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カカシ  作者: 反重力枕
2/17

一番星

「シエル!大丈夫か!」

 誰かが罠を起動させたらしく建物内は火の海だ。

 指向性を僅かに持った炎がシェルに向かうのが見え咄嗟に風の盾を飛ばし向きを変えた。

「うん助かったわレン」

 そこへ通信魔法が入る。

『てめぇしくじりやがったな!カエラが巻き込まれて消えちまったぞ!』

「か、カエラが!?オレ達じゃないぞ!」

『許さねぇからな!』

 それに被せるように新たな通信が入る。

『作戦は中止。直ちに離脱!繰り返す、作戦は中止だ!総員即時離脱しろ!』




「おい、オヤジ!コイツらの所為でカエラが死んじまったんだ!ちくしょう」

「ボンズやめろ!」

 オヤジはボンズの肩を抑える。


「お前らは死んでもいい覚悟で仕事をこなしてたんだろ?それに罠を起動させたのはレン達じゃない」

「いやコイツらだ!あんなヘマをするのはコイツらしかいねぇ!」

 ボンズはオレを睨みつけている。


 オレ達はある任務でとある施設に2組に別れて配置されていた。

 ボンズとカエラ組は実行隊でオレとシェル組は囮と撹乱だ。その作戦中に敵の設置型の魔法罠が起動してしまい、カエラが直撃を受け即死した。ほぼ蒸発状態だった。今回の任務対象は不明と言う事だ。


 その後の撤退は一旦火の回りが激しい場所まで移動し、そこから3人揃って転移で脱出した。敵側からしたら設置罠の餌食になったと思うはずだ。


 ボンズは起動させたのはオレ達だと言うが、間違い無くカエラ本人だろう。

 シェルも少し伏している。


 そこにオヤジことバスドムが椅子から前屈みになってタバコに火をつける。青い煙はゆっくり天井へ向かう。少し間を置き静かに言葉を吐き出す。


「カエラの事は残念だった。でもな今まで6人も作戦中に亡くしてきてる。ボンズ、今更だがこんな仕事だって事は理解してただろ?」

 ボンズは黙ったままだ。


「そしてな・・・この組織は今日で解散なんだ。今までよく働いてくれた」

 一瞬硬直した空気をボンズが壊す。

「え?何だよオヤジ!」

「上の者の決定だ」

「急に言われても・・・コレからどうすりゃいいんだよ!」

「ボンズ、仕方無いんだよ今日をもって解散だ。レンとシエル、分かったな?」

「ああ」

「・・・うん」


 何言っても無駄だろう、今までそうだった。


「先日の作戦は上の方も無理は承知だったみたいでな、賭けみたいなものだったらしい」

「賭けかよ!カエラが・・・」

 ボンズ・・・

「上のモンは何人か狙われて逃げているそうだ」

「オレ達は大丈夫なのか?」

「問題無い。そもそもこの組織は極秘の下での存在だ、逃げてるヤツらが囮になってるうちに消えるんだ」

 オレは少しホットした。

「それでだ、お前達には今まで働いた分の給料とこれまで無かった身分証を与える。好きに生きろ、以上だ!」


 ボンズはオヤジと少し話してから金持ってとっととこのアジトから出ていった。

 カエラを亡くしたことが酷くショックみたいだった。


 このアジトは物心つく頃から暮らしてきたオレ達の家だ。辛い訓練の毎日だったが紛れもなく自分の帰る場所だった。

 多い時は10人の仲間が暮らしてたが任務中に死ぬ者も少なくなかった。

 そして最後は3人。


「私、レンと一緒に行っちゃダメかな?」

 シエル?オレはいいんだけど・・・

「ダメだ。一緒にいたらバレる可能性があるからな、方角もバラバラにしろ。ボンズは西に行ったからそれ以外だ」

「そっか。残念だけど私は・・・東に行くね」

「じゃーオレは南に行くとするか。オヤジは極寒の北だな」

「うるせぇ、どの道オレは北だったよ。野暮用があるからな」

「じゃーねレン。元気でね」

「ああ、シエル気を付けて・・・っつーかシエルだったら敵側が気を付けろだな」

「何か言った?」

「いやいや、シエルさん目が笑ってないし重力魔法発動し・な・い・・・・で・・・・・・」

「レンさん、何かいいました?」

 シエルは保有魔力が人並み以上、測定不能に加え発動した魔法の威力が強力なのである。

「か、可愛いか、か、か弱い乙女のシエルさんは狙われやすいから心配です気を付けて・・・ね・・・」

「はい宜しい。えーっと、バスドムさん?何か言いたい事ありますか?」

「ナイナイ」

 壊れた人形のように首を振る

「いやなんだ、お前らの戦闘能力は普通じゃないからな。目立たないように暮らせよ」

 そう言いながらオレ達を抱きしめた。

「ボンズはああ言ったが悪いヤツじゃねぇ、許してやってくれ。元気でな」

 この癖のあるタバコの臭いは嫌いだったが今となると淋しいなんて思ってしまう。

 ーーーーーー


 しばらく歩いてから振り返るとアジト辺りから黒い煙が上がっていた。

 証拠隠滅のためシエルが燃やしたのだろう。


 さてと、状況生理でもするか。


 そう、このレンとは鏑木蒼弥が転生した人物。

 自覚したのは最後の任務の前夜だった。

 ふと思い出すかのように自然に理解した。違和感も無かった。

 何となく変な感じだか、前の記憶もあるのは有利みたいだ。

 

 今の自分の状態が手に取るように分かる。スピード特化型いや、超特化型だ。おかげで防御力はほぼ無いに等しい。

 そして双剣スキルと超近接戦闘・・・

 今の装備だって両足の太腿外側に2本の剣に、靴には仕込のナイフ。

 両腕に日本で言うなら飛び出し警棒のようなミスリル製のバトン。

 両手足の甲にもミスリル製のプレートのみ。鎧とか防具とか無しだからね。


 なんて南に歩きながら考えてると、気付いていたが後ろから1台の馬車がやって来た。

 道横に避けてると御者が話しかけてきた。

「おい兄ちゃんどこ行くんだい?」

「見てわかんねぇのか?南だよ」

「そんなもん一本道で同じ方向向いてんだ、どこの町か聞いてんだよ!ったくー」

「最初っからそう聞けジジイが!サウランドだ」

「こりゃまた威勢のいい口の悪いクソガキだな」

「うるせぇクソジジイとっとと行きやがれ邪魔だ!」

「ふん!まあ話だけ聞け。オレと行先は一緒なんだ、護衛として雇われる気は無いか?クソガキ」

「対価は?」

「おお?いっちよまえに交渉か?金はそんなに期待するなよ?」

「いや、金はいい。うまい飯を食わせろよ」

「ははっ!飯か、いいぞ!うまいもん食わせてやる。交渉成立だな!」


 クソジジイは商人で護衛を雇いサウランドへ向かう予定だった。

 出発の朝その護衛はドタキャンしてきた。その理由は王宮のある施設がテロにより大破したらしい。

 防衛が手薄になる為ハンターは緊急招集され王宮からの依頼は断る事が出来ず護衛はキャンセル。

 クソジジイは商品の到着時期が遅らせられない為、単独で出発したと言う事だ。

 そのテロ、もしかしなくてもオレ達?いやいや、気のせいだよね。


「クソジジイ腹減ったぞ」

「クソガキ燃費悪いな!」

「育ち盛りだ」

 しばらくすると

 ん?やっぱり変だな・・・

「どうした?」

「囲まれてるな。8人だ」

「な、なに!どうする?」

「落ち着け、そのまま進め」

「いいのか?」

「ああ任せろ」


 すると3人の盗賊風の男達が道を塞いできた。

「えへへへ、荷物検査です〜」

「止まりやがれ」

「年寄りとガキか。怪我したくなかったら荷物置いて失せな」


(クソジジイ、適当に相手してろ)

 ジジイは頷き

「大事な商品故そのご要望にはお答え出来ません、どうかお見逃しを」

「それは無理なお願いですなジイさん!」

「ガキが後ろに逃げたぞ!逃げられないのにな!ははっ」


「なんだ?ガキが戻って来たぞ?ヤツらどうしたんだ?」

「おい!もういい、殺っちまえ」

 辺りはしーんとしたまま。

「こら、全員出て来い!」

 誰も出てくる気配は無い。

「お前見て来い」

 親分風の男はバツが悪そうにしながら剣を抜きコッチに歩いてくる。

 そして見に行ったヤツが慌てて戻って来た。

「お、お、お、おい!ぜ、ぜ、全員殺られてる!」

「なに!ホントか?」

「じ、じ、じ、冗談なんか言うかよ!5人とも首をバッサリとやられてるんだ!」

「テメーら護衛隠してるな?許さねぇ」

 親分風なヤツは剣を振り上げ踏み込もうとした瞬間「あぁ?」と気の抜けた声と共に地面に剣を落とす。

 いや、剣を握った腕ごとだ。

 さらに同時、後ろの2人の首が落ちた。

「うあああぁぁぁー」

 男は叫びながら「な、なにしやがった」

「聞いてどーすんだよ」

「魔法だな?全く見えなかった!化け物か詠唱も無しに」

 クソジジイはまさに目が点になって動かない。ほっとこう。

「はぁ?魔法なんか使うかめんどくせぇ。ぶった斬っただけだ」

 シュンと風切り音と共に男は首を落とす。


「おーい、クソジジイ早く馬車出せ」

 まだ放心状態のクソジジイを殴り飛ばして正気に戻し、水場まで移動して飯にありついた。


「お前何者だ?」

「ただのクソガキだ」

「バカか、ただのクソガキがあんな戦闘するかよ?」

(コイツ、とんでもない戦闘能力だな。無駄なく殺人に絞られて訓練されてる)

「見えたのか?ジジイのくせに。目だけ良いのか?」

「は?言ってくれるじゃねぇーか」

(はっきり言って全く見えなかったがガキがブレるのと剣の柄を離すのが見えた)

「おい、スープもっとくれ」

「しかしお前は魔法じゃないと言ってたが、何なんだあれは?」

「何でもねぇよ。急いで動けばああなる」

 ステータス弄ってから100%で動いてないがマズいことになるのは間違い無い。さっきは8割程度だったし。

「バカか。まあいい、詮索はしねぇよ。でも助かった、ありがとな」

「気持ち悪いなクソジジイ、不味い飯がさらに不味くなるからやめろ!」

「なんだコノヤロー!なら飯食うんじゃねーよ!そして今のお礼返せ!ドブに捨てた方がマシだわ!」



 この後は魔獣を蹴散らすぐらいで何事も無く旅は続いて、2日後の夕暮れに南の町サウランドに着いた。


 町に入る検問所。

「身分証の提示と目的は?」

「はい身分証でございます」

「あ、これはデュラセル様。ご苦労様です」

「いやいやご丁寧に。いつもの商品搬入です」

 そんな感じでクソジジイはニコニコ話してる。

「おい、身分証を見せろ」

 続いてオレはバスドムから貰った身分証を見せた。

「「!!!」」

 え?どうしたの?偽装がバレた?ヤバいんじゃね?

「し、失礼しました!お通り下さい」

 急に態度が変わったよ?まあいいや。


 門をくぐってからクソジジイが話しかけてきた。

「お、おい、お前その身分証どうした?」

「どうしたってオレのだろ」

「いいか、オレのを見てみろ」

 ジジイが身分証を出してきた。

「何だよ、何か違うのか?」

「名前の下だ!よく見ろガキ」

 オレの名前の下には金色のラインがあった。

「なんだこのラインは?」

「お前知らねぇのに持ってたのか?呆れたもんだ・・・」

「うるせぇよ!」

「これは王宮関係の仕事に付いてる者か、その直属の部下、又は家族に与えられる身分証だ」

「へー」

「まぁなんだ・・・・・・聞かない方がいい気がしてきたから忘れるわー」

「オレも聞かれても答えようがないからそうして貰えると助かる・・・・・・」


 そして繁華街にさしかかる所で馬車が止まる。

「おい、レンのクソガキ」

「なんだよデュラセルのクソジジイ」

 お互い身分証で名前は確認済み。

「オレは店に行くんだがお前はどーすんだ?」

「ああそうだな、ここでいいや。助かった・・・不味い飯をありがとよ!」

「お前の口の悪さは慣れたからいいけどな、他では気をつけろよ。で、どこ行くんだ?」

「ギルドだな」

「そうか、ふふふっ」

「気持ち悪いぞクソジジイ!」

「また会うかもって思っただけだ。死ぬなよ!」

「うるせぇ!」

 デュラセルは馬車を出すと同時にレンへ布袋を投げよこす。

「駄賃だ、大事に使え」と言い残し馬車は遠ざかって行った。


「ゴミでも入ってんのか?」

 などと言いながら中を確認したら

「服?」

 説明書には『防刃、防熱、自動修復、サイズ自動調整』続いて手書きで『売れ残りだがクソガキにピッタリだ。買ったら高いぞ大事に使え』

 クソジジイが、有難く使わせてもらうよ。



 まずは宿だな。

 しばらくはこの街に滞在するから安い宿がいいな。

 そん事を思いながら街頭を歩いていると悲鳴が聞こえた。目の前の路地からだ。

「ちょっとやめて!」

「おいよこせっつんだよ!」

「お前も一緒に連れてくか〜」

「離してよ!」

「それいいねーへへっ」


「あーっと、ちょっといいかな?」

「なんだてめぇ」

「いいわきゃねぇだろ?失せな」

「助けて下さい!」

「黙ってろ!」

「きゃっ」

 女の子は奥の壁まで突き飛ばされた。

「おいガキ、金目のもの出しな」

「なんで?」

「はぁ?状況見りゃ分かるだろ?いいから出せ!」

「全然わかんね」

「お前バカか?怪我したくなかったら金目のもの出せばいいんだよ」

「ならお前ら出せよ、言ってる意味分かるよな?」

「なぁクソガキ、痛い目にあいてーみてーだな」

 男達は余裕っぽく大きく振りかぶり殴りかかってきたが、その拳はオレをすり抜けバランスを崩す。

「な、何しやがった!」

 オレの手には女の子の物であろう鞄がある。

「おい、鞄取られてるぞ!」

 オレは女の子に

「これお前のか?」

「あ・・・は、はい。ありがとうございます」

「じゃ行こか」

 手を掴んで立ち上がらせると、男達が騒いで来る。

「おい、勝手な事してんじゃねーよ!」

「誰が行っていいと言った?」

 と同時にオレは男達の後頭部へ風魔法の風弾を放った。男達は前のめりに倒れて動かない。

「オレがいいって言ってんだよ・・・意味わかれ」


 女の子を連れて路地を出ると空は一日の終わりを告るかのように赤く染まりつつあった。

「助けてくれてホントにありがとうございました。何かお礼をしたいのですが」

「いいよ別に」

「いや、でも・・・」

 女の子は大きなクリンとした目で見上げてくる。

 そんな目で見つめられるとなな・・・

「んじゃー、どっか安い宿教えてよ。泊まるとこ無いんだ」

 すると女の子はぱーっと輝くように笑顔になり

「はい!案内します!」

 と、手を引かれ繁華街を歩くはめとなった。


 店先は書き入れ時と更に賑わいを増している。辺りからは料理の匂いが漂い「そうだ腹減ったな」なんて思いながら彼女の後ろ姿から視線を上へ移す。


 空を見ていたオレの「あ、一番星」と言う呟きは街の喧騒に溶け消えて行った。



書き溜めがあるのでしばらく連続投稿します。

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