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イスカルの王子

 狂気じみた感情を露わにしたアオイさんから、必死に逃げた。

 正門前まで行くと、そこには迎えにきたジルバルド様が馬をつないで待っていた。


 「おお?ルルどうしたそんなに走って?そんなに私に会いたかったのか~?って、ごふ」


 はあはあ、と息も絶え絶えにジルバルド様の胸に飛び込む。

 アオイさんの豹変ぶりについて話しをすると、顔つきを変え何かを考え込んでいるようだった。

 そしてあまりにも恐ろしいのであれば、しばらく学園を休むよう提案してきた。

 

 「そうだな、1週間後に行われる大祭前の祈りで私ら王族も出席の予定だ。そこまで城で休むといい。」

 「その大祭の祈りでは、わたくしも参加、ですわよね・・・次に顔を合わせるのが余計に怖くなってしまいそうです・・・。」

 「なに、私がずっとそばにいるのだ、王族の前でおかしなこともすまい?」


 学業が遅れることや、お友達が心配するのでは?という不安を置いても、しばらく休むよう説得された。

 彼は何かを隠してるような気がする。しかし、先ほどのアオイさんの表情が頭から離れずもやもやしている間にしばらく学園を休養することになってしまった。

 しばらくは城で王妃様について、王妃教育を受けることにしよう。



 しばらく学園を休むことは、ディルバルド様からお友達に話しをしてもらった。

 その間、アオイさんはますます取り巻きをつくり、それは婚約者がいるような男の子達まで魅了していっているようだといやそうな顔でディルバルド様から聞かされた。

 その婚約者たちからいじめを受けているのだと、まことしやかにディルバルド様に言い、そして甘えたような顔で近づいてくるのだという。はっきりいってディルバルド様は困っているのだ。

 ジルバルド様は、そんな弟に対してモテてるなあ~とお気楽だ。


 大祭前の祈り3日前となった。

 隣国から第一王子がお忍びでくることが伝えられた。

 なんて急な話なのかと、王宮で働く人達は大慌て、長いこと隣国と戦争などはしていないが、それでも他国の王族を迎えるのにはとても緊張を強いられる。まして第一王子ともなれば未来の王だ。

 万が一にもこちらとしても侮られないよう、対応する必要がある。

 ジルバルド様は外交経験が豊富、(わたくしが転生していないか探して旅してたらしい)なので、あちらの王子とも顔が知れた仲なのだという。とはいえ、彼よりもずっと年下でまだ18歳らしい。

 しかし、ジルバルド様がいうには、とても頭の切れる男という話だ。

 何というか、王族らしい傲慢さや支配欲に満ちた気の強い人という印象だという。

 そうしてあわただしく準備が終わるころに、隣国 イスカル国の第一王子 エリク・イスカル様がおいでになるのだった。


 「やあ、お久しぶりです、ジルバルド様!」

 

 そう、声も高らかに長く腰まで伸ばした黒髪をなびかせ、気の強さを表すかのような光をたたえた黒目の美丈夫が客間にやってきた。

 わたくしはジルバルド様の隣で、挨拶の礼をする。


 「ようこそおいでくださいました。3年ぶりですかね、エリク殿、とても立派になられて!こちらにおりますのは私の妻ルルです。以後お見知りおきを。」

 「オラージュ国皇太子妃 ルル・オラージュです。よろしくお願いいたします。」


 わたくしは挨拶の礼から顔をあげて、エリク殿下を見上げた。

 彼はふむ、とわたくしを足から頭まで見つめると、


 「・・・ジルバルド様、父から聞いてはいましたが、こほん。彼女一体何歳なのです?!」


 と、驚きを隠そうとしない、興味深そうにわたくし達を交互に見た。

 そういえば結婚式には隣国から、国王夫妻がお祝いにいらしてくださったっけ。

 わたくしは、挨拶も終わったので部屋を退出した。あとは男性同士、将来の国王として会談もあるだろう。さて、今日も王妃様のところで勉強頑張らなくては!



 


 「さて、エリク殿、、、何故急にこちらへ?祈りの大祭を見にいらしたのですか?」


 隣国の皇太子が数日前に移動を決めるなどありえない。何かあるのだとワシは踏んでいる。

 そして気になることも。

 数年前に出会ったときは、王族らしい力強さのある男の子であった、よく言えば傲慢なわがままな部分も垣間見えたがそれを越えるカリスマ性で周りを虜にしていたのを記憶している。

 だが、今日のエリク殿は雰囲気が怪しい。ワシの感だ。

 先ほど、ルルと一緒にいたときと雰囲気が一変し、深い深淵を見ているような目をしている。

 本人が気が付いているのかはわからないが、彼に何かあったのだろうと推測された。


 「ジルバルド様、前年度 聖女様が祈りに訪れていたのは、わが国なのをご存知の通りだと思います。」

 「ああ、もちろん聖女様だからといってはいそうですかと国を通すことなどできない、裏ではあの者たちが本物かどうか審査をしている。各地を1年~数年で巡っているからな、万が一のことも心配するだろう?」


 聖女というものは数年で代替わりするのだという。

 各地を巡り、国の平安を祈るのが仕事だ。聖女は女神と交信できるものを言うそうだ。

 訪れた国の災害や事件を女神から神託を受け、極秘裏に国に挙げるのだ。

 未然に防げるかは、その国次第ではあるが、時に国を揺るがすほどの神託もあるため各国では聖女をとても神聖化し、訪れるのを心待ちにしているのだ。

 だが、それを逆手に偽聖女を祭り上げてスパイ活動をするものもいる。

 本物かどうか、前年度聖女が訪れた国が彼女たちの保護者となり、責任を持つことになっている。


 「俺は、、、今の聖女、アオイのことが欲しいのです。」

 「・・・・ん?」

 「去年、彼女と我が国の学園で過ごしてみて、彼女の素晴らしさにほれ込み婚約を申し入れました。しかし、聖女としての役目を理由に断られてしまったのですよ。まさか、この俺を振るものが居るなんて・・・」


 そういって、エリク殿の目は薄暗いものへと変わっていった。

 それは愛や恋をしているものの目でははく。ただ自分のお気に入りがなくなったことへの怒りをたたえた薄暗く恐ろしい目であった。


 「そうだ、数日後の大祭前の祈りでは、ぜひ俺が用意した衣装を着させてください。もちろん最高級の布で作った祈りの服と宝飾品だ。俺が用意したとは秘密でお願いします。」

 「いや、わが国でも彼女のために祈りの服を・・・」

 「ジルバルド様!彼女には俺が用意した服を着せたいのです・・・わかりますでしょう?あのように幼き妻を手に入れたあなたなら。」


 確かに、ルルを愛するあまり幼いまま妻にした罪悪感はある。なんでも彼女に与えたい、なんでも望みを叶えてやりたい、私だけをずっと見ていてほしい、そういう暗い部分はもちろん私にもあるものだ。

 でも、それと彼の行動は、違うように思えた。

 少し思い悩んでいると、エリク殿は改めてお願いしますと頭を下げる始末。

 去年、祈りの大祭を行った国の用意するものだ、前祭なのだしここはそれでもいいかと了承し、衣装は聖女アオイに届けるよう従僕に頼んだ。


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