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カカシ  作者: 反重力枕
14/17

セドーラ大森林②

 その日は日の出前に出発した。さすがに皆眠そうだが大森林に入る頃には良い緊張状態になっていた。


 鬱蒼とした洞窟のように薄暗い場所へ街道が続く。ここより大森林とハッキリと境界が分かるくらい違いがあった。

「ここから森林地帯だ、気を引き締めて行くように。日が落ちる前には中間地点の広場まで辿り着きたい、頼むぞ!」

 リュークさんの声の後、護衛達は各々装備の確認をする。


 このセドーラ大森林は単独走破なら馬で飛ばしてギリギリ1日で抜けられる。だが、隊となり規模が大きければ1日と言う訳には行かないため、中間地点に誰がやったか広く切り開かれた水場と野営場所が設置してあるのだ。


 馬車はガタゴトと薄暗い街道を進む。索敵はしているが、今のところ大丈夫そうだな。もうすぐ昼休憩と言うのに静かなものだ。

 なんにせよ魔獣が出ないのは良いことだ。


「おいレン」

 そこへサイモンが馬で横に並ぶ。

「どうした?」

 オレは馬車から身を乗り出した状態で腰掛けた。

「昼休憩に話がある。いいか?」

「ああ、わかった」



「よし、停止ー。このまま昼休憩に入るが、あまり長居はしたくない。短めに頼む」


 順調にここまで来た。とりあえずだ。

 そしてオレはサイモンのと少し離れた場所に腰を下ろした。


「悪いな手間を取らせて」

「おい、かしこまると気持ち悪いからやめろ。飯が不味くなる」

「ははっ、そうだな」

 一呼吸入れてサイモンは話す。

「言ってなかったが、オレは探知魔法が使える」


「何でオレに言う?」

「お前無口だしな、どうせ使えるんだろ?」

「まぁな」


「ただカミングアウトを態々したかったんじゃないんだろ?」干し肉を歯でちぎりながら聞く。

「ああ。お前には教えとなきゃいけない事があるんだよ」少しためてから一言。

「静か過ぎるんだ。この森」


 サイモンは上を見渡しながら言う。

「この依頼の前なんだが最近ここを通っていて、その時は半日魔獣に出くわさないなんて無かったし、一番は入ってから探知に何も引っかからない。これは何かおかしい」


「リュークさんには?」

「伝えてある」

 サイモンは包み紙をポケットに仕舞いながら続ける。

「お前の戦力は大きい。そして探知が使えるとなれば尚更、この先必ず何かあるはずだ」

「そうか・・・わかった。注意する」

「気が抜けないが頼むわ、じゃ」


 サイモンが隊の方へ歩き出す。

「お前もーちょっとチャラいヤツかと思ったが良い奴だな」

「はぁ?今頃何言ってる。元々だぜ?」

「リリーのパーティーしつこく誘ってんじゃねーの?」

「ぅ・・・あーあれはアレ、これはコレだ」

「まぁそーだな」

「そーゆう事だ」

 笑いながら隊へ戻った。



 馬車に乗り込むとシエルが話しかける。

「サイモンと仲良しになったの?」

「ああ、仕事上な」

「ふーん・・・」


「さて、寝よ」

「ちょっとちょっとー寝ないで監視しなきゃダメよ?」

「・・・はいはい」

「レン君はいつも寝てるわね」

「リリーちゃん、こーゆーのは甘やかしちゃダメよ?」

「わかったから、静かにしてくれ」

「ぶーっ!」


 そう言えばシエルとリリーはよく話すところ見るが、エリカとはあまり話さないな?なんでだ?

 エリカを見ると何か意図してシエル避けているような・・・・・・気のせいかな?

 馬が合わないのかも。


 しばらくして、周りの樹木が杉のような背の高い針葉樹エリアに入る。


「はぁ〜」

「どうしたのレン君」

 リリーが聞くと同時にサイモンが馬で横に来た。

 オレは目で合図すると、リュークさんの方に行った。


 探知に引っかかったのは魔獣一体と20人程の盗賊団だな。厄介なこった。


「敵襲ー!」隊は急停止。

 行く手を矢が襲うが、全てハンター達によって阻まれる。流石、ベテランハンターは違うな。

 オレは馬車を飛び降りリリー達に「お前らは商人達を頼む」と言い残し後方へ走る。

 ウザいパーティーはオロオロしてたが無視だ。

 後方にいたベテランハンターは既に展開して迎撃体勢。そこを走り抜け更に加速すると魔獣が見えた。

「なんだ?やたらデカい蛇かよ」

 胴回りは2メートル越えの蛇魔獣がそこに止まりとぐろを巻く。すると、魔法陣が額の辺りに浮かぶと、すざましいスピードで何かが迫ってきた。

 それは空気裂きながら迫る揺らぎのような物が見えた為、簡単に避けられた。だが、その後に衝撃波が襲う、当然の事だ。見えなかった為それに注意出来ず余波に吹っ飛ばされた。

「いててて、風魔法で尻尾か何かの斬撃飛ばしやがったな」

 オレは魔力圧縮しながら刀を抜く。同時に魔力を三割程刀に押し込む。後で気付いたがこの『押し込んだ』のが不味かった。

 蛇魔獣はまた魔法陣を発動し、スーッと消える。「あの蛇め、周りの光を風魔法で曲げて消えやがったな。でも残念、そんな雑な魔力使用は丸見えなんだよ!」

 辺りに『ドン!』と爆発音から低周波の脈動音が高速周期から低速に変わる。レンが消える。

 順手に握った2本の刀を蛇の頭から縦に振り抜く。

 赤紫に輝く刃文より押し込まれた魔力が大きな球体となって蛇はもとよりその背後の盗賊諸共飲み込み消し飛ぶ。


「あ・・・」

 レンは「やりすぎた・・・な」


 そこに散らばった盗賊共を片付けたサイモンが来た。

「おい、凄い音がしたが・・・・・・」

 レンは刀を鞘に戻しながら「へ、蛇の魔獣が魔力暴発起こしやがった。ま、楽勝だ」

「そ、そ、そうか。前衛も片付いたみたいだぞ」

「よし、戻るか」


 やはりこの刀は魔力抜けが良すぎる。斬撃と風弾を同時に撃ったらこの有様。それと、押し込むのはダメだな。そこで圧縮されてるみたいだ。

「次からはバトンでやろっと」

「え?何か言ったか?」

「いや、独り言だ」


 でも、高速移動は疲れる。魔法を使うより疲労が激しいがこの高速移動を無くす訳にはいかない。そしたらオレは標的で一撃終了だ。

 なるだけ控えなくてはな・・・


 直ぐに出発となり馬車に乗り込む。

「レン君お疲れ。怪我は無い?」

 リリーが覗き込むがオレは後ろの方で横になり背中を向け「問題無い」とだけ言い寝たふりをした。

 シエルは何だか不機嫌な顔をしていたがオレには理由はわからん。めんどくさいので考えない。

 本当に眠りそうになったので馬車の荷台から外に向かって座った。幌にもたれ狭い空を見ながら野営場所まで何も無い事を願う。



「ねえシエルちゃん」

「んん?何?」

「レン君、変じゃない?」

「そうね。多分無茶して疲れたんだと思うよ」

「やっぱりね」

「どうせ言っても聞かないと思うよ」

「そんな感じする。何かシエルちゃんて、レン君と昔から知り合いってゆうか、親しい雰囲気あるよね」

「えーっ、そう?そんなんだったらわたし、肌荒れとか酷そう・・・」

「あははは〜ありえるかも!」

「髪とかもバキバキでさ〜」

「やめてーははは〜」


 おい、聞こえるように話してるだろ?ああ?口には出さないけどな。シエル怖いから・・・



 程なくして野営場所に着いた。これから野営の準備だ。

「担当の者は結界の方を頼む。特に解れとか無いように。魔石も余分にセットしておいてくれ」リュークさんは仕切りも上手い。

「その他は必ず複数で薪の調達、そして馬の世話を頼む」


 いつもより大きい焚き火をして皆で囲み食事をとる。オレが食べ終わる頃シエルが来た。

「なんだか疲れてるわね?」

「そんな事ない」

「ふーん」

 途端に眠くなり意識を失った。


 どれだけ経ったか目を覚ますと馬車に寝かされていた。気付くと手には何か紙が握らされていた。メモのようだ。開くと「ばかレン、無茶してばっか。もう少し私にも出番よこせ!」

「ふふっ、シエルのお節介が」


 シエルの催眠魔法のせいでよく眠れた。

 外では早起きのハンターと見張りのハンターの話し声が聞こえる。

「よし!あと1日だ」





「バスドム」

「はっ」

「リリアン達はどう?」

「はい。脱出後、護衛と共に上手く魔道具で偽装しハンターとして活動しております。そして心配だったレンもシエルも含め合流した模様です。シエルはイシルの街であちらの関係の者達を殲滅致しました」

「そう、良かったわ。それよりレンが心配だったのよね。わかってくれるかどうかが」

「おそらく半分気付いたぐらいでしょうね」

「それでもいいわ。ボンズはどうなの?」

「はい。ボンズはウエスタウンでハンター登録後、ミュールと接触した模様」

「あら、ミュールちゃんと?バスドムの差し金かしら?」

「いえ、偶然だと思いますが。ただ彼女の調査対象が目的と被ってますからね、良い協力者となるはずです」

「ミュールちゃん可愛いし、貴方の姪でもあるし。あ、シエルちゃんも可愛くなったし・・・楽しみだわ〜」

「はぁ〜」

「じゃバスドム、頼みましたよ。こちらからも1人向かわせますから」

「御意」




 セドーラ大森林

 出発と同時に雲行きが怪しくなる。降っては来ないが非常に厚い雲に空は覆われ光の当たらない森の街道は更に暗さを増した。


「暗くて視界が悪い。皆、最大の注意を払って進め!何も無ければ昼過ぎには森を抜けられるはずだ」


 昼近くになるとサイモンが横に来た。

「まずいな。こうゆう事だったか」

「やるしか無いな。なら後方はオレとシエルでやるから」

「マジかよ、シエルちゃんとか?魔獣5体と盗賊らしきが30だぞ?」

「大丈夫だ、シエルは魔法が凄いからな。でも内緒な。シエル怒ると・・・」

「あー、わかった。わかったから・・・。死ぬなよ」

「当たり前だ」


 サイモンほリュークさんの方へ行った。

「シエル・・・さん?」

 振り向くと目の前にシエルの顔がある。

「詳しく聞こか。レ・ン・君」

「そうだな。この際細かい事は言ってられない。大型魔獣が前後合わせて10体、それに付随して盗賊60。後方はオレ達でやるぞ」

「りょーかいっ!」

「あとリリー達は商人達の護衛だ」

 エリカが何か言いたそうだが構ってられない。

「よし、行くぞ」

「あ、待ってよ〜」


 ベテランハンター達は半分は前方に回り半分とふざけたハンターで展開する。それを抜けてオレ達は前へ出る。

「おい、君たち!」

「大丈夫だ。撃ち漏らしを頼む」


 さあ、お出ましだ。

「シエル、盗賊共を頼む。オレは魔獣を殺る」

「任せて〜。少し暴れ足りなかったのよね」

「あ、あの〜、やり過ぎないように・・・ね?」

「わかってるよ〜。誰かさんと違って。ね?」

「はい・・・そうですね・・・・・・」


 魔獣5体は後ろの方にいる。そのため盗賊の間をすり抜けると同時に風刃で切りつけて倒して行く。高速移動だったので盗賊は何が起こったか分からなかっただろう。

「な、何だ?なに倒れてんだ?」


「おい、エラいべっぴんなねーちゃん来たぞ?」

「こりゃいい、殺さず捕まえて・・・だな」

「あははは〜そりゃ今夜楽しみじゃねーかよ」

「俺が一番!」


「うわ〜最低。下品ね。ホントなら手っ取り早く『クラッシュ』で終わらせたいんだけどな」

 シエルがイシルの街でやった闇の奴隷商人殲滅、あれは倉庫の中で閉ざされていたため出来た技だ。魔力が外部に漏れず完全に充たされた状態にならないと発動しない。


 盗賊達はいやらしい笑顔で各々武器を構えにじり寄ってくる。


「よし、得意のでやろっと」

 シエルが魔力圧縮をはじめると『ドン!』と爆発音と同時に低周波の脈動音が低速の周期で響き渡る。

 どんどん魔力を追加して圧縮する。いいのか?

「な、何だ!あ、頭が・・・」頭を抱えてうずくまるのが何人かいる。

 そこへ盗賊の後方から矢が襲う。その矢はシエルの額を確実に捉えていた。だか、目の前で虫を払うかの仕草で手で払った。

「うん。ムカついてきたよ〜っ!」

 脈動音が高速の周期に変わり徐々に低速へ変わると盗賊の半分位が呻き出す。

「重力魔法ね」

 辺りから草木がひしゃげる音がして盗賊達も同様、地面に張り付いて動かなくなっていた。

 魔法の効力の範囲は地面すら陥没している。範囲外だった盗賊が騒ぎ出す。


「な、なんなんだ!バケモンが居るぞ!」

「なんでもいい!矢でも、魔法でも撃ちまくれ!魔獣はまだか!」


 ファイヤーボールが15発ほどシエルに迫る。そこへ放たれた矢も混じる。だがシエルが片手を上げて力を入れるとそれ等は何かにぶつかったかのように止まり、ファイヤーボールは消滅し、矢はその場に落ちる。


「ちょっと!化け物は無いでしょ!こんなに可愛いいたいけな少女つかまえてー!」

 シエルの表情から感情が消える。

「殲滅ね」

 すると乾いた炸裂音が連続で鳴り響くと盗賊達は悲鳴を上げて倒れ込む。シエルのファイヤーボールが盗賊の足を吹き飛ばしていた。


 同時にレイピアを抜き放ち消える様に滑るように盗賊達の間を移動する。

 それは限りなく低い姿勢で、肩を少し超える程の金色の髪をふわりとなびかせながら1本の輝く糸のようにレイピアを振り抜いて盗賊達を倒して行く。

「あら?上手く逃げたのも居るのね。でも展開しているハンターさん達がいるからいいか〜」


「あとレン君は上手くやったかな?」


 逃れた盗賊達は手練が多くベテランハンターとウザいパーティーは手こずっていた。

「ケシー!弓で援護を頼む!ヴィオは回復だ!」

「ウィリッカ後ろ!」

「ケイラー何ビビってるのよ!」


 殆どはベテランハンター達が倒したのだが。



 そしてレン。

「うあ〜、ヒョウに虎にサイ?そしてケルベロスにアイアンゴーレムてか!魔物じゃねーかよ!でもな・・・・・・ちょうど狭い街道に2体、2体、1体とならんでいるな。お前ら後悔するぞ!」

 レンは魔力圧縮を始めると刀を抜く。そして魔力を刀にそっと流し始める。

 辺りに爆発音と共に衝撃波が砂埃の輪を広げてゆく。近くの立ち木の枝は激しく揺さぶられ同時に低周波が唸りを上げる。魔獣達は何かを感じ取ったか少し構えた。

 レンは小走りに間合いを詰めると順手に握った2本の刀を左右から横薙ぎに振り抜いた。

 赤紫に輝く刃文より抜き出た魔力斬撃がコロナ放電のようになり魔獣に襲いかかる。

 届くと空間ごと断たれたかのように前にいた4体が消し飛んだ。だが、アイアンゴーレムだけは耐え抜いた。おそらく魔力防壁を展開していたようだ。

「ちっ!そう簡単には行かないか」

 レンは刀を鞘に収めると『シャキーン』と金属音と共にバトンを抜いた。

「殴り潰してやる」

 ドン!と爆発音で消えたレンはアイアンゴーレムの懐に現れる。

「関節が弱いのは常識だからな。遠慮はしないぜ」

 バトンに魔力で超振動効果を与え腕の関節部を殴り飛ばす。当たった関節部は粉のように粉砕し腕が落ちる。



 レンの激戦地へシエルと残りのハンター達が駆けつけた。

「な、何あれ?おっき過ぎない?」

 アイアンゴーレムは8メートル程もある。その上素早いので攻撃が当たればひとたまりもない。レンに限っては防御力は紙なので即死だろう。

 片腕になったアイアンゴーレムは学習していた。そのため上手く関節部を防御しながらレンに攻撃を仕掛ける。


「オレ達には手が出せないな・・・」

 ベテランハンターの1人が呟いた。それを聞いて無いかのようにウザいパーティーの中からファイヤーボールが2発放たれる。

「ちょっと!レン!」

 シエルの悲鳴じみた声が響く。

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