闇の中
ここは、本当に私の知る乙女ゲームなのだろうか。
あの、恐ろしい体験はゲームにななかった。そもそもここはゲームの中なの?シナリオ通りに、、、私動けてる?・・・シナリオ通り。
すべてがシナリオ通りに選択をするだけで、私の思うままに事が進んだ。
唯一の例外は、メインキャラクターである、あの第一王子。
黒髪、黒目の先輩キャラ。日本でいう中高一貫教育。生徒会を率いて学園を統率する姿は、未来の国王そのもので、、、少し強引で、王族らしいわがままな性格だが、ヒロインの聖女と出会うことで少しづつ下々のことまで目に入れ、考え、よりよい政治をしようと貴族・平民問わず良い働きをするものを称え、ゆくゆくはヒロインと婚約し幸せに暮らす。
全くのテンプレ王道王子様。そこには薄暗さもなく何も不安はない、はずだった。
そして、前世の私もこのメインキャラクターの王子は大好きだった。
でも、あの学園に入学したときから感じた違和感。
ゲームの世界と知って驚き、好奇心からいろいろな男の子にアプローチを試みた。
すると、王子が決まって彼らを断罪するのだ。
それは、まったくの冤罪で。
シナリオ通りにフラグを立てるために、少し一言話をしただけ。
あるときは、迷子からの救出、あるときはハンカチを拾って届ける、あるときは委員会での資料作り、、、と、シナリオ通りに面白いほど彼らとの距離が近づく。
だが、王子がそれを目ざとく見つけすぐ彼らから私を引き離すのだ。
中には、そうやって私を束縛しすぎることへの忠告をしたり、助けようとしてくれたものもいた。
そういったものに対して、嘘の罪をきせ、大げさに断罪し、私をいかに守っているのかを学園中に切々と訴えて周る。彼らは学園に居づらくなり、他への転向や留学を理由にいなくなっていった。
そして誰も、私を助けようとするものはいなくなった。
私しか映さない王子の瞳に薄暗い喜びが透けて見え始めたのだ。
王子の甘い言葉や束縛に、徐々に心が疲れはてて。
私は王子の攻略の選択を一切選ばなくなった。
ゲームでは、誰とも関わらない・・・なんていうシナリオがあっただろうか。
怖い。
一年、なんとか聖女として勤めを果たし次の旅へと進めることになった。
だが、私を放したくない王子は私を愛しているからと婚約の申し立てを神殿に立ててきた。
これが、聖女最後の仕事だったら、きっと、、、、王家からの申し立てに神殿も拒否はできなかっただろう。
だが、私はまだ聖女として旅を続けなければならない、身分も違いすぎるのでと、丁重にお断りをした。
女神さまからの神託で、次の国オラージュ国へ行くことになった。
これは、ゲームの続編だと気がついた。
あの国には、一押しのディルバルド様がいる!でも、ディルバルド様の婚約者であるルルという悪役令嬢にいじめられることになる。
しかし、ここでの生活に比べたら、悪役令嬢のいじめなんてチリほど怖くもない。
意気揚々と、オラージュ国への出立の日がやってきた。
国王様へ、別れの挨拶をして街道沿いを神殿の一団が通りかかる。
そこへ、黒塗りの大型馬車が道をふさぐように現れて私達一団を襲ってきた。
目的は、私。
黒髪をなびかせて、剣をふるい神殿付きの剣士と戦っている王子をみてわかった。
たくさんの人が逃げまどい、多くの人が切り伏せられている。
私を見つけて、にこやかに黒い目を三日月型にし、機嫌よくこちらに向かってくる王子。
彼の握る剣からは滴り落ちる、黒い血。
恐ろしくて逃げだすと、私の髪をひっつかみ力も強く彼に引き寄せられた。
私の保護者としてお世話をしてくれる神官達が、それを止めにはいろうと駆け寄ってくるが、王子によって彼らは切られた。
聖女として保護されてから、ずっと優しかった神官のおねえさん。
王子の足にすがって、私に逃げろと訴える。
彼は私を見てにっこり笑うと、
「この女も邪魔だった。」
そういって、おねえさんを串刺しにして殺した。
「たすけて たすけてよおーめがみさまああああああああ」
孤児だった私を聖女として見つけてくれた、先代聖女様から私の身柄を保護し、優しく私を育ててくれた神殿の人、保護者がわりにと毎日私のお世話をしてくれた神官のおねえさん・・・
12のころから、各地で、知らない人、知らない国、みんなの幸せをお祈りしてきたじゃん!
なんで、なんで私はわたしの幸せを祈ることができないの?!みんながこんな目にあっているのに何もできない!!
おねえさんから抜き取った剣を鞘に戻すところで、彼の剣をつかみ取り、自分のつかまれたままの髪の毛が引きちぎれるのもどうでもよく、体をひねって剣を自分に突き刺した。
そうして、私は二度目の絶命をした。
真っ白な空間に光り輝く2柱の光。
女神さまだ。
光は私の周りをグルグルしながら、何かおしゃべりをしている。
「ごめ ね、干渉が難 、、、怖い思いを せたね。」
「こ は、2 創作の影 が強 り過 た影響な かし ・・・?」
「・・・ し、これ もう 丈夫。あんまり過 と公式だ だまって ないん だ ら!!」
ザラザラとところどころしか話しが聞こえてこない。
「ア ちゃん、無 やり ど次に時 進め ね。大丈夫、オラ ュ国で 助けて れる人 いるから!」
進める?助けてくれる人?
不思議に思っていると、光がまぶしくなって私はまた目をとじた。
「聖女さま、、、アオイさま!!オラージュ国に入りますよ。」
隣に座る人から肩をゆすゆすとゆすられて、飛び起きた。
神官のおねえさんだ。
私は揺れる馬車に立ち上がって、馬車の窓を開けた。
神殿一行は、無事オラージュ国の国境を越えて、国へ入るところであった。
誰一人、死んでいない。
この一団の後ろを凝視しても、あの黒い影は見えない。
女神さまによって、私は無事ゲーム2へと進むことができたのであった。
彼から逃げられたことが、うれしくてうれしくて、神官のおねえさんに涙をながして抱き着いた。
彼女は不思議がっていたが、やがてあまりにむせび泣く私を優しく抱きしめて泣き止むまでその背をなでてくれるのだった。
続編である、このゲーム2で私は私のために生きて幸せになる、救われたい。
早く、シナリオが始まることを祈って空を見上げた。