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カカシ  作者: 反重力枕
11/17

帝国

 王国の北に位置する都市、ノクチュアから更に北。国境のある森林地帯を抜けると北の帝国がある。

 広大な土地は効率良く栄え人口も多い。低所得者層も何とか不自由なく暮らせている事から王政が苦労した事が伺える。そして道徳上の堕落に関してはかなり厳しく目を光らせているため国民は大変住みやすい国だと言う。ただ1つ難を言うなら寒い事を除いては。年間の半分は氷点下なのだ。そこで生活魔法が発達した。

 古来より帝国では魔法研究が盛んで基礎理論は帝国が作り上げたものとされており、魔法書もほとんどが帝国の研究者から発刊される。そして年に1つ程発表される最新魔法も同様帝国研究者からなのだ。それ故に国民の魔法レベルは高く生活魔法に特化している。

 だがしかし基礎は出来ても出せるものが無ければ使える魔法は基礎のみとなる。ここで言う『出せるもの』とはお金である。お金が無ければ便利な魔法は手に入らない。使える者が教えればいいと思うだろうが、そう簡単には行かないのだ。

 高額な魔法書は買った本人が登録者となり、それのみが観覧と習得が出来る。何故なら魔法書には読む者に対して理解し、定着しやすいように魔法補助の機能が掛けられている。説明のしょうがないのだ。だから無理なのである。だか、その限りでは無い事もある。

 とある一族の固有魔法。


 元々この固有魔法から作られた魔法伝承に関わる魔法書の補助魔法なのだから。


 昔、帝国に魔法研究に卓越した2つの貴族がいた。その当主 ブルムラ・ジャルコフとジャベル・ワダルボである。この2人の当主は良きライバル関係であった。

 2人で研究をしたり、新魔法を見せあったりと仲も良かった。この時に2人で作り上げたのが魔法伝承に関わる技術だ。これが後に魔法書に使われたり、教育時に異常な習得レベルに関わって来る。


 良きライバル関係もこの2人の代までであった。ジャルコフ家の次代ゼブ・ジャルコフになると好戦的になり、攻撃魔法の開発に始まり危険な魔道具研究に没頭。そしてついに王国へ侵略を始めた。


 王国は見た事も聞いたこともない魔法による攻撃に為す術もなく疲弊して行く。だが、それを救う者がいた。かつて良きライバル関係であったワダルボ家だ。

 守りの魔法に特化した部隊の投入によりジャルコフ家の兵を押し戻し、怒り狂う当主 ゼブ・ジャルコフをなんとか説得した。

 そして落ち着きを取り戻しつつある頃、当時の国を統治していた賢人会より王政に切り替えるとの話が出る。王にワダルボ家の長男、デリア・ワダルボ。そして王妃に件のジャルコフ家の長女、メリア・ジャルコフをと。元々この2人は交流もあり恋仲では?と噂もあった。

 それを聞いたジャルコフ家の当主ゼブ・ジャルコフは人が変わったように娘の幸せを願い喜んだ。これを機に2つの貴族は昔のように仲の良い関係に戻る。この頃に危険な魔法、魔道具、研究書等は封印され、禁書庫へ永久観覧持ち出し不可とされる。


 若き夫婦の間に2人の子宝にも恵まれ、姉はミリアンナ、妹はアンジェラ。姉妹はとても仲が良く2人とも魔法に卓越した才能を見せた。

 長女が4歳になる頃、帝国に響く事件が起きる。突然母親メリアが亡くなったのだ。この事件の詳細は明かされず、帝国民、王宮は悲痛の日々を送った。

 後妻にゼブ・ジャルコフの弟のマーカス・ジャルコフの長女イーナが妃になった。


 その頃、王国との関係修復を任せられていた参謀役は事が進まず頭を抱えていた。

 そこへ王国より王子の姫探しの噂を聞きつける。参謀役は『これだ!』と思い早速自国の王へこの話を持って行く。これもまたトントン拍子で話が進んだ。王国側も帝国からの申し出に前向きであるのと、当の本人たちも初顔合わせの日からお互い気に入ったらしく、長女のミリアンナが王国の妃となった。夫婦仲も良く長女リリアンを授かる。帝国の2つの貴族もたいそう喜んだ。が、そしてまたもや不幸が襲う。

 ミリアンナがこの世を去る。


 どうして?なぜに?2つの国の妃が不幸に会うのか?

 後妻に帝国よりイーナ姫との間に出来た長女シシリアを貰い受ける。


 この仕組まれたかの運命に、そっと力強く寄り添う者達が・・・・・・





 コンコンコン

「入りなさい」

 中から高齢と分かる婦人の声がする。男はそっとドアを開けて中へ入る。

「ご無沙汰しております。只今戻りました」

「バスドム、良く戻りました」

 このご婦人、ジャルコフ家前妃ミリアンナの実の妹アンジェラだ。

 その昔、この姉妹に魔法を教えた魔道士の丁稚をしていたバスドムと言えば関係性が理解出来るだろう。

「思った通りの妨害が入りました」

「そう。でも上手く行ったんでしょ?」

「はい、計画通り」

「少し可哀想な思いをさせちゃったけど、あの子達ならきっと大丈夫よね」

「問題無いと。自分は体制を立て直しからまた出ます」

「そうね。向こう側も変な動きをしてるわ、出し惜しみは無しよ?バスドム」

「御意」



 ウエスタウンのギルド前にボンズは立つ。

「まずはハンター登録するか」

 ヅカヅカと中に入り受付まで来るとカウンターに両肘をつき前のめりに覗き込む。威圧感ハンパない。

「い、いらっ、いらっしゃいませ・・・どのような・・・ご要件でしょうか・・・?」

 ボンズ、威圧してどーする?更にグイッと寄り・・・

「ハンター登録・・・」

 ボンズ、近い近い

 受付の女性はボンズの顔を手で押し戻しながら

「ハンター登録は構いませんが、受付嬢に嫌われると・・・」

 今度は逆にグイッと顔を近付けて

「ろくな事になりませんわよ?」と、隣のハンターを指さす。

 隣では・・・

「おい、報酬少ねーぞ!ねーちゃん」

「あなた詳細みましたか?記載してありますよ?」

「知らねーよ!教えればいーだろーよ!」

「しっかり確認しないそちらの責任です!文句を言うなら正式な書面で申し立てをして下さい。ね!」

「そっちがそーゆー態度なら考えがある」

「どーぞ。貴方こそ・・・何を敵に回すか分かってらして?」

「・・・・・・ちくしょう!もういい!」

 男は金を握りギルドを出て行く。


 ボンズはお姉さんの顔を見る。凄く綺麗で顔が近い。いい匂いもする。

 慌てて下がり一礼!

「よろしくお願いします」

「はい、よろしい」

 と、ニコッと笑うお姉さんに見惚れた。

「それでは身分証とこれにわかる所書いてね」

 ボンズはサラサラと書き込み身分証を出した。

 ガタン!と派手に驚くお姉さん。直ぐに何やら魔道具で読み取り身分証を押し戻した。

「はい大丈夫ですのでしまってください。そして少々お待ち下さい」

「はーい」


 暫くするとゴリマッチョな強面オッサン登場。

「よーし、戦うぞ」

「ちょっとマスター!ちゃんと説明してあげて下さい!もうホントに脳みそ筋肉じゃないかと真面目に思いますよー。ごめんなさいね、一応コレがギルドマスターのビルエンドさんです」

 一応コレとゴリマッチョのオッサンを紹介する。

「えーっと、ボンズさんはこれからいつも暇してるビルエンドさんと模擬戦をしてもらいハンターランクの決定をします。こう見えてゴールドランクなんですよ〜」

「あの〜ミウラさん、さりげなく普段からの不満を織り混ぜるの、傷つくなぁー」

「あのマスター?ホントの事言われて傷つくのがおかしいでしょ?嫌ならちゃんとデスクワークして下さい!」

 ギルドマスターって扱い悪いんだな〜なんて思うボンズ。



闘技場

「おまえ、武器無しでいいのか?」

「ええ、いいです」

 ビルエンドは刃を潰した大剣を中段に構える。

 対してボンズは身体を低くし左手を軽く握り肩の高さへ、そして右手はダラりと後ろへ半身に構えた。

(このボーズ・・・隙が無い上に何だこの殺気は?)

(あまりやらかすといけねぇな。程々に・・・と)

「合図はしない、適当にかかって来い」

 その言葉の後、一呼吸置いてボンズが動いた。

 前方の左膝を瞬間折り曲げる。

 ビルエンドは蹴りと判断したが違った。そのまま体制が更に低くなり左手の拳が迫る。

 間に合わないなりにギリギリ大剣の腹で弾いた。

 ボンズの勢いは止まらず懐まで滑り込むが、ビルエンドは剣をボンズの肩に合わせた。

 その剣が肩に触れる寸前で止まる。

「チッ!やるなボーズ」

 ボンズの右の拳がビルエンドの顎先で止められていた。

「相打ちですね」

 その間1秒で模擬戦は終わる。

 見物のハンター達は一瞬の事で何が起きたのか分からずいた。

 その中で不気味に微笑む影が闘技場を後にする。




「はい、ボンズさん。シルバーランクおめでとうございます」

「あ、ありがとう、ご、ございます」

「頑張って依頼いっぱいこなして下さいね」

 胸の前で小さく拳を握る受付のお姉さんに危うくやられるところだったボンズ。

「まだ時間あるようなら、あそこに依頼が貼り出してありますので見て行って下さい」

「はい、分かりました」

 言われるまま貼り出してあるボード前に行った。


「シルバーだから・・・ああ、この辺りだな」

 ざっと見ながら「色々あんだな。やたら護衛が多いんだけど?」などとブツブツ言ってると

「ねえキミ!」

「うおっ!びっくりしたー、急にでけぇ声かけ・・・・・・」

 と、振り向くとそこには同じ歳位の凄い美人な女性ハンターが立っていた。

「ごめんごめん、ちょっといいかな?相談があるんだが・・・聞くだけ聞いてくれないかい?」

「え?オレにか?」

「そう。キミだよ。まあ、立ち話もなんだし飲み物でも奢るからさ、座って話そうよ」


 ギルドには酒や食事も出来る飲食店が併設されている。価格もお手頃価格だ。そこの4人掛けのテーブルに向かい合って座った。

「いらっしゃいませ。ご注文を伺います」

「どうぞ好きな物を頼んでよ」

「じゃーコーヒー下さい」

「私も同じ物を」と彼女はニコッと笑顔で頼んだ。

「分かりました。コーヒー2つですね」

 ウエイトレスさんはそう言って戻って行った。戻り際に「髪綺麗・・・」とぽつり。確かに目の前の女は髪が長く銀髪でキラキラしている。


「そうだ、自己紹介がまだだったね。私はミュールだ」と言いながら右手を出した。

「オレはボンズ」その出された右手を軽く握る。

「で、話って?」

「ふふっボンズはせっかちだね〜、こうゆう時は世間話からだよ?あ、いきなり呼び捨てだけど構わないかい?てか、お互い呼び捨てにしようよ」

「聞かれることも無く既に決定事項なんだ」

「まあまあ、そう言えば模擬戦見させてもらったよ。強いね〜」

「そうか?相打ちだぞ?」

「ボンズは本気じゃなかっただろ?」

「さあね」

「いやいや怒らないでよね?そんな事を話したい訳じゃないんだ」

 そこへウエイトレスさんがコーヒーを持ってきた。

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

 ボンズはカップをとり熱いコーヒーをすする。

「美味いな・・・」

「ボンズもそう思うかい?なかなか美味いんだよここのコーヒー」

 2人無言ですする

 ・・・・・・

「だから!早く要件を言えって!」

「あははは〜、ごめんごめん」


「改めて」と立ち上がり右手を差し出し

「私と共に来てくれ」


 ブーーーーーッ!!!


 派手にコーヒーを吹き出す


「おまっ、何を急に?今初めて会ったんだそ?はぁ?だわ!」

「うん!言葉が足りなかったよ。私と共に依頼を受けてくれないかい?2人でパーティーを組もうよ?」

「足りないくらいの話じゃないぞ?全く別の意味に聞こえたわ!理解出来ない方がまだ良かったし!」

「私はいつもこうなんだよー。言ってるつもりなんだけど、それは頭の中だけでさ・・・怒らせたり勘違いさせたりと・・・・・・」

 ミュールはブツブツ言いながら小さくなっている

「悪いけど他当たってくれ」

 ボンズはコーヒーを飲み干し席を立つ

「ちょっと!ちょっと待ってよ!話はまだ終わってないんだ!」

「なんだよー、コーヒー分は聞いたぞ?半分吹いたけど」

「ね?もう少しだけ付き合ってよ。ねーお願い!」

「おい、拝むんじゃねーよ。わーったよったく」

 ボンズがドカっと椅子に座るとそこへミュールが椅子を寄せて隣に来た。密着とまでは無いがパーソナルスペースは侵されている。

「な、な、な、なんだよ!」

「えーっ?嫌なの?」と顔を覗き込む。

 銀色の長い髪がサラサラとボンズの組んだ手に触れる。

「い、いーから早く言えよ」

 更にグイッと寄り耳元で

「私、とある事件の調査してるの。内容はまだ言えないけど、ブラスさんがキミを勧めてくれたんだよ」

「ブラスさんが?」と驚き振り向いたらミュールの顔が目の前ので更にドキッとした。

「そう」

「知り合いなのか?」

「そうね、たまに情報を売ってるの。で、長引く調査があるんだけど誰かいいハンター紹介して?と聞いたら『今ギルドに行けばボンズって凄腕の子がいるはず』ってね」

「・・・・・・」

「ちょっと黙んないでよ〜」

「んーーー、特にこれからどうするかは決めてなかったけど・・・ブラスさんに恩もあるからな・・・」

「ならいいよね?こんな美人とパーティー組めるよ?」

「自分で美人言うな!」軽く頭を小突く

「痛い痛い、じゃーいいのかな?」

 綺麗な顔が覗き込む。グイッと押し戻しながら

「ああ、了解だ」

「やったぁ〜!」と抱きついてきた。

 ボンズは一瞬デレっとしかけたが、グッと我慢して引き剥がすと「もーっ」とほっぺを膨らませた。

「じゃーもう少し情報開示しよう。場所を変えて」


 2人でギルドを出るともう日は傾いていた。ミュールの紹介で同じ宿をとる事にして、繁華街を歩く。


 こんな風に異性と歩くとカエラを思い出した。


 聞こえてくる街の音やミュールの声がこもった感じで遠ざかる。


『ボンズ?』


 カエラの声を思い出して胸の辺りがギュッとなった。


 空を見上げて息を吐く。


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