イストリア商隊合流
あと1日程でイストリアへ着くかつかないかと言う辺り、怪しい商人の2人が更に怪しい行動をとる。
荷馬車に乗る商人達は2人連れなのだがヤップさんと怪しい商人以外は男女ペア。
その女性の方に話し掛けるシーンをよく見るようになった。
胸パーティーにもだ。
出身は?とかどこから来たの?とか、後は1人が話してる後ろで何やらゴソゴソ何かを弄ってる様にみえる。
確信は無い、魔素の変動が僅かに感じられるからだがオレはその辺の事は苦手だから仕方ない。
そんな事もあり自分で言うのもなんだが、いくら鈍感なオレでもバスドムのオヤジの行動の違和感にそろそろ気付いた。今頃だが。
作戦は終わってない。
カエラが死んでも続く作戦・・・
対象はどこかに・・・
「まてまて、バラバラにした理由・・・」
思わず声が出てしまった。
単独行動で
「なんとなく分かった気がした。と、思う」
何とも頼りない!
夕暮れ時、やはりイストリアには着かなかった。
「あと数時間って所ですかね、暗闇の移動は危険なので無理はしません。この辺りで野営して明朝早めに出発しましょう。イストリアへ午前中には到着するはずです」
ヤップさんの言う通り、慌てても仕方ない。
オレは怪しい商人達をあまり気にしない様にして尻尾を出すまで泳がす事にした。
でも、なぜこの商隊に居るのか?
たまたまなのか?恐らくヤツらはバラ撒かれたに過ぎないだろう。
それよりだ、オレ達に関係あるのか?
全くの別件かもしれない。
でも、ヤツらが関係あろうがなかろうがオレ達のやる事は決まっている。
だがしかし・・・対象がみつからなねぇーんだよ!
ったく。
早朝より商隊に加わる商人と荷馬車が出発の準備を整える中、護衛のハンター達も集結する。
護衛の面々はシエルとティーク、そして男女2人づつの4人パーティーの計6人。
「ねぇ〜ほんとに大丈夫なのよね?今回の依頼」
「ケシーはねぇ〜、もう危ない事したくないの〜。聞いてる?ウィリッカ」
「ああ大丈夫だぜ。サウランドからのハンターがベテラン揃いだっからよぉー」
「ヴィオ、心配すんな」
あまり当てになら無さそうなパーティーだなと思うティークである。が、シエルを探す事に真剣であった。
そんなシエルは広場の端っこにあるベンチに座って欠伸をしている。緊張感皆無。
「えー、おはようございます。朝早くからありがとうございます、護衛の皆様。馬車の方へお集まり下さい」
イストリア商隊の代表らしき男が声を張る。
気だるそうな4人パーティーと別方向からティークが向かう。
少し遅れてシエルが続く。
それをティークが見つけて手を上げたが、シエルはぼーっとしてて気づかない。
上げた手が行き場を失い・・・背伸びで誤魔化した。
「シエル、眠そうだな」
「・・・?・・・!ティークさん、おはようございます」
「今・・・忘れてたろ・・・」
「いやいや、今朝は早起きして色々ね。女の子は準備が大変なんですぅ〜」
はぶらかされた感半端ないが、気にしない事にした。ティーク、強い子だ。
「皆様、改めましておはようございます。私、デュラセル商会 王都中央支店を任せられておりますモーリスと申します。どうぞよろしくお願いします」
モーリスと名乗る男はガッチリタイプのナイスミドル。商人と言うよりハンターに見える。
「それと申し訳ないですが、昨晩到着予定の先行隊が遅れてまして、あと数時間で到着となります。暫くお待ちください」
すると見知った顔が近付いて来る。
「シエルちゃん、ティークさん!」
「あ、ベンさん!こないだはどーも」
「シエルちゃんは・・・・・・護衛?」
「そうよ、驚いた?これでもシルバーランクなんだよ?」
「シ、シルバー!?凄く強いんじゃないですか!ビックリですよ」
「シエルは・・・ホントに強い・・・」
「どうしたんですか、ティークさん?」
「変な言い方しないで下さいよ〜テ・ィ・ー・ク・さ・ん」
「うっ・・・・・・」
顔を寄せられ嬉しいのだが、同時に重力魔法で押さえつけられ怖いやらでティークは朝から忙しい。
「ところでベンさんは?」
「オイラはいつもデュラセル商会さんから請け負ってるので今回もお手伝いですね」
「そうなんだ〜」
「シエルちゃんはティークとパーティー組んだんですか?」
ティークはシャキッとした。
(「う、うん違うの、そう出来たらいいんだけど・・・ダメかな?」)などと馬鹿げた妄想でモジモジしているティーク、キモい!
「無いわ。絶対。頼まれても」
ティークにうっすらヒビが見えるのは目の錯覚なのだろうか?
「サラッと最大威力で否定、無駄の無い事この上ない」
「ティークさん、変な意味じゃ無いのよ?私はソロが好きなの」
「鵜呑みにしようにも悲しいばかり・・・」
「ティークさん、オイラがいるじゃないすか〜」
「そんな趣味ねぇーよ!」
「冗談っすよ」
そんなたわいない話をしていると広場に先行隊の到着が知らされた。
馬車がガタゴトと車輪を鳴らし、馬が鼻を鳴らす。
到着した荷馬車より1人の商人が降りてきた。
「モーリスさん!」
「おー、ヤップさん!元気そうで。死に損ないが〜ははは〜」
「モーリスさんこそ、死に損ないが〜あはは〜」
凄い挨拶だ。
「ほら俺の言った通りベテランハンターが来てる。ケシー、ヴィオ見てみろ」
「ほんとだぁ〜良かった」
「うん」
「おお!女の子のパーティーも居るぜ!スゲー美人じゃねぇーかよ」
「おい、あのガキはなんだ?護衛なんて言ったら笑うぜ?ははははは〜」
「ん!レ・・・・・・」
シエルが跳ねるように立ち上がった。
「シエル?どうした」
「な、なんでもないわ」
レンが居た。思わず駆け寄りそうになったが抑えた。
カタン!
「どうしたのレン君?」
「あ、ああ。知り合いが居たのかと思って」
「違ったの?」
「別人だ」
シエルじゃねぇーかよ。ビックリしたなー
恐らくこれでいいはずだ。
「暫く小休止にします。ついでに打ち合わせもしますのでお集まり下さい」
馬に水と餌を与え、ヤップさんの元へ集合した。
簡単に配置の説明をして細かなルートの打ち合わせをする。
後は装備の点検や補給で自由となった。
シエルの元へ胸パーティーが向かう。
「こんにちは」
「こんにちは〜」
「ソロの女性ハンターさんですか?」
「はい。シエルと言います」
お互い自己紹介をして直ぐに打ち解けている。女スゲー。
「こんにちは」
シエルがオレの所へ来た。
「お、おう」
「シエルって言うの、よろしくね」
コテンと頭を傾げてニコッと笑う。
「うっ・・・レンだ」
やりにくーっ!性格悪いなシエルめ!
つか、隣の無愛想な野郎が睨んでるけど?
とっととこの場を離れることにしたオレは馬車に戻る。
が、そう簡単には行かないのがこの世の摂理。
「おい、護衛に子供がいるぜ〜」
「やめなよウィリッカ。怯えてる〜」
こうゆう時はどうゆう対処が正解なのか、どうすれば面倒事を回避出来るのか、誰か教えて欲しい。
「ボクちゃん、迷子なんでチュか〜」
「ぎゃーははははは」
前に立ちはだかる2人の男女、その後ろにも2人が。
オレは無視して行こうとする。
「こら無視すんなよ」
はい、こうなります。
『無視すりゃいいんだよ』なんて意見はよく聞きますが逆効果。
「なんすか?」
「お前みたいな弱っちーヤツがいると迷惑なんだよ」
「あそう」
そのまま歩く
「話終わってねぇーよ!」
もう大体このパターンですよ。
男が後ろからオレの右脇腹を殴ってきたが当たらない。
すり抜けたかのように男はよろける。
「ちょっとウィリッカ、しっかりしなさいよ!」
「コノヤロー」
何度も殴り掛かるが当たらない。
全部避けてます、高速で。
「はーっはーっはーっ・・・」
「ウィリッカ、こいつ変だよやめよ?」
男は剣に手をかけるとそこへ
「どうかしたのか?君達」
リュークさんだ。
「ははーん、なるほど・・・」
「リュークさん、何でもないですよ」
「そーかい。君たちは合流のハンターだよね?この子、レン君は君たち束でも適わないよ。辞めとくんだね」
男はオレを睨みつけて吐くように
「ちっ!行くぞ」
つか、勝手に絡んできて怒って戻って行く・・・どう考えてもおかしいだろ?
あーめんどくせぇ!
「リュークさん、すみません」
「構わない。どーしてもああいうのは居るんだよ。困ったもんだな、これから協力しなければならないと言うのに・・・」
「ほんとですよね」
合流して街道をノクチュアへ進む。
ガタゴトガタゴト・・・
今オレは馬車の中、非常に気まずい。
目の前にシエルがニコニコしている。
だから後ろ向く。
後ろにはあの突っかかって来た野郎のパーティーが馬車で続いてる。
横を向く。横しか無い。
何でこうなった!
「シエルちゃんはそんなミニスカートで、その・・・大丈夫なの?」
胸リリー、ナイスだ!そのまま喋り倒せ!
確かに向かい側でペタンと座っているが見えそうだ。
「ああ、これね」
とめくって見せ、ドキッとした。
「中に防御力付与の短パン履いてるの。なかなか便利よ〜」
そうゆう女子トークはオレのいない時にやってくれ!
昼飯まで寝よっと。
昼休憩もなんとかシエルをかわして済ませた。
野郎達に囲まれてたが、知るか!
そろそろ野営場所って頃、こんな夕暮れ時に襲撃が多いんだな。
奪った物で宴でもやりたいのか知らないけど決まってこんな時間にある。
「ん?」
オレは微かな反応を捉えた。
シエルの精密な探知はじっとしていなければ出来ないからこうゆうのはオレが得意だ。
(後方から凄い速度で近付いて来る)
オレは馬車を飛び降りる。
「え?レン君?」
胸リリーが声を出す。
「野暮用、先行って」
反対に歩き馬車はどんどん離れる。
最後のウザいパーティーの馬車とすれ違ってから一気に加速した。
そのまま地面を蹴っては上手く力が伝わらないため、足場になる場所に風の盾を発動しそれを蹴る。
試しに全力加速でやってみたら、500メートル程を瞬間移動した。
「ワーオ!」
マジでワーオだ。
探知で捉えていたのは巨大なヒョウのような・・・魔獣だな。
オレが現れたせいでヤツも足を止めた。
その後からも20人ぐらいの盗賊らしき輩が現れた。
魔獣は使役か、魔法使いもいるんだろう。
オレはジグザグに移動しながら刀を抜き放つ。
魔獣の足を狙い刀を構え踏み込もうとした時強力な重力が襲った。
「こ、この魔獣・・・魔法使いやがる!」
仰向けに地面へ貼り付けられ、今まさに魔獣に踏みつけられる寸前。
辺りに響き渡る衝撃波と低周波の脈動が高速振動から徐々に低周期になる。
「オレからも重力魔法やるよ」
ドン!と爆発音と共に重力魔法は消え去り、余波で魔獣が浮き上がる。
と同時に魔獣は口からファイアボールを打ち出した。
「無駄だ」
刀で斬り飛ばす。
よし、空中ならやってみるか。
魔力圧縮をして刀へ巡らすと赤紫の刃文が輝き出す。
2本の刀を順手に持ち替え同時に横凪の斬撃を放った。
斬撃は紫色の熱電子放出を伴い瞬間で届く。
魔獣はスパッと3等分に分かれて落下するが真上だったせいで返り血を浴びてしまった。
「魔力圧縮し過ぎたな・・・つか・・・あの斬撃真っ直ぐそのまま行ってくれる事を願う」
見渡すと盗賊がこっちに殺意を向けている。
「よし、次だ。かかって来い!」
商隊の前方に人影が現れる。
「ヤップさん、出ましたよ?」
「はぁ〜、お約束なんですかね?」
「停止ー!さあ、夕飯前の腹ごなしだ!」
盗賊の頭らしき魔法職風の者が前に出る。
「おいおい、やけに好戦的じゃの〜。話し合いで解決してもいいのじゃぞ?」
「あいにく時間すら惜しいもんでね。さっさと済ませたいんだよ」