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カカシ  作者: 反重力枕
13/17

セドーラ大森林

 巨大なヒョウ魔獣の後の20人の盗賊はなかなかの手練揃いだったが、刀のみの性能を試すため魔法無しで戦ってみた。結果、オーバースペックである。オレ本人の反射やスピードもさることながら、切れ味がヤバいレベルである。

 刃で受ければ相手の剣が切れる。だから先の無い剣が振り抜かれるからなかなか危ない。まあ、それも踏まえて次の動きをすればいいだけだ。

 難なく殲滅完了。


 先行のリュークさん達も圧勝だったようだ。後方の戦闘のことはめんどくさいので適当に誤魔化しといた。

「小便してたら魔獣が来たから狩っといたよ」てな感じに。

 でも戻った時は「そ、そ、その血糊はな、な、何?」と女性陣に驚かれ、そう言えば魔獣の返り血を浴びた事を思い出したが「魔獣だ、魔獣」とだけ返しといた。


 ともあれ野営場所に到着。返り血は近くの川で飛び込み洗い流して生活魔法のクリーンでキレイさっぱりとした。


 焚き火を囲んで各々食事をしていると

「レン君、これヤップさんからよ」

 リリーが来た。手にはヤップさんが振舞っている肉の串焼きがある。オレの分まで持って来てくれたようだ。

「ああ、・・・ありがとう」

「いいの」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 それっきり黙り込む。オレは話す事なんか無いから黙るのは当たり前だ。だがリリーよ、お前が黙ってそこに居るのはおかしいだろ?

「・・・なんか用か?無いなら向こう行けよ」

「うん・・・そうだね、じゃーまたね」

 そう言い戻って行った。

「なんなんだ?」


 夜も更けオレの見張りの番になった。今回からハンターの数も増えたので二人づつとなったが・・・・・・なんでこうなった!

 隣にシエルがいる。

「よろしくね」にこにこしながら手を出す。

「ああ、よろしく」と手を出したらギューッと握られた。

「おまっ!・・・うぅぅぅっ・・・」

 平静を装ったが、(コイツ何考えてんだ手が潰れるっ!)

 目の笑わない笑顔で(潰れればいいのに)と言っている見たいだ。


 それから微妙な距離を空けて2人して見張りをした。会話は世間話程度で、前と同じような感じでは喋らなかった。一応初対面設定だからな。

 作戦の話には触れず一応リュークさんからの索敵魔法についての話だけはしておいた。


「そろそろ交代だな」

「よーし、すぐ寝よっと」

 シエルの方をチラッと見て少し笑う。

 シエルもまたコッチを見て笑う。


 また前を向いて空を見る。満天の星空だ。

「早く全部終わんねぇーかなー」


「え?なんか言った?」


「いや、なーんも」


 星に願いをじゃないけど、聞き届けてくれないだろうか・・・





「おい、ウィリッカ」

「なんだよ」

「あのガキさ、リュークとやらが言うほど強く無いんじゃないか?」

「そうか?」

「お前も見ただろ?返り血塗れを」

「ケイラー、勿体ぶらずハッキリ言えよ」

「だから、魔獣を殺るのにあんな血塗れになるのか?ありゃ手こずったんだぜ?それにこの辺りの魔獣は良くてガーウルフってとこだろ?そこまでデカくて厄介なヤツはいねー」

「ああ〜なるほどな。そんじゃ大した事ねーって事か。ちくしょー!」

「だから、今度何か戦闘時に魔法の誤爆って事で・・・・・・」

「お前悪いヤツだな〜ははは〜」

「なんだよ?嫌なのか?」

「おもしれー、のったぜ!」

「タイミング的にセドーラ大森林だな」




 朝、準備を整え馬車に乗り込む。

「おはよ、レン君」

「おはよ〜。レン・君」

「あ・・・おはょ・・・」

 なんなんだ?何をシエルは張り合ってるんだ?怖え〜

 それに後ろでエリカが何か気まずそうにしている。


 特に変わったことも無く昼休憩も済ませ、夕方には小さな町『ラフタ』に着いた。

 この町はセドーラ大森林の手前にあり補給の重要な役割がある。

「今日はベッドで寝られそうだな」

「おい、深酒はするなよ?朝早いからな」

「分かってるって。早くから飲みだすから問題無いさ」

「よっしゃ!付き合うぜ」

 ベテランハンター達は酒が楽しみらしい。


「レン君、どこ行くの?」

「・・・・・・ちょっとね」

「ふーん」

「私も行こっと、暇だし〜」

 シエルが付いてくる見たいだ。


「シエルちゃん、暇ならそんなガキほっといて俺たちと美味しいもんでも食べに行かないか?」

 そこへウザいパーティーの男2人が声を掛け出来た。

「どうして?」

(ヤバい、あの表情であの平坦な声)

「え〜、そんな弱っちーガキなんかと行ってもつまんねーよ。俺たちと行こうぜ?」

「そう?あなた達といれば楽しいの?」

「そうだよ。へへへへ〜」

 シエルの手を取ろうとするが何かに弾かれる。

「えっ?なんだ?」

「あなた達と行くと楽しいの?私はなぜこんなに不愉快なの?ね?凄くイライラするんだけど?説明してくれる?ねぇ?早く」

(ヤバいヤバいヤバい。早く謝って逃げろよ!)

 小範囲に小さな低周波の脈動音がして来た。男達も何か苦しそうだ。

「あ、あ、わかった・・・・・・俺たちだけで・・・行くよ」

「そう。それがいいと思うわ」

 脈動音がスっと消える。


 歩きながら横目で見て「シエル・・・さん?」

 にこにこしながら「はい、私はあーゆー人達吹き飛べば良いと思います!」

「吹き飛んじゃダメです!そして、そんないい笑顔で物騒な事言うのもダメです!」

「いいのです!」

「はぁ〜」

 そんなんで通りを歩いていると知ってる名前の店を見つけた。


『デュラセル商会イストリア支店 ラフタ営業所』

「おおー、デュラセルのジジイ、手広くやってるな」

「レン君、知ってるの?」

「ああ、このデュラセル商会の会長とちょっと知り合い?かな」

「へえ〜」

「よし、ここにしよ」と入口を入って行く。

「あー、待ってよ〜」


 中に入ると愛想の良さそうなオッチャンが1人店番をしていた。


「いらっしゃいませ」

「少し見させてもらいます」

「どうぞどうぞ、狭い店でゴチャゴチャしてますんで気軽にお尋ね下さいね」

 確かに所狭しと色んな物が積み重なった様に陳列されている。

「レン君、何を探してるの?」

「ちょっとな・・・聞いてみるか」

 オッチャンの居るカウンターまで行き聞いてみた。

「すみません、いいですか?」

「はい、どうぞ」

 オレは肩に装着しているバトンと外して見せる。

「このバトンのグリップがボロボロになってきたので、上手く直せる材料とかありますかね?」

「ちょっと見せてもらってよろしいですか?」

「どうぞ」

 オッチャンは眼鏡を掛けてグリップから各部分を時間を掛けて見る。

「う〜ん、1時間程預けて頂ければ修理出来ますよ?どうです?」

「ホントですか!お願いします」

「いえいえ、このセドーラ大森林手前の小さな町でこのような商売をやってますと器用になってしまうんですよ?あははは〜」豪快に笑うオッチャン。するとオレの刀に目が行く。

「おお?その珍しい剣を見せてくれませんか?」

「ああこれですか、どうぞ」

 刀を鞘ごと外してカウンターに置く。「刀と言います」

 オッチャンはまじまじと刀を見る。そして鞘から抜いた。

 更に目を見開く。

「こりゃとんでもねぇーもん見させてもらいましたな〜。もしか・・・間違ってたらごめんなさい、これはヘンリー工房でしょ?」

「えー!わかるんですね。因みにこの服もです」

 袖を摘んで見せると

「あーーーー!そ、そ、それ!」

 オッチャン急に慌て出す。どうしたのか聞くと「それは我が商会の支店長達が恐れた『罰の黒服』です」

「何ですかそれ?」

「あははーごめんなさい。説明しますと、支店長クラスは各地を飛び回ってます。その服を持っている時点でデュラセル会長と知り合ってますからご存知ですよね?」

「はい・・・知ってます」

「それで支店長には仕入れのノルマが課せられてます。そのノルマを達成出来ないとその『罰の黒服』が届き、売れそうもない高額での販売をしなければならないと言う・・・言わば罰ゲームですね」

「そんな服だったんですか?あのクソジジイめ!」

「あははは〜、かなり仲良しになられたみたいで。じゃないとその服持ってないでしょ?て言うか貰いましたよね?」

「えっ?そんな事も分かっちゃうんですか?」

「そりゃウチの会長の事ですからね〜」

 と言いながら刀を丁寧に鞘へ戻しカウンターへ置いた。

「いい物を見せてもらってありがとうございます。一生に一回見れるか見られないかのとんでもない物でしたわ。がははは〜」

 豪快に笑う人だ。

「そうだ、申し遅れました。私、この営業所を任せられておりますギルエーバと言います。以後お見知りおきを」


 それから1時間後にまた来ると言いオレ達は店を後にした。


「そろそろ夕飯だな」

「お腹すいちゃった〜、あの店に入ろっか」



「あ・・・」

「あら?」「お?」

 店に入るとリリーのパーティーとティークとベンがいた。

「あらら〜お二人さんは〜そーゆー?」

 マリが猫耳をピクピクさせながらなニタニタして聞いて来る。

「なわけねーだろ。装備の修理で一緒に行っだだけだ」

 シエルはリリー達の方へ、オレは迷わずカウンター席へ着いた。まさかここでわいわい談笑する気も無いし、めんどくさい。


 少し腹が減っていたのでガッツリ目の料理を頼んだ。


「オヤジ」

「なんだ?」

 オヤジは料理を作りながら話に付き合ってくれる見たいだ。

「この先のセドーラ大森林の事なんだが、オヤジの知ってる事だけでいいから教えてくれないか?」

「ああ、いいぞ。高い料理頼んでくれたからな〜」

 オヤジは満足そうだ。


「簡単に言やぁ大型魔獣の巣窟だ。ここまで来る途中に出会った魔獣は小型ばかりだったろ?」

「そうだな、ガーウルフがメインだった」

「昔はセドーラ大森林にゃ大小様々魔獣が居たんだが、大型魔獣が変に進化しやがって小型が逃げ出したんだよ」

 そしてオヤジは料理の味を整え最後の仕上げに掛かる。

「そのな、進化が厄介なんだ」

「どうなんだ?」

「魔法を使いやがる。そして知能も高い」

 レンはあのヒョウ魔獣を思い出した。

「ふっ!その顔だともう確認済み見たいだな」

 オヤジは料理を盛り付けレンに出す。

「ほらよ」

「おお!きたきた。いただきます」

「更にな、魔法職の盗賊がその魔獣を使役して商人や旅人を襲ってるんだよ」

 レンは料理を食いながら目だけで先を促す。

「幸い大森林内の街道は狭い。大人数で襲撃って訳には行かねー、だが大型魔獣は脅威だ。お前ら商隊の護衛なんだろ?準備だけはしっかりしとけよ?2日間は長いぞ」

「ああ」レンは水を飲みながら返事をする。


「ごちそうさん。美味かった」


 レンは勘定を置き1人で店を出たが、出る時シエルが何か言いたそうだったが目を逸らした。あまり関わらないように方がいい。

 そしていい時間になったのでギルエーバのオッチャンの店に向かう。

 流石、補給の町という事もあり狭いながらも色々と店が多い。



「すみません」

「はーい」オッチャンが奥から覗く

「ああ、今出来たところですよ」

 布に丁寧に包まれた2本のバトンをカウンターに置く。

「これも・・・とんでもない代物ですね」

 丁寧に布を開きながらオッチャンは言う。

「もしや・・・これは」少し言いよどみ続ける。

「帝国製ですよね?」

「んー、たしかそうだったような・・・・・・」

「詮索する気はありませんが、大変貴重な物をお持ちでいらっしゃる」

「隠してる訳じゃないんで大丈夫ですよ」

「そうですか。なかなか見る事が少なくなってきてね帝国製の武器も。あ、すみません確認して下さい」

 オレは2本のバトンを手に取り短く強く振って先端をシャキン!と金属音と共に伸ばすとオッチャンは「おお!」と少し驚いた。

 少し振って感じを見る。

「これ、凄くいいです!手に馴染んだ感じで違和感無いですね」

「あー、それなら良かったです。うーん、良かった良かった」


 支払いを済ませ店を出る時オッチャンが言う。「今度は旅の途中で会うかもしれませんね、その時まで死なないように」

「えーっと、次会った時はこう言います」

 正面に向き直り

「死に損ないがー!ってね」

 オッチャンは目を丸くしてニッと笑い

「はははー、死に損ないがー!頼んますよ!」



 外はすっかり暗くなっていた。

「店は多いが人が少なければ静かなものなんだな」


 あの怪しい商人も今はなんの動きも無い。セドーラ大森林に入ってからは気を付けないといけない。


 もう皆は宿だろうか。明日は早朝出発だったから寝てる奴も居るんじゃないかな。

 通りの店先に置いてある椅子に座って大森林の方を見る。

「何かめんどくさいなぁー絶対戦闘あるだろ?そして絶対魔獣わんさかだろ?気を遣わないといけないし?ハデにやれないし?シエルと連携も出来ないし・・・めんどくさい!」

 そんな事をブツブツ言ってると人が近付いてくる。

「あれ〜レン君だ。どうしたの〜」

 リリーパーティーの猫耳マリが現れた。

「あ、マリか」

「そんなに残念がらなくてもいいじゃん?シエルじゃ無くてゴメンね?」

「あのな、そーゆんじゃないって言ってるだろ!怒るぞ?」

「はいはい、冗談よん」

「てか、お前こそ何してんだ?」

「あたしはね、ポーションを買い溜めしてきたの。ふふっ」猫耳がピクピク

「明日はセドーラ大森林でしょ?あたし死ぬのも痛いのも嫌なの。だから」

「そーか」

「レン君は?」

「オレは装備の修理だ。オレも死ぬのも痛いのも嫌だからさ」

「あははは〜やっぱそーだよね〜」

 2人で笑いながら空を見る。


 空は満天の星空だ。


 だが、セドーラ大森林の稜線がその星空を侵食するように黒い影を伸ばしていた。



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