよん』と心地いい弾力を感じた。

「ん?」と見ると、それは胸である。

 そう、女性の胸である。

 そう、それはとっても柔らかく大きな胸である。

「んん!!キャー!」

 バッチーン!

「ヒブーーー!」

 水平に飛んで入口横の壁に張り付いて止まる。

「おい生きてるか?大丈夫かおまえ?」

 近くに居たハンターが聞いてくる。胸に触って焦ったせいで全く反応出来なかった・・・いててて・・・

 こんなの物理防御力無いのと一緒だわ。

「ああ、なんとかな」

「つーかどんだけ弱っちーんだよ」

「しゃーねぇだろ、こんなんだからよ。うぅー痛てー」


「ちょっとあんた!この子に謝りなよ!」

 連れの女が睨んできた。

「え?」

「おまえ謝っといた方がいいぞ女はしつこいからな。それにアイツらは最近現れたんだけど、一応カッパーランクの女性パーティの連中だ」

「ったく、悪かったよ」

「なにその態度!リリー、どうする?」

「もういいよ、あの子の方が痛そうだし・・・」

「わかったわ。あなた気をつけなさい」

 そう言うと彼女らは受付カウンターの方へ行った。

 そのリリーと言う少女のローブの内側に見覚えのある物が見えたような気がしたが・・・まあいいや。

 オレはさっきの感触を思い出して顔がニヤけるのを我慢しながら、まだヒリヒリする頬をさする。


「さ、ハンター登録をするか」


 キョロキョロしながらハンター登録のカウンターを探してると。

「おいガキー、女に素で殴り飛ばされるようなお子ちゃまが来るようなとこじゃねーぞ?」

「そんなに弱いとなスライムでも即死じゃね?あーははははははははは」

 ハイハイ来ましたねテンプレ・・・

「邪魔だどけ」

 前に立った男を押し退ける

「お、こらなめんじゃねぇ!」

 男はオレの顔面目掛けて拳を放った。が、なんの抵抗も無くすり抜けて隣の仲間の男を殴った。

 殴られた男はテーブルを2つ巻き込み派手にすっ飛んだ。

「なにしやがった!」

「ったく、馬鹿の一つ覚えみたいに!避けたことも分からねえのか?」

 男は剣を抜き放ち職員の静止も間に合わずオレに斬りかかってきた。

 避けてもいいんだが、ここで避けたら近くにいる男に刃が届く。

 流血騒ぎは流石に不味いと思い、剣筋に腕に装備しているミスリルのバトンを合わせて止める。同時に男の顎を蹴り上げて意識は完全に刈り取ってやった。


 何故か静まりかえったロビー。


 周りから「あのボーズって強いの?弱いのどっち?」

「さ、さあ」

「お前見えたか?」

「いや、何も?」


 とっとと登録しよ。


 目の前のカウンターに居たお姉さんに「ハンター登録お願いします」と言ったが

「・・・」

 固まってる

「あの!ハンター登録お願いします!」

「あ、は、はい。えっと・・・お、お持ちでしたら身分証の提示をお願いします」

「はい」と身分証を見せる。

 見た途端『ガタン!』と派手に驚きオレの顔と身分証を行ったり来たり。

「ダメなんすか?」

「だだだ大丈夫ででございます・・・です」

 何かめんどくせぇな。

「それではこちらに名前と年齢、わかる所で結構ですので記入して下さい。あ、代筆致しましょうか?」

 この世界では読み書きの出来ないヤツは多いが、オレは組織で徹底的に叩き込まれたから問題ない。

「必要無い」

 さらさらと書いて用紙を渡したその時。

「ちょっと待て」

 ああ?と振り返ると見覚えのあるオッサン。

 そう、朝飯を邪魔したオッサンが居た。

「なんだオッサン、また邪魔するのかよ?」

 何故か職員は慌ててるが知ったこっちゃねぇ。

「さっきから見てたがボーズ、おまえ強いだろ?」

「どっから見てたんだ?気持ちわりーな。つーかオッサン、用ってそんな事か?だったら弱いです。はいおしまい!」

「まあまあ・・・その、女の子にぶっ飛ばされる辺りだが・・・」

 何だこのオッサン?

 すると女性職員がおずおずとオレに告げる。

「こちらの方はこの中央ギルドのギルドマスターでございます」

「へー、それで?」

「・・・・・・」

「だから!それがどーしたんだよ!早く登録しろってんだ!」

「まあ待て、いいか?このまま登録すればアイアンランクから始まる」

「当然だろ」

「そこでだ、ウチのギルドは土地柄魔獣が活発でな、より強いハンターの加入や教育に力を入れてる。そこで腕に覚えのある奴は高ランクから活動が出来るように試験をやってるんだ」

「で?オレに試験をしろと?」


「ああ。このギルドマスターこと、マクウェル・ダラーと模擬戦だ」



 ギルドには訓練所や闘技場があり、その闘技場にオレは立っている。

 何やらギルドマスター自ら相手をするのが珍しいらしく、見世物状態だよ。

 だいたい暇してるミスリルかゴールドランクの者が相手をするらしい。ちなみにギルマスはミスリルだって。


「オッサンに勝てばシルバーか・・・」

「なんだ?不満か?本当はミスリルくれてやりたいがな、ゴールド以上は信用も考慮されるから無理だ。そしてオレに、まず、勝て」


 お互い武器は貸し出しの木剣。オレは短剣サイズが2本だ。

 判定は副ギルド長のザバス。


「おい、準備はいいのか?」

 オレは肩や首を回しながら

「もう始まってるんじゃねぇのかよ?なぁ、マスター様」

「はっ!面白ぇ!」

 マクウェルは身体強化を掛け視認出来ない程の踏み込みで突きを放った。

 剣先はオレの喉元を正確に捉えてる。が、先が触れる寸前には顎を上げ剣の芯を蹴り上げた。

 マクウェルは剣を振りかぶった状態になる。

 オレは元の姿勢だから周りから見ると、突きをすると見せかけ剣を振りかぶったように見える。恥ずかし。

 マクウェルは一旦距離をとった。

「なるほど。そうか・・・」

 するとファイアボールをオレの周りに撃ち込む。

 視界を奪うつもりだな・・・ホコリで全く見えねぇ

 オレには関係ないんだがとりあえずバックステップで下がるとすかさずホコリの中から突進と横薙ぎで斬りこんできた。

 普通なら避ける事は不可能だが、オレはそれを身を低くして躱す。

 返しの斬撃は更に低く入るがそれも軽くジャンプで躱した。

 待ってましたとばかりジャンプした空中のオレを今までに無い鋭さで斬撃が襲う。それが本命だった。

 普通は避けられない、空中だし反応も無理だろう。

 オレは風の盾を作りそれを足場とし蹴ってマクウェルに覆い被さる形で仰向けに倒した。

 同時に剣を抜き腕をクロスした状態で首を刈る格好だ。


「勝負あり!」

 ザバスの数少ない出番である。


 見物のハンター達はどよめく。マクウェルは立ち上がる。

「やるじゃねぇか、えーっとレンだったか?今日からシルバーランクのハンターだ」

「ふん!」

「よろしく頼むわ」

 オレの肩を叩いて闘技場を出ていった。

 周りは騒いでるが・・・

「なんかめんどくせぇ」と思いながら出口でさっきの女性ハンター、触っちまった方が話しかけてきた。

「強いのね」

 一瞬警戒したが

「んな事たねぇよ」

「そう?」

 なんかムカつくな!あの女!


 オレはシルバーランクの証、そのまんまシルバーのプレートに『レン』と魔法で刻印されたネックレスを貰った。

 依頼の受理完了や報酬の手続きに必要な物で大切にしろということだ。




 ギルドマスターの部屋ではマクウェルとザバス。

「私はそのスジの者から噂を聞いた事がありますね。この程度の事しか話せませんが」

「あの動きと戦い方・・・」

「どうでした?」

「コッチも手加減はしていたがヤツも本気じゃなかったな」

「あれで?」

「ああ、本気なら剣も抜けなかったと思うぞ?予想だかな」

「こりゃまたとんでもないのが居たもんだ、ははは」

「それと王宮のゴタゴタと妃の暗殺やテロ騒ぎ、北の帝国への警戒度の底上げ。物騒過ぎる情報だらけだ」

「リリアン様の詳細は不明。私達には情報開示はありませんからね〜」

「まったくだ。自分の身は自分で守れ、か」

「独自の調査はあまり進展は無いですが続行中ですので」

「一体何なんだ?カカシ・・・。ザバス、何度も言うようだが・・・」

「分かってます、マスター」



 オレ達組織の者は6人を失った事を教訓に新たな訓練を受けた。

 通常の人間の『反射』『認識』『運動伝達』を高速化するための訓練だ。

 それは全ての神経伝達を魔力に置き換えると言う超無謀である。

 これにより思考までもが高速化し今までの訓練で得られた技は異常な域まで研ぎ澄まされたものになっていた。




 ーサウランドから北の街道ー

「了解」

「なんだって?」

 通信魔法を終了した男にもう1人の商人風の男が聞く。

「情報通りサウランドに似た人物の目撃情報があったらしい」

「確実ではないか・・・」

「仕方ないさ、ここまで探り出した事すら奇跡だからな」

「まだ他に居るんだろ?」

「わかんね。調査中だ」

「例の組織は残党もろとも消されたって噂だけど」

 もう1人の商人風の男は通信魔道具を懐にしまいながら言う。

「死体も残らず蒸発したらしいぜ」

「怖い怖い。ま、確認までが仕事だからな。後は危ない奴らにお任せだ」

「だな」



 ギルドロビーのソファーにオレはだらけて座ってる。

 何する訳でもなく剣を鞘ごと外して眺める。

「この剣もボロボロになって来たな」

 そうだこれを機に新調するか!

 工房とかわかんねぇから誰かに聞くかな。

「レン、キョロキョロしてどーした?」

「おお、オッサンマスター。ちょうどいい所に来たな。剣を扱ってる工房のいいとこ教えろ」

「オッサンマスターって・・・口悪いなお前。そーだな、1軒あるぞ」

「そーか、教えろ」

「かなり偏屈オヤジだが、腕は確かだ。ただ・・・」

「ただ?なんだよ」

「お前が気に入られるかどうかだが・・・」

「ああ、なるほどな」

「自覚あるんだな・・・」

「こんなガキだからだろ?」

「いや・・・まあいい、とりあえず行ってみろ」

 何だこのオッサン!



 ギルドを出ると肉とソースの焼けるいい匂いが漂って来た。時間は昼時で飯屋や屋台は人で賑わってる。

 工房までの途中で串焼きを三本買って広場のベンチで食べることにした。


 天気がいい。

 背もたれにもたれかかって空を見上げると雲ひとつなく晴れ渡っていた。


「何でこっちに来たんだろな」


 肉の無くなった串を太陽にかざして見る。


「やっぱり眩しいや」


ストックあるうちは余裕なんですよね。

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