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カカシ  作者: 反重力枕
15/17

アイアンゴーレム

 アイアンゴーレムからレンが着地するだろうと言う場所へ風刃を纏った蹴りが迫る。同時にそこへウザいパーティーからのファイヤーボールも迫る。タイミングが悪かったとしか言えない。レンなら簡単に捌ける攻撃を、一瞬の、ほんの0.1秒ファイヤーボールに気を取られた為アイアンゴーレムの蹴りに対処が遅れた。

 ファイヤーボールはバトンで消したが、蹴り飛ばされる。

「レン!」

 シエルが叫ぶ。レンは大木にぶつかってその場に倒れたままだ。それを見たシエルは気が動転して動けなくなっていた。

 アイアンゴーレムはレンから標的を外しシエル達の方へ向き直る。

「お、おい!こっちへ来るぞ」

「逃げるぞ!」

 ウザいパーティーは後ずさりしながら逃げ始めた。

 ベテランハンターの3人はシエルに駆け寄る。

「お嬢ちゃん、しっかりしろ!一旦立て直すぞ!それから少年を助ける」

「レンが・・・レンが・・・」

 目の焦点が合わない位ショックを受けたシエル、カエラの事と重なったのだろう。


「痛ってーなゴーレム野郎。防壁が間に合ったから切られずにすんだ」

 レンはトンと立ち上がる。バトンをホルダーに仕舞う。刀を抜き放つ。同時に魔力を留まるように、そして超振動ブレード化する。

「あったまきた。切り刻んでやる」

 辺りに低周波と爆発音が入り交じった。


 シエル達とゴーレムを挟んで反対側、背中側に立ったレン。

「おい、ゴーレム野郎。トドメ忘れてるぞ?まぁオレがお前にトドメ刺すんだけどな」

 ゴーレムが立ち止まり振り向く。その先に居たレンがブレるとゴーレム全体に赤紫の光る筋が刻まれていく。

 レンがシエル側に現れ刀を鞘に収めるとゴーレムは重い金属の塊が崩れる様な鈍い音を立てながら崩れた。


「シエル・・・さん?どうした?」

「れ、レン?レン生きてたー!わーん」

「おい、抱きつくな!離れろ!」

 レンはシエルを立たせる。残ってたのはベテランハンターだけだ。

「他のは無事でしたか?」

「あ、ああ、あのパーティーは真っ先に逃げたからな。しかし君はすざましい戦闘力だな」

「武器がいいんですよ」


「すまないが前方が気になる。俺達が行くより君たちが行った方が戦力になると思う。良いかな?」

「分かりました。行くぞシエル・・・さん?」

 ジーッと見ていたシエルがニコッと笑う。

「よろしい!行きますかレン君」

 2人は駆けて前方に向かった。


 途中、リリー達に様子を聞いたが、小型の魔獣が現れるくらいで問題無いとマリが言っていた。ティークとサイモンのパーティーの一部も守りに付いているため安心だ。

 ウザいパーティーがオドオドして護衛している様なフリを見せる。

 シエルがウィリッカと言うヤツの前で止まる。顔を覗き込み感情の無い顔と声で。

「助かって良かったわね。色んな意味で」

 ウィリッカは少し震える。自分のした事の重大さに気付いたのだろう。


「シエル、走るぞ」

「うん」


 走りゆく2人を目で追うことも出来ず地面を見続けるウィリッカ。

「まだ怒鳴られたり、殴られた方が良かった・・・」

 その声は周りのけたたましく鳴り響く戦闘音で誰の耳には届かなかった。



 レン達が前線に着くとほぼ戦闘は終わっていた。

「リュークさん」

「おお、レン君。コッチはほぼ片付いたかな。君達の方も上手く片付いた見たいだね」

「はい何と・・・」

『ガキン!』と金属音が鳴り響く。レンの手にはバトンが握られ振り抜いていた。そこには槍があらぬ方向に折れ曲がり落ちている。リュークさんの頭を狙っていた。

「シエル!拘束」

「りょーかーいっ!」

 シエルに相手は見えていないが既に探知済みだ。手をかざした途端茂みの中からうめき声が聞こえる。

 シエルが指をさす。

「アソコに居るわよ」

「リュークさん、好きにしちゃって下さい」

「レン君ありがとう、命拾いしたよ」

 と言い茂みの方を見る。

「まあ拘束した時点で考えてる事はわかったよ。情報を聞き出すんだな」

「あはは。どうぞ、お好きなように」



 捕まえた盗賊によると、セドーラ大森林の街道沿いに5つの敵対する盗賊団がいたそうだ。

 このセドーラ大森林内で盗賊家業を行うには魔獣の使役が必須なのだそうだ。そうすれば他の大型魔獣からは狙われなくなり、安全が確保出来る。

 そして盗賊団の人数が増えると盗賊団同士の抗争も激化しだし、2つの団は同盟を結んだ。そして1つの盗賊団を撃滅する。残りの2つの盗賊団は、1つはこんな所はごめんだと言い大森林から出て行った。

 そこで2つの勢力は南側と北側で縄張りを決め今に至っていたらしい。


 それを聞いたヤップさんは決める。

「とりあえず後少しで森を抜けられます。昼休憩は後回しにして全力で進みましょう。いいですか?」

 昼飯は後のようだ。腹減ったなぁー


 2時間弱でセドーラ大森林から抜け出る。もうそれはきっちり言葉の通りトンネルを出るかのように抜けた。

 辺りは草原で明るい。だが日は傾き夕暮れと呼ぶ時間帯になりつつあった。


「停止ー!」

 少し広く開けた場所に止まる。

「今日はここで野営とする。皆疲れただろうが、気を抜き過ぎないように休んでくれ。後、見張りはいつものパターンでよろしく」


 ちょうど水場もあり焚き火の跡がある事から考えるにお決まりの場所なんだろう。同じ所に大きく焚き火を起す。

 それぞれぐったりとしながらも昼夜兼帯の食事をかき込む。

「レン君、お疲れ様。身体大丈夫なの?」

 リリーが来た。

「ああ、シエルさんにヒールしてもらったから問題無い」

「・・・そう」

「悪い、疲れたから休むわ」

「うん、わかった」


 オレは馬車によじ登り本当に疲れた身体を横にした。

「高速移動は昔より疲れるようになったな。上手くやらないと・・・」

「何だって?レン君?」

「!!!居たのかよ!ビックリしたー」

「私も疲れたのよ〜」

 シエルも壁にもたれて休んでいた。

「時間になったら起こしてくれ」

「はーい。ゆっくりしてね」


 そう言うとオレは直ぐに意識を手放した。




 コンコンコン「おはようボンズ。準備は出来たかい?」

 ガチャとドアを開け半目の顔を出すボンズ。

「やぁボンズ!」

 そこには完璧に支度を整えたニコニコ顔のミュールが立っている。

「おま、はえーな。早朝通り越してまだ夜中だぞ」

「起きてしまったから仕方ないじゃない?」

「まあ入れ」

「てへっ」

「てへじゃねぇーよ!」


 馬車で宿に戻ったボンズ達は出発には時間が遅いので明朝という事にしてもう一晩宿を取る事にした。


 ボンズは支度を済ませミュールの座るソファーの向かい側に腰を据える。すかさずコーヒーを置くミュール。笑顔付きだ。

「あ、ありがと」

 そしてコーヒーを飲むのだが・・・ニコニコとその姿を見ている。

「おい」

「なんだい?」ニコニコ

「飲みにくいんだか?」

「そうかい?私はそうは思わなかったよ。普通のカップだ」

「いや物理的な事じゃねーよ」

「え?気分でも悪いのかい?」

 と、心配そうな顔になる。

「・・・・・・。あのな、そんなに見るな。落ち着いて飲めん」

「ああ、そうゆう事か。問題無い、気にしなくていいよ。私は構わない」

「てぃ!」

「いてててて〜、いきなり小突かないでよーボンズったら〜」

「オレが気になるんだよ!朝から元気なもんだな」



「そろそろ時間だよ。馬車が玄関に用意してあるはずだ」

「よし、行こか」


 チェックアウトし玄関先を見ると5人の従業員が並びその先には馬車が準備を整えられた状態で主を待っていた。

「ボンズ、驚いただろ?」

「ああ、ビックリだぜ」

 馬車に乗り込み御者席に着く。

「じゃー皆さん、短い間でしたがお世話になりました」

「ボンズ様、ミュール様。またのご利用と旅のご安全を願っております」

 深深とお辞儀をする従業員達。それと同時に馬車を出す。


 空は晴れ渡り昇りたての朝日はミュールの右頬を照らす。速度が遅いのでまだ風よけは発動していない。そのせいでミュールの長い髪が風に揺られ朝日の光を受けキラキラ輝いていた。思わずその美しさに見とれてしまう。

「どうしたんだい?ボンズ」

「い、いや、何でもない」

「私に見とれてたんじゃないかな?」

「んなわけねぇーよ」

「ふふふ。ボンズだって人の事言えないんじゃない?」

 ミュールはしたり顔でボンズを覗き込む。

「るせぇ、ちょっと考え事してただけだ」

「素直じゃないなボンズは〜」


 街道を北に進む。出発が早かった為一度馬に水休憩を取る事にした。

「いい水場があったな」

「ちょっとボンズ」

 ミュールが荷台から声を上げる。

「ああ?忘れ物か?おっちょこちょいミュール」

「心外だなボンズ。いやそうじゃなくてこれを見てくれ」

 ミュールはバスケットを見せる。

「これは宿からのプレゼントだよ」

 と中を見せる。そこにはおやつがたっぷり入っていた。

「す、凄いな。高いだけあるが、サービスも筋金入りだ。有難く頂こう・・・てかもう食ってるじゃねーかよ!」

「ボンズ〜お湯も馬車からモグモグ出たからコーヒー飲むよね?モグモグもう入れたけど」

「おお。食うか喋るかどっちかにしろ。つか本当にぶっ壊れ性能だなこの馬車」


 そうこうして馬車はとてつもない性能を発揮しながら北へ進む。

「こんなにスピード出せるとは凄いな」

「緩衝装置だっけ?荷台も静かだし」

 ミュールは荷台でくつろいでいる。クッションにもたれ窓から景色を眺めていた。


「こりゃスピードがあるから期日よりも早く進むなー」

 朝早く出発したせいもあり昼休憩の場所が宿のある街になってしまった。

 この街の名はマニリス。農業が盛んで北への街道にある事から宿の街として栄えている。

 こうしてだいたい旅の1日ぐらいの距離間で宿の街が存在している。


 街に入り馬車を止める。

「よし、飯にするか」

 荷台を見るとミュールは寝入っていた。その寝顔は穏やかで安心しきった感じで見とれそうになったが・・・目がぱちっ。

「ボンズ。何を見ているんだい?ああわかった、パンツを見ようとしたんだね?残念だけどラップスカートの説明はしたはずだよね?だから短パンになっているから脱がさないと見えないんだ。うん、そうゆう事は昼間より夜の方が・・・」

「てぃ!」

「いたたたた、また小突いたよ〜」

「残念なのはお前の頭だよ!飯行くぞ!」

「ちょっと、待ってよ〜」


 馬車を降りて食堂へ向かう。

「なあ?」

「どうしたんだい?」

「腕離せ」

「やだね。恋人設定だよ?」

「ったく」


 どこまでもブレないミュールと食事を済ませ馬車へ戻る途中。

「ミュール、つけられてる」

「ああ、私でもわかった」

「そこのベンチに座るか」

「いよいよ恋人みたいだな私たち」

「ベシッ!」

「ベシッはやめて。痛すぎる!マジで」


「ねぇ、そこのお二人さん」

 ハンター崩れの様な男2人が話しかけてきた。

「なんだ?」

「悪いけどさ、アンタらが馬車を停めてる所は俺らがいつも停めてる所なんだよ」

「そうか悪かったな。もう出発するから退かすわ」

 この広場は馬車を自由に停められる公的施設である。だから占有権など存在しない。

「悪かったじゃねぇんだよ」

「・・・・・・」

「なんとか言え!」

「謝罪の言葉でも大サービスなんだがな」

「ぷぷ〜確かにボンズの言う通りだよ」

 ミュールはボンズの腕に片手で抱きついたままボンズと一緒に立ち上がる。

「おい、舐めてんのか?」

「じゃーその美人なねーちゃん貸しな」

 もう1人の男がその言葉を言った瞬間ボンズとミュールを中心に衝撃波が発生する。さほど大きくないが近くに居た人達は気付く。そして低周波の脈動音が男達を襲った。

「な、何だ!」

「頭が・・・」

 スっと低周波が収まると男達はフラフラになり蹲る。


「彼らは具合が悪いみたいだ、行こか」

「うん、行こう」

 やけに嬉しそうなミュール。馬車に乗り込み出発すると御者席でボンズにピッタリとくっついて座る。

「おい、暑苦しいし邪魔だ!」

「いいじゃないか、私は暑苦しくないし」

「オレが暑苦しいんだよ!てぃ!」

「いたたたた、もーっ!ぶーっ」


「でも、嬉しかったよ。ありがとうボンズ」

 改まってボンズに向き直り礼を言う。

「なんの事だよ、オレは礼を言われるようなことをした覚えは無いな」

 ボンズは前を見ながら少し笑っていた。

「あははは、まったくボンズったら〜」


 馬車は快調に進み日も傾き始める。ちょうど水場もある広場に着いた。

「ここで野営するけどいいか?」

「ああ、構わないよ」


 ボンズは馬の世話をし薪を準備して火をおこした。辺りは既に暗闇となり焚き火の灯りが強く感じた。

 ミュールは馬車で下ごしらえをした串焼きを持って出てきた。

「串焼きにするけどいいかな?」

「おお、いいじゃない。好物だ」

 焚き火で串焼きを炙るといい匂いが漂う。ついでにワインも温めホットワインと肉の最高の夕食になった。


 一応馬と馬車の周りを結界で結ぶ。小型の魔獣ぐらいでは破れないので安心だ。だが、それ以上となると防げないのだが警報が鳴るので対処は出来る。

「ミュール、そろそろ休めよ」

「ボンズは寝ないのかい?」

「オレはここでいい」

「じゃー私もここで」

「バカか、お前は馬車だよ!」

「ならボンズも一緒に馬車においでよ」

「あのな・・・」

「ボンズ、そうゆうのは嫌なんだ。何かするとかしないとかじゃないんだ。そんな気の使われ方は嫌いなんだよ。それとも私と一緒だど嫌なのかい?それなら仕方ないんだけど・・・」

「いやいやいや、お前が嫌な訳じゃないんだ・・・・・・うん。ま、わかったよ。オレも同じ事思うだろう」

「うん。なら一緒に寝よう」

 2人で馬車に乗る。特に狭い訳では無いので余裕で横になれる。


 ミュールは部屋着に着替えているので淡い黄色のワンピースだ。

「ボンズ、私はワンピースだからめくればすぐにパンツが見えるからね。ゆっくり鑑賞してくれたまえ」

「ベシッ!」

「痛い痛い!ベシッはやめてよ〜」

「スカートはめくらないし、パンツも見ない。大人しく寝ろ!」

「はーい。おやすみ」

「ったく、おやすみ」


「ちなみに今履いてるのはすっごい過激なやつね」

「うるさい!寝ろっ!」



 ボンズはすぐには寝つけず、窓から見える星空を眺めていた。


 じきにミュールは規則正しい寝息になり寝付いた事がわかる。


「コイツだけはしっかり守らなきゃな・・・」


 ボソッと呟く。


 背中を向けて寝ているミュールの寝顔が少し笑顔になった事はボンズは知らない。

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